前世の俺みたいだと思っていたけど全然違った件

某千尋

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【番外編】4 逃がさない

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 体育祭の練習日、高柳は嬉しそうに俺に近づいてきた。右手にはちまきを持って。はー、可愛い。

「ほ……ほんとに……俺と?」

 一応、もう一度確認する。すでにペアは決まっているが、変更ができないわけではない。
 すると、高柳は少し周りを確認して何かを納得したように頷いてから俺を見上げて。

「おう。あっちで練習しよう」

 と提案してきた。
 見るとあっちと高柳が指し示したのは周りからは死角になるようなところで。
 え? いきなり密室……じゃないけどそんな物陰に行ってどうするつもりなんだ?
 いろんな妄想……もとい想像を巡らせながら頷いて高柳についていく。男は狼なのにそんな可愛い顔で誘うとは……わざとじゃないんだろうけど危機感が足りないな。いや、男同士だと普通そんなこと考えないんだろうけど……いやでもそれにしても……。あ、粟野が目を見開いてこっち見てる。

 高柳は俺のそんな邪な考えに気づいているのかいないのか、完全に周囲から死角になったところで俺にしゃがむよう言ってきた。

「まず軽く合わせてみて、少しずつ調整していこうな」

 けれどそこには俺がちょっと期待したような色っぽい気配は何もなく。

「あ、あの! な……何でここで?」

 とはいえこれ以上悶々としたくもないので直接確認することにした。
 我ながらコミュ障の演技が完璧すぎると思うくらいおどおどした声が出た。声量をミスったのは本当に動揺してるから。

「ん? 人がいないとこの方が気が楽かなって」

 俺への気遣いだった。
 そういえば高柳は性格もすこぶる良いのだった。俺が周囲の好奇の目に晒されないよう気を遣ってくれたのか。それを俺は変な妄想して……さすがに申し訳なさすぎていたたまれない。

「……ありがとう」

「おう。じゃあさっそくやろうぜ」

 幸い高柳は俺の内心など全く気付いていないようで、俺は気を取り直して練習に取り組むことにした。
 ほどほどに鈍臭い感じでいくか、と気楽に考えて高柳がはちまきを結ぶままに足を委ねていると……。

 近くね?

 はちまちを結び終えて立ち上がって驚いた。うん、めっちゃ近いね。可愛い高柳の顔がすぐ近くにあるよ。しかもなんかいい匂いがする。ダメだ、これ以上近づいたら普通に勃つわ。

 そう思ってできる限り離れたまま走ってみた。
 俺が鈍臭い奴を演じているせいもあるが、微妙に距離をとったせいで走りづらくて散々だった。
 すると、高柳は不満そうな顔をして俺の右手を取る。

「あのさ、高林なんでそんな離れて走るんだよ。足引っ張られてうまく走れねぇだろ。ほら、ちょっと手ぇ貸せ」

 そのまま俺の手は高柳の腰に回された。

 ほっっっそ。

 高柳が何かを言っているが、俺の耳には入ってこない。え? めっちゃ細いっつーか、二人三脚って腰に腕回すっけ? 普通は肩じゃね? 狙ってんの? 襲われたいの? つかやっぱいい匂いする。

「あー……悪ぃ。馴れ馴れしすぎたな」 

 固まっていたら、高柳が申し訳なさそうに言って俺の右手を腰から離す。
 ハッとして改めて右を向くと、至近距離に高柳の顔。

「えっ!? あ、待ってごめ……っ」

 素で焦った俺は、足が結ばれたままだということを失念して高柳と距離を取ろうとした。

「ちょ! 待てまだ足が」

 結果は言うまでもない。

「いってぇ……」

 しかしこれは想定外だった。バランスを崩した際、何とか高柳を守ろうと俺が後ろにひっくり返る形で転び、見事彼はこちら側に倒れたので俺が下敷きになれたのだが。

 ちょうど俺の足の間に、俺の胸に頭を預けるようにして倒れた高柳。なんというか、絶妙にその位置なの狙ってんの? 高柳の右太腿が俺のアレにアレなんだけど。
 しかもなぜか俺の腹を撫で始めたんだけど。
 …….やっぱこれ誘われてる? このまま食べていいの? いやわかってるダメだよね。でもこのままだと勃つ。

「あ……あのっ」

 これ以上はまずいと焦って声をかけると高柳が顔を上げる。だから上目遣いの威力がやばいんだって……!

「あ、悪ぃ。腹硬いからびっくりして……。高林鍛えてんだな」

「あ……うん……。ごめん。巻き込んじゃって」

「いや、俺が急に近づいたからびっくりしたんだろ? それに俺は高林の上に転けたからそこまで痛くなかったし。そっちは大丈夫か?」 

 俺の息子が全く大丈夫じゃない。そう思いながらもこくこくと頷く。
 上目遣いをこれ以上直視しないように高柳の顔から少し目を逸らすと、彼の大きく開いた襟元からちらちらと肌が覗いているのに気付いてしまう。そういや高柳は襟をパタパタさせてあおいでたな。癖なんだろうな。それで襟が伸びちゃったのか。
 おかげさまで乳首が見えそうで見えない絶妙な感じになってるよ。エッッッロ。

「でも、二人三脚やるんだから本番までにはこれくらいの距離に慣れてくれるとありがたい。ゆっくりでいいから」

「うん、わかった。……高柳くん、そろそろ降りてもらっても……」

 でないとまじで俺の息子が。

「あ、悪ぃ。重かったよな」

 やっとこの精神的苦行から解放されると思ったら、高柳が起き上がろうとして地面に手をついて俯いた際、見えてしまった。

 ピンク。

 ピンクだった。淡いピンク。

 それを見た瞬間、俺の中で何かがプツンと切れた。
 きっとわざとじゃない。全部わざとじゃない。高柳は何かを狙っていたわけじゃない。
 わかってるけど、こんなに俺を翻弄しといてそれは許されないと思う。
 身近なところで相手を見つけると周りにバレるリスクがどうだとか、田舎から抜けだして世界の広さを知った今、実のところそこまで気にしてない。煩わしいのは面倒だから現状維持していただけだ。
 でも、そんな些細な煩わしさなんてもはやどうでもいい。高柳がノンケだろうが関係ない。

 無防備に近づいてきたのは君だよ。俺の理性を振り切らせたのも君だよ。

 絶対、逃がさない。

「……あっち戻るか」

「え?」

 申し訳なさそうに言う高柳。戻るって、みんなのところへ?

「あ……いや、もうちょっと練習しない?」

 そんなことしたら、この二人きりの空間が終わってしまう。もうこの心に正直に従うと決めたのだ。狙いを定めた瞬間逃げるなんて許さない。

「ああ、じゃあもう一回やるか」

 今度は自分から高柳の腰に腕を回し密着する。俺が何を考えてるかなんて何もわかっていない顔した高柳は、まるで気にした様子がない。
 むしろ、俺が練習に積極的になって嬉しそうだ。ああ、本当にいい子なんだな。話したらわかる。こんなに見た目は華やかなのに、中身は純粋で優しくて。

 俺は自分で言うのもなんだが、かなり執着するタイプだと思う。それがわかっていたから、大事な人も、物も極力作らないようにしてきた。
 そんな俺に目をつけられて可哀想だね高柳。

 でも、逃がしてなんてあげない。
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