honeybee

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13. 青き国、赤き日

時を越える影

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 〝何か〟に怯えているセドリックを心配して、リシャールは急いで息子の元へ向かった。

「セドリック王子、大丈夫でしょうか」
「…大丈夫じゃないかもしれないわ。」

 リアとカミーユも心配そうにして、リシャールに付いてきた。

「……まぁ…。」

 セドリックの部屋の前にも、兵士が立っていた。

「セドリック、ママよ。帰ってきたの、留守にしていてごめんなさい。」
「うぅ……」

 泣いているような、呻き声のような、小さい声が部屋から聞こえてきた。

「セドリック、ここを開けてもいい?」
「ママ……」

「セドリック、」

 扉を開けると、窓のカーテンは閉め切って真っ暗な部屋。ベッドの上で膝を抱えるセドリックがいた。

「ママ…!!」
「セドリック。どうしたの?何があったの?」

 セドリックはリシャールを見ると、走って抱きついた。

「お、おっきいめ、めが、め、…まど…に…め…」

「め?」

 リシャールが少し困惑していると、後ろで聞いていたリアがセドリックの言葉を汲み取った。

「大きな目が窓からぎょろっと?」

「うぅ……!!!」

 セドリックは大きく頷いた。


「……何、かしら。セドリックは、何を見たの?」


 すると、リシャールが帰って来たと聞きつけたアルバンがやって来た。


「…リシャール妃!」


「アルバン王子。一体何があったのですか?」
「…数日前に、父上のお部屋で僕ら二人で居た時にセドリックが、窓の外を見て…」

「父上……?陛下のお部屋ってこと?」
「はい。」

 セドリックが見た何かは、セドリック自身の部屋でなく、フレデリックの部屋で見たという。


「アルバン王子は見ていないと?」

「はい…、でも、その一瞬だけ部屋が暗くなったのを覚えています」

「?」
「その時は、晴れた日中でした。なのに一瞬、暗くなって…。そしたら、セドリックが突然。僕、ちょうど窓に背を向けていたときだったんです。振り返っても、何も無くて……」

 アルバンは落ち着いて話をしてくれた。しかし、不可解な点ばかりであった。


「…陛下の部屋の窓は、全部大きいわ。それに影が出来るくらい大きいってこと…?」

「…えっと…多分…。」
 アルバンも困惑している様子だった。

「…それくらい大きいもの……。目のような…?まるで、巨大な怪物じゃない…。」

 きっとフレデリックは、この二人の話を聞いて、咄嗟の判断で兵士を増やしたんだと、リシャールは納得した。

 フレデリックも理解し難かったはず。

「……セドリックは何を見たの…?」

 セドリックが見たのは、

 セドリックを狙う巨大な怪物?フレデリックを狙う怪物なのか?それとも、別の何かなのか?

