前世の俺みたいだと思っていたけど全然違った件

某千尋

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13 前髪の向こう

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「前髪?」

 昼休み、俺は早速高林に前髪をあげてみてくれないかと聞いてみた。

「おう。この前さ、好きな子いるっぽいこと言ってたじゃん。デートもするって。でもさ、その前髪じゃ顔見えねぇじゃん」

「うん、そうだけど……」

 高林は首を傾げている。ここまで言ってわからないか。まあ、高林に察することを求めちゃダメだよな。思いの外スムーズに会話できるから忘れがちだが、高林はコミュニケーションに難があるんだから。ちょいちょい話が噛み合わないしな。

「顔がわかんねぇ相手を好きになるってのは難しいと思うんだよな」

「……高柳くんだったら、顔が分からないと好きにならない?」

 少し暗めのトーンの声にハッとする。これは、俺が顔が分からない高林を嫌っているとでも思ってるのか? 違うぞ、そういう意味じゃないぞ。

「あー……友達ならそんなことねぇけど、恋人ってなるとやっぱ顔も気になるっつーか……それだって好きになる要素じゃねぇの?」

 隠してるくらいだから、きっと高林は顔に自信がないんだろう。そんなやつに顔が大事って言うのはなんかコンプレックスを刺激しそうだ。別にイケメンじゃなきゃいけないってことじゃないんだ。

「なんつーかさ、髪型とか服装とかさ、そういうのを工夫するだけで印象って変わると思うんだよな。今の高林がダメってわけじゃなくて、好きになってもらうにはこう、見せ方も大事だと思うというか……」

 今の俺だって、もっさりした髪型にして似合わない格好をしていたら、いくらベースの顔がそれなりによくたってダサいと思うんだよな。そういうの、わかるか高林。

「……そっか。なら、高柳くんにだけなら、見せてもいいかな」

 いや、俺だけに見せてもしょうがないだろう。好きな子に見てもらわないといけないんじゃないのか? ああ、でもいきなり顔をオープンにするのは勇気がいるよな。今まで見えてなかった分注目もされそうだしな。まずは俺に見せて徐々にって感じかな。

「んじゃ、失礼して」

 机の上に身を乗り出して、反対側に座る高林の前髪に右手をかける。うおっ、思ってたより髪の毛ふわっとして柔らかいな。全然傷んでねぇ。意外とケアしてんだな。
 そしてそのまま前髪を持ち上げ……。

「んぇ?」

「……どうかな?」

 自信なさげに揺れる、少し色素の薄い瞳に目を丸くする俺が映っている。
 いや、どうかな、じゃなくてさ。

「高林おまえ……めっっっちゃイケメンじゃね?」

 そこには颯太に匹敵するほどの美形がいた。
 え? なんでこいつ顔隠してんの? 彫りが深めの平行二重の目に通った鼻筋。少しだけ釣り上がった程よく凛々しい眉毛にそれらのパーツを無駄なく収納する輪郭。
 颯太は中性的な美形だが、高林は雄々しい美形。今までなんとも思っていなかった少しだけ肉厚な唇が途端に艶かしく感じる。つまりあれだ、色気がすげぇ。

「高柳くんがそう思ってくれるなら嬉しいな」

 その顔にふわりと微笑まれ、思わずドキリとする。男女問わず、美形の威力はすごい。つか待って。なんで高林顔隠してんの? この顔晒した途端大人気だろ。人間顔だけじゃないけど、そうは言っても顔の影響って大きい。こんだけイケメンならちょっとコミュ障でも問題にならないだろうし、むしろ女子からはウブで可愛い、とか言われるんじゃなかろうか。
 というか、もしかして。

「……高林の好きな子って、高林の顔見たことある的な?」

「うん、そうだね」

 やっぱりだ。やっと合点がいった。見た目は派手だけど純粋で可愛いなんていうモテモテ間違いなしの女子が何で陰キャ丸出しの高林とデートするかって、そりゃこんだけイケメンならそうだろうよ。
 でも、きっと高林のことだから最初から顔を見せてたわけじゃないんだろう。俺みたいに、それなりに仲良くなってから見せたんだとしたら、その子はもっさりした高林とも仲良くしてくれたってことだから……なんだそれもう天使みたいな子じゃねぇか。それとも幼馴染みとかそういう系? それなら顔知ってるのも当然か。
 あー、騙されてるとか勝手に思い込んで、ダメダメだな俺は。前世の俺がそうだったからって高林までそうだって決めつけて。
 つーか、こんだけイケメンで、天使みたいな可愛い子といい感じで……って、俺がやってることは完全にお節介だったんじゃねぇか?

「高柳くん?」

「ん? あー、ごめん。こんなにイケメンだと思ってなかったからびっくりして。……今日さ、放課後に高林の見た目をいい感じにプロデュースしようと思ってたんだけどさ、この感じだと」

「ほんと!? 高柳くんが一緒にお店回ってくれるの?」

 また! 被ってる! さすがにもう慣れたけど。
 つか、高林のその見た目とスタイルの良さなら、ボロ布纏ったってイケメンだろうから俺いらねぇだろ。

「いや、高林は猫背さえ気を付ければ何も問題ないと思うんだけど」

 そう言うと、さっきまでキラキラ輝いていた高林の表情が曇る。え? そんなに買い物行きたかったの?

「けど、まー……せっかくだし見てみるか」

 高林が嫌がってないなら、いいか。いくらイケメンといってもコミュ障ではあるし、一人で買い物とかできないのかもしれない。服のセンスが壊滅的な可能性もあるしな。

 右手を外すと再びもっさりした高林になって、なんとなくホッとした。
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