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真実と失恋2
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待ち合わせ場所のカフェに着くと、既にゆうきが来ていた。
「ゆうきの予定も聞かず急にごめん」
まずは突然の呼び出しを謝罪する。
「いや、今日は特に予定なかったし大丈夫だよ」
ゆうきが柔らかく微笑む。それを見て、思わず泣きそうになる。こんなに好きなのに、誰よりもゆうきを好きな自信があるのに、どうして私ではダメなのだろうか。
油断すると、そのまま気持ちが口から溢れてしまいそうだ。
「……それで、急にどうしたの? こんな急に呼び出すことなんて初めてだよね。なんかあったの?」
ゆうきはきっと、これから私が聞くことを全く予想できていないだろう。
聞くのは怖い。でも、聞かなければいけない。一呼吸置くために店員にコーヒーを注文し、ゆうきに向き合う。
「あのさ……ゆうきって、彼女がいるの?」
瞬間、ゆうきの目が見開かれる。
「え? 何言ってるの当然」
しかし、私はゆうきの目が一瞬泳いだのを見逃さなかった。
「私……昨日買い物してたの」
ゆうきは何かを察したようで明らかに動揺している。私の言わんとしていることがわかったのだろう。
「ゆうきが、女性から頬にキスされてるところを見たの」
私の言葉を聞いてゆうきは目を閉じ、俯いて沈黙する。沈黙は時間にして数秒だったはずだけれど、私には悠久に感じられた。
「あれが見られたなら、言い逃れはできないね」
ゆうきが顔を上げ、まっすぐわたしを見据える。
「……うん、私はね、レズビアンなんだ」
ゆうきの言葉は、私を打ちのめすのに十分だった。あまりの事実に何も反応できない私に対し、ゆうきは続ける。
「でも、昨日一緒にいた人は彼女ではないよ。彼女に誘われて出かけただけで、友人だよ。人混みに酔ったって言うから人混みから離れたら、突然キスされたんだよ」
言葉がうまく耳に入ってこない。否、耳は正常に作動しているはずだけれど、私の脳がその情報を受け取ることを拒否している。私はずっと信じていたものに裏切られた気持ちだった。
「どうして……十年も付き合いがあるのに……どうして何も言ってくれなかったの……」
絞り出した声は自分でも驚くくらい酷く弱々しかった。
「言うべきことではないと思ってた。言う機会もなかったし。言うことで、田中とぎくしゃくすることが嫌だった」
「ぎくしゃくって……」
「私に恋愛対象にされているんじゃないかって不安にさせたくなかった。でも、本当に安心してほしい。田中も、ななも私にとっては大事な友人で、邪な気持ちはないから」
心臓がずきりと強く痛む。はっきりと言われてしまった。ゆうきにとって、私がただの友人でしかないことを。
大声で泣き叫びたい。けれど、そんなことをすればゆうきに迷惑をかけるし、そんな醜態をゆうきに晒したくない。だから泣き叫びたい衝動を必死で押さえつける。
そんな私に気付かず、ゆうきはさらに言葉を続ける。
「私は田中とは今後も今までどおりいい友人でありたいと思う。けれど、もし私が、私がレズビアンであることを受け入れられないなら、諦めるよ。みんながみんな理解してくれるとは思ってないし、理解できないことを責めるつもりもないから」
視界が揺れてめまいがする。座っているのに、座っている感覚がない。悲しいはずなのに、悲しみを通り越して笑ってしまいそうだ。これが狂いそうな感覚なのかと、関係のないことを考えてしまう。
「……ゆうきが、レズビアンだからといって、それで引いたりはしない。……けどごめん、いきなりのことで混乱しているから、少し時間が欲しい」
私の口は私の脳の指示通りに動いているのだろうか。耳から聞こえる私の声は本当に私の声なのだろうか。全ての感覚が鈍い。あんなにも悪い想像をしていたのに、全く覚悟を決められていなかった。ゆうきから、辛い現実をつけつけられる覚悟を。
「うん。わかった。引かないでくれてありがとう」
ゆうきは微笑むが、先ほどの微笑みとは明らかに違う。苦しそうな微笑みだった。
ゆうきからすれば、長年隠していた事実を、秘密にしたかった事実を暴かれてしまったのだ。無遠慮に、無慈悲に。でも、今の私にはゆうきの気持ちを慮る余裕が一切ない。気の利いたことなど言えるわけがない。
「……今日は帰るね。急に呼び出してごめん」
