【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥

文字の大きさ
12 / 86

12.幼稚な反応をしてしまったようです

しおりを挟む
 
 魔法師団の調査によって、疑似魔獣が凶暴化した理由は、人形に入れた魔石が凶暴性を持つものと入れ替えられていたからだということは、早い時期にわかっていた。入れ替えられたのは学校内の格納庫の中だろうとされている。
 全国で魔獣が凶暴化していることとは、直接の因果関係はないと推定される。

 しかし、格納庫内の入室記録が破棄され、入り込んだ人物の魔力もトレースできないように攪乱されていたため、どの段階で誰が魔石を入れ替えたのかは未だ判明していない。侵入した人物の特定については、魔術師団の今後の魔力解析次第といえるだろう。

 そして、校内の合同演習未実施の生徒だけが、補講の形で演習実習を行い、その後に、延期となっていた王都近郊での実地演習を行うことが決定された。

 補講は魔法騎士団の協力のもとに行われ、短時間で無事に終了した。ラインハルト様によると、これは、魔法騎士団がこの演習を早急に終わらせてしまいたいと考えていることが大きいという。
 魔法学校に在学中の生徒の中にも、魔獣討伐に行ける者はいる。魔法戦闘部は魔法騎士団の指導を受けて魔獣討伐の部活動をしているし、僕たち高位貴族は定期的に『狩』と称した魔獣討伐に行く。

 ヒムメル侯爵家は、国境沿いにある魔獣の森を擁する領地を治めているため、僕は子どものころから魔獣を狩るのが当たり前であるという生活をしていた。
 父は王宮の要職についているわけではなく、国境管理による徴税と、貿易、それに領地にある鉱山から採掘されるレアメタルによって収入を得ているのだ。高額納税者であるから、それなりの発言力があるとはいえる。
 僕がラインハルト様の婚約者に指名されたのは、ヒムメル侯爵家の経済力と、僕の戦闘能力の高さによるものだと社交界では噂されている。

 しかし、貴族の婚姻とはそのようなものだ。

 僕が、どれほどラインハルト様をお慕いしているか。
 そのようなことは、問題ではない。



「実地演習において、生徒会メンバーは魔獣討伐を中心に行動してもらいたい」

 学長室に呼ばれた生徒会メンバー、ラインハルト様とアルブレヒト様、ディートフリート様、そして僕は、目じりに皺を寄せてにこりと笑うホフマン学長からそう言い渡された。ホフマン学長はやせ形で長身だ。灰色の髪に灰緑色の瞳の美中年は、王弟殿下の伴侶の兄でもある。

「理由をお伺いできますか?」

 これまた、にこりと笑ってラインハルト様が学長に質問をした。

「もちろんだとも。君たちも、現在魔獣が凶暴化していることは聞き及んでいるだろう。

 僕たちは、学長の言葉に頷いた。

 王都近郊の魔獣を討伐し、駆除するのは、騎士団と魔法騎士団とが中心となって行っている。魔獣の発生報告が増えたときには、冒険者ギルドにも依頼を出している状態だ。もちろん、商隊などが自分たちの安全のために、個別に冒険者ギルドに依頼を出すこともある。

 学校に通っている生徒たちに討伐の演習をさせることは必要だが、経験不足であることは否めないため、騎士団と魔法騎士団が生徒の演習について、安全を守ることになる。今回は、例年より特に手厚く人員が配置されることになるらしい。

「生徒の安全は騎士団と魔法騎士団に任せて、君たちは魔獣を討伐することに集中してもらいたいのだよ。通常であれば、チーム戦の演習を指導してもらうのだが、如何せん魔獣が増えすぎている。不慣れな一年生を庇いながら魔獣と戦うよりは、自分たちのペースで戦う方が、危険度が少ないだろう」
「いつものように、戦闘中に援助に入ることはしなくても良いということでしょうか?」
「いや、それは臨機応変で良いのだけれどね。騎士団と魔法騎士団が手厚く対応して、そのようなことはないようにしてくれる予定だ」

