あの人は私を名前で呼ばない

某千尋

文字の大きさ
8 / 28

真実と失恋1

しおりを挟む
 衝撃の目撃から、その日の残りの時間をどう過ごしたのか全くわからない。気付いたら次の日になっていた。

 一晩経っても私の頭は整理されていない。悪い想像ばかりが浮かび、私の心は死んでしまいそうだった。
 
 一人でもやもやするより、もうはっきりさせてしまえばいい。
 私の精神は限界で、半ば投げやりな気持ちだった。

 仮に私の想像通り彼女がゆうきの恋人ならば、やっと私は諦めがつくかもしれない。十年という長い付き合いではあるが、これまでゆうきの恋人の話なんて聞いたことがなかった。

 私が知らないところで付き合ってたこともあるのかもしれないけれど、知る機会がなかった。私はゆうきに恋人がいることを知りたくなくて自分から恋人の有無を尋ねたことはないし、ゆうきから告げてきたこともなかったから。
 だからこそ、私はゆうきに恋人ができるということを考えたことがなかった。

「そりゃ、そんなわけないよね」

 ゆうきは私が一目惚れするほど素敵な人なのだから、今まで恋人がいなかったはずがないのだ。
 私は今までなんと自分に都合良く考えていたのか。自分の能天気さに自分で呆れる。

 スマートフォンでゆうきの連絡先を探す。とにかく早く会いたい。そして確かめたい。
 真実を知りたくないとおそれる気持ちもあるけれど、このままではいられない。メールでは返信を待っている時間を耐えられる自信がなかったため、電話をかける。
 数コールでゆうきが電話に出る。

「もしもし」

 心臓が跳ねる。同時に気持ちが竦む。私は今から自分で自分を地獄に落とそうとしているのだ。でも、ここで逃げてはいけない気がした。

「……みずきです。あの、話したいことがあるの。急で悪いんだけど、少しでも会えないかな」

 しばらくゆうきは沈黙する。沈黙の後、ゆうきから返事がくる。

「……わかった。」

 ゆうきは私のただならぬ様子を察知したようだった。待ち合わせ場所と時間を決め、電話を切る。
 スマートフォンを握り締めたまま、私は大きく深呼吸をする。覚悟を決めろ、と自分を奮い立たせる。
 自分で決めたことだ。辿り着く場所が地獄であろうと、もう後戻りはできない。

 私は無駄だと思いつつ、目一杯おめかしをする。ゆうきに二人で会うのだ。少しでも自分を良く見せたい。こんな時でもそんなことを考える自分が滑稽だったが、かといって適当な格好でゆうきに会うことなど考えられないのだ。

 しかし、格好とは裏腹に心は酷く重い。ゆうきから聞く真実が悪い想像通りだとして、私は冷静でいられるのだろうか。
 その答えは出ないまま、家を出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...