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昼休みの風景
「何言ってるんですか?」
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勝手なあいつらの言い分との平行線はSHRのおかげでやっと終わりを迎えた。
熱意の少ない担任の声を聞きながら、あの時のことを思い出す。あいつに置き去りにされて、夏川先輩とヤってしまった後のことだ。
「実花ちゃん、実花ちゃん」
心地良い眠りから起こされた私は自分の状況がよくわかっていなかった。
見知らぬ場所で、見知ってはいても親しくはない人物が声をかけてきている。
その状況に頭が付いて行かない。
「んん? なに?」
「家に帰って、19時からアニメ見るんでしょ?」
アニメと言われても、口実に使っただけの見てもいないアニメのことなんか頭から吹き飛んでいた。
「え?」
「今からなら間に合うよ」
嫌な予感がする。
そう言えば、親がいないからしばらく泊まっていけるとか言っていたよね、この人。
その時、抱き潰すとか言ってなかったっけ?
駄目だ。
いくらイケメンでも駄目だ。
彼氏でもない相手とヤってしまった後だが、駄目だ。
一回だけなら流されたと言い訳できるけど、それ以上は駄目だ。
気持ち良かったからって、ズルズルとセフレなんかにされたらおしまいだ。
心地良いからとノロノロとしているわけにはいかない。
逃げ道を示されている間に逃げなくては。
「・・・。あ、ありがとうございます」
私はありがたく帰宅を選んだ。
「間に合うといいね。じゃあ、ソーセージは茹でたので」
ソーセージ?
何言ってんの、この人?
「へ?」
間の抜けた声が出てしまった。
「生や焼いたソーセージは好きじゃないから、ソーセージは茹でたのがいい」
「何言ってるんですか?」
手料理を振る舞う機会もないし、夏川先輩の好き嫌いなんか教えてくれなくていいですよ。
呆れた私はジト目になってしまった。
「だから、お弁当の中に入れて欲しいリクエストだよ」
心の声は表情に出ていた筈なのに、夏川先輩はご機嫌な様子で続ける。
お弁当?
なんでお弁当の話になってんの?
「なんでお弁当のリクエストをしてるんですか?」
「春原には作ってやって、僕には作ってくれないの? そういう差別されると傷付くよ」
「差別って、あいつは彼氏で、夏川先輩は違うじゃないですか?!」
後になってから考えてみると、お弁当のおかずをリクエストしてくるあたりでこの時、既に夏川先輩は付き合っていると思っていたに違いない。
「あ。駄目かあ。相性良いと思ったのに、残念」
夏川先輩は楽しそうに苦笑した。
相性良いって・・・。
そう言えば、「付き合う前に試すか、試してみて付き合わないか」とか「付き合ってみて、なんか違うと思うより、ヤってみて恋人なのか友達なのか判断したほうが簡単明瞭じゃないか」とか言ってたっけ。
駄目だ、この人。
判断の基準がおかしい。
「春原と別れたいなら、僕と付き合えば追い払うのも楽だよ」
「は?」
今度はなんて言った?
あいつと別れたいなら、自分と付き合えば楽?
追い払うとか言わなかったっけ、この人?
部活で可愛がっている後輩とその彼女が別れるのを笑いながら提案するって何?
本当に後輩可愛がってんの?
・・・。
その可愛がってる後輩に彼女をNTRれたんだっけ・・・。
それで後輩に彼女をNTRせさせたんだっけ・・・。
クズにクズの後輩がいて、そのクズ後輩と簡単に別れる為にクズ先輩と付き合えって、これ、なんて冗談?
「だから。僕と付き合うメリットだよ」
夏川先輩と付き合うのはデメリットしか思い浮かばない。
テニス部の王子様と付き合うことで女子から嫉妬と嫌がらせをされる。
お弁当を作らせられる。
ヤりたいだけヤられる。
構ってもらえない。
彼女と言う名のセフレになる。
メリットはどこに行った?
好きでも嫌いでもない相手だから、これぐらいしか思い浮かばないけど、こう言うところを代々の夏川先輩の彼女が耐えてきたかと思うとすごいことだと思う。
だけど――
「順番おかしいですよ。いくらメリットを言っても駄目です。付き合う前にお弁当のおかずのリクエストするのもおかしいです。付き合うかどうかの前に浮気した彼女とはまだ別れてないんでしょ?」
彼女に浮気されたのは知っているけど、まだ別れたかどうかは聞いていない。
あいつと違って、私はそこのところを気にする。
今回は流されただけだ。
二度と付け入る隙は与えない。
「そのことは安心して。とっくに別れたから」
「別れた?」
「浮気したと知った瞬間別れた。告白してきたから付き合ってあげていたのに、浮気するような子とこれ以上、付き合う義理はないからね」
付き合ってあげていた?
