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9.レステンクール編

春の舞踏会は再び

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季節は春になった。

咲いた花と蜜の香りが蜜蜂達の鼻を擽る。


街は春の舞踏会のために飾り付けされ、さらには天気も良い。


リシャールはドレスを広げ、イエローダイヤも取り出した。

「……あら?」

イエローダイヤに絡まって出てきたのは、ガーネットのチョーカー。

「あなたはお留守番よ。」

この豪華なチョーカーはペリシエ王室のもの。もし誰かに見つかったら、大変ですから。


「リビオ、少し手伝ってくれない?」
「いいよ、」

背中のファスナーを閉めて、鏡の中の自分にうっとりした。

「…久しぶりね…」

片方しか無い、イエローダイヤのイヤリングを付けた。確かに片方しかないのは不格好だけど、リシャールはこのイヤリングを付けるとミシェルが隣にいる気がした。

イヤリングのもう片方は、アンドレが持っているとは夢にも思わなかった。

「……いつ見ても素敵ね」
そして、長い金髪には小さな花の髪飾りを。これはロナルドが作ってくれたもの。



「ママ、僕も出来たよ!」

リビオもロナルドのタキシードを着た。

「とっても素敵。ハンサムだわ、」
「えへへ、そうかな」

すっかり大人になってしまったと、リシャールは少しだけ寂しくなった。




昼を過ぎた頃、街は賑わい始めた。

「ママ行こう、」
「うん」

リビオはリシャールの手を取って、街へ出た。街中に花が飾られ、とても綺麗だ。


「凄い、これが春の舞踏会?」
「そうよ、素敵ね」

会場となった街の広場は音楽と花と、沢山の白蜜蜂で溢れかえっていた。音楽に合わせてダンスして。見ているこちらも楽しくなる。

母親と来ていた小さな子供が目を輝かせて、リシャールを指さした。
「ママ、お姫様がいるよ。」
「まぁ、本当だ、素敵ね」

「……あら」

「すみません、とても素敵でしたので。」
「…まぁ、ありがとう…」

張り切り過ぎたかな。リシャールは恥ずかしくなった。

シャンパーニの市民は、ドレスというより少し豪華なワンピースに近しいものだった。元が貴族のリシャールは、周りよりも豪華過ぎたかもしれない。

「……やだわ…」

ふと顔を上げると、リビオは同じ歳くらいの雌蜂に誘われて、ダンスを楽しんでいた。
「…まぁ…良かった。」

リシャールは、ほっとして会場を離れた。


「…リシャールさん…?」

丁度会場にいたブラウンは、リシャールに気付き追いかけた。しかし、リシャールは気付かずに街を離れた。


「……」
リシャールは無意識に巣に戻って来てしまった。誰もいない、広場から離れた巣に。とても静かだけど、心地が良い。

巣の近くに小さな湖がある。リシャールは湖に映る自分を覗いた。

「……綺麗。」

大好きなアプリコットカラーのドレスと、大好きなイエローダイヤと、大好きな夫が手作りした髪飾り。〝好き〟に溢れて、幸せな気分だ。


ドレスを持って、くるくると回ってみた。城で行われる舞踏会を思い出して。

あの時流れていたワルツは確か、こんな曲だったな。リシャールは鼻歌を歌って、一人で踊った。

城の舞踏会は眩しいくらいに煌びやかで、華やかで……


「……」

リシャールの後をついてきたブラウンは、木陰に隠れて見惚れていた。

こんな見窄らしくて、ダンスのステップも分からない僕じゃ叶わないな…。

そう思った。リシャールが美しすぎて、足を踏み出せなかった。


すると、後ろから声がした。
「……ブラウンさん」
「!」

クリストフだった。彼もまた、ブラウンの後をついてきたようだ。

「……リシャールさん…」
「綺麗だよな。僕なんかダンスも出来ねぇよ、」
「…実は俺も。」
「…リシャールさんは、実はどっかの姫なんじゃないか」
「俺もそう思う。」

