ガチケモナーは猫耳男子を許せない

某千尋

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10 猫耳王子の事情(sideヴァイツ)

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 ヴァイツは小さくて可愛いものが好きだった。自分が身につけるという意味ではなく、好みの相手という意味で。
 理想の相手は自分より小柄で、守ってあげたくなるような人だった。
 幼い頃、その理想が高いとは思っていなかった。
 けれど、ヴァイツにとってそれを叶えることはひどく難しいことだった。

 獣人の大きさは、獣の性質によるところが大きい。大型獣の性質を有していれば体格は大柄になるし、逆も然り。

 王である父のように、獅子の獣人として生まれたなら何も憂うことはなかった。けれど、ヴァイツは猫の獣人として生まれてしまった。隔世遺伝で。
 ヴァイツの母は豹の獣人で、せめてそのまま受け継げばよかったのに、どこかで混じった猫の性質がヴァイツには表れてしまった。

 猫の獣人は小柄とされていた。実際、ヴァイツは周囲の誰よりも小さかった。それは男の中だけの話ではなく、女もだった。
 栗鼠や兎の獣人であれば同じくらいの体格であるが、それでもせいぜい同程度である。動物としての大きさなら栗鼠や兎の方が小さいことも多いのに、なぜか獣人となると猫の方が小柄なのだ。

 ヴァイツがこんな理想を持ってしまったのは、仲の良い両親の影響が強かった。
 獅子の獣人である父は特に大柄で体格がいい。対して、母は豹の獣人の中でもずいぶん小柄で華奢だった。そんな母を風からも守るように寄り添う父を見て、自分もいつかそんな男になりたいと考えるようになったのだ。
 まだ幼かった頃のヴァイツは、自分もいつか父のように大きく逞しくなれると信じて疑っていなかったから。

 しかし成長する中でだんだんと現実がわかるようになる。父のようにはなれないと。けれどその頃には、好みのタイプはだいぶ確立されてしまっていた。現実を知った当時のヴァイツはまだ弁えられるほどの年齢ではなく、仕方ないとすぐに諦めることもできなかった。

 そんなとき、ふと人間を描いた絵を見る機会があった。
 獣人の国でも人間の資料はあまり残っていなかったけれど、数少ない資料のほとんどが城で保管されていたのだ。

 人間はひどく小さく描かれていた。

 あまりに小さく描かれていたため、事実をそのまま描いたものではないだろうとは思ったが、小さく描かれるということは獣人よりは小柄な種族なのではないかと考えた。
 人間は狡猾で非情で、かつ邪悪だとされていた。しかし長年争った相手を殊更に悪く表すのは世の常なので、あまり深刻には受け止めなかった。猿獣人と犬獣人もずっと仲が悪くいがみ合っているが、外から見ると別にどちらも特別な問題があるわけではない。

 もしかしたら、人間ならば自分より小柄なのではないか。
 一縷の望みを胸に、ヴァイツは万が一にも機会が訪れたときのために準備をしていくことに決めた。




 そして本当にその機会はやってきた。ヴァイツは交換訪問の話を聞いたとき、いの一番に手を挙げた。
 正直、もうほとんど諦めていた。そろそろ婚約者を、と言われるようにもなっていたので、誰か気の合う者と結婚しようと思っていた。
 だからこれは、ヴァイツにとって最後のチャンスだった。
 猫の獣人で第三王子のヴァイツが立太子されることはないので、客観的に見ても万が一を考えれば妥当な人選だった。

 人間は小さいとされていたので、同行する護衛は少年兵になった。大人の護衛だとでかすぎて警戒されるだろうと。
 さすがにそんなに小さくはないとは思っていたが、体格が小柄な分せめてもと精を出した筋トレのおかげでそこらの護衛よりも強靭な筋肉を身につけていたヴァイツは、正直護衛がいなくとも何とかできるので気にしなかった。
 まさかそこにシュタインが紛れるとは誰も思わなかったが。

 人間の国に入ってみて、ヴァイツは驚いた。
 本当に小さかったのだ。男も、女も。
 王宮に到着してすぐに挨拶だけ交わした王は他の人間より大柄だったが、それでもヴァイツの頭ひとつ分も小さかった。
 これまで子供以外で自分が相手を見下ろすことなどなかったので、不思議な感覚だった。さすがに絵ほどは小さくなかったけれど、ヴァイツが予想していた以上に人間は小さかった。
 ただ、喜びはなかった。
 ヴァイツの腕よりも腰が細そうな人間の女を見て、人間を自分の相手にするのはどう考えても無理だと判断したからだ。

 まあそんなもんだよな、とヴァイツは思った。そんなにうまくいくわけないと。
 現実を見て思ったよりショックを受けていないことに内心驚いていたが、これまでもヴァイツは猫獣人であることで色々諦めてきたので、もう諦めぐせがついていた。

 そもそもがダメ元だったのだ。本来の役目だけこなして国へ帰ろう、と気持ちを新たにした。
 
 しかしその翌日、ヴァイツは運命の出会いを果たすことになる。
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