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11 二日目の苦行
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ユージーンは沈んだ気持ちで足を動かす。昨日は王宮までの道が遠く感じたのに、今日はやけに近い。あっという間に目的地に着いてしまう。
扉の前ではぁ、とため息をついてからノッカーを鳴らす。どうせ逃げられないのだ。うだうだしても仕方がない。
応えを確認してから開けると、昨日と同じ面子が集まっていた。昨日とは違い、全員が着席している。
「陛下にご挨拶申し上げます。ユージーンが参りました」
ユージーンは礼の姿勢をとり、王からの言葉を待った。
さすがになにか苦言の一つでも呈されると思っていたら。
「ユージーン、楽にせよ。なにやら昨日は誤解があったらしいな。ヴァイツ殿下がお主に謝りたいと言っておる」
思っていた反応と違って思わずマリウスに目を向けると、彼は神妙な顔で頷いた。
よくわからないが、叱責されるわけではないらしい。しかし、自分が謝罪される覚えもなくて今度はヴァイツに視線を移す。
すると、ヴァイツは立ち上がってユージーンの前までやってきて口を開いた。
『揶揄ったつもりはなかったのだが、気分を害してしまったようで申し訳ない』
いや絶対揶揄っただろ、と口に出しかけてすんでのところで飲み込む。仮に揶揄われたのだとしても職務放棄が許されるわけではない。本来ユージーンは罪を負わされたとしても仕方のないことをしたのだ。
それを、ヴァイツが自分に非があるように言って不問にしてくれようとしている。
マリウスから向けられている強い視線も、これ以上の失態は許されないことを物語っている。
『……いえ、わたちこそ仕事をなげだちて申ちわけありましぇんでした』
『……許してくれるのか』
許さない、など許されないだろう。ヴァイツの立場でわざわざ一通訳人に許しを乞う必要などない。いったいなにを言っているのだとまじまじと顔を見るが、その眼差しは真剣そのものだった。謝罪はユージーンを咎めないためのポーズかと思ったが、本心からのものだと伝わってきて目を見開く。
『謝罪を、受け入れましゅ……』
ヴァイツは王族であるのに、ただの通訳人であるユージーンにここまで心を砕いてくれるのか。一人の尊重すべき者としてみてくれるのか。ユージーンは動揺し、初めて自分の昨日の行動を省みた。
ユージーンは理想と違う姿というだけでヴァイツ達に拒否反応を持ち、彼らの言動を穿った目で見ていた。不貞腐れて、決めつけて。その対応はあまりに失礼なことだった。それは、彼らを個としてみていないことに他ならない。
勝手に理想を押し付けて、それが違うとわかるや拒絶するなど、見た目に振り回されてきたユージーンが最も嫌うことのはずだったのに。苦い記憶が頭をかすめた。
『こちらこしょ、本当に申ちわけありまちぇんでちた』
だから今度は、本心から謝罪した。王命に逆らったことだけを気にしていたが、そもそもヴァイツ達に反感があったからこそあのような行動に出てしまったのだ。それこそがユージーンの非だった。それに、やっと気づいた。
そして、今度こそ通訳としての仕事を全うしようと、珍しく使命感を感じていたら。
『よかった。……実はユージーンにはもう一つ伝えたいことがあるんだ』
これで話は終わったと思っていたところでヴァイツがさらに話を続ける。
昨日会ったばかりの自分に一体なにを伝えるのだと疑問を覚えていると、ヴァイツは突然その場に跪いた。
目を丸くしたユージーンは、思わず王とマリウスを見る。
彼らも同様に目を丸くし、これまでの会話がわからない分ユージーンが変なことを言ったと思ったのか、一体なにを言ったんだと責めるような目をユージーンへ向ける。
待て、濡れ衣だ!そう言おうとしたら、そっと右手が温かいものに包まれた。
見ると、ヴァイツがユージーンの手を両手で握っている。
なんだ?獣人特有の挨拶かなんかだろうか?混乱しながらヴァイツの顔に目を向けると、思い詰めたようにユージーンを見つめている。
今度はシュタインに目を向けると、眉を下げて困ったような顔をしている。これが獣人流の挨拶ならばあんな顔はしないな?と挨拶説を却下する。
ふぅ……と前から深呼吸をする音が聞こえ、再びヴァイツに目を戻す。ヴァイツはなにかを決心したような顔をしていた。
ユージーンと目が合うと、ゆっくりと瞬きをし、もう一度深呼吸する。そして少しだけ握る手に力が入ったと思ったらおずおずといった様子で口を開き。
『ユージーン、私はあなたに心を奪われてしまった。私の伴侶としてスターヴァー王国にきてくれないか』