二人はリシャールには手が届かなかった。



しかし、彼は違った。


一人で歌を歌って華やかに舞うリシャールの手を取った者が。

「……リシャール。」
「はっ驚いた!…オーガン。」

「…俺と踊ってくれへんか。プリンセスには、が必須やろ?」
「まぁ、そんな……」

オーガンはリシャールの手にキスをした。


「…オーガン…貴方…」

彼は青い軍服を来ていた。豪華絢爛なブローチも沢山付いていた。

見てすぐに分かる、貴族だと。
貴族のさらに上でもおかしくない。

「…貴方、本当に貴族だったの」
「それは俺が聞きたいわ。」
「えっ?」

「…その歌、城で開かれる舞踏会のやつやんなぁ、」
「……」
「…そのドレスも宝石も、市民が持てるもんやない。それに君の振る舞いも全部、市民とは思えへんねん」
「…オーガン。」
「せやろ?プリンセス。」
「プリンセスだなんて。」

リシャールは、オーガンの見慣れない姿に少しだけ胸がときめくような。

「…オーガン、まるで王子様ね」
「王子は嫌やなぁ、」
「嫌なの?」
「…がええなぁ」
「…王様…?」

リシャールのエメラルドグリーンの瞳をじっと見つめて微笑む彼を見て、思わず息を飲んだ。

「…レステンクールの国王やからな」
「……こ、国王…?」
「せやで。」

驚いたのは、リシャールだけじゃない。
木陰で覗いていたブラウンとクリストフも驚いた。

「…い、今、国王っつったか…?!」
「……オーガンって…国王なの…?」

二人は小声で暴れるように困惑した。



「リシャールは?何処の姫なんや?」
「…姫なんかじゃ、ないわ。」
「じゃあ…何処の令嬢や?」

「…シャンパーニの大臣、ヤプセレ家の女王蜂として生まれたわ。リシャール・ヤプセレ。」
「大臣のご令嬢っちゅーわけやな。」


その話を聞いたオーガンは、咳払いをして、お辞儀した。

「…リシャール嬢、私は フレデリック・オーガン・ロベッソン。レステンクール国王にございます。どうぞお見知り置きのほどを。」

「………国王陛下にご挨拶を。」

リシャールも咄嗟に膝を曲げて頭を下げた。
なんだか、顔を上げられなかった。

オーガンの眼差しを見て、国王だと言われても疑いはしなかった。強ばる表情になってしまったリシャールを見てオーガンは笑った。

「なんや、リシャール。顔を上げてくれ」
「……」

フレデリックは肩を支えてリシャールを立たせた。そして、手を差し伸べた。

「一曲、私と踊って頂けませんか」
「…喜んで。」

二人は音楽が無くとも、息ぴったりにワルツを踊った。


とてもロマンチックで、リシャールは おとぎ話のプリンセスになった気分だった。


「…夢みたいだわ。」

リシャールはフレデリックの胸に顔を寄せた。周りの静けさの中、彼の鼓動が聞こえてくる。


「…リシャール。これは夢やないで」
フレデリックは、強く抱きしめた。

「……陛下。」
「陛下はやめてくれや、オーガンでええ。リシャールには、オーガンって呼ばれたいねん」
「…でも。」
「ええねんて、お願いや。オーガンって呼んだって。」
「……」

フレデリックは微笑んだ。


気付けば日が暮れて、空はオレンジ色に輝いていた。


「……結婚しよう、リシャール。」

「…結婚……」



こんなにもときめいているのに、どうしてもイエスと言えない。



他に良い方法は無いの?




「……リシャール?」
「……」

リシャールはフレデリックから手を離し、湖に近付いた。湖に映る自分を消すように、手で水を払った。

「出来ないわ…」
「なんでや…」

「…どうして、結婚に拘るの?」
「えっ?」

「…どうして、貴方は私と結婚がしたいの?」

「……どうしてって…リシャールが欲しいから」
「欲しい…?」
「俺の傍に置きたいんや。」


湖に映るリシャールは悲しげな表情をしていたのをフレデリックは見逃さなかった。


ふとフレデリックを見上げた。
爽やかなブルーの瞳はじっとリシャールを見つめていた。でもその奥に、深海のような重たい何かがある気がした。

「……」

リシャールは立ち上がり、呟いた。

「…貴方が国王だと知りたくなかった。貴方にオーガンのままでいて欲しかった。」
「……国王の俺は嫌いなんか?」
「…嫌いにも好きにもなれないわ。ブラウス一枚着て、皆で笑い合うオーガンが好きだったから。」
「……リシャール。」

