ガチケモナーは猫耳男子を許せない

某千尋

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16 歩み寄りは不可能

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 ヘンリックに部屋を追い出されたユージーンは、仕方なく自室へ戻った。結局なにも話が進んでいないが、そもそも対人コミュニケーション能力が壊滅的なユージーンに如才ないヘンリックの説得を頼むのが間違っている。
 しかし、ヘンリックが戻ると決めてくれないと、ユージーンも帰れない。

 思うようにいかないことに苛立って脚を揺らしながらどうするかを考える。
 ヘンリックの想い人はヘンリックの護衛としてここまでついてきているらしい。部屋にいたのは人間の護衛だけだったので、外に出るときの護衛なのだろうか。

「……見にいくか」

 まずは敵を知る必要がある、とユージーンは立ち上がる。厳密には敵ではないが、そいつのせいでこんなことになっているんだと半ば責任をなすりつけていた。

 部屋を出ると待機していた二人の護衛たちがユージーンに向き直る。

『どちらへいかれますか?』

『ヘンリックの想い人を見に行きたいのでちゅれていってほちい』

 きっと彼らに聞けばヘンリックの想い人がわかるはず。よく考えたらユージーンはヘンリックから相手の名前すら聞いていなかったのだ。

『……アドルフ様はどちらにいる?』

『訓練してるんじゃないか?』

 二人の会話を聞くに、ヘンリックの想い人はアドルフというらしい。
 こんな異常事態に訓練をしているなんて、ヘンリックの言うとおり真面目で硬い奴なのだろう。

『ではギュスターブ様、ご案内します』

 長らく使わなかった家名で呼ばれるのには違和感があるが、小さく頷いて護衛の先導にしたがう。
 それにしてもこの屋敷は大きいなと辺りを見回す。ドアもやけに大きく、天井は高い。領主はちょうど王都にいるから不在とのことだが、どんな人物なのだろうと考えながら護衛の背中に視線を戻す。
 やはりでかい……頭についている耳や尻尾から判断するに、護衛はそれぞれ狸と牛の獣人である。だいぶ見上げないと目が合わず、自分が幼子になったような気分になる。

『あ、いましたよ。ヘンリック殿下もご一緒のようですね』

 庭が見渡せる窓から外を覗くと、嬉しそうに笑うヘンリックが目に入る。
 その横にいる兎の獣人が想い人かと思ったが、どうやら通訳のようだ。
 二人の目線の先には、一人の獣人がいた。きっと彼が。

『……いぬか?』

 三角の耳にふさふさの尻尾。そういえばヘンリックは犬好きだと言っていたなと考えていると、横からおずおずとあの……と声をかけられる。

『アドルフ様は、犬ではなく狼の獣人ですので……本人も気にしているので』

『おおかみ……』

 もう一度アドルフを見る。実際に狼を見たことがないため耳と尻尾で狼と犬を見分けるのは難しい。けれど、確かなんの獣人かを間違えることは獣人の文化では失礼にあたったはずだと思い出し、気をつけようと心に留める。

「……あんなに嬉しそうなヘンリック、初めて見たな」

 ユージーンは今屋敷の2階にいるため、ヘンリックの顔が細部まで見えるわけではない。けれど、ぼんやりとでもわかるくらいアドルフに嬉しそうに話しかけている。
 アドルフは少し距離を取ってはいるものの、ヘンリックの話によく耳を傾けているように見える。

「一目惚れ……」

 ヘンリックはユージーンにそういう興味を持って近付いたと言っていたが、確かにあんな風に話しかけられたことはない。
 ユージーンは人の感情の機微に疎いところがあるが、そんな彼にもヘンリックのアドルフへの気持ちは丸わかりだった。

 そこでふと、ヴァイツはどうだったか、と考える。別にヘンリックに言われたからというわけじゃないが、確かに一国の王子という身分にある者が軽々しく求婚することはないはずだ。
 だから、もしかしたら見た目だけで判断したのではないかもしれない。よく考えたら、既に盛りを過ぎた自分よりヴァイツの方がよっぽど美しいし、自分の見た目に寄ってきた、と考えるのは少し傲慢かもしれない。

『ああ、こんなところにいたのかユージーン』

 思考を巡らせていたところ、ユージーンを探していたらしいヴァイツに声をかけられる。

『もうヘンリック殿下との話は終わったと聞いた。どうだ?うまく話はできたか?』

『いえ……あまり』

『何を見て……ああ、アドルフとヘンリック殿下の様子を見ていたんだな』

 窓の向こうには会話を終えたのか鍛錬を始めたアドルフと、少し離れた場所でいつの間にか椅子に座ってそれを見ているヘンリックがいた。

『……殿下は、なじぇわたちに求婚をちたのでちゅか?』

 その様子を見て。ほんの少し気になった。別にヴァイツのことはなんとも思っていないしヴァイツの気持ちは迷惑だが、少しくらい話を聞いてみてもいいような気がしたのだ。
 ユージーンは和平の証としてヴァイツに差し出される可能性もあるわけで、相手を知っておく必要もあるし、と。

 ヴァイツは少し目を見開いた後、少し考えるようにして口を開いた。

『私は守るべき相手を探していたんだ、それがユージーン、君だと思った』

 その答えを聞き、ユージーンはぽかんと口を開ける。ヴァイツはその表情を可愛いなと思ったが、その顔はみるみるうちに赤く染まったいく。
 照れからではなく、怒りからである。

『わたちは!おまえなんかに守ってもらうひちゅようがあるほど弱くなどない!!』
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