前世の俺みたいだと思っていたけど全然違った件

某千尋

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23 その可能性は考えたことがなかった

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 週明け、学校の最寄駅を出たところで知った背中を見つけた。

「颯太じゃん、おはよー」

「あ、裕也おはよう」

 由紀とは違う方向で美形な颯太は、月曜の朝とは思えない爽やかさをまとっている。さっきあくびを噛み殺した俺とは大違いだ。

「あ、つーかさ、颯太週末東京いたっしょ。俺も由紀と遊び行ってて見かけたんだけど、声かける前に見失っちまってさぁ」

 颯太の横に並んで何の気なしに週末の話を振ったが、反応がない。あれ? と思って横を向くと、そこに颯太はいなかった。振り向くと、少し後ろで颯太が目を見開いて固まっている。

「ん? どうした颯太」

 後ろに少し戻って俺も立ち止まる。

「……週末、俺を見たって……」

「おう。サラリーマンっぽい人と一緒だったよな? 親戚かなんかか?」

 颯太の反応に困惑しつつも、別に変なことは言っていないし見てもいないはずなので思ったままを話す。颯太は一瞬硬い表情俺を見せたと思ったら、ふっと口元を綻ばせた。

「いや、親戚じゃない。……ねぇ裕也、今日の放課後時間くれる?」

 さっきまでの動揺した様子はどこへやら、いつもの掴みどころのない綺麗な笑みを浮かべる颯太。一体なんなんだと思いつつ、俺は了承の返事をした。



 放課後まではいつも通りで何も変わりはなかった。颯太は相変わらずマイペースの不思議系だし、今朝のやりとりって夢だったかな? と思うくらいだった。
 でも、どうやら今朝のやりとりは実際にあったことらしい。放課後になってすぐに颯太に場所を耳打ちされて、なるほどそこに集合なのだと理解する。

「ごめんね、なんの説明もなく呼び出して」

「いや、いいけど。つか非常階段なんて来たの初めてだわ」

 他に二人で話せるところ思いつかなくて、と颯太は眉を下げる。よっぽど人には聞かれたくない話らしい。

「週末一緒にいたの、幼馴染みなんだ」

「そうなんだ。ん? それ別に隠すことじゃなくね?」

 幼馴染みと週末会ってたからってなんだと言うのか。わざわざ二人きりで話す内容とは思えず俺の脳内はクエスチョンマークでいっぱいだ。

「前にさ、俺は自分顔を晒す理由があるって言ったの、覚えてる?」

「ん? ああ」

「彼がその理由なんだ」

「え?」

 どういうことだ? 幼馴染みの男が理由? 
 颯太の言っていることが何も理解できず、ちゃんと説明しろと目で訴える。

「彼、俺の顔が好きなんだよね。隠してるけど、見てたらわかる。だから見せつけてるんだ」

 一層わからなくなった。なんなの? 顔を使って言うこと聞かせてるとかそういうこと?
 俺が何も理解していないのがわかっているのか、颯太は少し悪戯っぽく笑ってから口を開く。

「つまり、俺はあの人が好きってことだよ」

「好き?」

「もちろん、恋愛的な意味で」

「え? あの人男……」

「そうだね、男だよ」

 俺は目を見開く。颯太、お前もか。
 前世の頃はまだまだそういうのってオープンにできない空気感あったけど、時代は変わったんだな。

「そっか……そうなんだな」

 時代の変化をしみじみと感じつつも、心臓はいつになく大きな音を鳴らしている。いやだってびっくりするだろ。短期間に二回もカミングアウトされるなんてそうあることじゃない……よな?

「……裕也も、俺と同じだと思ってた」

「は?」

 今なんと? 同じって……俺も男が好きだと!?

「だって裕也、女の子に人気あるのに一向に彼女作る気配ないし。彼女作るどころかデートすら断ってるじゃん」

「それは……まだいっかなーって」

 言えない。前世のトラウマで女の子が怖いなんて。

「でも、俺は女の子が」

「じゃあ好きな女の子がいたことはあるの?」

 おおう、のんびりした颯太が被せてくるとか初じゃね? つか、好きな子? いたことないな、前世のトラウマで。

「いやあの……初恋がいつになるかはほら、個人差というか」

「そしたら裕也もわからないよね。恋愛的な好き、を知らないんだから。今後好きになる相手が男の可能性だってあるんじゃないかな。……というか俺も男が恋愛対象っていうわけじゃないんだよね。あの人以外の男にそういう興味をもったことないし」

 いつになく喋る颯太に面食らいながらも、聞き捨てならないことを言われたのでさすがにそれは否定する。

「いや、俺も男にそういう興味をもったことはねぇよ?」

「女の子にもないんでしょ?」

 あるわ、と言おうとして気付く。いや、ねぇわ。可愛い女の子見たらテンション上がるっちゃ上がるけど、別に付き合いたいとか、仲良くなりたいとか思ったことねぇわ。

 え? まじで? その可能性あるの?

「……裕也がどうかなんて実際俺にはわからないけどさ、そういう可能性があるかもしれないのにないって決めつけていたら、後悔することもあるんじゃないかな」

 なんか意味深なことを言われたが、今の俺の脳内はそれどころじゃない。
 ああそうだ。俺は自分が男を好きになる可能性なんてこれっぽっちも考えたことなかった。当たり前のように女の子を好きになるんだと思ってた。
 いやでも、考えたことないってことはやっぱそれはないってことなのでは? 可愛い女の子見るのは好きだし。
 
 そうだ、想像してみろ。北斗とキス……はい無理ー。絶対無理。義和……ねぇよ。ねぇわ。ごめん義和。勝手に想像してごめん。
 颯太……はそりゃめちゃめちゃ顔綺麗だし、北斗や義和と比べたらそりゃ……いやいやでもやっぱないわ。
 あとは……。

「たとえば、由紀とか」

 頭の中で考えていたことが口に出てしまったのかと思ったが、それは俺ではなく颯太の発言だった。

「由紀?」

「うん。裕也が自らガンガン仲良くなりにいってたから、てっきり」

「違うよ!?」

「うん、今日のこの反応見たら違うみたいだね。……ごめん、なんか混乱させたね。でも俺……自分の気持ちに気付くのがちょっと遅くて、今足掻いてるところだから裕也にはそういう思いして欲しくなくてさ」

 だからちょっと突っ込んだこと話しちゃった、と颯太は眉を下げて笑う。
 それに対して俺は大丈夫、と自分でも弱々しいなと思う声で返事をした。



 家に帰ってから俺は悶々としていた。 
 実際どうなん男同士って。我が身のこととして考えたことがないから、全くイメージが湧かない。
 けど、今俺の身近に二人もいるのか。

 つか、颯太は俺が由紀をそういう意味で好きだと思ってたってことだよな? いやいやいや、俺が由紀を好きになる理由なんてないないない!
 だって、前世の俺に似てるって思い込んで、近づいて。そしたら思いの外懐かれて。
 なんとなく一緒にいて居心地がいいなと思うのは、勝手に抱いていた親近感によるものだし、実際は似てなかったわけだし? 似てないって分かっても離れないのはまあ、仲良くなったからだし……?

 でも、由紀には外にあれだけ友人がいて、北斗たちとも仲良くなって。今後もっと友人が増えるのだとしたら、俺は由紀にとって特別でもなんでもなくなるんだよな。つーか、別に今だって特別なわけじゃないし。……なんだこれ、胸がちくちくする。

 俺はその日、一晩中そんなことを考えて、なかなか寝付けない夜を過ごした。
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