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この世界に新しい風が吹く

小悪魔Lavie

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「えっと……」

ハインリヒの身体を貸してほしいと、彼女に言われ戸惑った。

「…ハインリヒ…?」

「クエストの為ですから、仕方ありません。」
ハインリヒは頷いた。


〝ありがとう…〟


彼女はそう言って、ハインリヒに乗り移った。煙がすうっと体に入ったように見えた。


「……」

アルベルトはその横で心配そうに見つめることしか出来なかった。

ハインリヒの目の色は変わり、完全に乗っ取られていたのは見てわかった。


〝……!〟

ハインリヒに乗り移った彼女は、音楽家の肩に触れて、何か耳元で囁いていた。

「……お、おい…!」


『ハインリヒは1200ダメージを受けた』

「ダメージ食らってるじゃねぇか…!」


ハインリヒは1200ずつダメージを受け続けていた。

アルベルトが止めようと声を出しても、彼女はやめなかった。


『ハインリヒは1200のダメージを受けた』


どんどん減っていくハインリヒのHP。

暫くして遂に、危篤状態になった。


「おい!もうやめろ……!」
アルベルトの声も届く訳もなかった。


ある時、音楽家の手が止まった。

彼女の声が聞こえているように見えた。真っ黒の涙を流して、音楽家は顔を手で覆った。

彼女は音楽家の元に寄り添い、微笑んだ。


すると、

『ハインリヒが戦闘不能になった』



「っ…ふざけんなよ…!!」
アルベルトは思わず駆け寄った。


ハインリヒに乗り移っていた彼女はすうっと抜けて、ハインリヒはその場に倒れた。


「ハインリヒ…!」

♪ ピシュン

倒れたハインリヒは自動的に宿送り。



「……はぁ…」

アルベルトは少し呆れていた。



〝これで…やっと…。ありがとう〟



!!!??」

彼女は音楽家と共に姿を消した。





♪ テッテレーテッテレテレレッテテー⤴︎︎︎


『クエストをクリアしました!』

 アルベルト Lv96→97



「……はぁ。」

薄暗いエントランスに取り残されたアルベルト。

「……何か探すしかないか…」

ぼそっと呟いて、エントランスを背に歩き出した。





〝この役立たずが!〟

〝ごめんなさい!ごめんなさい…!〟



「…?!」


もう誰もいないはずのエントランスから声がした。背中が震えてくるような低い怒鳴り声と、弱々しい若い声だった。

アルベルトは柱の陰からエントランスを覗いた。


「……悪魔…?」


2つの声の正体は悪魔だった。


大きな身体と大きな角、そして黒い翼を持った大悪魔。そして、普通の人間と同じくらいの大きさの小悪魔。


「……ボスと子分ってやつか…」

アルベルトはまぁいいかと思いながら、その場を去ろうとした。



バゴォーン!!!!



「!?」


さっきまでアルベルトがいた柱が衝撃を受けてヒビが入っていた。

「……?」

子分の悪魔が叩きつけられたみたいだ。



〝こんなのも出来ないのか!?〟

〝っ…!……ご、ごめんなさい…!〟


ボスは相当怒っている。


子分は皮膚から出血して、さらに首を絞められて苦しそうにもがいていた。


「……くそっ…」


は放っておけなかった。



ジャキンッ



〝……!?〟


アルベルトはボス悪魔の腕を斬りつけた。子分は解放されて、けほけほと咳き込んだ。


〝貴様……〟


「こいつはお前の子分なんだろ?…もっと優しく教えこまねぇと、お前について行く奴もいなくなるぜ。」

〝……私を誰だと思っている…〟


「っ!?」

アルベルトも壁に叩きつけられてダメージを受けた。

「…こ…の…!!!」


声を出すと背中が痛む。



〝……身の程知らずめ…〟

ボス悪魔は煙が上るように姿を消した。



「はぁ……」


「ね!ねぇ、大丈夫!?」
悪魔はアルベルトに駆け寄った。


「……あぁ…」
アルベルトは立ち上がった。

「……でも…」

悪魔に近付いたら、ろくな事がないとアルベルトは1人でよろよろと歩いた。


「待ってよ!」
悪魔はアルベルトに付いてきた。


「離せ。お前、悪魔なんだろ。」
「……そうだけどさぁ…」

「…俺は悪魔と契約する気はない。」
「別に契約しろなんて言ってない!」

中々しつこい。


「契約…しなくていいから、付いて行っていい?」
「ダメに決まってるだろ。」
「酷いよぉ、僕のこと助けてくれたのに…」
「……お前のボスが待ってるだろ」
「あんなの、ボスなんかじゃない…」

