honeybee

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4.綴る別れと約束

やるせない涙

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リシャールの目の前に、愛する彼がいる。
夢か現実か、分からなくなった。

彼はリシャールを愛おしそうに微笑んだ。

「大丈夫。近くには誰もいないよ。」
「……」

何故か、どうしても言葉が出ない。

リシャールはアンドレの頬に手を伸ばした。
すると彼はその手を握り、手の平に優しくキスをした。

______ あぁ、彼の体温だ。温かい。


「リシャール。」
そう言ってアンドレはリシャールを引き寄せ、抱きしめた。

「やめてよ…」
「なぜ?」
「やっと、覚悟を決めたのに。どうして、また思い出させるの。」

リシャールはアンドレの背中を叩いた。

「君の想いが変わろうとも、私の想いは変わらないよ。今もこれからもずっと。」
「離してよ…。」

思わず涙を流したリシャールをアンドレは優しくキスをした。

「……リシャール。これを。」
「…?」

彼が出したのは、返したはずのあのチョーカー。

「……これ…。」
「付けていなくてもいい。君に、持っていて欲しいんだ。」
「……でも…。」
「私の願いを聞いて欲しい。」
「……。」

リシャールは小さく頷き、チョーカーを握りしめた。

アンドレの視線は、リシャールの腹へ。

「……リシャール?…君、まさか……」
「…まだ分からない。」
「?」
「…太っただけよ。」
「そんな訳はない。」

アンドレはリシャールの腹を撫でた。

「…私と君の血が流れている子だ。…こんなに、幸せなことはない。」
「……?」

リシャールは耐えられずに、アンドレに抱きついた。彼は抱きしめてくれる。苦しいくらいに。

「…愛してる。」
「……」

リシャールは、ほろほろと涙を流すだけだった。

悲しいのか、悔しいのか、嬉しいのか。どうしようもない感情のまま、アンドレに抱きしめられていた。


こんなことにならなければ、
今頃、愛する彼と結婚していたはず。

子供ももっとたくさん。大きな巣へ引越して、家族で暮らすの。ブッドレアに囲まれて。幸せに……

そうなるはずだったのに。


____身分と性が邪魔するの。____



「リシャール。…2人で遠い国へ行こう。私と君を知る者がいない所へ…」
「……」

リシャールは首を横に振った。

「……何故…そこまで頑なに……」

「 これが運命なの。」

「……?」
「受け入れるしかないの。」
「…」
「ごめんなさい。」



______ どうかご無事で。



アンドレにそう言い残し、背を向けたリシャールは飛び立った。

それを追うようにヨハンも飛び立った。

「……リシャール様…。」

主人がこんなに泣いているのを初めて見た。ぼろぼろと流れてくる涙が止まらない。


「ヨハン。…少し、1人にしてくれる?」
「……かしこまりました。」

朝日が登る頃に巣へ帰り、王台に1人閉じこもるリシャール。ベッドに座り、ただ、チョーカーを眺めるだけだった。

もし状況が違ったなら。

ただずっと考えていた。呼吸するのも、瞬きも忘れるくらい。悲しんで、後悔して、時々彼との時間に未だ浸り。


___________



悲しんだのは、アンドレも同じだった。朝日が昇って暫く経っても、眠れなかった。
国王が、実の父が、リシャールとの結婚の邪魔をした。そうとしか考えられなかったのだ。


そして、その次の日。

「あ、アンドレ様!」
「なんだ?」

働き蜂が慌てた様子でアンドレの元へ駆け寄った。

「…陛下がお呼びだそうです。」
「…望むところだ。」
「あぁ、あと!!」
「ん?」

「…エリソンドさんが、行動は慎重に、と言伝を。」
「分かっている。余計なお世話だ。」
「…。」
働き蜂は心配そうにアンドレの背中を見つめた。

「父上…!」

アンドレが父のクロヴィスの元を訪ねた。窓の外を見つめて立っていた。アレクシスは何かを嘲るようないつもの微笑みを見せている。アンドレが話そうとしたところを遮るようにクロヴィスは話し出した。

「お前の結婚が決まったぞ。」
「…はい?」

聞き捨てならない言葉が早速出てきた。クロヴィスに続いてアレクシスが言った。
「マルグリットのマデリーン王女でございます。」

「な…なんだと…?」
「アンドレ様とご結婚なさりたいそうで。」

「しかも、アンドレ。お前を名指しだ。」
「だからって…」
「国のためだ。それはお前でもわかるだろう?」
「国のため…?」
「お前は第一王子だ。いい加減、自覚を持ったらどうだ。もう子供じゃないんだ。」
「…」

すると、アレクシスがアンドレに耳打ちをした。

「君の愛するお方も、国も諸共、滅ぼすおつもりで?」
「は?」
「それくらい、重大なのですよ。どうか、ご理解を。」

アンドレはため息をついて、クロヴィスを睨むように顔を上げた。

「なんだ、まだあの娘を忘れられないのか?」
「…貴方には関係ない。」
「お前をそこまで惚れさせるとは。どれほどの美女なのか、見てみたいものだ。」


「あぁいや…、だな。失敬失敬。」

「…!?」

クロヴィスは、がははと豪快に笑った。
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