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1.シャンパーニ
初恋
しおりを挟む「リシャール様、どうなさいました?」
「ママの指輪が……!!」
「えっ!あの大群の中にですか?」
「……取りに行ってくる。先に行ってて。」
リシャールが黒蜜蜂の大群の方へ向かおうとすると、働き蜂は慌てて止めた。
「おおおおおおおやめ下さい!!」
「だって!!!」
「…危険です!」
「どうして?同じ蜜蜂じゃない」
「…お、同じでも!身体の大きさも、性格も全て白蜜蜂とは大きく違います!リシャール様に何されるか分かりません!!」
働き蜂がそう言うのも無理はなかった。ペリシエの黒蜜蜂は見るからに強そうだ。
だがそんなことは、リシャールに関係なかったようだ。
「……あの指輪はママの形見よ。怖いなら先に行ってなさい。」
「…リシャール様…!」
二人の働き蜂は震えていた。
「あぁ。黒蜜蜂は怖いよぉ…」
「…お、お待ちくださいリシャール様!!」
働き蜂がリシャールに付いて行った。
「確か…、、あの辺に……!!」
リシャールは一目散に探しに行った。
「待て……あれって…」
「……嘘だろ…?」
働き蜂は何かに気付いた。
「……あっ…!あの……!!」
働き蜂が言う通り、黒蜜蜂はとにかく大きかった。黒い肌に銀髪。
目は鋭く、ぎらりと睨まれるようであった。黒蜜蜂は白蜜蜂に見慣れないのか、自分らと真逆の白蜜蜂をまじまじと見つめた。
「何だ?」
「あの…指輪を……この辺に落としてしまって……」
「指輪?知らねぇな。」
「そう……ですか…」
「リシャール様、また今度探しに来ましょう。」
「嫌よ。ママの指輪だもの。」
すると、後ろから重低音の声が聴こえた。
「…もしかして、これをお探しで?」
周りの黒蜜蜂よりも、もう一回り大きな雄の黒蜜蜂が現れた。
大きな黒い身体に、瞳は赤く輝いてガーネットのようだった。黒蜜蜂の彼はとてもハンサムで、リシャールはその瞳をじっと見てしまった。
彼が持っていたのは、リシャールの指輪。
「あ…!そうです…!ありがとうございます…」
リシャールが指輪を受け取ろうとすると、彼は指輪を持っていた手を上に上げ、渡さなかった。
「…あ…!」
「君はシャンパーニから来たのか?」
「…は…はい。」
すると、リシャールの働き蜂が前に出て声を震わせ言った。
「しっ、しゃっ…シャンパーニから、まっ……参りました…!こっこちらは、リシャール・ヤプセレ様で、わっ、私共はリシャール様にお仕えしている者です…!!!」
そう言って頭を下げた。
「…リシャール様!……頭をお下げ下さい…!」
リシャールに小声で言う。本人は何も理解していなかったので、会釈程度に頭を下げた。
「リシャールと申します。」
「リシャール…。アンドレだ。こいつはエリソンド。」
「アンドレ様……」
黒蜜蜂の彼はアンドレと名乗り、微笑んだ。隣にいたエリソンドは会釈をした。
「どうぞ、お返しします。」
アンドレは左の中指に指輪をつけてくれた。
「…ありがとうございます…」
「綺麗な指輪だ。イエローダイヤ?」
「はい。母から継いだもので…。」
「…とても良く似合う。」
「嬉しい。」
リシャールは照れ笑いをした。
美しいエメラルドグリーンの瞳は、彼を惹き付けた。リシャールが下を俯いた時、彼は見惚れていた。
「…結婚はしているのか?」
「いいえ。してません…」
「じゃあ…、この春は忙しくなるな。」
「…そうですね」
すると、アンドレはリシャールの手を握った。
「ペリシエで行われる春の舞踏会に、来るのか?」
「……えぇ。多分…」
「…多分じゃ駄目だ。必ず…来てほしい」
「え、えっと。」
二人は見つめ合って、頬を染めた。
「……り、リシャール様、そろそろ…行きましょう…」
働き蜂はそっと声を掛けた。
「そうね。わ、私はこれで失礼します」
「では、また。」
アンドレは微笑んで会釈した。
