ガチケモナーは猫耳男子を許せない

某千尋

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19 向き合うということ

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 ユージーンはその日、残りの時間を部屋に篭りきりで過ごした。
 晩餐への誘いも断り、嘘だ嘘だとぶつぶつ呟きながら一夜を明かした。

「……すごい隈だね。それは昨日ヴァイツ殿下を怒鳴ったことと関係あるのかな?」

 翌朝になっても部屋から出てくる様子がなかったユージーンを心配してやってきたヘンリックは、ドアを開けたユージーンを見て目を見開く。
 髪はボサボサで顔は青白く、目の下にはくっきりとした陰ができていた。

「とりあえず部屋に入れてもらうよ。というか、昨日一体なにがあったんだい。なんだかヴァイツ殿下は落ち込んでるし……」

 ヘンリックの声にピクリと眉を揺らすだけのユージーンを押し退けずかずかと部屋に入ったヘンリックは、入ってすぐの応接スペースのソファに部屋の主の許可も取らずに当然のように腰掛けた。そしてゆっくりを足を組んで部屋の主を見上げ、対面のソファに目配せをする。ユージーンは「はあ」とため息をついてからヘンリックの前に座った。

「……放っておいてくれないか」

「ご挨拶だね。君は私を説得しにきたんじゃなかったのかい?職務放棄甚だしいね」

「じゃあ帰還を了承してくれるのか」

「そんな話はしていないよ。ねぇ、どうしたんだユージーン」

 優しい声音で尋ねるも、ユージーンは口を固く引き結んで俯くばかり。
 少し瞳が揺れていて、珍しく不安そうなその姿にヘンリックは驚く。そんなユージーンを見るのは初めてだった。

「君は確かに短気だが、理由もなく癇癪を起こしているところはみたことがないよ。それに、君は貴族としての振る舞いも知っている。学生時代に私を拒絶しなかったのは私が王子だからだろう?そんな君が、ヴァイツ殿下を怒鳴るなんてよっぽどのことだと思ったのだけど」

「……守りたいと言われたんだ」

 観念したようにポツリと呟く。
 一夜明けて冷静になったユージーンは、ヴァイツを怒鳴りつけたことを改めて後悔していた。獣人にとっても人間は憎い存在のはずで、和平を結ぶのに反対する勢力はいるだろう。そんな中王子が人間に怒鳴られたとなれば、和平の話がひっくり返ってしまうかもしれない。あの時は周りに護衛もいた。目撃している獣人はたくさんいるはずだ。
 とんでもないことをしてしまったのに、ユージーンを責めずに話を聞こうとするヘンリックに、これ以上黙っていることはできなかった。

「うん、それでどうしたの?」

「私は……守られなくとも自分の力で生きてきた。それを、否定されたように思ってしまって……」

「……ねぇユージーン、私は君に起きた悲しい出来事を知っているよ。君が全身に棘を纏っているのも、そうならざるを得ない環境だったと理解しているつもりだ。そんな中で腐らず身を立てている君のことを尊敬もしている。でも……」

 躊躇うようにヘンリックが詰まる。
 俯いていたユージーンが顔を上げると、困ったように眉を下げたヘンリックと目が合った。

「こんなこと言ったら怒るかな。私が言いたいのはね、そろそろ寄りかかれる相手がいてもいいんじゃないかってこと。まぁ、それがヴァイツ殿下である必要はないけれど。これからもずっと一人で生きていくつもりなのかい?それで本当に寂しくないのかい?」

「……私は、人間が嫌いだ」

「知ってるさ。君の境遇なら、私だって人間嫌いになったかもしれない。でも、だからこそ君は獣人を求めたのではないの?本当に一人でいいのなら、そもそも誰かを求めたりなんてしないだろう?」

 ユージーンは再び俯く。寂しいなんて感情はとっくに無くしたはずだった。一人で生きていけると思っていた。けれど、ならばなぜ獣人を、愛せる相手を求めたのか。

「ユージーンは、きっと諦める癖がついているんだね。自分が望んでも、手に入らないと思っているんだろう?だから、そもそも欲しくないって思い込もうとしている。……もう少し、自分の心に向き合ったほうがいい」

 再び顔を上げて見たヘンリックは、今度は真剣な顔をしていた。ユージーンの心まで見透かすような目にぞくりと背筋が震える。

「……幸い、ヴァイツ殿下は怒っていないし、見ていた周りもヴァイツ殿下の求婚を知っていたから痴話喧嘩と思われて問題視もされていない。獣人は愛の前に身分は関係ないという文化らしくて、王子といえども愛は自分で掴み取らねばならない、ということらしいよ」

「……そうか。しかし私のしたことは国の代表という立場で許されないことだ。処罰はいかようにも」

「処罰なんてしたら私がヴァイツ殿下に怒られてしまうよ。失態を反省しているなら、ヴァイツ殿下とお茶でもしてやってくれないか。そうしたら、失態には目を瞑ろう」

 真剣な顔を崩して茶目っ気たっぷりにウィンクをするヘンリック。
 普段のユージーンならば白けた視線を送るところだが、今日ばかりは神妙な顔で頷いた。

「いつもみたいな冷たい対応をされないとちょっと調子狂うな。さて、話は終わったし私は私のアドルフに会いに行かないと」

「ああ」

 立ち上がったヘンリックに続いたユージーンは、扉を開けて出ていくヘンリックの後ろ姿に、聞こえるか聞こえないかわからないくらいの小さな声でありがとう、と呟く。
 一瞬立ち止まったように見えたヘンリックは、しかし振り返ることなく片手をひらひらと振りながら部屋を出ていった。
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