「ごめんなさい、陛下。」
「えっ……リシャール…?」

リシャールはフレデリックに微笑み会釈して、巣に帰ろうとした。すると、フレデリックはリシャールに向かって力一杯に叫んだ。

「リシャール!!!!」

「……」

「俺は!リシャールを!愛してんねん!」

「…陛下。私は、シャンパーニの市民です。虚弱体質な白蜜蜂です。レステンクールの国王で、ご立派な青蜜蜂の陛下とは相応しくはありません。」

「相応しい相応しくないなんて、勝手に決めつけんなや!」


「……結婚は、出来ません。」
「…俺にも俺のプライドがあんねん…!」
「だからこそ出来ないのです。」
「……は?」

リシャールもフレデリックも血眼になり、そして感情的になっていた。


「…私は……雄だから。」

「……」

「「……」」

感情的になった二人を止めようと、ブラウンとクリストフも木陰から出て来ようとしていた時だった。

リシャールに恋をしていた三人は、聞き捨てならなかった。驚きと、戸惑いと。束の間の沈黙が流れた。


「……ほらね、出来ないでしょう?したくないでしょう?雄と結婚だなんて。」

リシャールは自虐的に笑った。

「…こうなる事が怖くて、ロナルドにも言えなかった」

リシャールは自分が雄であることを、夫のロナルドに言えなかった。どう思われるか分からなかった。必ずしもアンドレのように、すぐに受け入れてくれるような事では無かったから。

「……」

三人は動きが止まり、黙ったままだった。

「…陛下、レステンクールの国民はどう思われますか?自分たちの国王が、雄と結婚だなんて。」
「……」

そして、リシャールはブラウンとクリストフにも目を向けた。

「……あなた達もよ。私を好いてくれていたみたいだけど、これまで私に費やした時間や物も全部、馬鹿馬鹿しいと思わない?」

「……リシャールさん…」


すると、フレデリックが言った。

「…じゃあ、君の息子は?誰の子なん?」
「私の子よ。リビオもナタリアも、私が産んだ。」
「……子供が、産める…雄蜂?」
「…そうよ。」
「……」

フレデリックは黙り込んだ。

「…陛下、無礼者の私を処罰して下さい。…首を洗ってお待ちしております。」

リシャールはそう言い残し、巣の中へ入った。


「……」

この時、誰も見えなかったがフレデリックは無邪気に笑っていた。


「……子を産める…雄蜂…、雄の…女王蜂?」

フレデリックは珍しいものが大好き。





リシャールの巣の前で立ち尽くしていた三人。

「……おい、お前らはええんか?」

「えっ…?」
「な、何がだよ」

「リシャールへの想いはそんなもんか?…ほんなら、俺が貰うわ。」

フレデリックは二人の方を振り向いた。彼の目の奥にある深海が剥き出しになっている気がした。


「お、おい!オーガン…!」

「…これからは、リシャールに容易く触れんくなるで、後悔するで。…ま、知らんけど」

「……?」

フレデリックはリシャールを追いかけ、巣へ入った。

二人は手も足も出ない己を恨んだ。




「…リシャール」

「……!」
フレデリックの声が聞こえた時、リシャールは目を瞑った。首を斬られるのも覚悟した。


「……オーガン……?」

フレデリックはリシャールを抱きしめた。そして、あの時のようにキスをした。

強引で、熱くて、長いキス。

「んぅ……んんっ……ん…!」

爽やかな海の香りがした。
フレデリックの腕はびくともせず、リシャールを離してくれない。

「んんーっ、んんっ……!!」

苦しい、とフレデリックの背中を叩いた。
それでもやめてくれなかった。

リシャールは諦め、口を開けて舌を絡めた。

「んぁ……はぅ…んん……」

フレデリックが詰め寄ってきて、リシャールは巣の柱に背をつけた。柱にはナタリアとリビオの身長が印されている。

「……オーガン…」

「…雄でもかまへん…雄のリシャールで、ええねん…。」
「……でも…」
「もう黙っとき…」

「あっ…!」

フレデリックはリシャールを抱き上げ、近くにあったソファに座らせた。

「んんっ…!」

そして再びキスをする。
もうどうにでもなれ。リシャールはフレデリックの背中を抱いた。これ以上、彼を拒絶するのも無駄に感じた。

フレデリックを受け入れようとしていた。

「……あっ、だめ…!!」

ドレスをたくし上げられて、性器をまじまじと見られた。

「…見ないでよ……」
「…ほんまに、雄や…」
「逆に嘘だと思った?」
「……ほんまに…子供が産めるんか…?」
「…それも嘘だと思う?」
「シャンパーニではにあるんやろ?雄の女王蜂が居ること。」
「…そうだけど…」

