ガチケモナーは猫耳男子を許せない

某千尋

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5 期待を打ち砕かれた昼

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 ユージーンにその話が入ってきたのは、ほとんど話がまとまってからだった。

 王国の考えていた通り、獣人の人間への忌避感もだいぶ薄まっていた。
 思惑通り、結界を通った犬に括り付けた書簡に気付いた結界の向こう側の獣人の国は、その返事を同じようにして寄越してきた。
 そうやって何度も慎重に話を進めていき、ついに国交断絶100年を境に和平協定を結ぶ方向で話がまとまったのだ。

 しかしそのために双方が誠意を見せるべきだという話になり、獣人側からある提案がなされた。

 それぞれの国の王家に連なる者が、結界を通ってそれぞれの国へ訪問しないか、と。

 王家に連なる者がお互いへの悪感情を持っていないという証明に。
 訪問した王族が安全に戻ってくることで害する意図がないことの確認に。

 これにはグラディア王国の王は頭を悩ませた。果たして王族に一切獣人に悪感情を持たない者がいたか、と。
 訪問する者が王家に連なるかどうかは血を用いた魔術によって確認できるよう手配されることになったため、誤魔化すこともできない。
 
 しかし、その悩みは杞憂だった。すぐさま手を挙げた王族がいたのだ。
 グラディア王国の第二王子、ヘンリック。
 彼はユージーンの学生時代の同期で、未来の王である第一王子の補佐に回って早々に王位継承権を放棄し、自身は伴侶を作らないと宣言していた。
 誰もが、王位争いを起こさないための献身だと思っていた。

 けれど、それはちょっと、だいぶ違ったのだ。

 ヘンリックはユージーンと同様、獣人フリークなのである。
 彼は昔から獣人以外とは結婚なんてしないとユージーンの前で語り、人間にはもふもふが足りないと言って憚らなかった。
 結界の研究結果を知った時から、ヘンリックは自分ならば結界を通れると確信していた。自身の立場や、獣人側の状況がわからない等の事情から、機会をうかがっていた。
 そこへ、その機会がやってきたのだ。

 前のめりに自薦するヘンリックに若干引きながらも王は了承した。王は、本当は万が一があっても国内に影響の少ない王族を送りたかったが、ヘンリックからの圧が強すぎて申し出を却下できなかったのだ。

 ヘンリックは満面の笑みでウキウキしながら獣人フリーク仲間の護衛と共に結界を通っていった。




 ヘンリックが結界の向こう側へ行った時、同時に向こう側から獣人の国の王子がやってきた。
 秘密裏に王宮へ向かった王子は、昨日の夜遅くにひっそりと王宮内へ入ってきたという。

 そして、今日の昼に国王との昼食会が開かれる。

 コンコン、と研究室の扉がノックされる。

「ユージーン、用意は整ったか」

 ユージーンの応えを聞いてから開いたドアの向こうにいたのはこの国の宰相だった。白髪の混じった藍色の髪の髪を丁寧に撫で付け、神経質そうな雰囲気を纏った壮年の男は、ユージーンを上から下まで眺める。

「万全だ」

「うむ、ちゃんとしてるじゃないか。普段からそうしていればいいものを……」

 宰相は久しぶりに見たユージーンの整えられた姿にため息を吐く。

「研究者に小綺麗さはいらないだろう」

「いや、いるだろう。むしろなんでいらないと思っている」

「この姿で出歩くとうるさいのが寄ってくる。足止めされると研究が進まない」

「いや、お前ここにほぼ住み着いてるようなもんだろう。いつ出歩くんだ」

「出ないならそれこそ整える必要はないだろう?」

「はぁ……今は、そのことは置いておこう。行くぞ」

 宰相に続いて部屋を出たユージーンは、やっとこの時がやってきた、と期待に胸を膨らませていた。

 ユージーンは、今回グラディア王国へ訪問に来た獣人の王子の通訳に呼ばれていた。
 書簡のやり取りでは、ユージーンより重鎮でだいぶ高齢の研究者が文面の作成や通訳を行なっていた。
 けれど、かなり高齢なその研究者は最近耳が遠く、会話の通訳を任せることは難しかった。

 そこで白羽の矢が立ったのがユージーンである。
 学生時代の同期であるヘンリックの推薦や最近上げた功績もあって通訳に抜擢されたのだ。
 
 つまり、ユージーンは今日、憧れていた獣人に会うことができる。

 フサフサの尻尾、ピョコピョコと動く耳、ふかふかの胸毛。王宮へ向かう道中、ユージーンの頭の中には長年思い描いた獣人がいた。
 死ぬまでに一度でいいから見てみたい……と考えていた獣人に、こんなにも早く会えるとは思っていなかった。見るどころか、会話まですることができるのだ。
 いつもは極力行かないようにしている王宮への道が長すぎて、先方が帰るまで王宮内に部屋を用意してもらおうかと考えるくらいにユージーンは浮かれていた。

「さて、この奥の部屋だ」

 今回の交換訪問は王宮でもほんの一握りの者たちしか知らされていない。
 ゆえに、食堂や普段会談で使う部屋ではなく、奥まった部屋を用いることになっていた。

 あまりに胸が高鳴りすぎて会う前に心臓が破裂するのではないかと本気で心配しながら、ユージーンは扉の前に立った。

「……!!っ……!」

「ん? なんか騒がしいな」

 ノッカーを鳴らそうと扉に近づいた宰相がざわつく気配に首を傾げると、突然内側から扉が開かれた。

「!?」

 目を丸くする宰相、そのすぐ斜め後ろにいたユージーンは、扉から飛び出してきた人物を見て思わず叫んだ。

「解釈違いだ!!」
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