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61 目的はわからなかった
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全員の視線を一身に受け、ユージーンはビクリと肩を揺らした。
『ユージーンが一人でいるときに食べたとて、手を出すことができないからじゃないか?』
当然、という顔でヴァイツは言うが、果たしてそうだろうか。
『常に私のそばにヴァイツがいるわけじゃない。第三者のいる場であのような状態になれば十分醜聞になるのでは?それこそ、果物本体の方が効果が強いとすれば、私はもっと酷い状態になっていたかもしれない。さらに、タイミングによっては原因がスタルミナだとすら気付けないかもしれない。その方が、彼にとってはいいのでは?』
『あいつは性根が腐ってるからな。ユージーンがあの状態になるのを直接見たかったのかもしれない。それに、その方法では確実ではない』
ヴァイツはふんっと鼻を鳴らす。
そう言われればそうなのだが、どうにも迂遠な気がしてならない。わざわざ警戒していると分かりきっている夜会で事を起こす必要はあったのか。醜聞を撒き散らすためというなら、大勢がいる会場内で失態を起こさせた方がよい。
もちろん、事を起こした後に大事にするつもりだったのかもしれないが、あの口ぶりでは実際にユージーンと行為に及ぶつもりだったとしか思えず、それでは彼にとっても王子の婚約者に手を出したという醜聞が生じてしまう。
ユージーンを貶めるならば、それこそ適当な暴漢役に襲わせたほうが良い。けれど、彼が連れ出してそんなことが起これば、彼自身の失態ともなり得る。
後先考えない馬鹿ならばまだしも、有能であるというキュラスがそんな杜撰な計画を立てるのは違和感しかない。
『……本当に私を陥れるつもりだったんだろうか』
『どういうことだ?』
『私はこれまでエスターニャ卿のすることを嫌がらせだと思っていたんだが……本当にそうなのだろうかと』
『熊の頭の剥製を送ることが嫌がらせじゃなければなんなんだ?』
『しかし……ああいうものをインテリアとして好む人間は確かに存在する。人を選ぶ物ばかり贈られたが、幸い贈り主は誰もが人間である私に好意的な者ばかりだったから、丁重に好まない旨を伝えればそれで済んだ。だが、今後はどうだ?』
『今後?』
『それこそ、人間に悪意を持った者が同じようにゲテモノを贈ってきて、それを私が好まなかったときに悪く言う者も出てくるのではないか?』
『その程度で』
『いや、人の悪意は小さなことから次第に広がって大きくなるものだ。そもそも人間の印象は悪いし、私にはその評価を覆すだけのなにかをこの国に貢献できる能力がない』
ユージーンは知っている。悪意はほんのちょっとでいいのだ。静謐な湖でも、たった一雫の水を落とすだけで波紋は広く広がる。その雫が、複数垂らされれば、大きな波になることだってある。
『情報は、元の形をどんどん変えて広がっていく。いくら王子の婚約者といっても、人間の私のことを悪く言うことに抵抗はないだろうし、私の話題はいい話の種だろう。あっという間に、若い王子をたぶらかした悪辣な人間という像が出来上がる』
いくらヴァイツ達が否定してくれたとしても、そのイメージが民衆に広まってしまえばどうしようもない。
正直、ユージーンは国民に好かれようとまでは考えていない。グラディア王国でも獣人がすぐに受け入れられることはないだろうし、それはお互い様だ。ただ、少しずつ人間と獣人の交流がうまくいってほしいとは願っているし、そのきっかけになれればよいと考えている。
ユージーンは自身をずっと孤独だと思っていたが、実際は多くの縁と繋がっていた。そのことを認識してからは、自分のためだけに行動する、ということは難しくなった。これまで自分勝手に生きてきた分、なおのこと。
自分ことだけを考えるなら、ユージーンはヴァイツと共にいられればそれで満足なのだ。けれど、今はそうはいかない。獣人の人間への偏見を少しでも和らげることがユージーンのなすべきことで、望んでいることだ。