 アルブレヒト様の質問内容の部分は、僕も気になったところだ。学長によると、騎士団と魔法騎士団はかなりの手勢を出してくれるらしい。
 アルブレヒト様は通常は予備メンバーではないが、今回は生徒会でチームを組むようにという学長からの指示である。日頃とは違う戦い方になるので、対応の確実性をもとめていらっしゃるようだ。

「ついでに、魔獣討伐も進めてしまいたいというお考えなのでしょうか?」
「うむ、それもあるな」
「なるほど、承知しました。ざっくざっくと行かせていただきます」

 ディートフリート様は、魔獣討伐を楽しみにされているご様子だ。魔法研究の素材集めをするおつもりなのだろう。

「いや、君たちの中には、一人でも十分魔獣討伐できる人員がいるがね。校内の演習であんなことがあった後だ。あれも……、いやいや、ま、校内の行事だからねえ」

 そう言って、学長は笑顔を消して頷くような仕草をした。

 僕たちは、フィンク先生と当日の行動を打ち合わせるようにとの指示を受けて、学長室を辞した。

 今回の学校の対応には、ラインハルト様が他生徒のせいでけがをするようなことがあってはならないという配慮が感じられる。
 実際には、王族といえど、いや、王族であるからこそ、魔獣の討伐はできなければならない。実際にラインハルト様も、魔法騎士として戦えるだけの高い技能をお持ちだ。しかし、校内演習のときのようなことが起きれば大事になるのは必定である。
 事実、校内演習でのシモンのふるまいによって、マルティン様は大変危険な状況に晒された。あのときは、復活した疑似魔獣が誰も傷つけなかったため、学校がシモンを指導するに止まったのだ。

 しかし、あれでマルティン様が傷を負っていたら。
 そして、シモンとフィンク先生は、間一髪で疑似魔獣の爪を逃れることができたけれど、それが間に合わなかったら。
 もしも、郊外演習でラインハルト様が、そのような状況になったとしたら……

 状況を連鎖的に考えていけば、魔法学校が、いつもと異なる対応をしなければならないのは、致し方ないことなのであろう。

 このような対策をしなければならないほど魔獣の凶暴化が進んでいるということも、考慮のうちなのだろうけれど。

 いやしかし、ラインハルト様がシモンと一緒に行動なさらなければ、シモンが神子として覚醒した場面に遭遇できない可能性が高くなる。
 そうなれば、ラインハルト様がシモンと親密になるという機会も失われるのではなかろうか。

 果たしてそれで良いのだろうか。

 シモンのそばにいることで、何かラインハルト様の身に危険なことがあったとしても、僕がお守りすれば良いのではなかろうか。いつものように。
 そうであれば、悪役令息のふるまいから外れたことにはならないであろうし。

 よし、いけそうだ。

「ラファエルは、廊下を歩いているというのに、また何か考え事をしているようだね」

 ラインハルト様が僕の腰を抱き寄せて、僕に注意をしてくださる。いけない、またラインハルト様の婚約者にふさわしくない行動をしてしまった。これは、誠実に説明しなければならない。

「申し訳ございません。学長のお話を受けまして、どのような状況になっても、身を挺してラインハルト殿下をお守りせねばと考えてしまい」

 僕が考えていたことを正直に口にすると、ラインハルト様はそのサファイアの瞳を輝かせてから、美しい微笑を浮かべられた。

「ああ、わたしのラファエルはなんて可愛いのだろうね!」
「は? え?」

 なんということだろう。僕は廊下の真ん中だというのに、ラインハルト様に抱きこまれて身動きがとれなくなってしまったのだ。
 変な声を出してしまったが、周囲の方には聞こえなかっただろうか。
 ラインハルト様が『可愛い』とおっしゃったということは、僕の行動が幼稚であるとお思いなのか。

 周囲からは悲鳴やざわめきが聞こえて来る。通行の邪魔になって、苦情を言われているのではなかろうか。
 みなさまには、ご迷惑をおかけしてしまった。反省しきりである。

「ラインハルト殿下、ここは校内の廊下ですからお控えくださいますように。みなは喜んでおりますが……」
「だから、早く認識阻害の魔法を会得されませと申しておりますのに。みなに見せびらかすようなものでございますよ」
「大きな問題ではないのだから、かまわぬであろう」
「はあ……」