コーヒー代を置いて席を立ち、足早にその場を去る。私が注文したコーヒーはまだきていなかった。
「ゆうきの予定も聞かず急にごめん」
まずは突然の呼び出しを謝罪する。
「いや、今日は特に予定なかったし大丈夫だよ」
ゆうきが柔らかく微笑む。それを見て、思わず泣きそうになる。こんなに好きなのに、誰よりもゆうきを好きな自信があるのに、どうして私ではダメなのだろうか。
油断すると、そのまま気持ちが口から溢れてしまいそうだ。
「……それで、急にどうしたの? こんな急に呼び出すことなんて初めてだよね。なんかあったの?」
ゆうきはきっと、これから私が聞くことを全く予想できていないだろう。
聞くのは怖い。でも、聞かなければいけない。一呼吸置くために店員にコーヒーを注文し、ゆうきに向き合う。
「あのさ……ゆうきって、彼女がいるの?」
瞬間、ゆうきの目が見開かれる。
「え? 何言ってるの当然」
しかし、私はゆうきの目が一瞬泳いだのを見逃さなかった。
「私……昨日買い物してたの」
ゆうきは何かを察したようで明らかに動揺している。私の言わんとしていることがわかったのだろう。
「ゆうきが、女性から頬にキスされてるところを見たの」
私の言葉を聞いてゆうきは目を閉じ、俯いて沈黙する。沈黙は時間にして数秒だったはずだけれど、私には悠久に感じられた。
「あれが見られたなら、言い逃れはできないね」
ゆうきが顔を上げ、まっすぐわたしを見据える。
「……うん、私はね、レズビアンなんだ」
ゆうきの言葉は、私を打ちのめすのに十分だった。あまりの事実に何も反応できない私に対し、ゆうきは続ける。
「でも、昨日一緒にいた人は彼女ではないよ。彼女に誘われて出かけただけで、友人だよ。人混みに酔ったって言うから人混みから離れたら、突然キスされたんだよ」
言葉がうまく耳に入ってこない。否、耳は正常に作動しているはずだけれど、私の脳がその情報を受け取ることを拒否している。私はずっと信じていたものに裏切られた気持ちだった。
「どうして……十年も付き合いがあるのに……どうして何も言ってくれなかったの……」
絞り出した声は自分でも驚くくらい酷く弱々しかった。
「言うべきことではないと思ってた。言う機会もなかったし。言うことで、田中とぎくしゃくすることが嫌だった」
「ぎくしゃくって……」
「私に恋愛対象にされているんじゃないかって不安にさせたくなかった。でも、本当に安心してほしい。田中も、ななも私にとっては大事な友人で、邪な気持ちはないから」
心臓がずきりと強く痛む。はっきりと言われてしまった。ゆうきにとって、私がただの友人でしかないことを。
大声で泣き叫びたい。けれど、そんなことをすればゆうきに迷惑をかけるし、そんな醜態をゆうきに晒したくない。だから泣き叫びたい衝動を必死で押さえつける。
そんな私に気付かず、ゆうきはさらに言葉を続ける。
「私は田中とは今後も今までどおりいい友人でありたいと思う。けれど、もし私が、私がレズビアンであることを受け入れられないなら、諦めるよ。みんながみんな理解してくれるとは思ってないし、理解できないことを責めるつもりもないから」
視界が揺れてめまいがする。座っているのに、座っている感覚がない。悲しいはずなのに、悲しみを通り越して笑ってしまいそうだ。これが狂いそうな感覚なのかと、関係のないことを考えてしまう。
「……ゆうきが、レズビアンだからといって、それで引いたりはしない。……けどごめん、いきなりのことで混乱しているから、少し時間が欲しい」
私の口は私の脳の指示通りに動いているのだろうか。耳から聞こえる私の声は本当に私の声なのだろうか。全ての感覚が鈍い。あんなにも悪い想像をしていたのに、全く覚悟を決められていなかった。ゆうきから、辛い現実をつけつけられる覚悟を。
「うん。わかった。引かないでくれてありがとう」
ゆうきは微笑むが、先ほどの微笑みとは明らかに違う。苦しそうな微笑みだった。
ゆうきからすれば、長年隠していた事実を、秘密にしたかった事実を暴かれてしまったのだ。無遠慮に、無慈悲に。でも、今の私にはゆうきの気持ちを慮る余裕が一切ない。気の利いたことなど言えるわけがない。
「……今日は帰るね。急に呼び出してごめん」
コーヒー代を置いて席を立ち、足早にその場を去る。私が注文したコーヒーはまだきていなかった。
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