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修復されていくデータ
悲歌の真相
しおりを挟む「バスティアンさん、これ…どっちにすべきですか…?」
「……んーと……。」
黒い人影はじっとこちらを見ていた。
ハインリヒは何とか視界に入れさせまいとバスティアンだけを見るようにした。
「奥義が使えなくなるくらい、僕らにとっては平気じゃないですか?」
「……誰のなんて言ってないぞ。」
「そんなぁ……」
「もしかしたら、アルベルト達のことを指しているかもしれないし。それに、期間も設けられているのか分からない。」
「えっ……てことは、ずっと使えない場合もあるってことですか……?」
「有り得る。」
「え~……」
すると、バスティアンが声を上げた。
「よし、このままだっ!!!」
「ええぇぇぇっ!?!?」
〝分かった……〟
人影はゆらゆらと煙のように消えた。
「……???」
ハインリヒは大混乱。
「……ふぅ」
「…バスティアンさん、これからどうするんですか?」
「分からない。」
「えー……」
「…アルベルト達に、支障が出てないといいがな。」
「そうですね。」
バスティアンは、仲間と自分の身を守ることを選んだ。
「……一先ず、ここら辺調べようか。」
「はい。」
アルベルト達とはぐれてしまい、何処に飛ばされたかもすら分からない二人。
何かヒントがないか調べることに。
「……うーん…バスティアンさん。特に…これといったものが見当たらなくて……」
「……そうだな…」
暫く探しても特に手がかりは見つからなかった。
「………?」
二人で悩んでいると、バスティアンは後ろに気配を感じた。
「……うっ…。」
部屋のベッド横の壁に掛けられた鏡。
そこからぬるぬると出てきた真っ黒の怪物。
〝…ァ……〟
大きな口から長い舌をちらつかせて、手足が7本…?
「…やばいやばい……」
「うわぁ!!」
二人じゃ勝てるはずない。
常に冷静なバスティアンも戸惑った。
「…これしかねぇ!!!」
「えっ!?なんですかこれ!?」
「爆薬だ!!!」
「ええっ!?」
バスティアンも焦るとおかしな行動に出る。
「伏せろ!」
バスティアンがそう叫んで、爆薬なるものを怪物に投げた。
「「うわっ!!!」」
大きな音を立てて、爆発した。怪物にはダメージを与えることが出来たがしかし、部屋がぼろぼろと崩れ始めた。
「バスティアンさん!危ない!」
「え?」
バスティアンの真上にあったシャンデリアが落ちてきそうだった。ハインリヒは咄嗟に庇って、シャンデリアからの衝撃を受けてしまった。
「…ぅ……」
「ハインリヒ…?」
ハインリヒは血を流して、バスティアンを庇っていた。バスティアンは無傷だった。
「……っ!?」
バスティアンは耳を塞いで、頭を抱えた。
「バスティアンさん…大丈夫…ですか?」
「ぅ…!!」
「バスティアンさん…?」
「……はぁっ…!」
バスティアンは少しの間、苦しんでいた様子だった。
すると、
「………母さん……」
目を見開き、ハインリヒを見てそう言った。
「…え?…えっ、バスティアンさん……?!」
「っ!!!」
バスティアンは混乱したかのように、走り出して部屋を飛び出てしまった。
「……どうしよう……」
怪物はゆっくりと近付いてきている。
すると、
『バスティアンが戦闘不能になった』
その報告が告げられた。
「……えっ!?」
ハインリヒはシャンデリアの下敷きになったまま。気付いた時には、すぐ横に怪物がいた。怪物にとって、バスティアンの爆薬は軽傷に過ぎなかったみたいだ。
「………」
あぁ、僕も戦闘不能になる。
ハインリヒは咄嗟に目を瞑った。
〝 スキル 不屈のキャプテン 〟
「……?」
ハインリヒを庇い、怪物の攻撃を代わりに受けた者が。
「…ハインリヒ、大丈夫か?」
「あ、アルベルト…さん?」
「…少し、待てるか?」
「はい…」
アルベルト
通常攻撃 7955ダメージ
「……アルベルトさん……?」
そこには、怪物と一対一で戦うアルベルトの姿が。
🌑「ァァ…!」
怪物はアルベルトを引っ掻くように攻撃した。
