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13. 青き国、赤き日

影を割いた希望の使者

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 レステンクール国王 フレデリック・オーガン・ロベッソン 崩御




 国王の突然の訃報に、城内には混乱が巻き起こった。

 さらに、ある噂が広がっていた。



 〝国王は他殺された〟


 〝犯人は側室のリシャールだ〟


 〝シャンパーニで休暇を取っていたのは、殺害を計画するためであった〟




 これを一大事件として、仕切っていたのは正室のエルビラ。彼女がリシャールの運命を握っていた。




「…リア、どないしたらええねん」

「あかん……落ち着け、落ち着け……」

 あの後、リアは休んでいたカミーユを起こして、見たことを全て伝えた。
 勿論、すぐ受け入れられる訳が無かった。

 リアとカミーユは、捕らえられてしまったリシャールを助けるために、自分たちがどうすべきが悩んでいた。


「リア、ほんまに、陛下は殺されたんか?」
「うん。大雀蜂で間違いないはずや。」

「じゃあなんで!?リシャール様が!?」
「……エルビラ王妃が、リシャール様に擦り付けようとしてるんか??」
「なんでやねん!」

「分からん。分からんけど。」

「大雀蜂の存在、知ってたんとちゃう?」
「分からん!知らん振りしとるだけなんか」
「……」

 あの夜、ひとりで休んでいたカミーユ。
 そして、セドリックと共にいたリア。

 丁度、二人がリシャールから離れてしまったときに起きてしまった事件。

「…証明も、なんもできん」

 二人はずっと後悔していた。
 あのとき、リシャールをひとりにしていなければ。

「…少なくとも、ヴァーノンは味方で居てくれる。」

 ヴァーノン。
 あのとき、リシャールを捕らえた衛兵。リアとカミーユとは昔ながらの知り合いで、リシャールのことも気にかけていた雄の働き蜂。

 あの後、ヴァーノンはリアに起きたことを伝えてくれた。

『深夜に陛下の部屋に訪れたエルビラ王妃が、陛下の遺体を見つけて、傍には血塗れになってたリシャール妃がおった。すぐに俺らを呼んで、リシャール妃を捕らえるように命令した。』

『陛下は何者かに殺された、他殺で間違いない。遺体はズタズタにされとった。部屋も荒れとったから、陛下も抵抗はしたはずや。傷口は黒変。毒の存在が考えられる。凶器も見つかっとる。多分、あの窓から入った。』

『陛下の遺体はそこにあったが、その周りにおった衛兵は皆行方不明。ちぎれた羽の破片が、外に散らばってた。どう考えても大雀蜂の仕業やろ。…子供たちが誰ひとり攫われなかったのは不幸中の幸いやな。』

『エルビラ王妃は、リシャール妃が犯人や思うてるんか知らんけど。証拠も、どういじられるか分からんぞ。それに、お前らが何かすればすぐ首切られるぞ。下手に動くな。』

 そして、見つかった証拠を丁寧にリスト化して残してくれた。


 二人はそのメモを見ながら話した。

「……リア、私たち、どないすればええ?」

「リシャール様がやってないっていう証拠を守るのが、今の役目なんちゃう?」
「…せやけど…」

 すると、ヴァーノンが息を切らしながらやって来た。


「おい!」

「な、なんや?なんか進展は?」

「早く支度しろ」
「えっ?」

 彼の手には、黒いローブがあった。

「これ着て逃げろ。」
「な、なんで?」

「エルビラ王妃が動き出した。お前ら、標的にされてるぞ」
「えっ?なんで?」

「証拠隠滅する気や。」

「……えっ、ちょっと待ってや!!うちらなんも証拠持っとらんで!?」
「リシャール妃側の奴らは、もう要らん魂胆や。ええから、はよ着て。」
「リシャール様を見殺しには出来ひん!」

