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告白と告白と告白1
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勅使河原さんと会った翌日、携帯にゆうきからの着信が入った。
どくりと心臓が大きく鳴る。隆哉に会って、何らかの形でけじめをつけることを考えた。勅使河原さんに会って、告白することを、決めた。でも、いつするかはまだ決めていなかった。
震える指先で通話ボタンを押す。
電話口からは大好きな人の声が聞こえる。
「連絡を待とうかとも思ったのだけど、どうしても話したいことがあるんだ。可能なら今日か明日、時間くれないかな」
「……私も近いうちに連絡しようと思ってた。今日空いてるよ。この前のカフェでいい?」
待ち合わせの場所と時間を決めて通話を切った。深く深呼吸をする。まさか昨日の今日になるとは思わなかったけれど、時間が経てば決意が揺らいでしまうかもしれない。だから、今日、私のこの呪いのような気持ちを伝えよう。振られて泣きじゃくることになってもいい。これは私が乗り越えないといけないことだ。
待ち合わせのカフェには、神妙な面持ちのゆうきがいた。
「ごめん、待った?」
できるだけ明るく振る舞おうと思ったけれど、自分でも驚くくらい声が震えている。
ゆうきの前に座って小さく息を吐く。
「こっちこそ急に呼び出してごめんね」
「ううん、私もちょうど連絡しようと思っててたから」
笑おうと口角をあげようと思うけれど、うまくいかない。おそらくぎこちない笑いになっているだろう。でも、ゆうきも普段の柔らかい微笑みではなく、どこか硬い笑みを浮かべている。
「…………」
そこで私もゆうきも黙ってしまう。
何か言わないと、と思うけれど、何も言葉が出てこない。
沈黙を破ったのはゆうきだった。
「田中、私、田中に伝えたいことがあって呼んだんだ」
先程まではどこか不安そうな顔をしていたゆうきだったが、今は何かを覚悟したかのような顔をしている。
「……私も、ゆうきに伝えたいことがある」
そんなゆうきの表情を見て、私の気持ちもようやく落ち着いた。
「じゃあ、私が呼び出したから、私からでいいかな」
ゆうきの提案にこくりと頷く。
何を言われるかわからないけれど、どんな話でも動揺しないようにしよう、と気付かれないよう深く息を吐く。
「私……田中が好きなんだ」
「…………え?」
私はゆうきが何を言っているのかわからなかった。
頭の中でゆうきの口から紡がれた音を再生して、やっと理解する。だが、言葉そのものは理解したが、内容は理解できなかった。
ゆうきの口から、私がかつて幾度となく妄想した言葉が発せられたのである。そんな都合のいいことがあるなんて思えなかった。
もしかして私は今眠っていて夢の中にいるのだろうか。こんな夢のようなことをゆうきが言うはずがない。間違いない、夢だ。
確信した私は無言で自分の頬を抓る。
絶対に夢だと思って容赦なく抓ったら想像以上の痛みだった。
「いった……」
「何してるの!」
ゆうきが驚いて私の頬に触れる。
「いや……びっくりして……夢かなって……」
「だからってそんな思い切り抓らなくても……真っ赤になってるよ」
抓った場所をゆうきの指が撫ぜる。
その手つきが優しくて、胸がぎゅうっと苦しくなる。
そしてはたと気付く。
「……あれ?痛いってことは夢じゃない……?」
「……夢じゃないよ。ごめん、この前田中は恋愛対象じゃないって言ったばかりなのにこんなこと言って。……気持ち悪かった?」
「まさか!気持ち悪いわけない!」
私は予想外の問いに思わず大きな声を出してしまった。
「あっ……ごめん」
慌てて口をつぐむ。
先程のゆうきの言葉が頭の中を回る。じわじわと胸の内から湧き上がってくるのは、この上ない歓喜である。
こんな、こんな幸せなことってあるのだろうか。感情が昂って今にも涙が溢れそうだ。
でも、涙を零す前に伝えなければいけないことがある。
「……気持ち悪いなんて思うわけない。だって……私もゆうきが好きだもん」
「は!?」
今度はゆうきが大きな声を出す。
目を見開いたゆうきと目が合い、しばらくお互いそのまま固まる。
「え……だって……田中はレズビアンじゃない……よね?結婚してたし……バイ?でも……」
「レズビアンではないし、バイかって言われてもゆうき以外の女性に対してそういう気持ちは一切感じたことないから違うような気がする……」
「え……でもそれ……いつから?」
「……軽蔑しない?」
