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11.不穏な再会

親友と、愛しい人

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____三国同盟式典、数日前。



「アンドレ様、私の我儘を聞いてくださって嬉しいです!ありがとうございます」


レステンクール城に向かうペリシエ国王夫妻。アンドレとキャロライン。
本来はマデリーンが来る予定だったが、キャロラインがレステンクールへ行きたいと言ったので、アンドレはそれを承諾した。


「…レステンクールのフレデリック国王とは、幼馴染だと聞きました」
「あぁ、そうだよ。あいつは昔から煩い奴でな…。きっと、キャロラインにも執拗いだろうから、そこは適当にあしらってくれ。」
「そんな!とっても面白いお方だと皆仰っていました!」
「…まぁな。」

この時のアンドレはレステンクール城に、リシャールがいるなど知る由もなかった。






「アンドレ!ウジェーヌ!久しぶりやなぁ!」
「あぁ。」
「フレデリック国王!ご無沙汰しております。」

レステンクールではフレデリックとエルビラが待っていた。フレデリックは友人とも言える国王の二人に会えてはしゃいでいた。


「お!二人もやっぱり、シャンパーニのべっぴんさんを嫁にしとるんやなぁ!ま、うちのエルビラも負けへんけどな!ははは!」
「陛下ったら。」

フレデリックは豪快に笑った。隣にいたエルビラは満更でもないが。


「フレデリック国王も、シャンパーニからの側室を娶ったそうで。」
ウジェーヌがそう思い出して言った。

「せやで!エラいべっぴんさんやから、お前らに惚れられたらあかんねん。せやから会わせへんで!」
「しかし、シャンパーニの国王としては 御二方の側室にシャンパーニの白蜜蜂が選ばれているのはとても喜ばしいことです!」
「…アンドレも、俺は別に興味無い~とか言うてたくせに、結局シャンパーニのかわい子ちゃん娶ってるやんか!」

「そんなこと言ってないだろう…!」
アンドレは恥ずかしそうに咳払いをした。

「いやぁ!言うてたで!俺聞いたもん」
「うるさい」
「出た!そないかっこつけんなや!」

三国の妻たちもそんな彼ら会話を聞いて、くすくすと笑っていた。



今日は式典の前準備。
レステンクール城内も式典準備に追われていた。


「…ほな、城案内したるわ」

式典がある期間は、二国の国王夫妻が数日間滞在する。

式典の話は終えた後、フレデリックは皆を連れて城を案内した。


「やっぱ窓から見える海が最高やねんなぁ、ほんで、あっちがな……」



「フレデリック国王は少年のような方ですね」
「…昔からあぁなんだ。」
「ふふっ、面白いわ」

キャロラインがアンドレに、こそっと話をした。彼女もレステンクールを楽しんでいる様子だった。

「ほら、こっちやで!」
「はぁい!」

フレデリックに呼ばれ、キャロラインは小走りでついて行った。




「……?」
すると、アンドレが立ち止まった。

他の皆はアンドレに気付かず、先を行ってしまった。



「…花が、変わってる。」
アンドレの目に止まったのは、大きな窓の向こうにある広い庭。


アンドレは思わず庭に足を踏み入れた。


「……ブッドレア?」
すると、庭師の働き蜂がやって来た。

「アンドレ国王にご挨拶を。」
「ここは、ハイビスカスがあったはずだ。花を変えたのか?」

ここの庭は、元々ハイビスカスがあった。アンドレもそれを知っていた。しかし、いつの間にかブッドレアに変わってしまった。


「はい。陛下のご命令で、ここの庭をブッドレアに植え替えて欲しいと。」
「……なぜだ?フレデリックはハイビスカスが好きなはずだ。」
「それは…のためかと。」
「…えっ?」

アンドレは暫く聞いていなかった、愛しい名前が聞こえてきた。

「……リシャール…妃?」

「はい。陛下が春に、シャンパーニから娶られたリシャール妃でございます。陛下はリシャール妃を大変ご寵愛されておりますから、お好きな花で喜ばせたいのかと。」

「…そう…か、フレデリックらしいな」


シャンパーニから来た、ブッドレアが好きな、リシャール妃。アンドレはどうか人違いであってくれと、この一瞬で祈った。


「その、リシャール…妃とはどんな人だ?」

「…私も少ししかお話したことが無いのですが、物腰柔らかで上品な、お美しい方にございます。レステンクールとはまた違う、美しさがあると言いますか。」

「…そうなのか…。」

「それに、瞳がとても魅力的な御方でして。美しいエメラルドグリーンの瞳に惹かれたと陛下も仰っていました。」

「……エメラルドグリーン…?」


徐々に確信に変わっていくのが、怖かった。

幼馴染で親友のフレデリックの妻が、自分の愛しい人なのではないかと。


「……一度、会ってみたいものだ」
「今日はお部屋でお休みになっているかと」
「それは残念だ」


「……?!」
ふと、花から目を離した時、二階の窓に自分の愛しい人が見えた気がした。

ずっと会いたかった。ずっと愛していた人。

「……気のせいか」
アンドレはまた花を見つめた。

「アンドレ国王にも、庭をお楽しみ頂けると幸いです。」
「あぁ。ありがとう。」
「失礼致します。」
働き蜂は庭の作業を再開した。


「……はぁ…。」
アンドレは深く一呼吸して、庭を出た。


「……?」
「あ、アンドレ国王にご挨拶を」

早歩きだった雌の働き蜂とぶつかる寸前になった。

「…楽に。」
彼女から微かにブッドレアの香りがした。


「…フレデリックとはぐれてしまったんだ。」

本能的なものなのか、アンドレは咄嗟に誤魔化してしまった。

「…そ、そうなのですね。でしたら、ご案内を…」
「必要ない。ここには何度か来ているからな。」
「…はい…。それでしたら、私はこれで」

働き蜂は目を合わせず、ずっと下を俯いたままだった。なんだか落ち着かないような様子だった。


「…なぁ。」
「はい?」

「…リシャール…妃は、今日は居ないのか?」
「今日はご気分が優れないそうで、部屋でお休みに。」
「そうか、会えなくて残念だ。…フレデリックが自慢していたものでな。一度、お目にかかりたいと思ったのだが。」
「……回復されたら、お会い出来るかも知れませんね。」
「そうだな。」