「……」
悪魔は寂しそうな顔をしていた。


「……騙されないぞ」
アルベルトは再び歩き出した。

「騙してないってば!」
「しつこいなぁ、」
「…だってぇ…!」

「……」
この悪魔、かなり露出度が高い。アルベルトは目のやり場に困った。

だが、男なのはすぐに分かった。
何故かって?、

それに胸元は開いており、ニップルピアスが目立つ。ニーハイブーツなんて、とにかくエロい。下半身なんて紐パンのみだ。

こんなの、男でも興奮する。
アルベルトは少しだけパニックに陥った。



「…ねぇ、お願い。力になるから!」
「力にならん」
「なるってばぁ!」

「……ん。」
アルベルトは1つ良いことを思いついた。

「……じゃあ、俺を元の世界に戻してくれ。」

「……えっ?」

「ここ、別世界なんだろ?俺の仲間が3人、元の世界に残ってるんだ。そこに戻してくれ。そうしたら、考えてやる。」

「…ほんと?分かった!」

悪魔はにっこり笑って、何やら床に手をかざした。そして、黒い光を放つ炎が床から出てきた。

「うおぉぉぉ!???危ねぇな!」

「大丈夫!」

すると、床が沼地のようになり、アルベルトは吸い込まれた。


「うわぁぁぁ……!!」





咄嗟に目を瞑った。




「……大丈夫?」

「……?」

アルベルトが目を開けると、見覚えのある場所にいた。

「あっ……!?」

目の前にチェス駒がずらり。

飛ばされる前の部屋。だが、外。
この奥にある部屋に、3人がいる。


「……なぁ、この駒どかせるか?」
「…できるもん!」

悪魔は黒い翼を広げて空中に舞った。
するとまた、両手から黒い炎が。ドラゴンの吹く火のような。

チェス駒は次々と燃え、消えた。彼の火力は相当強いものだった。


「…や、やるな、」
「でしょ?ねぇ、だからさ、一緒に居させて。」
「……仲間に相談してからだ」
「本当!?嬉しい!!」
「まだ良いとは言ってない。」

「ねぇ!いじわる!」
「うるせぇ!」

アルベルトは部屋の扉を開けた。



「「「…アルベルトぉぉぉ!!!!」」」


「お前らぁぁぁ!!!」


部屋の中にはフィラットとゲルト、レオポルトの3人がいた。

「アルベルト!無事だったのか!」
「バスティアンとハインリヒが戦闘不能って」
「何があったんですか!?」

「……バスティアンはよく分からないけど…ハインリヒはクエストの犠牲になった」
「ど、どういうこと…?」

すると、3人は後ろにいた悪魔に気付いた。


「えっえっえっ!?」
「悪魔!?」
「敵ですか…!?!?」


「……敵じゃないよぉ!」
悪魔は頬を膨らませた。


「「「は?」」」


「…まぁ…色々…あってな…」

「なんだよ、色々って。気持ち悪い。」
「アルベルト、やましいの?」
「アルベルトさん……そんな…」
「違ぇよ!!」

「…えへへ…本当にそうですかぁ…?♡」

悪魔はアルベルトの耳元で囁いた。

「うわっ!やめろ!!!!」

「アルベルト…お前がそんな奴だとは思わなかったぜ。」
「…アルベルトのえっちぃ」
「アルベルトさん…」

アルベルトは3人に誤解された!

「だから!違ぇよ!!!」

「アルベルトって言うんだぁ♡良い男♡♡」


「やめろぉぉぉぉ!!!!!」
アルベルト渾身の叫び。
3人と悪魔はくすくすと笑った。

「と、とにかく!!!この先は…」

「いきなり…4人になっちゃったよ?」
「まぁ…4人でも何とかなるっちゃあ何とかなるがな」
「…そうですね、このまま散策しますか?それか、一旦帰る選択肢も有り得ますけど…」

すると、悪魔が話し始めた。

「…僕もいるよ♡♡皆の力になれると思うんだけど♡」

「てか、こいつ何なの?」
フィラットはじっと悪魔を見た。

「僕? 僕、Lavieラヴィー。可愛い小悪魔ちゃんだよ♡」

悪魔はラヴィーと名乗った。くるりと回って見せた。むちむちとした肉付きがエロい。
3人も目のやり場に困った。

「…なんだこいつ」
ゲルトは鼻で笑った。


「ラヴィーだよ♡♡……このパーティー、イケメン勢揃いで最高♡」

ラヴィーはアルベルト達をうっとり見つめた。


「なぁアルベルト…一体、何がどうなって、この子連れて来ちゃったの?」
「あぁ……いや…その…」

アルベルトは全て説明した。


「…ふぅん…それで、この子が付いてきちゃった訳だ。」
「まぁ…そういうこと。」
「厄介な事になったな」
「アルベルトさん、大分好かれてるみたいですけど。」
「…困ったな」