「…俺を信じろ!」

「……」
「牢屋でリシャール妃と話した。」
「えっ?何て言っとった?!」

「自分の身を守れ、逃げてくれ。…だそうだ。」
「……リシャール様…、約束したのに……」


「せやかて、わざわざローブを選んだのは何故やろうか???」

 ヴァーノンは、二人に合図するように眉を上げた。


「……リア、行くしかないよ」
「せやな…」

「気を付けろよ。」
「おおきに、ヴァーノン。」
「おうよ」


 リアとカミーユは、すぐに黒のローブを着てペリシエへと飛び立った。


「もうあかん!羽取れそうや!」

「急がなあかんねん!うちらがアンドレ様に伝えな、どないすんねん!!!」
「分かっとる!」

 二人は最大限に羽を羽ばたかせて、ペリシエと急いだ。海側に位置するレステンクール城と、内陸側にあるペリシエ城とは、それなりの距離があった。


「……はぇっ、」

 息を切らしながら、ようやく到着できた。


「誰だ?」

「レステンクール国王の第三側室、リシャール妃の側近です!!アンドレ国王に会わせてください!!」

「?」

 ペリシエ城の衛兵は、リアとカミーユを単体で知るはずがない。

「…許可証や、招待状がない限り、それは出来ない。」

「あかん!アンドレ様ぁぁっ!!!」
「気付けーーっ!!!!」

 二人は力技で乗り切ろうと、声を上げて暴れた。

「おい!暴れるな!」
「離せーーーーっ!!!!」


「…一体、何事ですか?」


「…エリソンドさん、青蜜蜂の変質者です。」
「なんですって?」

 腰を曲げて杖を着いて歩くエリソンド。


「アンドレ様に会わせろやー!」
「あんたの姫が!!危険なんやでー!!!」


「……」

 エリソンドは眼鏡をくいと上げた。


「お嬢さん、」

「……?」

「…もしや」

「…リシャール様が!」

「……」

 エリソンドはリシャールの名前が出てきた途端に、はっとして目を見開いた。


「皆さん、彼女たちを離してあげてなさい。陛下の元へ。」


「あ、ありがとうございます……!!!」
 二人は泣きそうになりながら、エリソンドに感謝した。


 エリソンドは、リアとカミーユをアンドレの元へ案内した。

「……リシャール様に何かあったのですか?」

「…はい。」

「命に危険は?」

「場合によっては……!!」

「おっと…。そうですか、一大事ですね。」

「あの…、貴方は…?」

「…アンドレ様の側近です。エリソンドと申します。もうこんな爺さんになってしまいましたから、身の回りのことしか出来ませんがね。ははっ……」

「リシャール様のこともご存知で?」

「えぇ。まだシャンパーニの貴族であった頃から、存じ上げておりましたよ。」

「……それって…」

 エリソンドは、アンドレとリシャールが結婚できるように応援していた側近のひとり。
 当時からずっと、彼らを見守っていた張本人。


「……アンドレ様、失礼いたします」

「ん?」

 アンドレは部屋で公務に勤しんでいた。

「……君らは…!」

 リアとカミーユを見るやいなや、すぐに立ち上がり、部屋の扉を閉めた。


「どうした、何があったんだ」


「…それが…」
「……?」



「フレデリック国王が、崩御されました」



「……」

 突然の、親友の訃報であった。


「……大雀蜂の仕業か…!?な、何故フレデリックが」

「アンドレ国王!」

「……?」

「あの、落ち着いて聞いてください。」


 アンドレは椅子にへたりと座り込んだ。


「陛下は、大雀蜂に殺されたんです。」

「……」

「しかし、今、陛下を殺害した容疑で捕まっているのが、リシャール様なんです。」

「…!?」

 アンドレとエリソンドの顔は引き攣った。

「前から大雀蜂の存在は、フレデリックが示唆していたはずだろ」

「分からないんです。今、事件の行方はエルビラ王妃が握っているんです。」
「……エルビラ王妃が、リシャールに罪を被せようと??」
「…何故かは、分かりませんが。」

