ガチケモナーは猫耳男子を許せない

某千尋

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44 猫耳王子の帰国(sideヴァイツ)

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 スターヴァー王国へ戻ったヴァイツは、急ぎ王城へ戻って執務に精を出していた。強引にグラディア王国へ押しかけていたヴァイツの仕事はそれなりに溜まっていたのだ。
 ユージーンとの婚姻の話を進めるためにもさっさと仕事を処理しようと机に向かうヴァイツに、上から声がかけられた。

『張り切っているな』

『ギルベルト兄上……』

 執務室に入ってきたのは二番目の兄、スターヴァー王国の第二王子だった。
 母から豹の性質を受け継いだギルベルトは、筋肉量こそヴァイツに劣るものの、すらりとしなやかな長身の持ち主である。

『人間との和平協定。それが結ばれれば、お前も想い人と結婚ができるものな』

『わかっているなら、執務の邪魔をしないでいただきたい』

 ギルベルトに向けていた視線を書類に戻したヴァイツは、止まっていた手を動かす。

『なぁ、本当に人間と結婚するのか?確かにお前は小柄だが、その強さは皆が認めている。獣人の中でだって、いくらでも相手はいるだろう』

『私はユージーンに心底惚れ込んでいるのです。なんですか?ギルベルト兄上は私の結婚に反対なのですか?』

『違う、そうじゃない。だが、どこの誰とも知らぬ者とお前を結婚させるのが兄は不安なんだ』

『ユージーンは侯爵家の嫡男だ。有象無象なんかじゃない』

『そういうことじゃない。それに、ずいぶん年上だと聞いた』

『だから?私が彼に惚れて、口説き落としたんです。ギルベルト兄上だって、義姉上のことは特別でしょう。それと同じです』

 ヴァイツが睨むと、ギルベルトはぐっと唇を噛む。

『わかっている。わかっているが……弟を心配してはいけないのか』

『ブラコンも大概にしてください。私が選んだ人です。人間だとか年上だとか、そんなのどうでもいいでしょう。……邪魔したら嫌いになりますよ』

『そんなつもりはない!だが!せめて、どんな人物なのか教えてくれたっていいじゃないか!全然教えてくれないんだから!』

『なんか減る気がするから嫌です』

 執務の邪魔だから出ていってください、とすげなく対応すると、不満そうな顔をしながらもギルベルトは出ていく。

『……まったく、毎日毎日何人も!』

 ヴァイツが王城に戻ってから、周りは毎日こんな調子だった。
 長兄やすぐ下の弟、父母さえも様子を見にくる日々。以前ユージーンが滞在していた際の護衛たちから話を聞いてはいるようだが、これまで色恋とは無縁だった身内の初めての恋に好奇心を抑えられないらしい。

『反対されてないのはいいが』

 ギルベルトと同様、人間との婚姻に不安を感じてはいるようだったが、殊更に反対するつもりはないらしかった。ユージーンを磨き上げた者たちからの妖精のように美しいとの評に、不安2割に期待8割といった様子だった。

 ため息をついていると、誰かの来訪を告げるノックの音がなる。

『またか。……入れ』

 再び身内の詮索かと幾分不機嫌な声で応えをしたが、ひょこりと顔を出したのは幼い弟だった。

『どうしたの兄様?機嫌悪いね。もうすぐユージーンを受け入れられるのに』

『シュタインか。それはそうなんだが……あまりに皆ユージーンに興味を持ち過ぎていないか?彼がきたら皆が群がりそうで、考えるだけで腹が立つ』

『そりゃあこれまで浮いた話の一つもなかった兄様に春が来て、しかもその相手が人間だっていうんだもの。注目は仕方ないよ』

『……ただ注目されるだけならいいが、面倒な動きもあるんだ』

 きょとりと首を傾げたシュタインに苦笑いを向けたヴァイツは、隣まで来ていたシュタインの頭を撫でる。

『ユージーンは腕っ節が弱いからな……心配は尽きない』

 ヴァイツは小柄ながら強靭な肉体を持ち、その精悍な顔も相まってそれなりにモテていた。しかし、彼は己を慕う者全てを袖にして、恋人さえ作ってこなかった。そんな彼についにパートナーができたようだという情報は周囲に衝撃を与えた。
 まだ発表前だというのに、兄弟や親がやっとうちのヴァイツにも……などと言うものだからあっという間に広まってしまったのだ。

 よかったね、と応援してくれる分にはいい。けれど、中には熱烈にヴァイツに思いを寄せていた者もいたようで、不穏な噂が耳に入っている。

 生半可な奴なら許さない、ふさわしいか見極めてやろうといきり立っている奴らがいると。

 獣人たちはそういう時、拳で語り合うことが多い。しかし、人間であって騎士でもないユージーンに、獣人と力で張り合うなどどう考えても不可能である。もちろん、ユージーンを傷つけさせるつもりはないが、四六時中傍にいることはさすがにできない。だから、ヴァイツと同程度実力があってユージーンを守れる護衛を選ぼうとしているのだが、誰を選んでも彼に手を出すのではと疑ってしまって選出が一向に進まない。

『あの妖精のようなユージーンを見て、力で勝負しようとはしないんじゃないかなぁ』

 そんなヴァイツの懸念をシュタインも理解していたらしい。彼は、第五王子といえど、父の獅子の性質を受け継いだ唯一の子。次代の王であることがほぼ決まっており、幼いながら徹底的な王太子教育が施されている。だからこそ、息抜きと称してグラディア王国まで勝手についてきたのには驚かされた。

『万が一があるだろう。ユージーンが損なわれることがあれば、私は私を許せない』

『ならちゃんと護衛選ばなきゃだね。この前ユージーンがきた時につけた護衛じゃダメなの?』

 シュタインは机の端にあった護衛候補者のリストを見て眉を顰める。実力はあるが、癖の強い者ばかりだった。

『つけるなら大柄な肉食獣人の方がいいだろう。この前は騎士の中でも比較的穏やかで親しみやすい奴らを選んだから、血気盛んなあいつらを退けるには力が……だが、こいつらだとユージーンを気に入って私から奪おうとしてくるんじゃないかと……』

 力が強い獣人ほど、か弱い存在に惹かれる傾向がある。習性の理解があるからと同族を選ぶ者が多い中、栗鼠や兎の獣人を伴侶に据える者も少なくない。リストの中の者たちはヴァイツもよく知っているが、どうにもユージーンをそういう意味で気にいる気がしてならなかった。

『うーん、そもそもユージーンからするとみんなでかすぎて怖いんじゃないかなぁ。兄様とだって結構な差があるっていうのに、ほら、彼なんてユージーンからしたら巨人だよ?』

 リストの中で最も大柄な者を指差してシュタインが眉を下げる。

『……だが、あいつが騒いでる』

『もしかして……』

『そうだ。あいつを退けられる力を持つのはこいつらだけだ』

 項垂れたヴァイツに、シュタインは憐れみの目を向ける。

『ユージーンがきたら、ひと騒動起きそうだね』

『はぁ……頭が痛い』

 愛しい人に早く会って蜜月を迎えたいが、どうにもすんなりとはいかなさそうだ。
 もちろん、それとは別に人間との関わりを再開することに対する抵抗もあるだろうから、そちらの対処も必要になる。
 考えれば考えるほど増える懸念事項に、ヴァイツは再びため息をついた。

 ユージーンをスターヴァー王国へ迎えるまで、あと少し。
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