その観点で考えると、エスターニャ卿の行動はユージーンにとってマイナスにはならなかった。
『人間の国のゲテモノに関しては、他にはそうないでしょう。きっと、好意的な方々が、私の苦手な物の話を広めてくれる。そうであれば、それを私に贈ってくることこそ、嫌がらせとなる。そして、私は二度とスタルミナを口にすることはない。それどころか、見たことのない食材については一層注意を払うことになる』
それは、今後ユージーンがこの国で生きていくための助けにすらなることではないか。
『……敢えてユージーンのためにやったことだと?それはキュラスを知らなさすぎる。結果がキュラスにとって裏目に出ただけだろう』
ヴァイツはそれはないとばかりに首を振る。対して、ギルベルトはいや、とヴァイツの意見を否定した。
『キュラスは、分かりづらいが愛国心は強い。グラディア王国との国交回復について手厳しい意見を言うことも多いが、立場としては賛成なんだ。意外と、あるかもしれん』
『いや、ユージーンは襲われるところだったんだぞ?』
『キュラスだぞ?どちらに転んでも良いと思っていたんじゃないか?あいつはそんな単純なやつじゃない』
納得するように頷くギルベルトに、不満げなヴァイツ。
『ヴァイツのことも、気に入っているのは本当だろうが、今はもうどうこうなろうとは思ってないはずだ』
『ユージーンと婚約したからか?』
『いや、この前話したときに、国交回復がうまくいったら人間から伴侶を得ようか、と言っていたんだ』
『はあ?』
それはつまり、人間に関心があるということか。
しかし、だとすると話は変わってくる。
『……私は、実験台だったのでは?』
己が人間にアプローチする際にプレゼントで失敗しないように。媚薬はその効き具合をみるために。
沈黙が部屋に満ちる。ヴァイツもギルベルトも、あいつならあり得る、という目をしている。ルーカスだけが不安そうに皆の顔色をうかがっている。
『……考えてもわからないな。今回、キュラスが効能を知った上でスタルミナをユージーンに飲ませたと断ずる証拠はきっと出ないだろう。贈り物の件も、すべて憶測だ。一応、スタルミナの件は確認しておくが、期待はしないでくれ』
キュラスの目的は結局わからない。そもそも、目的はひとつではないのかもしれない。場合によってはユージーンを排除することも織り込み済みで、試していたのかもしれない。
『いずれにせよ、もう関わりたくない』
『そうだな、同意だ』
そんな話をした翌日、再び会うことになるとは、ユージーンは思ってもいなかった。
スタルミナの件を伝えたら、是非謝罪させてほしいと申し出があって。
という話が届いたのは、すっかり回復して午後のティータイムを楽しんでいた頃。既にキュラスはこちらに向かっているという。
『いや、図々しいな』
まだ返事もしていないのに向かっているとは、礼を失しているのではないか。
『断ればこないでしょうが、許可するまで多分毎日先触れがきますよ』
あいつしつこいんで、とはエーミール。
あの短い時間の接触しかしていないのに、妙に納得感があるのはなぜだろうか。ユージーンは大きなため息をついてから、訪を了承した。
どうせいつか会わなければならないなら、嫌なことはさっさと終わらせたかった。
『ユージーン様、この度は我が領の果物で大変なご迷惑をおかけしたとのことで、誠に申し訳ありません』
訪れたキュラスは、相変わらず好青年としか見えないさわやかな出立ちで挨拶をし、すぐに丁寧な謝罪をした。
『いや、スタルミナで人間がそうなることは知らなかったのでしょう?』
当然、こんなことでボロを出すことはない。困ったように眉を下げたキュラスは、はい、と頷く。そこに動揺はまったく見て取れない。
『とはいえ、知らぬからよいということではございません。なにか謝罪の品を後日あらためてお贈りします』
『エスターニャ卿には、これまで多くの心遣いをもらっています。それで十分です』