太陽に反射して虹色に輝くリシャールの羽は、とても眩しく彼の瞳に映っていた。
「…アンドレ様……」
「もう!リシャール様!」
「ん?」
「ん?じゃないですよ!もう!あのお方、多分…王族の方ですよ!」
「まぁ…そうなの?」
「そうですよ!…あの服に付いていた紋章とか…その他諸々…」
「未来の国王陛下、かもしれないね。」
リシャールはブッドレアの花の香りを嗅いで、虚ろになりながら呟いた。
「リシャール様?」
「まさか、惚れたとか言いませんよね」
働き蜂の二人が問いかける。
「…そんなまさか。王家の方なんて尚更、白蜜蜂には興味無いでしょう?」
「…そうでしょうか。」
「……」
その日、リシャールはブッドレアの花を手放さなかった。
「兄上。」
「…ミシェル。」
「また摘んできたの?」
「…えぇ。ミシェルはブッドレア嫌いだっけ。」
「沢山も持ってこないでよ。その香りのせいで、鼻がおかしくなりそう。それに、迷惑してるのは私だけじゃないわ」
リシャールはミシェルに何を言われても、上の空であった。
「分かってる。すぐに蜜を作って、瓶に入れておくから。それに、私の王台でだけ飾るから。」
「何よ。」
成人になると、ミシェルはリシャールだけに強く当たるようになった。
「兄上。結婚は考えてないの?」
「…まだ考えられない」
「もう春よ。相手を探さないといけないのよ。何もせずに生涯を終えるつもり?」
「そんなことない…、天国にいるママを悲しませたりはしないわ…。」
リシャールはイエローダイヤを窓に差し込む光に翳した。キラキラと輝いている。
それを見て、何かを思い出したかのように微笑んだ。
「何笑ってるの?気持ち悪い。」
「…ミシェルも結婚を考えなさい。」
「考えてるわ!!春の舞踏会で出会いを探さないとならないわね。兄上は巣に引きこもってるといいわ!!」
ミシェルは感情任せに王台を出て行った。
「…そういえば、そんなのあったな…」
春の舞踏会。
年に2回、数日間に渡り春に行われる。
1回目は国ごとに行われ、2回目は国境を越えて行われる。
目的は、もちろん結婚。
国の重役達の間では、貿易や情報収集のチャンスなどとも捉えている。
「…結婚…」
すると、リシャールの王台に働き蜂が飛び込んで来た。
「リシャール様!招待状が届きましたよ!」
「…え?」
「春の舞踏会ですよ!ハネムーンです。」
「あぁ…」
「リシャール様も遂にご結婚なさる時期ですね。僕もドキドキします」
国から届いた招待状をじっくり見た。
「…結婚…できるかな。」
「できますよ!」
そう言ってくれたのは、リシャールのお付、
ヨハン・クロード。
ヨハンの一族が危機だった時に、ヤプセレ家に助けて貰ったことで、代々仕えるようになったそう。
「あの黒蜜蜂のお方に、また会えるといいですね」
「…まさか。舞踏会にいらっしゃったとしても、もう既にお相手は決まっているでしょう…」
「そうでしょうか?結婚なさっている証拠の指輪もありませんでしたけど。」
「指輪だけが証拠じゃないわ。」
二人はブッドレアの花粉から蜜を作り出しながら話していた。
「でも、参加はなさるでしょう?」
「そうね。出ないといけない…よね」
「まぁ……はい。」
「なんだか怖い。」
「怖いですか?…大丈夫です。僕もお供しますので。」
「いいの?」
「もちろんですよ。リシャール様をお守りするために生まれたんです僕は!…でないと僕の存在価値がなくなってしまいます。」
「ふふっ、そこまでせずとも。…もし相手がいなかったら、蜜だけ食べて来ましょう。」
「あははっ!それいいですね!楽しみだなぁ、お腹空かせて行きましょうかね!」
「そうね」
「…じゃあ、綺麗なドレスを用意します!」
「…うん。ありがとう。」
「…僕も楽しみになってきちゃいました」
ヨハンは無邪気に笑った。
リシャールは花を見つめて呟いた。
「また、お会いできるかしら」
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