「…リシャール、俺の子も産んでくれ」
「えっ……あ、ちょっと…!」

足を抑えられて、フレデリックの勃起した性器を当てられた。

「…俺の子も産めるんやろ?」
「………」

もう、どうしようも出来ない。


「あぅ……っ!あ…あぁっ…」
奥までずぶずぶと入ってきた。

「…まだ返事してないのに…」
「ええよって、聞こえたから」
「……言ってない…、…んあっ!あぁっ…!」

腰を振られて、腹の奥を突かれた。腰の骨が砕けそうな感覚。交尾したことなんて一度しかなかったのに、アンドレ以外に抱かれるなんて。

「う……うぅっ……あぅ…」
泣きながら喘いだ。

「…なんで泣いてんねん…」

無意識に流れてくる涙にフレデリックは優しくキスして抱きしめた。

「あぅ……うぅっ……あ…あぁっ……あんっ…」

それでもフレデリックは腰を止めなかった。


「…リシャール…!……出すで、奥に出したるから…ちゃんと孕めよ…」
「……あぅ…!あぁっ……!!」

まだ、答えてないのに。

腹の奥に射精された。フレデリックの性器が腹の中でどくどくと脈打っている。

「うぅ……」

涙で潤んだ視界で、フレデリックを見た。


「……リシャール、愛してる。君が欲しい。俺だけのものにしたい。…こんなにも、誰かを欲しいって思ったことないねん。リシャール…ほんまに…好きやねん……。」

フレデリックの瞳は、波が押し寄せたように涙を流した。そしてリシャールをまた抱きしめた。

「……」


爽やかな海の香り。

〝リシャール、また会おうてくれへんか〟
〝あははっ!リシャール!値引きしてくれたで!〟
〝ここでは、おおきに って言うんやで〟
〝良かったら、俺とデートせぇへん?〟
〝リシャール!!俺と結婚してくれへんか!!〟
〝リシャール!愛してんねん!〟


「……やめてよ…!」


隣にいるとこっちまで笑顔になる明るい性格。
笑うと くしゃくしゃになる顔は、ふとした時に端正な顔つきになる。
一見優しそうだけど、時に強引になる。
笑い声は甲高くて、うるさくて。
キスは執拗いくらいに長いけど。


フレデリックが国王じゃなかったら、傍にいたかった。

身分が、邪魔するの。



「…リシャール。すぐに返事はせんでええ。」
「……」

いつも返事なんて聞かないのに。

「…また今度でええ。…リシャール、これだけは忘れんといて。俺はレステンクールの国王で君はシャンパーニの市民や。…せやけど、それに囚われんといて欲しい。身分とか性とか種も、そんなん違ってもかまへん。俺を一人の雄として、考えて欲しい。」

「……」

「…これは、後で外して捨ててもええから」
そう言って、リシャールにチョーカーを巻き付けた。フレデリックの瞳と同じブルーが輝くサファイアと、上品なネイビーブルーのレースリボン。