ゆうきが好きなのに他の人と結婚したと知れたら軽蔑されるかもしれないけれど、それでも全部正直に話すつもりだった。
けれど、ゆうきが私を好いてくれていることがわかり、急に怖くなった。
「……しないよ」
ゆうきが優しく微笑む。たちまち私の中の恐怖は溶けて消える。
「……初めて会った時から」
「え!?」
ゆうきがまた驚く。
ゆうきと目が合うが、その瞳に軽蔑の色は浮かんでおらず安堵する。
「ゆうきは、いつから……?」
「私は……はっきりとはわからないけど、でも私も割とすぐに……」
「うそ……」
今度は私が驚く番だった。
「だって……それならどうしてゆうきは私を名前で呼んでくれなかったの?」
ずっと抱いていた疑問をぶつける。
ゆうきは泣きそうな顔になって言う。
「田中が……珍しい名字の人と結婚して名字を変えたいって言ってるのを聞いて……田中にはずっと田中でいて欲しくて……」
思いもよらない理由に言葉を失う。珍しい名字の人と結婚?私にはそんなことを言った記憶すらなかった。
「……私……ゆうきが私だけ名前で呼んでくれないから……私の気持ちがバレていて、釘を刺しているんじゃないかって……」
「えぇ……そんな……そんなこと……」
私もゆうきもそこからしばらく何も喋ることができなかった。
こんな盛大で滑稽なすれ違いがあるだろうか。
事態を飲み込むとあまりのことに笑いがこみ上げてくる。
「……ふふっ……私たち何やってるんだか……」
「笑い事じゃないよ……田中が結婚した時どれだけショックだったか……」
「それを言ったら私はゆうきに恋愛対象じゃないって言われて、完全に振られたと思ってたよ」
目を見合わせるとゆうきも笑いがこみ上げてきたようで、しばらく2人で笑っていた。
「あ、ところで田中の話って?」
「ん?ゆうきと同じ。好きだって言おうと思ってたの」
「まさかの同じタイミング」
ゆうきは私の大好きな柔らかい笑みを浮かべた後に真剣な顔になる。
なんだろうと首を傾げると、ゆうきがもう一度微笑む。
「田中、私と付き合ってください」
瞬間身体中に何かが駆け巡る。どう表現していいかわからないくらいの歓喜が、多幸感が私の全てを支配する。
「私こそ。よろしくお願いします」
自然と口角が上がる。
今なら私はどこまでも駆けていけそうだ。今なら私は世界中の人に親切にすることができる。
この間まで絶望のどん底にいたはずなのに、ゆうきの言葉一つで私は天にも登れる。
「ゆうき、最初にお願いがあるんだけど」
私は一つの望みをゆうきに告げた。
どくりと心臓が大きく鳴る。隆哉に会って、何らかの形でけじめをつけることを考えた。勅使河原さんに会って、告白することを、決めた。でも、いつするかはまだ決めていなかった。
震える指先で通話ボタンを押す。
電話口からは大好きな人の声が聞こえる。
「連絡を待とうかとも思ったのだけど、どうしても話したいことがあるんだ。可能なら今日か明日、時間くれないかな」
「……私も近いうちに連絡しようと思ってた。今日空いてるよ。この前のカフェでいい?」
待ち合わせの場所と時間を決めて通話を切った。深く深呼吸をする。まさか昨日の今日になるとは思わなかったけれど、時間が経てば決意が揺らいでしまうかもしれない。だから、今日、私のこの呪いのような気持ちを伝えよう。振られて泣きじゃくることになってもいい。これは私が乗り越えないといけないことだ。
待ち合わせのカフェには、神妙な面持ちのゆうきがいた。
「ごめん、待った?」
できるだけ明るく振る舞おうと思ったけれど、自分でも驚くくらい声が震えている。
ゆうきの前に座って小さく息を吐く。
「こっちこそ急に呼び出してごめんね」
「ううん、私もちょうど連絡しようと思っててたから」
笑おうと口角をあげようと思うけれど、うまくいかない。おそらくぎこちない笑いになっているだろう。でも、ゆうきも普段の柔らかい微笑みではなく、どこか硬い笑みを浮かべている。
「…………」
そこで私もゆうきも黙ってしまう。
何か言わないと、と思うけれど、何も言葉が出てこない。
沈黙を破ったのはゆうきだった。
「田中、私、田中に伝えたいことがあって呼んだんだ」
先程まではどこか不安そうな顔をしていたゆうきだったが、今は何かを覚悟したかのような顔をしている。
「……私も、ゆうきに伝えたいことがある」
そんなゆうきの表情を見て、私の気持ちもようやく落ち着いた。
「じゃあ、私が呼び出したから、私からでいいかな」
ゆうきの提案にこくりと頷く。
何を言われるかわからないけれど、どんな話でも動揺しないようにしよう、と気付かれないよう深く息を吐く。
「私……田中が好きなんだ」
