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ユージーンのかつてないほどのしおらしい様子に、ヘンリックは心底心配していた。傲岸不遜な態度がデフォルトのユージーンのあんな自信なさげな姿。かつての学友たちが見れば驚くどころではないだろう。
ユージーンはきっとヘンリックをことあるごとに絡んでくる鬱陶しい知り合いくらいにしか考えていないだろうが、ヘンリックはユージーンを殊の外気に入っていた。ユージーンには裏がない。相手の思惑を読み取るために裏の裏まで考えて話すことに慣れてしまったヘンリックにとって、ユージーンのように言葉と真意が一致している者は好ましかった。
「へぇ、ヴァイツ殿下と本当に茶会をしているのか」
自分が去った後のユージーンの様子を報告させてみれば、ヴァイツと茶会の場を設けることになったという。半ば冗談で言ったことを実際にしてしまう素直さはやはり可愛い。
実のところユージーンのその性格もヘンリックの好みであった。捻くれているところはあるし、本人も自分をへそ曲がりだと認識しているようだが、性根は素直なのだ。
ひとつユージーンに嘘をついたとすれば、学生時代のヘンリックはそれなりに本気でユージーンに好意を持っていた。けれど、ユージーンがヘンリックをそういう意味で好きになる望みはあまりに薄かった。それだけでなく、ユージーンを自身の相手にするのにはひとつ大きな問題も。
「ユージーンは……組み敷かれる方だろうからなぁ」
ヘンリックには、自分より大柄な男に組み敷かれたいという性癖があった。しかし、ユージーンはどう見てもそっちじゃない。
ぽそりと呟くと、ヘンリックの通訳を担当しているエドガーが、きょとんと首を傾げる。
「いや、なんでもないよ。ただ、ちょっと心配だからこっそり様子を見に行こうかな。案内してくれる?」
エドガーがもちろんです、と了解したため、ヘンリックは立ち上がる。
すると視界の端で鍛錬に励んでいたアドルフが話しかけてくる。
『❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎?』
「あ、はいえーと……どこにいくんですか?とのことです」
ヘンリックは今日も今日とて鍛錬に励むアドルフを横で見学していた。ここ最近は王子を立たせるわけにはということで椅子とテーブルを用意されるようになったため、優雅に茶を楽しみながらアドルフを眺めていたのだ。
自分のことなど景色の一部としか考えていないだろうと思っていたアドルフに気にかけてもらえてにやけそうになる。
「友人の様子を見にいくんだよ」
エドガーが翻訳して伝えると、アドルフは少し不機嫌そうに眉を顰める。
「もしかして、私が友人を気にかけるのを嫉妬してくれているのかい?」
まるでヘンリックがこの場を離れることを嫌がっているように見えてそう言うと、エドガーは少し迷ったように目を彷徨わせてからアドルフに伝える。ヘンリックには自分の言葉がどこまで正確に伝わっているかわからない。こんなことなら獣人言語も学んでおけばよかったとほぞを噛む。
しかしエドガーからヘンリックの言葉を聞いたアドルフの顔はみるみるうちに赤く染まり、ヘンリックはおや?と片眉を上げる。
『❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎!❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎!』
「えーっと……自分のような者が足止めして申し訳ない、自分のことは気にせず行ってください、とのことです」
アドルフを見るとあたふたと動揺しているように見える。
これは、思っていたより脈アリかもしれないな。
内心小躍りするほど喜びながら、表情には出さずにゆっくりと口角を上げる。ヘンリックは自分の魅せ方をよくわかっていた。
「すぐに愛しい貴方のもとに戻るから、心配しないで」
エドガーが翻訳すると、湯気でも出るのではないかと思うくらいアドルフの顔が真っ赤になる。それを見て満足げに微笑んでからエドガーに目配せする。
あと一押し、と心の中で呟きながら。
「……一体どういう状況なんだ?」
上機嫌でユージーンたちの場所へ向かったヘンリックは、想定外の光景を見ることになった。
「なぜ、ユージーンが、ヴァイツ殿下の膝に?」
邪魔をしてはいけないと、ヘンリックは二人からは死角になる場所にきた。そこで目に入ったのは、嬉しそうにユージーンを膝に抱えるヴァイツと、死んだ魚のような目をしてされるがままになっているユージーンだった。
「エドガー、あそこの護衛になにがどうなってこうなったのか、聞いてきてくれるかい?」
ヘンリック同様に目をまん丸にして驚いていたエドガーに小声で頼むと、彼は小さく頷いた。
それにしても奇妙な光景だった。どう見てもユージーンの本意ではないのだろうが、あの癇癪持ちがこの状況に文句の一つも言っていないのだ。
それどころかヴァイツが口元に持ってきたクッキーを無感情に口を開けて受け入れているではないか。ヘンリックは自分は白昼夢でも見ているのかと混乱する。
「ヘンリック殿下、聞いてきました」
