ガチケモナーは猫耳男子を許せない

某千尋

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7 苦行は続く

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「ならば、通訳は不要だろうか」

 求めていた言葉を王が発したため、ユージーンは期待した。このまま研究室に戻れる、と。
 現実に打ちのめされたユージーンにとって、現実を突きつけてくるヴァイツ達と同じ空間にいるのは耐えられなかった。早く、自分の城へ戻りたかった。
 とはいえ、ユージーンの獣人言語を研究する情熱はすっかり冷えている。二足歩行の動物説を推し、それが真実と信じていたからこそ研究に没頭できたのだ。その前提が打ち砕かれた今、研究を続ける理由がないし、そんな人間が研究棟にいてはいけない。
 ユージーンは、研究室に戻って心をしばらく休めたらできるだけ早く研究者を辞め、気は進まないが一回実家に帰ってその後のことをゆっくり考えようと先のことを算段し始める。
 ところが、ヴァイツはユージーンの期待をまたもや裏切る。

「いえ、そうはいっても自分の言葉が正確かどうか不安もありますし、シュタインには通訳が必要なので」

 どこがだ!お前が通訳すればいいだろう!と喉まで出かかった言葉をユージーンはなんとか飲み込む。
 人間嫌いのユージーンにとって、ほぼ人間と変わらないヴァイツもシュタインも関わりたくない存在だった。
 特にヴァイツは嫌だった。ヴァイツの耳尻尾は猫と同じだった。ユージーンが愛してやまない猫なのだ。なのに人間。愛しい猫と、嫌いな人間。その組み合わせがユージーンにはどうしても許せなかった。

「殿下がそう言うなら。ではユージーンよ、引き続き通訳を頼むぞ」

「……おおせのままに、陛下」

 宰相にすら憮然とした態度をとるユージーンだが、さすがに王に対しては敬意を払う。
 本当は嫌だと叫びたかったが、不敬とされて処罰されては困るので仕方なく諾の返事をした。

『引き続き頼む、ユージーン』

『……かちこまりまちた、殿下』




 シュタインの分が増えたことの調整で少し遅れたが、その後予定通り昼食会が始まった。
 会話の内容は当たり障りのないものだった。まだ正式に協定を結んだわけではないため、互いの出方を見ていた。
 王も獣人は野蛮であるとの教育を受けて育ったうちの一人だったため、獣人に対して知性のあるイメージを持っていなかった。だが、ヴァイツだけでなくシュタインもテーブルマナーは完璧で、会話の受け答えも如才なかった。些細な動きも洗練されており、高度な教育がなされていることが見てとれた。
 その姿を見て王は自身の考えを改め、決して獣人を侮ってはならない、と内心で冷や汗をかきながら考えていた。そして、獣人の国に送ったのが能力の高いヘンリックでよかったと安堵したのだった。
 
 ユージーンはそんな王の考えなど気付きもせずに心を殺して通訳をしていたが、ヴァイツに対して通訳する意味を見出せず、喋らないがじっと見つめてくるシュタインの視線に疲れきっていた。
 今日は彼にとって最高の一日になるはずだったのに、最低の一日になってしまった。

 昼食の席が終わってやっと解放されるとユージーンは周囲に気付かれない程度にため息をついた。
 しかし、そこでまたもヴァイツがユージーンにとって余計なことを言い出した。

「ユージーンをこの後も借りられないですか」

「なんでっ……」

 思わず抗議するような声をあげてしまったユージーンだったが、宰相に睨まれ口をつぐむ。

「今後のためにシュタインにグラディア語を教えて欲しいんです。私は教えるのがあまり上手くないので」

 そんなのは自分の仕事ではない!と内心で叫んだユージーンは、宰相に懇願の目を向ける。拒否してくれ、拒否してくれと呪詛のように念じたのが届いたのか、宰相が眉を下げて口を開く。

「大変申し訳ないのですが、ユージーンも人に教えるのは不向きな人間でして……」

 実際、人間嫌いのユージーンは人とあまりコミュニケーションを取ってこなかった。そんなユージーンに教師の真似事ができるとは思えなかった。宰相は、ユージーンの研究者としての実力は認めていたが、人間性については何の信用もしていなかった。

「ですが、シュタインはユージーンを気に入ったようですので」

「……そうなのですか?シュタイン殿下」

 顔の造形こそ美しく整っているが、表情がほとんど動かず愛想のかけらもないユージーンが子供に好かれるはずがない。そう思った宰相が訝しげにシュタインに目を向ける。

『シュタイン、ユージーンを気に入ったよな?』

 ヴァイツがシュタインに聞くと、シュタインは少し考えるように首を傾げた後、笑顔いっぱいで返事をした。

『うん!ユージーンと遊びたい!』

 ユージーンは再び膝から崩れ落ちた。
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