ガチケモナーは猫耳男子を許せない

某千尋

文字の大きさ
36 / 69

36 父の思い

しおりを挟む
 そしてその日はやってきた。

「ユージーン!会いたかった!」

 再会の場は王宮の奥まったところにある貴賓向けの応接室。渋るマリウスを説得して同行したクライスは、ある決意をしていた。
 嬉しそうに顔を綻ばせる猫耳を生やしたガタイのいい男に、ユージーンの隣にいたクライスは僅かに肩を揺らす。

「失礼。貴方様が、ヴァイツ殿下でいらっしゃいますか」

 ユージーンに向かって真っ直ぐ進み、今にも抱きつきそうなヴァイツの動線に割り込み、ヴァイツに冷たい双眸を向ける。慇懃無礼な挨拶と共に。

「私はユージーンの父のクライス・ギュスターブでございます。この度はユージーンが殿下に大層お世話になったとか。ユージーンの父として、感謝申し上げます。殿下の寛大な御采配があってのこととはうかがいますが、尊き御身の前に侍るには未熟者でございます。これよりはふさわしき者にそのお役目を引き継がせていただきたく」

 クライスの申し出にヴァイツは一瞬片眉をぴくりと動かした後、隙のない笑顔を作る。

「まさかユージーンのお父上にお会いできるとは。ユージーンが未熟者などとんでもない。むしろ彼には役不足ではないかと心配しているくらいだ。これからもよろしく頼みたい」

 にこやかに友好的な話し方で、しかしはっきりとクライスの申し出を断るヴァイツの目は、よく見ると全く笑っていない。

「……過分な評価をいただけているようで、ユージーンの父として誇らしく思います。しかしながら!?」

 言葉を続けようとするクライスとの距離を一気に縮めてきたヴァイツは、クライスの手を取り笑みを深めた。

「まさかここで想い人のお父上に挨拶できるとは。私はスターヴァー王国第三王子のヴァイツ・スターヴァー。クライス殿、いや、私の未来の父上。ぜひ親睦を深めたいのだが、いつ時間が取れるだろうか」

「み、未来の父上……!?きさ……い、いや……おそれ多いことでございます殿下。侯爵家といえど、領地に篭ってばかりのしがない貴族でございます。殿下のお時間を頂戴する価値のある話などはできませんから……」

 顔を引き攣らせながらさりげなくヴァイツの手に包まれた自身の手を救い出そうとするクライス。しかしがっちりと掴まれた手は微動だにしない。
 それどころか、ヴァイツはその身を屈ませクライスと目線を合わせながらさらに距離を縮める。

「私は価値のある話を求めているのではなく、未来の父上との交流を求めている。それにしても父上はユージーンとそっくりだな。髪と目の色は異なるが、顔は生写しのようだ」

 うっとりとクライスの顔を眺めるヴァイツに、クライスは背筋を凍らせる。
 もしかして同じ顔なら誰でもいいのかと危機感を覚える。

「……少し、近いのでは?」

 クライスが嫌な汗をかいていると、冷え冷えとした声と共にクライスとヴァイツの手の上に、もう一つ手が載った。手首の先を追うと、不機嫌そうなユージーンの顔に辿り着く。

「まさか、ヴァイツ殿下が、同じ顔なら父上でも良いとは」

 絞り出すような低い声に、ユージーンの怒りが感じられた。それはヴァイツの想いを疑うような言い方で、クライスは目を丸くする。その発言はまるで。

「待て、違うぞユージーン。私は貴方が歳をとったらこうなるんだろうと未来に思いを馳せていただけだ。私を節操のない獣のように扱わないでくれ」

 すぐさま弁解するヴァイツは、しかし嬉しそうで。

「まさか、嫉妬してくれるとはな。大丈夫だユージーン、私の愛は貴方だけのものだ」

 そう言ってクライスの手を離し、今度はユージーンの手を握る。
 握られた手をまじまじと見たユージーンは、みるみるうちに顔を真っ赤に染め上げる。

「しっ……嫉妬など!なにを仰っているのやら!ただ、私の父をそういう目で見ているとしたら軽蔑すると、そういう意味で!」

 二人の痴話喧嘩のようなやり取りを見て、クライスはなにを見させられているのだろう、と身体から力が抜けるのを感じた。
 クライスは、ユージーンが獣人の男と結婚するなど気持ち的には全く受け入れられなかった。けれど、もしユージーンがそれを望むのなら、これまでのユージーンへの己の仕打ちの贖罪として応援しようと考えていた。ヴァイツに会おうと思ったのは、ユージーンの気持ちを自身の目で確かめるためだった。そしてヴァイツのユージーンへの想いも見極めようとしていた。
 ユージーンを利用することは許さない、と。