「うぅ…」

 セドリックは体を震わせて、怯えていた。


「…陛下の部屋の周辺と、他に誰か見た者はいないか調べた方が良さそうね。アルバン王子、セドリックをお願いします。」
「はい、リシャール妃。」

「…リア、貴方もアルバン王子と一緒に。カミーユは、私と一緒に来てくれる?」
「はい、」

 リシャールは急いで、フレデリックの元へ戻った。

「陛下。」
「…リシャール。どうやった?」
「それが…」

 セドリックから聞いた話を全て、フレデリックに伝えた。


「…そうか…。この窓を覆えるくらい大きいっちゅうことか。アルバンもそう言うなら、ただの空想とは思えへんな。そりゃ、怖がるのも無理は無いな、」

「…他に誰か、それを見た者を調べたいです」
「分かった。」



 フレデリックは、その日に居た働き蜂を調べ尽くしたが誰も名乗り出ず、収穫は得られなかったという。






「…リシャール様、どちらへ?」

「書斎へ。」

 次の日になっても、手掛かりが得られなかったのでリシャールは本から調べようとした。


「…本に何かあるでしょうか。」
「分からないけど、きっと何かあるはずよ」

「……うーん…」
 カミーユは心配そうな顔をして、リシャールに付いて行った。



「……えっと…」

 大きな本棚を目の前にして、何から手をつけていいか分からなかった。



「…リシャール妃にご挨拶を。」
「マキシムさん。」

 侍医のマキシムがいた。彼の片手に分厚い本が持たれていた。

「…リシャール妃もセドリック王子のことで?」
「えぇ。でも、何をどう調べたらいいのか…」

「…でしたら、これを。」

「……レステンクールの歴史…?」

「はい。」

 マキシムが持っていた本は、レステンクールの歴史書であった。国の誕生から現在に至るまで、良いことも悪いことも細かく書かれていた。

「……こちらです。」
「…大きな怪物…?」

 マキシムが栞を挟んでいた。


「…大雀蜂…」


「はい。これは…十年も前の話です。」
「………」

 本に書かれてあったのは〝大雀蜂〟による事件だった。挿絵もあった。自分たちよりも遥かに大きく、窓を覗く。そして、羽の生えていない子供たちを襲い、攫っていく。

 リシャールはごくりと唾を飲み込んだ。

「この海の向こうに、大雀蜂たちが生息していると考えられています。調べようと出た研究者たちも昔にいたそうですが、そのまま帰って来なかったという説もあります。」
「…」

 マキシムが丁寧に説明をしてくれた。

「…海に近いレステンクールが、真っ先に狙われるのです。これと同じような事件がペリシエの沿岸部や、トゥクリフでもあったそうですが、事件の殆どがレステンクールで起きています。」
「…大雀蜂は…、何をしようとこんな……」

「彼らは、自分たちの食糧を探しにやって来ます。」
「……食糧?」

「それが…蜜だけではありません。羽の生えていない幼い子供たちを狙ってきます。そして、自分たちの女王蜂に食糧として捧げるそうです。一説には、蜜蜂を追い出して、巣を奪うというのもあります。…今の季節から考えると、食糧探しに来たと考えた方が無難でしょう。」
「……セドリックが見たのが、本当に大雀蜂だったら…」

「今年は、非常に危険です。」

「……そんな」

「しかし、彼らは雨や暗さに弱いとされています。」
「暗い…夜?」
「はい。ですから、もし狙ってくるとすれば明るい時間帯…。この歴史書にも、太陽が昇った昼に来たと。」
「そんな、堂々と……」

「…私たちよりも、身体が三倍以上大きいと言われています。体の大きな黒蜜蜂でも、到底敵いません。白蜜蜂なんて尚更です。ですから、堂々と襲ってくるのでしょう。恐れながら申し上げますが、もし大雀蜂が大きな集団で来たら、国諸共無くなってしまいます。」

「…じゃあ…どうすれば」
「私たちから攻撃するのは、危険でしょうから、今は護りを固めるしかありません。大雀蜂が来たときには、彼らの仲間にフェロモンを感じられる前に……、直ちに対処しなければなりません。」
「……」

 リシャールが不安に駆られている隣で、話を聞いていたカミーユが一言言った。

「一発で、すぱーん!っといけたら良い…ってことですか?」
「…そうですね」
「…うーん…。でも…、何も想像が付かないから難しいですね」

「ですが…、仲間を呼び寄せるフェロモンの抑制剤が存在するんです。」

「えっ!?それを使えば…!?」
「それは…スアレムの研究者が開発したものでして…」
「スアレム…、」

 戦後に久しく聞いた国の名前が出てきた。

「トゥクリフでも同様の事件がありましたから、それを聞いた頭脳派であるスアレムが立ち上がったのでしょう。昔から、彼らが敵視していたレステンクールやペリシエには、そう簡単に渡さないでしょうね…。」

「けちな奴……」
 カミーユは呟いた。

「薬も無くて、いつ来るかも分からないのに」
「仕方がありません。こういったことの為に、我々は歴史を学ぶのです。何か手がかりはありますよ。」
「…そうですね」

「…これは、陛下にもお話を。」
「はい。」

 事実はあるのに、経験が無い。

 どう対処すべきなのか、どれが最善策なのか、全く分からない。大雀蜂がどんな姿をしているのか。

 いくら長生きしている蜜蜂でも、実際に大雀蜂を見た者は居ないだろう。もうセドリックしか、居ないかもしれない。


「…少なくとも、ここに子供がいることは知られてしまったのね。」


 大雀蜂の大きな目は、まだ幼いセドリックを見ていたと分かった。





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