アンドレはその場を去ろうとした時、キャロラインがやって来た。

「アンドレ様!探しましたよ…」
「あぁ、キャロライン。」



「あら、ここの働き蜂の方?」
キャロラインは働き蜂と少し話をしていた。


アンドレはが本当に、リシャール・ヤプセレなのかだけが、脳内を駆け巡っていた。


「行ってみましょう?」
「……ん、あぁ。」

キャロラインと城を回って歩いた。

他愛も無い会話から繋がって、キャロラインの口からこんな話があった。


「フレデリック国王が、第三側室の方のお話をしていたのですよ」
「第三側室?」
「はい!シャンパーニから来た方です。同郷の方ですから、是非お話がしたいなと!」
「……そうか」


キャロラインはそんな事を話して、一人ではしゃいでいた。


「……。」
リシャール妃がどうか人違いであってほしい願いも、徐々に悔しい想いへと変化しつつあった。


「アンドレ様?どうかされたのですか?」
「いや、なんでもない。」

アンドレの顔も徐々に曇っていくのは、キャロラインにも分かった。


「私、何か酷いことを言いましたか……?」

しかし彼女が鈍感なのは、唯一の救いかもしれない。

「そんなことではない。…すまない、先に行ってる。」
「……は、はい…。」

アンドレはまた一人で城を歩き始めた。


「………。」

本当にリシャール妃が、あのリシャールだったなら。リシャールは、ロナルドと子供たち共に、シャンパーニに居たはず…どうして?
どうして、レステンクールの国王であるフレデリックと結婚したのか?



「…フレデリックなら、略奪愛も有り得そうだがな…」
アンドレは独り言を呟いた。



「おっと…!」

「あぅ……!」

歩き出そうとしたアンドレの足元に、小さな子供がいた。こてん、と尻もちをついて座り込んでいた。

可愛らしいふっくらとした頬が目に止まった。

「……大丈夫か?」
「ぅ……」

大きなエメラルドグリーンの瞳に、うるうると涙を溜め始めた。

「ふぇぇん…!」

「す、すまない……!…お、おいで。」

羽もまだ生えていない子供を抱き上げ、アンドレは必死にあやした。


「よしよし……すまなかった…」
「えぇぇん!」

「…そ、そんなに泣くな」

子供はアンドレにしがみついて泣いていた。


「でも…赤の他人を嫌がる素振りは無いのだな」
見ず知らずのアンドレを嫌がることなく、ただアンドレの服に涙を擦り付けるように泣いていた。

「参ったな。誰か目を離したのか?」
周りに側近たちも見当たらなかった。


「ぅ……うぅ……」

ようやく泣き止んだようで、アンドレは子供の顔を見た。

「…綺麗な瞳を持っているんだな。」

青みの強いエメラルドグリーンの瞳を持っている子だった。さらに、青蜜蜂にしては色の白い肌。

「白蜜蜂の血を引いているのか?」

「……?」
「…君の母上は?」
「……まま…」
「ママはどこだ?」
「ん……」

子供の手にはブッドレアの花があった。

小さな手で低木から花をむしり取ったようで、強く握られた花の形は崩れていた。

「ママにあげるのか?」
「ぅん……」
「そうか。ママはきっと喜ぶだろう」
「ん……」

「少し、歩こうか」
アンドレはその子供を連れて、城を歩いた。


「お名前は?」
「……え…えと…ぃ…いっく……」
「ん?」

一生懸命言おうとしているのが何とも可愛らしい。

「えと?」
「いっく……」
「うーんと…フレデリックと似てるのか?」
「…ん…」

「えっと…?……フレデリック…えといっく…え、え…?あ、…あははっ、分かった!セドリックだな!!」
「え…えへへっ……!」

子供はにっこりと笑った。
まだちゃんと喋られない子供の発音を頼りに、アンドレは子の名前を当てた。つい嬉しくなって、大きく笑ってしまった。

「セドリックだな、よぉし。」
「えへっ…!」
セドリックは、いつの間にかアンドレに懐いていた。




暫く歩いていると、セドリックがある方向を指した。

「あ!あ!」

「ん?なんだ?」
「まま!まま!」
「えっ?」


セドリックが指を指した方向を見ると、誰かが部屋に入っていくのが見えた。それが誰なのか、ちゃんと見えなかった。

「……」
「まま!」
 
「……ママなのか?」
「う!」

セドリックは下ろしてと言わんばかりに、足をばたばたとさせた。

「…はいはい…」

「まま!」
セドリックは足を着いて直ぐ、走り出した。


「………。」

会わないでおこう。

もし本当にリシャールなら、心の準備が出来ていないというか。

「……う…」
「ん?」
セドリックが足元に居た。服を引っ張って、一緒に行こうと言っているようだった。


「……セドリック。」


「?」
「…これをママに渡してくれる?」
「……?」
「これを君のママに、分かった?」

アンドレはセドリックの手を握った。

「…うん、!」


セドリックは頷いて、部屋へ走って行った。




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