 聞こえにくかったけれど、どうやらアルブレヒト様も、ディートフリート様も苦言を呈してくださっているようだ。それなのに、ラインハルト様はなかなか力を緩めてはくださらない。

 結局、僕はラインハルト様から腰を抱かれ、手をつながれた子ども扱いの状態で生徒会室に帰ることになったのであった。

 もっと、成熟したふるまいをせねばならないと、僕は心に誓った。




しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

平凡な俺は魔法学校で、冷徹第二王子と秘密の恋をする

ゆなな
BL
旧題:平凡な俺が魔法学校で冷たい王子様と秘密の恋を始めました 5月13日に書籍化されます。応援してくださり、ありがとうございました! 貧しい村から魔法学校に奨学生として入学した平民出身の魔法使いであるユノは成績優秀であったので生徒会に入ることになった。しかし、生徒会のメンバーは貴族や王族の者ばかりでみなユノに冷たかった。 とりわけ生徒会長も務める美しい王族のエリートであるキリヤ・シュトレインに冷たくされたことにひどく傷付いたユノ。 だが冷たくされたその夜、学園の仮面舞踏会で危険な目にあったユノを助けてくれて甘いひと時を過ごした身分が高そうな男はどことなくキリヤ・シュトレインに似ていた。 あの冷たい男がユノにこんなに甘く優しく口づけるなんてありえない。 そしてその翌日学園で顔を合わせたキリヤは昨夜の優しい男とはやはり似ても似つかないほど冷たかった。 仮面舞踏会で出会った優しくも謎に包まれた男は冷たい王子であるキリヤだったのか、それとも別の男なのか。 全寮制の魔法学園で平民出身の平凡に見えるが努力家で健気なユノが、貧しい故郷のために努力しながらも身分違いの恋に身を焦がすお話。

この契約結婚は君を幸せにしないから、破棄して、逃げて、忘れます。

箱根ハコ
BL
誰もが羨む将来の騎士団長候補であるルーヴェルは、怪物を倒したところ、呪われてしまい世にも恐ろしい魔獣へと姿を変えられてしまった。 これまで彼に尊敬の目を向けてきたというのに、人々は恐れ、恋人も家族も彼を遠ざける中、彼に片思いをしていたエルンは言ってしまった。 「僕が彼を預かります!」 僕だけは、彼の味方でいるんだ。その決意とともに告げた言葉がきっかけで、彼らは思いがけず戸籍上の夫婦となり、郊外の寂れた家で新婚生活を始めることになってしまった。 五年後、ルーヴェルは元の姿に戻り、再び多くの人が彼の周りに集まるようになっていた。 もとに戻ったのだから、いつまでも自分が隣にいてはいけない。 この気持ちはきっと彼の幸せを邪魔してしまう。 そう考えたエルンは離婚届を置いて、そっと彼の元から去ったのだったが……。 呪いのせいで魔獣になり、周囲の人々に見捨てられてしまった騎士団長候補✕少し変わり者だけど一途な植物学者 ムーンライトノベルス、pixivにも投稿しています。

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました! 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw

ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。 軽く説明 ★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。 ★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。

【完結】王子様たちに狙われています。本気出せばいつでも美しくなれるらしいですが、どうでもいいじゃないですか。

竜鳴躍
BL
同性でも子を成せるようになった世界。ソルト=ペッパーは公爵家の3男で、王宮務めの文官だ。他の兄弟はそれなりに高級官吏になっているが、ソルトは昔からこまごまとした仕事が好きで、下級貴族に混じって働いている。机で物を書いたり、何かを作ったり、仕事や趣味に没頭するあまり、物心がついてからは身だしなみもおざなりになった。だが、本当はソルトはものすごく美しかったのだ。 自分に無頓着な美人と彼に恋する王子と騎士の話。 番外編はおまけです。 特に番外編2はある意味蛇足です。

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

処理中です...