「……また、会おうてくれな。」
フレデリックは巣を去った。

「……う、…うぅ……!!」
リシャールはその後ろ姿を見届けた後、涙が込み上げてきて泣き崩れた。大波に飲まれたような気分だった。






「…なんや、まだ居ったんか。」

フレデリックが巣を出ると、二人はまだ立ち尽くしていた。

「……オーガン。」
「……」

何も言えなかった。

せっかく出来た異国の友達で、リシャールを取り合う大切なライバルだから。

これ以上感情的になると、せっかく出来た友達も何も無くなる。

「……ほな。また会えたら」
ただそれだけ言って飛び去った。



「……リシャールさんは、大丈夫なのか」
「…どうだろう…」

「ブラウンさん!クリストフさん!」

「リビオ君。」

丁度そこにリビオがやって来た。

「ねぇ、ママ見なかった?」
「…君のママなら、巣に。」

気分が落ちている二人を見て、不審に思った。


「ママに、何があったの…?」

「……」

「ねぇ、答えてよ。」

「…」

「……もういいよ、見てくる」


リビオは巣に入った。すると、床に座り込んではソファに顔を伏せて泣くリシャールの姿があった。


「ママ!…どうしたの、なんで泣いてるの」
「……リビオ。」

ゆっくりと顔を上げたリシャール。
首には青いチョーカーが巻かれていた。

「……それ、何…?」
「……」

交尾標識、なんてリビオは知るはずもなくて。でも、その色でわかった。


「……オーガン…?」

「……リビオ。」
「…!?」

リシャールはリビオの顔に触れた。

「…ごめんね、リビオ。こんなママで…ごめんね」
「…な、なんで、謝るの…?」
「ママの大好きなリビオ…ごめんね。」
「……ママ?」

リシャールは ただ謝るばかりで、リビオは困惑した。

「……リビオ、幸せになるのよ。元気でいるのよ。ちゃんと食べて、ちゃんと寝て…大好き人と幸せに暮らして。」
「……ママ…?ママ、どうしたの」
「…ママは大丈夫だから。」

リシャールは涙を拭いて、自室に戻った。

「……ママ…?」

その後ろ姿を見て、リビオは巣を飛び出した。ブラウンは立ち尽くして、クリストフはしゃがみ込んでいた。

「リビオ君……」
「…なんで!!ママの事好きじゃなかったのかよ!!…なんで、守ってやれないんだよ!!なんで泣かせたままなんだよ!!」

リビオは二人に叫んで、泣き出した。




自室に戻ったリシャールは、ベッドに座り黙って考えていた。

「……」

ガーネットとサファイア。
二カ国の王室のチョーカーが並んでしまった。

また、同じことを繰り返してしまうのかな。

この心はアンドレに捧げたはずなのに。
オーガンと名乗ったフレデリックに恋をした。

「…ずるいわ。」
身分を隠して、惚れさせるなんて。ずるい。





次の日の事だった。

「ママ、僕お店に出てくるね」
「うん、ありがとう」

リビオは昨日の事には触れなかった。

「……もう大人になったのね…早いわ」
リシャールは一息ついた。


少しすると、ドアをノックする音が響いた。

「……はい…?」

扉を開けると、白蜜蜂の働き蜂が二人。
大きな鞄を持っていた。

「…リシャール様ですね?」
「……えぇ、どちら様で?」

「…レステンクール国王の働き蜂の者です。」

働き蜂は会釈した。

「……ご要件は?」

「陛下より、こちらを預かって参りました」

「…これは…?」

「それと、お手紙も。…我々はリシャール様にお届けする為に伺ったので、これで失礼致します。」
「えっ……」

彼らは簡潔に要件を言い、颯爽と去っていった。リシャールが働き蜂から渡されたのは、フレデリックからの大きな鞄と手紙。

「何かしら。」

手紙の封を開けると、二枚の手紙が飛び出した。


〝リシャールへ〟

〝君の返事が聞きたいんだ。
イエスなら、招待状を持ってレステンクール城で開かれる舞踏会に、このドレスを着て来て欲しい。〟

手紙と同封されていたのは、選ばれた者しか行けない、レステンクール城で開かれる春の舞踏会の招待状だった。

そして鞄の中には、ドレスが入っていた。


「…なんて素敵なの…」

ネイビーブルーのドレス。豪華な装飾などひとつも付いていないのに、キラキラと輝いている。オフショルダーの形はシンプルだけど、色も全てとても美しかった。

〝ノーなら、舞踏会に来なくてもいい。ドレスは君にプレゼントする。〟

手紙には、ただそれだけ書かれていた。


「あら…?」

鞄の中にまだ入っていた。

サファイアとダイヤモンドが使われた髪飾りとイヤリング。さらには、ドレスと同じネイビーブルーのグローブまで。


「……どうしたらいいの…」

リシャールは迷いと共にドレスを抱きしめた。







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