 しかしなんのことはない、誰がどう見たって想い合っている様子の二人。

 はあ、とため息をつくと、いつの間にか隣に立っていたマリウスが二人には聞こえないくらいの小さな声で囁く。

「私たちは退散しよう」

 マリウスの言葉に従うのは癪であったが、クライスとて同じことを考えていた。
 これ以上、ユージーンが男に顔を赤らめる姿を見るのは辛いし、それを嬉しそうにしている男を見ていると憎しみが生まれそうだった。
 やっと誤解が解けた息子と、やっと親子としての時間が取れると思っていたのに、どうやらその時間は猫耳男に奪われるらしいことに、嫉妬のような気持ちが生まれていた。しかも、ユージーンがスターヴァー王国へ行ってしまえば、きっとクライスはユージーンとは会うことすらままならない。

 愛しいセシリアとの間に生まれたなによりも愛しい存在。けれど、自分のことで精一杯で顧みることができず傷つけてしまった。

 もっと顧みていれば、あの時こうしていれば、など今更後悔したところで遅い。ユージーンの身に起こったことは、なかったことにはできない。だから、ユージーンが幸せになる邪魔だけはしないと心に決めていた。
 クライスにできることは、胸の中で荒れ狂う感情を表に出さず、ユージーンの決めたことを否定しないことだけだった。

 マリウスに促されて静かにその場を去りながら、クライスはもう一度ため息をついた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

宮廷乙女ゲームの元恋人、親友、先輩は聖女の兄を逃さない

猫吉大福
BL
病弱な少年は幸せな生涯に幕を下ろした。 貴族として生まれた少年はヒロインで悪役令嬢の兄として生まれた。 悪事を働き、全ての罪を双子兄に着せて失踪した家族。 ヒロインは聖女としての力を覚醒させて宮廷に守られている。 処刑間近の時、助けてくれたのは懐かしい顔のあの人だった。 宮廷乙女ゲームに悪役転生した少年は、龍王子・聖騎士団長・災厄魔導士から求愛を受ける。 救えなかった人生、今度こそ君を守るよ。 王子・騎士団長・魔導士×悪役運命の少年執事 この世界は月読みによって支配されている。

イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺

スノウマン(ユッキー)
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。  大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?

【完結】スパダリを目指していたらスパダリに食われた話

紫蘇
BL
給湯室で女の子が話していた。 理想の彼氏はスパダリよ! スパダリ、というやつになったらモテるらしいと分かった俺、安田陽向(ヒナタ)は、スパダリになるべく会社でも有名なスパダリ…長船政景(マサカゲ)課長に弟子入りするのであった。 受:安田陽向 天性の人たらしで、誰からも好かれる人間。 社会人になってからは友人と遊ぶことも減り、独り身の寂しさを噛み締めている。 社内システム開発課という変人どもの集まりの中で唯一まともに一般人と会話できる貴重な存在。 ただ、孤独を脱したいからスパダリになろうという思考はやはり変人のそれである。 攻:長船政景 35歳、大人の雰囲気を漂わせる男前。 いわゆるスパダリ、中身は拗らせ変態。 妹の美咲がモデルをしており、交友関係にキラキラしたものが垣間見える。 サブキャラ 長船美咲:27歳、長船政景の年の離れた妹。 抜群のスタイルを生かし、ランウェイで長らく活躍しているモデル。 兄の恋を応援するつもりがまさかこんなことになるとは。 高田寿也:28歳、美咲の彼氏。 そろそろ美咲と結婚したいなと思っているが、義理の兄がコレになるのかと思うと悩ましい。 義理の兄の恋愛事情に巻き込まれ、事件にだけはならないでくれと祈る日々が始まる…。

押しても押してもダメそうなので引くことにします

Riley
BL
俺(凪)には愛して止まない幼馴染(紫苑)がいる。 押しても押してもビクともしない余裕の態度に心が折れた。 引いたらダメだと思っても燃え尽きてしまった…。 ちょっと休憩…。会えないと寂しいけど、引くと言ったからには自分からいけない…

待夜駅と碧翠堂

リリーブルー
BL
幻想耽美。路地裏に小さなお店がありました。待夜駅というショットバーと、碧翠堂という骨董屋。そこには美少年がいて……。時空をこえたラブストーリー。 <U様ご感想>言葉選びが美しく、繊細で、思わず音読したくなります。 朗読して音響つけたら、素敵な世界がもっと膨らみそうな、そんな作品だと思います。視覚からも聴覚からも、 沢山の色と音と香りを楽しむことが出来るそんな作品です。 作品の良さを、言葉で上手く説明できなくてもどかしいです。是非、読んで見て下さい。私の滅茶苦茶好きな作品です。 重複投稿:Fujossy

処理中です...