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20 けじめ
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ヘンリックを見送ったユージーンは、ベルで使用人を呼んで便箋を手配する。
きちんと落とし前をつけねばならぬと考え、昨日の無礼に対する謝罪と、直接謝罪する時間を設けてほしい旨をしたためて使用人に預けた。
すると、程なくして遣いに出したのと同じ使用人と、ずらずらと何人かの使用人が櫛やら服やらを携えてやってきてユージーンは面食らった。
『殿下から茶会の誘いがございます。私たちがふさわしく準備いたしますのでよろしくお願いいたします』
それは今の自分ではふさわしくないということかと頭に血がのぼりかけたが、今のボサボサの頭と濃い隈をこさえた顔を思い出し、ユージーンは渋々応じた。
『ギュスターブ様、お肌の手入れはどうなさっていますか。せっかく元がいいのに少しカサついております。たっぷり保湿液を塗らせていただきますが、今晩から私にお手入れさせてくださいまし』
『深い藍色の美しい髪ですわね。こちらもしっかり保湿しましょう。髪のお手入れも今晩から始めますわね』
『ギュスターブ様にはこちらの繊細なレースの施されたブラウスがお似合いだと思いますわ。カフスはそうですわね、やはり殿下の目の色に合わせて琥珀色がよろしいわ』
完全に着せ替え人形になったユージーンは、目を白黒させながらされるがまま。
彼女たちはヴァイツの想い人として現れたユージーンを見て、素材は素晴らしいのにぞんざいに扱われていると憤慨していた。いつ手を入れてやろうかとうずうずしていたところ、ヴァイツが茶会に招くという。これはチャンスとばかりに勢いで押しかけてきたのだ。
その勢いに気圧され、ユージーンは文句の一つも言えなかった。爪まで磨きあげられ、そのつるつるした様に気が遠くなりながらもこれも昨日の罰かと我慢した。なにより彼女たちはみなユージーンより頭一つ分以上大きく、抵抗などできようもなかった。
そして仕上がったユージーンの姿は、その美貌を最大限に生かしたものになっていた。深い藍色のウエストコートの首元に覗く、襟に細やかなレースが施されたブラウスは上品な印象を与え、同色の細身のトラウザーズはユージーンの長い脚を際立たせている。ウエストコートには銀糸で見事な刺繍が施されているため地味な印象は与えず、全体的には暗めの色ながら華やかさも忘れない。
色気のある顔立ちに禁欲的な清楚さが加わり、そのアンバランスさがえも言われぬ艶を生み出していた。
顔はというと、隈は化粧で隠され、たっぷり塗り込まれた美容液のおかげで潤った肌は瑞々しく、もとより白い肌は磨きがかって輝かんばかり。緩やかに波打った髪は全体的に固い雰囲気を程よく崩している。
先ほどまでのヨレヨレの男はどこにもいなかった。
『ああ、素晴らしいですわ。それではこちらのコートに袖を通してくださいまし』
掲げられたコートはやはり藍色だが、こちらも銀糸の刺繍が入っている。
ユージーンが袖を通すと、ほう、といくつものため息が周囲から漏れる。
『想像以上ですわ……』
『こんなに小柄で華奢でこの美しさ、人間とは物語の妖精のようですわね』
褒められていることはわかるが、ユージーンはちっとも嬉しくない。
なにせもう33歳のいい歳の男である。妖精に例えられてもいたたまれないだけだった。
『……しょろしょろ時間なのでは?』
『ああ!そうでしたわ。殿下を待たせてはいけません。ご案内いたします』
狸の耳を生やした使用人に庭に案内されたユージーンは、ヴァイツの姿を認めて恥ずかしくなる。
夜会にでも参加するのかというくらいきっちりと仕上げたユージーンと違い、ヴァイツはラフな格好だったのだ。少しはだけたシャツにトラウザーズ姿のヴァイツはユージーンを見て目を見開く。
かしこまった場でないのならなんでこんな服を着せられたんだ!