なんで上から目線?
「何言ってるんですか? 付き合ってあげたって?」
「僕は付き合っても付き合わなくてもどちらでも良かったんだよ。互いに好都合だからと思って付き合ったら、かまってくれないとか、文句ばかり言う。自分が僕にふさわしい努力をしているんだから、それを僕に報いて欲しいなんてね」
「・・・」
どちらでもいいから付き合ってあげていただなんて。
互いに好都合って、ヤらしてくれるから付き合っていたの?
クズだ。
自分勝手すぎる。
付き合うって意味が間違ってる。
この人の付き合う感覚って、恋人と付き合う感覚じゃないよ。
私は夏川先輩との認識の違いにドン引きした。
「僕が何年も費やしてきたテニスを後回しにしろって、何様だって思ったよ。おかげで気が合うのはベッドだけ。価値観が違いすぎる子と付き合うのは苦痛でしかなかったよ」
「・・・」
駄目だ、この人。マジでクズだ。
テニスのほうが彼女より大切なんだろうけど、赤の他人って言うのはひどすぎる。この人の中でテニスと彼女の間に越えられない壁を感じる。
ここまでくると彼女と言うより、セフレじゃないの?
他人事のようにそう思ったが、この人から付き合おうって言われていたのを思い出した。
付き合いたくない。
あいつは初めて作ったお弁当を美味しいと言って食べてくれた。歪な形のおにぎりに、焦げたところをそぎ落とした鶏のから揚げ、形の崩れた卵焼き、ウィンナーはタコでもウサギでもない猟奇的なもの。どれも見た目から良くなかったのに全部食べてくれた。味だって、お母さんに手伝ってもらって、私は焼いたり揚げたりしただけ。
それをずっと食べてくれて。
あいつが美味しいと言って食べてくれるから、私は作り続けた。
浮気はしたけど、あいつのおかげで私は料理がうまくなった。
あいつとこの人は違いすぎる。
あいつは浮気もしたけど、彼女として扱ってくれた。
この人にはそれができない。
あいつや噂から夏川先輩が振られたと聞いても、それで荒れたというのは聞いたことがない。何事もなかったかのように、いつも通りだった。私たちが入学した時には振られることに慣れてしまっていたのかもしれない。
だからこそ、この人にとってテニスが何よりも大切なのだろう。
自分に多くを求めず、絶対に自分を裏切らないもの。
裏切らないとわかっているから、大切にできるもの。
熱意の少ない担任の声を聞きながら、あの時のことを思い出す。あいつに置き去りにされて、夏川先輩とヤってしまった後のことだ。
「実花ちゃん、実花ちゃん」
心地良い眠りから起こされた私は自分の状況がよくわかっていなかった。
見知らぬ場所で、見知ってはいても親しくはない人物が声をかけてきている。
その状況に頭が付いて行かない。
「んん? なに?」
「家に帰って、19時からアニメ見るんでしょ?」
アニメと言われても、口実に使っただけの見てもいないアニメのことなんか頭から吹き飛んでいた。
「え?」
「今からなら間に合うよ」
嫌な予感がする。
そう言えば、親がいないからしばらく泊まっていけるとか言っていたよね、この人。
その時、抱き潰すとか言ってなかったっけ?
駄目だ。
いくらイケメンでも駄目だ。
彼氏でもない相手とヤってしまった後だが、駄目だ。
一回だけなら流されたと言い訳できるけど、それ以上は駄目だ。
気持ち良かったからって、ズルズルとセフレなんかにされたらおしまいだ。
心地良いからとノロノロとしているわけにはいかない。
逃げ道を示されている間に逃げなくては。
「・・・。あ、ありがとうございます」
私はありがたく帰宅を選んだ。
「間に合うといいね。じゃあ、ソーセージは茹でたので」
ソーセージ?
何言ってんの、この人?
「へ?」
間の抜けた声が出てしまった。
「生や焼いたソーセージは好きじゃないから、ソーセージは茹でたのがいい」
「何言ってるんですか?」
手料理を振る舞う機会もないし、夏川先輩の好き嫌いなんか教えてくれなくていいですよ。
呆れた私はジト目になってしまった。
「だから、お弁当の中に入れて欲しいリクエストだよ」
心の声は表情に出ていた筈なのに、夏川先輩はご機嫌な様子で続ける。
お弁当?
なんでお弁当の話になってんの?
