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11.不穏な再会
2つのエメラルド
しおりを挟む「まま!まま!」
「セドリック!何処へ行っていたの?」
リシャールの元へセドリックが帰ってきた。リアとカミーユが目を離した隙に、部屋を出てしまっていた。
「まま!まま!あい!」
「ん?」
セドリックの手には、くしゃくしゃに潰れた花と見覚えのある品が握られていた。
「……セドリック…これ…」
「えへへ!まま!」
イエローダイヤのイヤリングだった。両方とも揃っており、片方は火事で焼けた跡がある。ペリシエの小さな巣にリシャールが置いたはずのもの。
「………。」
「まま…?」
「…ん、ありがとうセドリック。」
「ぃちぇて!」
「これ?…ほら、見てごらん。」
「えへへ!」
セドリックは上機嫌で母親の膝上に座った。生まれて初めて見るイエローダイヤのイヤリングを手にして、目を輝かせている。
ずっと不思議そうに見ていたリアは口を開いた。
「リシャール様、それは…?」
「…イエローダイヤよ。」
「えっ!?セドリック王子、何処から持ってきたのでしょうか?どうしよう、誰かの大切な物だったら…。私が目を離してしまったばかりに…」
「大丈夫。私のだから。」
「えっ?」
ここにリシャールが居ること、セドリックがリシャールの子供だと言うことも、アンドレは知っていると、イエローダイヤが示しているような気がした。
その夜、リシャールの元にフレデリックがやって来た。
「リシャール。具合はどうや?」
「陛下。お陰様で、大分良くなりました」
「良かった。」
「他の方々は?」
「大丈夫、今は夫婦の時間や」
「あら…、確かにそうですね」
ベッドに座るリシャールの隣に、フレデリックも座った。ベッドにはセドリックが既に寝ていた。
「そろそろ自分の部屋で寝させたれ言うてるんやけど…、一人じゃ騒ぎまくってなぁ」
「まだ幼いですから。」
「しゃーなしか……」
二人きりで息子の顔を見ながら話していると、未だにフレデリックが国王であることも忘れてしまう。
「ん?なんや、」
「いいえ。」
「……リシャール。」
突然、フレデリックがキスをしてきた。
「…陛下。」
「久しぶりにキスした気がするなぁ」
「セドリックも居ますから……」
「寝とるからええやろ?」
「…でも…」
フレデリックはリシャールを愛おしそうに見つめて、頬に触れた。
「…リシャール、もし具合が悪くなければ、明日の式典は出てくれるか?」
「…明日って…大臣の皆さんも、国民の前にも出る日ではありませんか。」
「せやで。せやから言うてんねん。エルビラとルチアも勿論出るんやけど…」
「……」
「なんや、また都合悪いか?」
「……それは…」
「ははっ、ほんまは出たくないんやろ?」
「えっ、」
フレデリックは、優しく微笑んだ。
「大丈夫や。」
「……」
「リシャールの何がそんなに不安なのかは、知らんけど…。大丈夫やで。」
「……陛下。」
何故か自然と涙が出てきた。
「な、なんでや!なんで泣いてしもうたんや!?」
「ごめんなさい」
「謝らんでええ…」
フレデリックはリシャールの頭を撫でて、優しく抱きしめた。
「今日は俺もここで寝てええか?狭いけど」
「セドリックも喜ぶでしょう」
「せやなぁ」
リシャールとフレデリックは、愛するセドリックに寄り添って、三人で眠った。
「リア、カミーユ、リシャールをとびっきり綺麗にしたってな!」
「「はい」」
「待ってるで、リシャール。セドリックも連れてきてな」
まだ寝ぼけているセドリックを抱きかかえて、リシャールはフレデリックを見送った。
「リシャール様。先程、陛下がネイビーブルーのドレスが良いと仰せで…」
「ええ。その通りに。」
「はい」
「……。」
式典に出ることで、エルビラとルチアに何か言われるのではないか、そして アンドレにどんな顔をして会えばいいのか。
何だか複雑な気分になりながらも、身支度を進めていく。
「このドレス、いつ見ても美しいですね」
リアはネイビーブルーのドレスを見て、恍惚とした。
「そうね。私もこのドレスが大好きよ」
月明かりに反射する夜海のような、ネイビーブルーのドレスに身を包み、髪も綺麗に結い上げた。
「まま!」
「セドリック。」
セドリックもシャツとジャケットを着飾り、リシャールに見せてきた。
「まぁ、素敵だわ」
「…まま!だっこ!」
「まぁ、今日は駄目よ。沢山のお客さんが来るのよ。」
「うぅ…」
「ママと手繋いで行こう?」
「むぅ…」
リシャールはセドリックと手を繋いで、部屋を出た。
手を繋いでほしいのは、リシャールの方だった。ずっと胸騒ぎがして、心が落ち着かなかった。