9680ダメージを食らった。
アルベルトは通常攻撃しか使わなかった。
長い戦闘になったが、ギリギリHPを持ち堪えて勝利した。
「ハインリヒ…!」
アルベルトは危篤状態にも関わらず、怪物を倒して真っ先にハインリヒを助けた。
「怪我…自分で、回復できるか?」
「……はい。でも…アルベルトさん……」
「いいから、まず自分を……」
「……」
ハインリヒは半分ほど自分を回復した。
「アルベルトさん……!」
「っ…!?」
ハインリヒはアルベルトを抱きしめた。
『スキル ママのハグを発動します』
♪ フゥァン⤴︎︎︎
HP 4680回復
攻撃力 960UP
「……ハインリヒ、」
「まだ、だめ。」
「……ぉ、おう」
ハインリヒはずっとアルベルトを抱きしめていた。
このスキルを持っていて良かった、心底そう思った。
暫く続けていると、全HPの回復に近付いた。
「も、もう、十分だよ。ありがとう。」
「良かった。」
「……ハインリヒ、バスティアンと一緒じゃなかったのか?」
「…一緒にいたんですけど…突然、バスティアンさんが何処かに走って行ってしまったんです。」
「えっ?」
「……どうしよう……」
「もうこうなってしまった以上、仕方ない。」
「……」
アルベルトはハインリヒを慰めた。
「……アルベルトさん」
「?」
「…どうやって、、ここに?」
「…二人がいなくなって、四人で部屋を調べていたら、変な影みたいな奴が……」
「…同じだ……」
「えっ?」
「それで、2つの選択肢が……」
「そう、それだよ。」
「……アルベルトさん、まさか…」
「…そんな時に、バスティアンの戦闘不能の報告が来て、ハインリヒが危ないと思ったから。…他の3人は一緒にいるはずだから、きっと大丈夫だ。」
「そんな…、僕なんて放っておけば良かったのに」
「そんなこと、言わないでくれ。」
「……ごめんなさい。」
アルベルトは自分の必殺が使えなくなる代わりに、ハインリヒの元へ飛んで来た。
影から出された選択肢は同じもので、アルベルトは自分だけにしろと交渉した。
もちろん、3人は引き止めた。
「頼む、俺がそうしたいんだ。」
アルベルトがそう言って、影との取引は成立。
「……必殺が使えない俺が、力になれるかどうか分からないが。」
「…アルベルトさん。」
「さ、行こう。」
アルベルトは立ち上がり、ハインリヒを支えた。
「どうにかして、ここから出ないとな」
「まず、ここが何なのか分からないんです。」
「そうだな…」
「……バスティアンさんが部屋の外に出たので、あのチェスの駒?あれ居ないんじゃないですか?」
「確かに……出てみよう。」
二人は部屋の扉を開けた。
「……本当だ。居ない、」
部屋の外を塞いでいたはずの駒は無かった。
「御三方がいる部屋はまだ……」
「あぁ、俺が飛ばされる前にもまだ塞がれていたよ。」
「……違う世界が広がってる……?」
「…かもしれないな。」
「…バスティアンが戦闘不能になったんだ、強い奴がいるかもしれないな。」
「そうですね。」
閑散とした部屋の外。
何の気配もなかった。
「……行ってみよう。」
「は、はい……。」
二人は暫く歩いたが、何もいなかった。
「……何もいないのか?」
「…そうですね…」
初めに来た道を戻るようにして歩いていた。
城の中の構造も特に変わらなかった。
「待って……!」
「?」
ハインリヒはアルベルトの腕を掴んで引き止め、立ち止まった。
「聞こえる……」
「何が……?」
「……」
耳を澄ますと、微かに聞こえた。
「……ピアノだ」
「何処からですか?」
「分からない。遠すぎる。」
「……あっちからですよね…?」
「あぁ、エントランスの方かな?」
「はい。」
「……い、行ってみる……か?」
「ボス戦になったら…」
「その時はその時だ。ゲームの世界だから、俺らが戦闘不能になっても、セーブポイントからやり直せる。」
「……は、はい。」
何もない、何の気配も感じない道を歩き続けた。
徐々にピアノの音が近付いていた。
「エントランスで間違いなさそうだ。」
再び戻ってきた大きな吹き抜けのエントランス。
無かったはずのグランドピアノがあった。