心の中で叫んでも今から部屋へ戻ることはできない。なにより、ユージーンにはやらなければならないことがある。
『殿下、しゃくじちゅは無礼をはたりゃき、もうちわけありましぇんでちた。いかようなばちゅも受けるしょじょんでしゅ』
『罰など!私が不愉快にさせることを言ってしまったのだろう?』
『いえ、殿下はなにも。わたちの個人的な事情でしゅ。でしゅので、我が国へしかるべき報告がなしゃれることは覚悟ちていましゅ』
ヘンリックも処罰は不要なようなことを言っていたが、それは許されないと思っていた。ユージーンは私的なやりとりのためにここにいるのではない。あくまで、公的な立場できているのだ。問題になっていないと聞いても、わずかでも獣人側の反発がありうるならばお咎めなしというわけにはいかない。
ユージーンとしては、自身のヴァイツへの行いをスターヴァー王国からグラディア王国へ抗議してもらい、帰還した際になんらかの処罰を受ける、ということを想定していた。
『……罰を望むということか。しかし私は此度の件を問題にするつもりはない。私の求婚はすでに陛下もご存知のこと。想い人にあしらわれたことを大々的にアピールする道化になるつもりはない』
だがしかし、そうだなとヴァイツは考えるような仕草をする。
『では、私が罰を与えよう』
きちんと落とし前をつけねばならぬと考え、昨日の無礼に対する謝罪と、直接謝罪する時間を設けてほしい旨をしたためて使用人に預けた。
すると、程なくして遣いに出したのと同じ使用人と、ずらずらと何人かの使用人が櫛やら服やらを携えてやってきてユージーンは面食らった。
『殿下から茶会の誘いがございます。私たちがふさわしく準備いたしますのでよろしくお願いいたします』
それは今の自分ではふさわしくないということかと頭に血がのぼりかけたが、今のボサボサの頭と濃い隈をこさえた顔を思い出し、ユージーンは渋々応じた。
『ギュスターブ様、お肌の手入れはどうなさっていますか。せっかく元がいいのに少しカサついております。たっぷり保湿液を塗らせていただきますが、今晩から私にお手入れさせてくださいまし』
『深い藍色の美しい髪ですわね。こちらもしっかり保湿しましょう。髪のお手入れも今晩から始めますわね』
『ギュスターブ様にはこちらの繊細なレースの施されたブラウスがお似合いだと思いますわ。カフスはそうですわね、やはり殿下の目の色に合わせて琥珀色がよろしいわ』
完全に着せ替え人形になったユージーンは、目を白黒させながらされるがまま。
彼女たちはヴァイツの想い人として現れたユージーンを見て、素材は素晴らしいのにぞんざいに扱われていると憤慨していた。いつ手を入れてやろうかとうずうずしていたところ、ヴァイツが茶会に招くという。これはチャンスとばかりに勢いで押しかけてきたのだ。
その勢いに気圧され、ユージーンは文句の一つも言えなかった。爪まで磨きあげられ、そのつるつるした様に気が遠くなりながらもこれも昨日の罰かと我慢した。なにより彼女たちはみなユージーンより頭一つ分以上大きく、抵抗などできようもなかった。
そして仕上がったユージーンの姿は、その美貌を最大限に生かしたものになっていた。深い藍色のウエストコートの首元に覗く、襟に細やかなレースが施されたブラウスは上品な印象を与え、同色の細身のトラウザーズはユージーンの長い脚を際立たせている。ウエストコートには銀糸で見事な刺繍が施されているため地味な印象は与えず、全体的には暗めの色ながら華やかさも忘れない。
色気のある顔立ちに禁欲的な清楚さが加わり、そのアンバランスさがえも言われぬ艶を生み出していた。
顔はというと、隈は化粧で隠され、たっぷり塗り込まれた美容液のおかげで潤った肌は瑞々しく、もとより白い肌は磨きがかって輝かんばかり。緩やかに波打った髪は全体的に固い雰囲気を程よく崩している。
先ほどまでのヨレヨレの男はどこにもいなかった。
『ああ、素晴らしいですわ。それではこちらのコートに袖を通してくださいまし』
掲げられたコートはやはり藍色だが、こちらも銀糸の刺繍が入っている。
ユージーンが袖を通すと、ほう、といくつものため息が周囲から漏れる。
『想像以上ですわ……』
『こんなに小柄で華奢でこの美しさ、人間とは物語の妖精のようですわね』
褒められていることはわかるが、ユージーンはちっとも嬉しくない。
なにせもう33歳のいい歳の男である。妖精に例えられてもいたたまれないだけだった。
『……しょろしょろ時間なのでは?』
『ああ!そうでしたわ。殿下を待たせてはいけません。ご案内いたします』
狸の耳を生やした使用人に庭に案内されたユージーンは、ヴァイツの姿を認めて恥ずかしくなる。
夜会にでも参加するのかというくらいきっちりと仕上げたユージーンと違い、ヴァイツはラフな格好だったのだ。少しはだけたシャツにトラウザーズ姿のヴァイツはユージーンを見て目を見開く。
かしこまった場でないのならなんでこんな服を着せられたんだ!
心の中で叫んでも今から部屋へ戻ることはできない。なにより、ユージーンにはやらなければならないことがある。
『殿下、しゃくじちゅは無礼をはたりゃき、もうちわけありましぇんでちた。いかようなばちゅも受けるしょじょんでしゅ』
『罰など!私が不愉快にさせることを言ってしまったのだろう?』
『いえ、殿下はなにも。わたちの個人的な事情でしゅ。でしゅので、我が国へしかるべき報告がなしゃれることは覚悟ちていましゅ』
ヘンリックも処罰は不要なようなことを言っていたが、それは許されないと思っていた。ユージーンは私的なやりとりのためにここにいるのではない。あくまで、公的な立場できているのだ。問題になっていないと聞いても、わずかでも獣人側の反発がありうるならばお咎めなしというわけにはいかない。
ユージーンとしては、自身のヴァイツへの行いをスターヴァー王国からグラディア王国へ抗議してもらい、帰還した際になんらかの処罰を受ける、ということを想定していた。
『……罰を望むということか。しかし私は此度の件を問題にするつもりはない。私の求婚はすでに陛下もご存知のこと。想い人にあしらわれたことを大々的にアピールする道化になるつもりはない』
だがしかし、そうだなとヴァイツは考えるような仕草をする。
『では、私が罰を与えよう』
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