戻ってきたエドガーはひそひそとヘンリックの耳元で報告する。
「あれは、罰なのだそうです」
ユージーンはきっとヘンリックをことあるごとに絡んでくる鬱陶しい知り合いくらいにしか考えていないだろうが、ヘンリックはユージーンを殊の外気に入っていた。ユージーンには裏がない。相手の思惑を読み取るために裏の裏まで考えて話すことに慣れてしまったヘンリックにとって、ユージーンのように言葉と真意が一致している者は好ましかった。
「へぇ、ヴァイツ殿下と本当に茶会をしているのか」
自分が去った後のユージーンの様子を報告させてみれば、ヴァイツと茶会の場を設けることになったという。半ば冗談で言ったことを実際にしてしまう素直さはやはり可愛い。
実のところユージーンのその性格もヘンリックの好みであった。捻くれているところはあるし、本人も自分をへそ曲がりだと認識しているようだが、性根は素直なのだ。
ひとつユージーンに嘘をついたとすれば、学生時代のヘンリックはそれなりに本気でユージーンに好意を持っていた。けれど、ユージーンがヘンリックをそういう意味で好きになる望みはあまりに薄かった。それだけでなく、ユージーンを自身の相手にするのにはひとつ大きな問題も。
「ユージーンは……組み敷かれる方だろうからなぁ」
ヘンリックには、自分より大柄な男に組み敷かれたいという性癖があった。しかし、ユージーンはどう見てもそっちじゃない。
ぽそりと呟くと、ヘンリックの通訳を担当しているエドガーが、きょとんと首を傾げる。
「いや、なんでもないよ。ただ、ちょっと心配だからこっそり様子を見に行こうかな。案内してくれる?」
エドガーがもちろんです、と了解したため、ヘンリックは立ち上がる。
すると視界の端で鍛錬に励んでいたアドルフが話しかけてくる。
『❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎?』
「あ、はいえーと……どこにいくんですか?とのことです」
ヘンリックは今日も今日とて鍛錬に励むアドルフを横で見学していた。ここ最近は王子を立たせるわけにはということで椅子とテーブルを用意されるようになったため、優雅に茶を楽しみながらアドルフを眺めていたのだ。
自分のことなど景色の一部としか考えていないだろうと思っていたアドルフに気にかけてもらえてにやけそうになる。
「友人の様子を見にいくんだよ」
エドガーが翻訳して伝えると、アドルフは少し不機嫌そうに眉を顰める。
「もしかして、私が友人を気にかけるのを嫉妬してくれているのかい?」
まるでヘンリックがこの場を離れることを嫌がっているように見えてそう言うと、エドガーは少し迷ったように目を彷徨わせてからアドルフに伝える。ヘンリックには自分の言葉がどこまで正確に伝わっているかわからない。こんなことなら獣人言語も学んでおけばよかったとほぞを噛む。
しかしエドガーからヘンリックの言葉を聞いたアドルフの顔はみるみるうちに赤く染まり、ヘンリックはおや?と片眉を上げる。
『❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎!❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎!』
「えーっと……自分のような者が足止めして申し訳ない、自分のことは気にせず行ってください、とのことです」
アドルフを見るとあたふたと動揺しているように見える。
これは、思っていたより脈アリかもしれないな。
内心小躍りするほど喜びながら、表情には出さずにゆっくりと口角を上げる。ヘンリックは自分の魅せ方をよくわかっていた。
「すぐに愛しい貴方のもとに戻るから、心配しないで」
エドガーが翻訳すると、湯気でも出るのではないかと思うくらいアドルフの顔が真っ赤になる。それを見て満足げに微笑んでからエドガーに目配せする。
あと一押し、と心の中で呟きながら。
「……一体どういう状況なんだ?」
上機嫌でユージーンたちの場所へ向かったヘンリックは、想定外の光景を見ることになった。
「なぜ、ユージーンが、ヴァイツ殿下の膝に?」
邪魔をしてはいけないと、ヘンリックは二人からは死角になる場所にきた。そこで目に入ったのは、嬉しそうにユージーンを膝に抱えるヴァイツと、死んだ魚のような目をしてされるがままになっているユージーンだった。
「エドガー、あそこの護衛になにがどうなってこうなったのか、聞いてきてくれるかい?」
ヘンリック同様に目をまん丸にして驚いていたエドガーに小声で頼むと、彼は小さく頷いた。
それにしても奇妙な光景だった。どう見てもユージーンの本意ではないのだろうが、あの癇癪持ちがこの状況に文句の一つも言っていないのだ。
それどころかヴァイツが口元に持ってきたクッキーを無感情に口を開けて受け入れているではないか。ヘンリックは自分は白昼夢でも見ているのかと混乱する。
「ヘンリック殿下、聞いてきました」
戻ってきたエドガーはひそひそとヘンリックの耳元で報告する。
「あれは、罰なのだそうです」
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