「…………え?」
私はゆうきが何を言っているのかわからなかった。
頭の中でゆうきの口から紡がれた音を再生して、やっと理解する。だが、言葉そのものは理解したが、内容は理解できなかった。
ゆうきの口から、私がかつて幾度となく妄想した言葉が発せられたのである。そんな都合のいいことがあるなんて思えなかった。
もしかして私は今眠っていて夢の中にいるのだろうか。こんな夢のようなことをゆうきが言うはずがない。間違いない、夢だ。
確信した私は無言で自分の頬を抓る。
絶対に夢だと思って容赦なく抓ったら想像以上の痛みだった。
「いった……」
「何してるの!」
ゆうきが驚いて私の頬に触れる。
「いや……びっくりして……夢かなって……」
「だからってそんな思い切り抓らなくても……真っ赤になってるよ」
抓った場所をゆうきの指が撫ぜる。
その手つきが優しくて、胸がぎゅうっと苦しくなる。
そしてはたと気付く。
「……あれ?痛いってことは夢じゃない……?」
「……夢じゃないよ。ごめん、この前田中は恋愛対象じゃないって言ったばかりなのにこんなこと言って。……気持ち悪かった?」
「まさか!気持ち悪いわけない!」
私は予想外の問いに思わず大きな声を出してしまった。
「あっ……ごめん」
慌てて口をつぐむ。
先程のゆうきの言葉が頭の中を回る。じわじわと胸の内から湧き上がってくるのは、この上ない歓喜である。
こんな、こんな幸せなことってあるのだろうか。感情が昂って今にも涙が溢れそうだ。
でも、涙を零す前に伝えなければいけないことがある。
「……気持ち悪いなんて思うわけない。だって……私もゆうきが好きだもん」
「は!?」
今度はゆうきが大きな声を出す。
目を見開いたゆうきと目が合い、しばらくお互いそのまま固まる。
「え……だって……田中はレズビアンじゃない……よね?結婚してたし……バイ?でも……」
「レズビアンではないし、バイかって言われてもゆうき以外の女性に対してそういう気持ちは一切感じたことないから違うような気がする……」
「え……でもそれ……いつから?」
「……軽蔑しない?」
ゆうきが好きなのに他の人と結婚したと知れたら軽蔑されるかもしれないけれど、それでも全部正直に話すつもりだった。
けれど、ゆうきが私を好いてくれていることがわかり、急に怖くなった。
「……しないよ」
ゆうきが優しく微笑む。たちまち私の中の恐怖は溶けて消える。
「……初めて会った時から」
「え!?」
ゆうきがまた驚く。
ゆうきと目が合うが、その瞳に軽蔑の色は浮かんでおらず安堵する。
「ゆうきは、いつから……?」
「私は……はっきりとはわからないけど、でも私も割とすぐに……」
「うそ……」
今度は私が驚く番だった。
「だって……それならどうしてゆうきは私を名前で呼んでくれなかったの?」
ずっと抱いていた疑問をぶつける。
ゆうきは泣きそうな顔になって言う。
「田中が……珍しい名字の人と結婚して名字を変えたいって言ってるのを聞いて……田中にはずっと田中でいて欲しくて……」
思いもよらない理由に言葉を失う。珍しい名字の人と結婚?私にはそんなことを言った記憶すらなかった。
「……私……ゆうきが私だけ名前で呼んでくれないから……私の気持ちがバレていて、釘を刺しているんじゃないかって……」
「えぇ……そんな……そんなこと……」
私もゆうきもそこからしばらく何も喋ることができなかった。
こんな盛大で滑稽なすれ違いがあるだろうか。
事態を飲み込むとあまりのことに笑いがこみ上げてくる。
「……ふふっ……私たち何やってるんだか……」
「笑い事じゃないよ……田中が結婚した時どれだけショックだったか……」
「それを言ったら私はゆうきに恋愛対象じゃないって言われて、完全に振られたと思ってたよ」
目を見合わせるとゆうきも笑いがこみ上げてきたようで、しばらく2人で笑っていた。
「あ、ところで田中の話って?」
「ん?ゆうきと同じ。好きだって言おうと思ってたの」
「まさかの同じタイミング」
ゆうきは私の大好きな柔らかい笑みを浮かべた後に真剣な顔になる。
なんだろうと首を傾げると、ゆうきがもう一度微笑む。
「田中、私と付き合ってください」
瞬間身体中に何かが駆け巡る。どう表現していいかわからないくらいの歓喜が、多幸感が私の全てを支配する。
「私こそ。よろしくお願いします」
自然と口角が上がる。
今なら私はどこまでも駆けていけそうだ。今なら私は世界中の人に親切にすることができる。
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