とんでもないことを言ったのだ。
「はぁ!?」
あまりに突拍子もない発言にユージーンが思わず叫んだのは、無理からぬことだった。
扉の前ではぁ、とため息をついてからノッカーを鳴らす。どうせ逃げられないのだ。うだうだしても仕方がない。
応えを確認してから開けると、昨日と同じ面子が集まっていた。昨日とは違い、全員が着席している。
「陛下にご挨拶申し上げます。ユージーンが参りました」
ユージーンは礼の姿勢をとり、王からの言葉を待った。
さすがになにか苦言の一つでも呈されると思っていたら。
「ユージーン、楽にせよ。なにやら昨日は誤解があったらしいな。ヴァイツ殿下がお主に謝りたいと言っておる」
思っていた反応と違って思わずマリウスに目を向けると、彼は神妙な顔で頷いた。
よくわからないが、叱責されるわけではないらしい。しかし、自分が謝罪される覚えもなくて今度はヴァイツに視線を移す。
すると、ヴァイツは立ち上がってユージーンの前までやってきて口を開いた。
『揶揄ったつもりはなかったのだが、気分を害してしまったようで申し訳ない』
いや絶対揶揄っただろ、と口に出しかけてすんでのところで飲み込む。仮に揶揄われたのだとしても職務放棄が許されるわけではない。本来ユージーンは罪を負わされたとしても仕方のないことをしたのだ。
それを、ヴァイツが自分に非があるように言って不問にしてくれようとしている。
マリウスから向けられている強い視線も、これ以上の失態は許されないことを物語っている。
『……いえ、わたちこそ仕事をなげだちて申ちわけありましぇんでした』
『……許してくれるのか』
許さない、など許されないだろう。ヴァイツの立場でわざわざ一通訳人に許しを乞う必要などない。いったいなにを言っているのだとまじまじと顔を見るが、その眼差しは真剣そのものだった。謝罪はユージーンを咎めないためのポーズかと思ったが、本心からのものだと伝わってきて目を見開く。
『謝罪を、受け入れましゅ……』
ヴァイツは王族であるのに、ただの通訳人であるユージーンにここまで心を砕いてくれるのか。一人の尊重すべき者としてみてくれるのか。ユージーンは動揺し、初めて自分の昨日の行動を省みた。
ユージーンは理想と違う姿というだけでヴァイツ達に拒否反応を持ち、彼らの言動を穿った目で見ていた。不貞腐れて、決めつけて。その対応はあまりに失礼なことだった。それは、彼らを個としてみていないことに他ならない。
勝手に理想を押し付けて、それが違うとわかるや拒絶するなど、見た目に振り回されてきたユージーンが最も嫌うことのはずだったのに。苦い記憶が頭をかすめた。
『こちらこしょ、本当に申ちわけありまちぇんでちた』
だから今度は、本心から謝罪した。王命に逆らったことだけを気にしていたが、そもそもヴァイツ達に反感があったからこそあのような行動に出てしまったのだ。それこそがユージーンの非だった。それに、やっと気づいた。
そして、今度こそ通訳としての仕事を全うしようと、珍しく使命感を感じていたら。
『よかった。……実はユージーンにはもう一つ伝えたいことがあるんだ』
これで話は終わったと思っていたところでヴァイツがさらに話を続ける。
昨日会ったばかりの自分に一体なにを伝えるのだと疑問を覚えていると、ヴァイツは突然その場に跪いた。
目を丸くしたユージーンは、思わず王とマリウスを見る。
彼らも同様に目を丸くし、これまでの会話がわからない分ユージーンが変なことを言ったと思ったのか、一体なにを言ったんだと責めるような目をユージーンへ向ける。
待て、濡れ衣だ!そう言おうとしたら、そっと右手が温かいものに包まれた。
見ると、ヴァイツがユージーンの手を両手で握っている。
なんだ?獣人特有の挨拶かなんかだろうか?混乱しながらヴァイツの顔に目を向けると、思い詰めたようにユージーンを見つめている。
今度はシュタインに目を向けると、眉を下げて困ったような顔をしている。これが獣人流の挨拶ならばあんな顔はしないな?と挨拶説を却下する。
ふぅ……と前から深呼吸をする音が聞こえ、再びヴァイツに目を戻す。ヴァイツはなにかを決心したような顔をしていた。
ユージーンと目が合うと、ゆっくりと瞬きをし、もう一度深呼吸する。そして少しだけ握る手に力が入ったと思ったらおずおずといった様子で口を開き。
『ユージーン、私はあなたに心を奪われてしまった。私の伴侶としてスターヴァー王国にきてくれないか』
とんでもないことを言ったのだ。
「はぁ!?」
あまりに突拍子もない発言にユージーンが思わず叫んだのは、無理からぬことだった。
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