「……。」
「……リシャール様?」
「…カミーユ、先にセドリックを連れて行ってちょうだい。…今…行くから…。」
「は、はい……」
やっぱり怖くなってしまった。
「……はぁ…。」
リシャールは足取りが重く、ゆっくりと歩いた。二階廊下の窓。ブッドレアの庭を眺められる。庭を見ながら、ひとつ ため息をついた。
すると、後ろから足音がした。
「あ、あの…!」
「?」
自分と同じ白蜜蜂だった。ずっと青い肌しか見てこなかったからか、懐かしく感じた。
「も、もしかして…フレデリック国王の…側室の御方でしょうか…?」
「えぇ。」
「お会いしたかったんです…!」
「あなたは?」
「ペリシエ国王第二側室、キャロラインにございます…」
「……側室…?まぁ、そんな頭を下げないで。」
アンドレの妻だった。
リシャールがフレデリックと結婚を決めた時、丁度同じ時期にアンドレと結婚した妻。
「シャンパーニの方だとお聞きして、それからお話がしたいなと思っていました!」
「…まぁ、嬉しい。」
笑顔が素敵で、愛嬌がある、素敵な雌蜂。
あぁ、そういうことだったのね
「えっ?」
「えっ、ごめんなさい。なんでしたっけ…」
キャロラインの吸い込まれそうな瞳。
「リシャール妃…でしたよね」
「えぇ。」
「フレデリック国王から沢山お話を聞いたのです!…やっぱり、お美しいですね…」
「…ありがとう。」
きらきらと輝くような、エメラルドグリーン。
「リシャール妃も式典に出られるのですか!」
「えぇ。」
「嬉しい!良かったら、ご一緒に。フレデリック国王も、皆さんお待ちですよ!」
「…あぁ…」
何かと縁がありそうな二人は、共に会場へ向かった。
「リシャール!!」
フレデリックがリシャールを見つけては、手を大きく振った。セドリックも一緒に居た。
「お!二人で来たんやな!」
「まま!」
「……」
横にはアンドレもいた。
「…ペリシエ国王にご挨拶を。お会いできて光栄です。」
「……。」
リシャールは赤の他人のように、アンドレに挨拶した。アンドレは黙ってリシャールの姿を見つめ、小さく頷くだけだった。
「アンドレ!俺の嫁に見惚れてる場合ちゃうで!」
「…止してくれ。」
フレデリックはアンドレの肩を小突いた。
「リシャール妃と偶然、廊下でお会いして来ましたの!」
キャロラインは嬉しそうに話すが、アンドレも虚ろになり始めた。
「そうか」
アンドレも複雑な感情に陥っただろうか。自分の妻、親友の妻を目の前にして。
自分が愛していた人は、知らぬ間に親友の妻になっていた。
「まま!まま!」
「セドリック。」
やっと母親に会えたセドリックは喜んで飛び跳ねた。
「今日はお客さんも沢山いらっしゃるのよ。もっと落ち着いていなきゃ。ね?」
「…むぅ、ままぁ」
セドリックは頬を膨らませて拗ねた。
「セドリック王子は、とても可愛らしいですね」
「まぁ、シャンパーニ国王にご挨拶を。」
ウジェーヌは穏やかな口調で話をした。
「リシャール妃とフレデリック国王の良いとこ取りと言いますか。レステンクール王室にシャンパーニの方がいらっしゃるというのは、なんだか嬉しいですね」
「…シャンパーニとレステンクールの外交にも、お役に立てるように…」
リシャールがそう言いかけた時、フレデリックは遮った。
「なんや、俺はその為にリシャールと結婚したんやないで」
「ははっ、知ってますよ。」
レステンクールに集まった、国王夫妻たちが国民の前へ出た。歓喜の声に包まれながら、式典が行われた。
「レステンクールは国民も和気藹々としていて良いですね」
ウジェーヌが言った。
「せやろ、俺の自慢の国や。」
誇らしげに胸を張るフレデリック。
エルビラが彼の隣に陣取り、リシャールはじっと後ろ姿だけを見ていた。
すぐ横に、初恋の人がいるのいうのに。
アンドレの横顔は相変わらず凛々しく、戦で失った左目の傷跡は、未だに痛々しく残っていた。
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二人には、ただただ心苦しい気持ちだけが強くあった。二人とも、愛してるけど…。
アンドレとの関係がフレデリックに知られるのも、時間の問題なのかもしれないと思った。
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「リシャール?リシャール、」
「えっ、ごめんなさい」
「なんで後ろに居るんや、皆に顔見せたって」
「…は、はい…」
フレデリックはリシャールの腰に手を回して、国民に向けて手を振った。
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