「………」

「証拠を消される前に、これを。現場に居合わせた衛兵が残してくれました。」

 リアが出したのは、ヴァーノンがくれた現場のメモ。アンドレとエリソンドは共にそれを覗き込んだ。


「……開いていた窓、死体はズタズタ、闘った形跡あり…」
「細く長い剣、傷口は黒変と異臭……」
「…大雀蜂で間違いはなさそうだな」

 二人がそれを読んでも、大雀蜂の仕業であると理解できた。

「…しかし、これをリシャール様に擦り付けるとは…、中々難しいことでは?」
「あぁ。あんな華奢な身体で、青蜜蜂のフレデリックと闘って、ズタズタにできるか?それに、凶器の剣は大きかったと書いてある。そんなこと出来るはずがない…。」
「これを…遺体の第一発見者であろうリシャール様に。もし証拠隠滅されれば、こちらとしてもどうすることも。」



「「ごめんなさい!!」」

 リアとカミーユは、咄嗟にアンドレに頭を下げた。


「何故、君たちが謝らなければならない?」

「私たち、リシャール様をひとりに…」

「?」

「あのとき、リシャール様をひとりで陛下の元へ行かせてしまいました。」
「……」

「もし、それが無ければ、犯人扱いされることも無かったのに……!!!」

 二人は罪悪感と共に涙が溢れ出した。
 それを見たエリソンドは、ハンカチを差し出した。

「お嬢さん方、泣かないでください。」
「ごめんなさい、ほんまに、ごめんなさい。守るって約束したのに……」

「…もう大丈夫ですよ、リシャール様の味方は沢山居ます。勿論、陛下も味方ですからね。ね?陛下」
「あぁ。必ず、リシャールは俺が助ける。」

 アンドレは微笑んで、頷いた。

「……おおきに……おおきに……」

 二人は泣きながらアンドレに頭を下げた。

「しかし、エルビラ王妃の行動が読めないな」
「そうですね、リシャール様に罪を着せる動機も分かりませんから。」
「…二人とも、何か心当たりは無いか?」


「…えっと…、リシャール様は陛下に大変ご寵愛されておりましたから、嫉妬からか分かりませんが、冷たくされることもありました。」

「嫉妬だけで…。だとしたら理不尽すぎるな」

「…アンドレ様、雌の嫉妬心は侮れませんよ。」

「………」

 アンドレはエリソンドの言葉を聞いて、目を逸らした。


「二人はこれからどうするつもりだ?」

「えっと……」
「私たち、王妃から狙われていて、もしかしたら消されるかもしれへんって…その衛兵の彼が。」

「そうか…、リシャールの味方を片っ端から消すつもりか」
「…これからレステンクールに帰るのも、大変危険ですね」


「…このメモを残してくれた衛兵は?」

「名前はヴァーノンです。今は、事件の捜査に関与しています。」

「ヴァーノン…、分かった。彼を探せば、協力してくれるだろうか」
「はい!ヴァーノンなら、協力してくれます。」
「そうか。分かった。」

 アンドレは親友の訃報を受け入れられないのに、そこにリシャールが冤罪で捕まっていることも重なって、生きた心地がしなかった。

「…君たちがこのままレステンクールに帰ると、危険だろう。…俺もついて行こう。」
「ですが、エルビラ王妃はまだアンドレ国王に陛下の訃報を伝えてはいませんから」

「……この際、どうだっていい。俺が…、ペリシエが、リシャールの味方であるということを、見せつけるしかない。エルビラ王妃には申し訳ないが、対立するしか今回は方法が無い。」
「対立って」

「リシャールと、エルビラ王妃で」

「……そんな」


「親友と、リシャールのためだ。もう何も、怖いものなんてない。…君たちは、弱い想いで、リシャールについていたのか?」

 アンドレの意思は堅かった。


「……いえ。」

「…なら、共にレステンクールへ。」


「「はい。」」


 アンドレは、リアとカミーユと共に、レステンクールへと飛び立った。







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