『そういうわけにも。迷惑をかけて言葉での謝罪のみなど、私の気が済みません。もちろん、物でなくともなにかお困りのことがあれば私がどうにかしてみせましょう』
否を許さぬ圧のある笑みでずい、と顔を寄せてくるキュラス。
謝罪を受けているはずなのに、なぜユージーンが気圧されなければならないのか。苛立ちはあるが、どうにも敵には回したくない、と本能的に感じたユージーンは努めて緩やかに笑みを浮かべて応戦する。
『それでは、なにかあったときにひとつお願いを聞いてもらうことにしましょう。もちろん、無茶なことは言いませんので、ご安心を』
『無茶な要望も、ユージーン様のためなら叶えてしまいたくなりそうです』
『私を悪女にでもするつもりですか?ああ、こんなおじさんにさすがにそれはありませんか』
おじさんなど……と一切笑みを崩すことなく応じるキュラス。
ああもう面倒臭い、とユージーンは己の仮面が崩れそうになるのを我慢する。きっと、頬は引き攣っている。
『……そういえば、エスターニャ卿は人間に興味がおありだとか』
『さすがお耳が早い。ユージーン様のような方々ばかりならば、是非お近づきになりたいものです』
『ならば、文化の違いですれ違わないように、人間の好みを知りたいでしょう。もしかしたら、食文化も違うかもしれませんしね』
『そうですね。此度のスタルミナのような事態は起こらないように注意しなければなりませんね』
やはり、一欠片の動揺もない。
ユージーンは悟られないよう小さくため息をつく。短い期間に貴族の嗜みを叩き込まれはしたが、所詮は付け焼き刃。有能と評価されるキュラスに敵うわけもない。裏を読むこともその余裕そうな表情を崩すこともできそうにない。
『では、あまり長くお邪魔しますと、ヴァイツ殿下に嫉妬されてしまいますので』
去り際すらもスマートで、ユージーンはその背が過ぎ去るのを確認してから姿勢を崩した。マナー講師が見たら悲鳴をあげるだろうが、幸い今はエーミールがいるのみ。たまには力を抜かないとやっていられない。
『あいつ、苦手だ』
ポツリと呟くと、隣で頷く気配がした。
どっと疲れを感じたが、なぜかキュラスがユージーンに今後なにかを仕掛けることはない、と根拠のない確信だけがあった。
『ユージーンが一人でいるときに食べたとて、手を出すことができないからじゃないか?』
当然、という顔でヴァイツは言うが、果たしてそうだろうか。
『常に私のそばにヴァイツがいるわけじゃない。第三者のいる場であのような状態になれば十分醜聞になるのでは?それこそ、果物本体の方が効果が強いとすれば、私はもっと酷い状態になっていたかもしれない。さらに、タイミングによっては原因がスタルミナだとすら気付けないかもしれない。その方が、彼にとってはいいのでは?』
『あいつは性根が腐ってるからな。ユージーンがあの状態になるのを直接見たかったのかもしれない。それに、その方法では確実ではない』
ヴァイツはふんっと鼻を鳴らす。
そう言われればそうなのだが、どうにも迂遠な気がしてならない。わざわざ警戒していると分かりきっている夜会で事を起こす必要はあったのか。醜聞を撒き散らすためというなら、大勢がいる会場内で失態を起こさせた方がよい。
もちろん、事を起こした後に大事にするつもりだったのかもしれないが、あの口ぶりでは実際にユージーンと行為に及ぶつもりだったとしか思えず、それでは彼にとっても王子の婚約者に手を出したという醜聞が生じてしまう。
ユージーンを貶めるならば、それこそ適当な暴漢役に襲わせたほうが良い。けれど、彼が連れ出してそんなことが起これば、彼自身の失態ともなり得る。
後先考えない馬鹿ならばまだしも、有能であるというキュラスがそんな杜撰な計画を立てるのは違和感しかない。
『……本当に私を陥れるつもりだったんだろうか』
『どういうことだ?』
『私はこれまでエスターニャ卿のすることを嫌がらせだと思っていたんだが……本当にそうなのだろうかと』
『熊の頭の剥製を送ることが嫌がらせじゃなければなんなんだ?』