「……っ」
アルベルトも唾を飲みこんだ。
「……い、いるんですか……?」
「……」
恐る恐るエントランスを覗いた。
「……ぁぁ…。」
ピアノを永遠と弾いていたのは、音楽家だった。写真や肖像画で見たものと同じ。顔は塗りつぶされていたが、何となく一致した。
ピアノを引き続ける音楽家は、穴が空いたような真っ黒な瞳から真っ黒の涙が流れていた。
「……あれって……」
「…まさか…」
音楽家の横にいたのは、女性だった。
青白い肌は気味が悪かった。
しかし、彼女は優しい微笑みを浮かべていた。
「…恋人、ですよ。写真にあった。」
「あぁ、きっとそうだ。」
「……どうしますか?」
「…油断は出来ないが……」
音楽家と、その恋人を調べるかどうか、迷った。もし、戦闘に入っても勝ち目は無い。
「……」
すると、
〝そこにいるのは…どなた?〟
「……!?!?」
「ひっ……」
その恋人の声だと、すぐにわかった。
「……覚悟を決めろ。」
アルベルトは隠れていた柱から、エントランスへ出た。
「待って…!」
ハインリヒも共に出た。
「……ふぅ…」
アルベルトは落ち着かない様子で、肩で呼吸をしていた。
〝……助けてほしいの。〟
「えっ……?」
「……助ける…?」
♪ テッテレレ⤴︎︎︎
『クエストが解放されました』
《音楽家の恋人の願いを叶える》
「……クエスト!?」
「…戦闘…じゃない?」
二人は戸惑った。
「クエストをクリアしたら、戻れるかもしれない。」
「そうですね…!」
僅かな希望を持てた。
「よし、話を聞こう。」
そう言って、アルベルトとハインリヒは彼女の近くに寄った。
〝ありがとう。〟
彼女はまた優しい微笑みを見せた。
「…願い、というのは?」
〝…彼を止めて欲しいの。〟
「……ピアノを、ということですか」
〝えぇ。彼はこの曲を、とっくの昔に死んでいる私の声だと思い込んでいるの。〟
彼女は話し続けた。
〝彼は悪魔と取引をしたの。…この曲を奏でれば、死んだ私に会えると。でも、悪魔は大きな代償を取っていった。…彼は目が見えなくなった。〟
「…酷い……」
ハインリヒは思わず呟いた。
〝…それから、彼は狂ったようにこの曲を弾き続けた。この曲、この音を私だと思い込んだまま。…でもね、この曲は人間に禁じられているものなの。〟
「それは…何故ですか」
〝悪魔達を呼び寄せるから。〟
「……っ!?」
〝悪魔にとって、これは喜歌。人間にとっては悲歌なのよ。〟
「……悲歌って…そういうこと…?」
「…はぁっ…」
ハインリヒは書斎で見た音楽家の手紙を思い出した。彼女の話と彼が綴った手紙の内容とで、点と点が繋がったようだ。
〝このまま、曲を弾き続ければ悪魔が増える一方よ。…世界を助けると思って、願いを聞いて欲しいの。〟
「……わ、分かりました。」
アルベルトは頷いた。
「…でも、どうやって…」
〝私の声では、ピアノの音にかき消されて聞こえないの。〟
「私たちの声なら、届きますか」
〝どうでしょうか〟
「ピアノを!!!止めろぉっ!!!」
「アルベルトさん!?」
「…いや、だって…聞こえるかなって。」
「ご老人相手な訳じゃないんですから」
「すまん」
「…でも、声じゃ、届かない…」
「触るしかないのか…?」
「…やってみる…しか…」
ハインリヒは音楽家の肩に触れようとした。
「あっつい!!」
黒い炎が上がったようにみえた。ハインリヒは少しのダメージを食らった。
「……触れるのも、ダメなのか…。」
「…僕らに耳を貸さないのでは?」
「どういうことだ?」
「…恋人の貴方しか。」
〝……?〟
ハインリヒは彼女の方を向いた。
「……あなたしか、止められないのでは?」
〝……私には…どうすることも…〟
「…私たちは、貴方に力を貸すことしか出来ないかと。」
〝…じゃあ…、貴方の身体を貸して。〟
「えっ?」
「だ、大丈夫なのか…?」
彼女はハインリヒを指した。
〝貴方の…身体を私に貸して頂戴。〟
「……え…っ」
ハインリヒは戸惑った。
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