4人はラヴィーを見た。
肉付きのいい、この身体は誘惑の象徴だ。

「…こいつ連れても良いことねぇだろ。敵の1人なんだろ?」
ゲルトは眉を上げた。

「良いことばっかりだよぉ!僕、強いんだからねっ!」

「……。」

「悪魔での位は、まだ下級だけど…」

フィラットが止めた。
「え?待って待って、この子敵?なんだよね???」
「あぁ…」

「敵じゃ、なくなったよ…。」

「「「「嘘だ」」」」

「ホントだってばぁ!!」
「大悪魔の回し者だろ。」
「ねぇ!ホントに!!」


「…もう行こうぜ」
呆れたアルベルトに付いて皆が歩き出した。とにかく部屋を出た。

「待ってよぉ!仲間に入れてよぉ♡♡」
ラヴィーも付いてきた。

「うるさい…」
「誰かこいつ殺れよ…」
「やだよ、ゲルト自分でやって」
「ゲルトさん…早くやってください。」

「ゲルトっていうんだぁ♡♡僕に何をやってくれるの♡♡」

「違います、やめてください。」

「ゲルト♡♡」

「違います」

逃げようとするゲルト、それに付いてまわるラヴィー。

そして、痺れを切らしたアルベルトが。

「…ラヴィー。仲間には出来ない。」
「っ…なんでよぉ。」
「…お前は敵だ。本来はプレイヤー側じゃないんだろ。」
「…でも…アルベルト達の力になるもん。」
「…はぁ。」

アルベルトは頭を抱えた。
そこにフィラットが割って入ってきた。

「じゃあさ、俺らに忠誠誓ってくんね?」
「誓う!!……でも、どうやって?」
「…うーん…」
「あっ!!!…僕、この階なら詳しいよ。色々教えてあげる!」
「本当に?」  

「うん!この階のトラップは僕の管轄下だったから、もう無いよ。でも、飛ばして欲しければ別の所に飛ばしてあげる。」


「「「「えっ!?!?」」」」
4人は耳を疑った。


「そんなに驚く?」
「驚くだろ……」

「……この階は僕だけど、他の階は別の悪魔の管轄下なんだ。だから、その悪魔を倒せばトラップは全部無くなるはず。でも、階を上がれば上がるほど、悪魔の位も高くなってる。」

「つまり……」
「倒すべき悪魔は強くなるってこと。」
「うわぁ……」


「……。」
ラヴィーの情報が確かなら、この子は連れて行くべきだとアルベルトは思っていた。



「じゃあ、俺らをセーブポイントに飛ばせれるのか?」
ゲルトがそう言った。

「飛ばせるよ!」

「「「うわっ!?」」」

♪ブォン


空間が歪んだような感覚に陥り、すぐに別の場所に飛ばされた。

「ここは……どこだ?」
「来てない部屋……ですね」

「ごめんね。僕、まだ1階と地下しか出来ないんだけど。皆が他の悪魔倒せば、他の階にも飛ばしてあげる!」

ラヴィーに飛ばされた部屋はまだアルベルト達が開けていない1階のセーブポイントだった。

「……凄い……!」

「でしょ!褒めて褒めて♡♡」


「……なんか、精神的に疲れた。俺帰る」
アルベルトは傍にあったワープの輪で街へ戻った。

「帰りましょうか」
「そうだな。」
レオポルトとゲルトもワープした。

「……君はここにいなきゃだよ」
フィラットはラヴィーにそう言ってワープしたが、ラヴィーは小悪魔。言うことなんて聞かない!

「嫌だ!僕も一緒に行くの!!!」

♪ ブォン






街は夜になっていた。


「お帰りなさい!!」
ティナがアルベルト達を迎え入れた。

「ハインリヒさんとバスティアンさんならお部屋でお休みになってますよ」

「ありがとうございます」

すると、ティナは顔を赤くして目を逸らした。

「えっとぉ……そこの…方は…新メンバーさんですか…!?」



「「「「え"っ」」」」


「えへっ♡♡」
4人の後ろに、ラヴィーの姿が。

「お前!付いてくるなって言っただろ!」
「だってえ!忠誠誓ったから良いじゃん!」
「誓ってないだろ!」
「誓うもん!!」


「出てけ!」
4人は宿からラヴィーを追い出した。


「酷いよぉ!」
外に閉め出されたラヴィー。

「はぁ……そこまでしなくても……。」
ラヴィーは口をとがらせた。




「ラヴィー。」



「ん?」

ラヴィーは背後から呼ばれる声がして、振り返った。後ろにいた誰かが、手をラヴィーにかざすと、強烈な光が放たれた。


「う……ぁ……ぁ……!!!」


大嫌いな明るくて強い光。


「や……やめてよぉ……!!」



ラヴィーは悶え苦しんだ挙句、気を失った。





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