「なんでお弁当のリクエストをしてるんですか?」
「春原には作ってやって、僕には作ってくれないの? そういう差別されると傷付くよ」
「差別って、あいつは彼氏で、夏川先輩は違うじゃないですか?!」
後になってから考えてみると、お弁当のおかずをリクエストしてくるあたりでこの時、既に夏川先輩は付き合っていると思っていたに違いない。
「あ。駄目かあ。相性良いと思ったのに、残念」
夏川先輩は楽しそうに苦笑した。
相性良いって・・・。
そう言えば、「付き合う前に試すか、試してみて付き合わないか」とか「付き合ってみて、なんか違うと思うより、ヤってみて恋人なのか友達なのか判断したほうが簡単明瞭じゃないか」とか言ってたっけ。
駄目だ、この人。
判断の基準がおかしい。
「春原と別れたいなら、僕と付き合えば追い払うのも楽だよ」
「は?」
今度はなんて言った?
あいつと別れたいなら、自分と付き合えば楽?
追い払うとか言わなかったっけ、この人?
部活で可愛がっている後輩とその彼女が別れるのを笑いながら提案するって何?
本当に後輩可愛がってんの?
・・・。
その可愛がってる後輩に彼女をNTRれたんだっけ・・・。
それで後輩に彼女をNTRせさせたんだっけ・・・。
クズにクズの後輩がいて、そのクズ後輩と簡単に別れる為にクズ先輩と付き合えって、これ、なんて冗談?
「だから。僕と付き合うメリットだよ」
夏川先輩と付き合うのはデメリットしか思い浮かばない。
テニス部の王子様と付き合うことで女子から嫉妬と嫌がらせをされる。
お弁当を作らせられる。
ヤりたいだけヤられる。
構ってもらえない。
彼女と言う名のセフレになる。
メリットはどこに行った?
好きでも嫌いでもない相手だから、これぐらいしか思い浮かばないけど、こう言うところを代々の夏川先輩の彼女が耐えてきたかと思うとすごいことだと思う。
だけど――
「順番おかしいですよ。いくらメリットを言っても駄目です。付き合う前にお弁当のおかずのリクエストするのもおかしいです。付き合うかどうかの前に浮気した彼女とはまだ別れてないんでしょ?」
彼女に浮気されたのは知っているけど、まだ別れたかどうかは聞いていない。
あいつと違って、私はそこのところを気にする。
今回は流されただけだ。
二度と付け入る隙は与えない。
「そのことは安心して。とっくに別れたから」
「別れた?」
「浮気したと知った瞬間別れた。告白してきたから付き合ってあげていたのに、浮気するような子とこれ以上、付き合う義理はないからね」
付き合ってあげていた?
なんで上から目線?
「何言ってるんですか? 付き合ってあげたって?」
「僕は付き合っても付き合わなくてもどちらでも良かったんだよ。互いに好都合だからと思って付き合ったら、かまってくれないとか、文句ばかり言う。自分が僕にふさわしい努力をしているんだから、それを僕に報いて欲しいなんてね」
「・・・」
どちらでもいいから付き合ってあげていただなんて。
互いに好都合って、ヤらしてくれるから付き合っていたの?
クズだ。
自分勝手すぎる。
付き合うって意味が間違ってる。
この人の付き合う感覚って、恋人と付き合う感覚じゃないよ。
私は夏川先輩との認識の違いにドン引きした。
「僕が何年も費やしてきたテニスを後回しにしろって、何様だって思ったよ。おかげで気が合うのはベッドだけ。価値観が違いすぎる子と付き合うのは苦痛でしかなかったよ」
「・・・」
駄目だ、この人。マジでクズだ。
テニスのほうが彼女より大切なんだろうけど、赤の他人って言うのはひどすぎる。この人の中でテニスと彼女の間に越えられない壁を感じる。
ここまでくると彼女と言うより、セフレじゃないの?
他人事のようにそう思ったが、この人から付き合おうって言われていたのを思い出した。
付き合いたくない。
あいつは初めて作ったお弁当を美味しいと言って食べてくれた。歪な形のおにぎりに、焦げたところをそぎ落とした鶏のから揚げ、形の崩れた卵焼き、ウィンナーはタコでもウサギでもない猟奇的なもの。どれも見た目から良くなかったのに全部食べてくれた。味だって、お母さんに手伝ってもらって、私は焼いたり揚げたりしただけ。
それをずっと食べてくれて。
あいつが美味しいと言って食べてくれるから、私は作り続けた。
浮気はしたけど、あいつのおかげで私は料理がうまくなった。
あいつとこの人は違いすぎる。
あいつは浮気もしたけど、彼女として扱ってくれた。
この人にはそれができない。
あいつや噂から夏川先輩が振られたと聞いても、それで荒れたというのは聞いたことがない。何事もなかったかのように、いつも通りだった。私たちが入学した時には振られることに慣れてしまっていたのかもしれない。
だからこそ、この人にとってテニスが何よりも大切なのだろう。
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