『しかし……ああいうものをインテリアとして好む人間は確かに存在する。人を選ぶ物ばかり贈られたが、幸い贈り主は誰もが人間である私に好意的な者ばかりだったから、丁重に好まない旨を伝えればそれで済んだ。だが、今後はどうだ?』
『今後?』
『それこそ、人間に悪意を持った者が同じようにゲテモノを贈ってきて、それを私が好まなかったときに悪く言う者も出てくるのではないか?』
『その程度で』
『いや、人の悪意は小さなことから次第に広がって大きくなるものだ。そもそも人間の印象は悪いし、私にはその評価を覆すだけのなにかをこの国に貢献できる能力がない』
ユージーンは知っている。悪意はほんのちょっとでいいのだ。静謐な湖でも、たった一雫の水を落とすだけで波紋は広く広がる。その雫が、複数垂らされれば、大きな波になることだってある。
『情報は、元の形をどんどん変えて広がっていく。いくら王子の婚約者といっても、人間の私のことを悪く言うことに抵抗はないだろうし、私の話題はいい話の種だろう。あっという間に、若い王子をたぶらかした悪辣な人間という像が出来上がる』
いくらヴァイツ達が否定してくれたとしても、そのイメージが民衆に広まってしまえばどうしようもない。
正直、ユージーンは国民に好かれようとまでは考えていない。グラディア王国でも獣人がすぐに受け入れられることはないだろうし、それはお互い様だ。ただ、少しずつ人間と獣人の交流がうまくいってほしいとは願っているし、そのきっかけになれればよいと考えている。
ユージーンは自身をずっと孤独だと思っていたが、実際は多くの縁と繋がっていた。そのことを認識してからは、自分のためだけに行動する、ということは難しくなった。これまで自分勝手に生きてきた分、なおのこと。
自分ことだけを考えるなら、ユージーンはヴァイツと共にいられればそれで満足なのだ。けれど、今はそうはいかない。獣人の人間への偏見を少しでも和らげることがユージーンのなすべきことで、望んでいることだ。
その観点で考えると、エスターニャ卿の行動はユージーンにとってマイナスにはならなかった。
『人間の国のゲテモノに関しては、他にはそうないでしょう。きっと、好意的な方々が、私の苦手な物の話を広めてくれる。そうであれば、それを私に贈ってくることこそ、嫌がらせとなる。そして、私は二度とスタルミナを口にすることはない。それどころか、見たことのない食材については一層注意を払うことになる』
それは、今後ユージーンがこの国で生きていくための助けにすらなることではないか。
『……敢えてユージーンのためにやったことだと?それはキュラスを知らなさすぎる。結果がキュラスにとって裏目に出ただけだろう』
ヴァイツはそれはないとばかりに首を振る。対して、ギルベルトはいや、とヴァイツの意見を否定した。
『キュラスは、分かりづらいが愛国心は強い。グラディア王国との国交回復について手厳しい意見を言うことも多いが、立場としては賛成なんだ。意外と、あるかもしれん』
『いや、ユージーンは襲われるところだったんだぞ?』
『キュラスだぞ?どちらに転んでも良いと思っていたんじゃないか?あいつはそんな単純なやつじゃない』
納得するように頷くギルベルトに、不満げなヴァイツ。
『ヴァイツのことも、気に入っているのは本当だろうが、今はもうどうこうなろうとは思ってないはずだ』
『ユージーンと婚約したからか?』
『いや、この前話したときに、国交回復がうまくいったら人間から伴侶を得ようか、と言っていたんだ』
『はあ?』
それはつまり、人間に関心があるということか。
しかし、だとすると話は変わってくる。
『……私は、実験台だったのでは?』
己が人間にアプローチする際にプレゼントで失敗しないように。媚薬はその効き具合をみるために。
沈黙が部屋に満ちる。ヴァイツもギルベルトも、あいつならあり得る、という目をしている。ルーカスだけが不安そうに皆の顔色をうかがっている。
『……考えてもわからないな。今回、キュラスが効能を知った上でスタルミナをユージーンに飲ませたと断ずる証拠はきっと出ないだろう。贈り物の件も、すべて憶測だ。一応、スタルミナの件は確認しておくが、期待はしないでくれ』
