ガチケモナーは猫耳男子を許せない

某千尋

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17 猫耳王子の恋(sideヴァイツ)

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「解釈違いだ!」

 捕まえ損ねたシュタインが部屋を飛び出した瞬間外から聞こえた声。
 なんのことかわからなかったが、シュタインに向けられた言葉だろう。そろそろ通訳がくると聞いていたからそいつだろうか、失礼なやつだなと思いながら部屋を出た。

「解釈違いとは、穏やかじゃないな」

 今回ヴァイツはグラティア語がわからない振りをするつもりだった。そうすれば、どうせ言ってもわからないとグラティア語で獣人に関する話をするのを聞けるかもしれないから。

 けれど、ついグラティア語が出てしまったのは、扉の先で膝から崩れ落ちている男が、あまりに美しくて動揺したから。
 そしてヴァイツの声に気付いて顔を見上げてきたその男は、ひどく刺々しい印象だった。

 眉間にうっすら残る皺は、普段からそこを頻繁に寄せていることを示していた。ヴァイツを見て少し鋭くした眼光は冷たく、好意的には感じなかった。
 けれど彼が通訳なら、獣人言語を学んでいるはずだ。獣人を嫌っているなら、そんなことを学ぶはずがない。

 シュタインを抱えて部屋へ戻ると、その男と自分をこの部屋まで身振り手振りで案内してきた男が入ってきた。二人とも深い藍色の髪をしており、親戚関係にあるように見えた。
 部屋は入ってきた美しい男は、冷めた目でヴァイツに向き合い礼を取る。そして出てきた言葉は。

『失礼しましゅた。本日ちゅうやくにまいりまちた、ユージーンともうちまちゅ』

 思わず吹き出しそうになってしまった。
 冷たい印象の雰囲気の男とは、あまりにそぐわない舌ったらずな喋り方だった。
 グラディア語と違って獣人言語にはかなり舌を巻いて発音する語がいくつかある。きっと人間には発音が難しいものなのだろう。だからそれは仕方のないことなのに、なぜだかすごく可愛いと思ってしまった。

 キリッとした表情で可愛らしく席をすすめられた時には耐えられなかった。

 見た目が好みだったのもあるが、この刺々して人を近くに寄せ付けない雰囲気の男が自分のテリトリーに入れる者とはどんな奴だろう、と純粋に興味が湧いた。そして、自分がそこに入れたら。
 そう考えて驚く。今まで誰かにそんなことを考えたことなどなかったのだ。

 ついさっき会ったばかりの男。顔は綺麗だが刺々していて親しみやすさのカケラもない男。通訳をしている横顔を盗み見ると、眉がピクピク引き攣っており苛立ちが隠せない様子だった。
 解釈違い……という言葉を考える。よくわからないが、もしかしたら獣人として想像していたものとヴァイツたちが違ったのかもしれない。思っていたのと違って拗ねているのだろうか、こんなに美麗でクールに見える男が。

 だが、通訳に関しては真面目にやっている。文法も正しく、語彙力も豊か。嫌々していることを隠せていないのに、手は抜かない真面目な姿勢は好ましい。
 こちらが王族であることを知っているにもかかわらず、媚びへつらうどころか拒否感を隠さないのは権力への欲がないからなのだろう。宰相がたまに心配そうな色を目に浮かべてユージーンに視線を寄越しているが、それにまったく気付いた様子がない鈍感ぶりも、なんだか可愛く感じてしまう。

 とはいえ男だ。ヴァイツは同性愛者ではないはずだった。
 けれど、瞬きをする時に頬に影を落とすけぶるような長いまつ毛も、心の底まで覗き込まれそうな深い藍色を携えた少し釣り目がちな目も、色素が薄めの唇も、すべてが好ましかった。
 獣人の男は誰もがヴァイツより大柄だったから対象になる相手がいなかっただけで、もしかしたらもともと男もいけたのかもしれないと考える。
 だって、ユージーンは決して中性的な容姿ではないし、男に愛でられるというより女を侍らせていそうな気怠げな美人なのだ。なのに、外見とちぐはぐな挙動も併せて目が離せない。

 昼食が終わる頃、ヴァイツは自分の中に生じたこの感情の中身を知りたくて、ユージーンともう少し一緒にいたいと考えた。
 シュタインの教師を頼むと誰が見てもわかるくらい嫌そうに顔を歪め、助けを求めるように宰相を見る。
 クールに見えるのに、全部顔に出ている。正確には、表情自体はそこまで大きく変わらないが、目の動きがあまりにわかりやすいのだ。

 シュタインはどう思うだろうと様子を見ると、キラキラとした目でユージーンを見ていた。ああ、気に入ったんだなと理解したと同時に、敵意に特に敏感な子どもであるシュタインが気に入ったなら、ユージーンには獣人への敵意がないのだと嬉しくなる。

 案の定、シュタインに話を振ると、ユージーンと遊びたいと元気に返事をした。

 シュタインに手を繋がれたユージーンは、動揺を見せながらもその手を払うことはない。
 はしゃぐシュタインが振り回すのにも、瞳を揺らしてどうしていいかわからなくて泣きそうな顔をしている。しかし少し頬を染めており、子どもに懐かれて嬉しそうにも見える。

 宰相と親戚ならば、きっと貴族なのだろう。けれど、そうとは思えないくらい表情がわかりやすく、駆け引きなんてできなさそうな態度の連続。

 ああ、愛おしいな。
 すとん、と答えが胸に落ちてくる。
 その身体に吹きつける風からすら守りたい、そう思える対象に、ヴァイツはやっと巡り合ったのだ。
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