キュラスの目的は結局わからない。そもそも、目的はひとつではないのかもしれない。場合によってはユージーンを排除することも織り込み済みで、試していたのかもしれない。
『いずれにせよ、もう関わりたくない』
『そうだな、同意だ』
そんな話をした翌日、再び会うことになるとは、ユージーンは思ってもいなかった。
スタルミナの件を伝えたら、是非謝罪させてほしいと申し出があって。
という話が届いたのは、すっかり回復して午後のティータイムを楽しんでいた頃。既にキュラスはこちらに向かっているという。
『いや、図々しいな』
まだ返事もしていないのに向かっているとは、礼を失しているのではないか。
『断ればこないでしょうが、許可するまで多分毎日先触れがきますよ』
あいつしつこいんで、とはエーミール。
あの短い時間の接触しかしていないのに、妙に納得感があるのはなぜだろうか。ユージーンは大きなため息をついてから、訪を了承した。
どうせいつか会わなければならないなら、嫌なことはさっさと終わらせたかった。
『ユージーン様、この度は我が領の果物で大変なご迷惑をおかけしたとのことで、誠に申し訳ありません』
訪れたキュラスは、相変わらず好青年としか見えないさわやかな出立ちで挨拶をし、すぐに丁寧な謝罪をした。
『いや、スタルミナで人間がそうなることは知らなかったのでしょう?』
当然、こんなことでボロを出すことはない。困ったように眉を下げたキュラスは、はい、と頷く。そこに動揺はまったく見て取れない。
『とはいえ、知らぬからよいということではございません。なにか謝罪の品を後日あらためてお贈りします』
『エスターニャ卿には、これまで多くの心遣いをもらっています。それで十分です』
『そういうわけにも。迷惑をかけて言葉での謝罪のみなど、私の気が済みません。もちろん、物でなくともなにかお困りのことがあれば私がどうにかしてみせましょう』
否を許さぬ圧のある笑みでずい、と顔を寄せてくるキュラス。
謝罪を受けているはずなのに、なぜユージーンが気圧されなければならないのか。苛立ちはあるが、どうにも敵には回したくない、と本能的に感じたユージーンは努めて緩やかに笑みを浮かべて応戦する。
『それでは、なにかあったときにひとつお願いを聞いてもらうことにしましょう。もちろん、無茶なことは言いませんので、ご安心を』
『無茶な要望も、ユージーン様のためなら叶えてしまいたくなりそうです』
『私を悪女にでもするつもりですか?ああ、こんなおじさんにさすがにそれはありませんか』
おじさんなど……と一切笑みを崩すことなく応じるキュラス。
ああもう面倒臭い、とユージーンは己の仮面が崩れそうになるのを我慢する。きっと、頬は引き攣っている。
『……そういえば、エスターニャ卿は人間に興味がおありだとか』
『さすがお耳が早い。ユージーン様のような方々ばかりならば、是非お近づきになりたいものです』
『ならば、文化の違いですれ違わないように、人間の好みを知りたいでしょう。もしかしたら、食文化も違うかもしれませんしね』
『そうですね。此度のスタルミナのような事態は起こらないように注意しなければなりませんね』
やはり、一欠片の動揺もない。
ユージーンは悟られないよう小さくため息をつく。短い期間に貴族の嗜みを叩き込まれはしたが、所詮は付け焼き刃。有能と評価されるキュラスに敵うわけもない。裏を読むこともその余裕そうな表情を崩すこともできそうにない。
『では、あまり長くお邪魔しますと、ヴァイツ殿下に嫉妬されてしまいますので』
去り際すらもスマートで、ユージーンはその背が過ぎ去るのを確認してから姿勢を崩した。マナー講師が見たら悲鳴をあげるだろうが、幸い今はエーミールがいるのみ。たまには力を抜かないとやっていられない。
『あいつ、苦手だ』
ポツリと呟くと、隣で頷く気配がした。
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