浮気した彼氏のせいでNTRれた私

プラネットプラント

文字の大きさ
51 / 74
過ぎいく夏

【閑話】正義感と・・・

しおりを挟む
 秋山は気にすることじゃないと言ったけど、俺は秋山の沈んだ表情が気になった。
 知り会う前に言って欲しかったという言葉も気になる。
 秋山がバイトをし始めた時、俺は秋山が噂になってる人物だとは知らなかった。
 元々、俺は目付きが悪いせいか、不良と間違われることが多くて、昔からの友達くらいしかいない。そのおかげで学校の噂話にも、うとかった。

 でも、学校で秋山と何度か話すことがあって、そのあと女子が「信じらんない。テニス部の夏川先輩と付き合ってるのに、今度は冬野まで取り込む気? 前の彼氏とだってまだ別れていないんでしょ?」と話しているのが聞こえた。

 テニス部の夏川先輩のことは部活紹介の時に見かけただけだったが、俺と違って万人受けする容姿をしていて、羨ましいと思っていた。
 その夏川先輩が秋山の彼氏?
 秋山のことがちょっと可愛いし、一生懸命なところがいいと思っていたので、彼氏がいたと知ってやっぱりと思ってしまう。

 だけど、女子の話に出てきた前の彼氏と秋山がどんな関係かは知らないし、夏川先輩と付き合っていることだって初めて知った。だけど、その話のおかげで、バイト先に夏川先輩が来た時に秋山の様子がおかしくなったことに不審を抱いた。
 普通、彼氏がバイト先に来たら、喜びこそすれ、あんなふうに顔色が悪くなるはずがない。様子だって、挙動不審になっていた。
 秋山と夏川先輩は普通の関係じゃない。

 昨日、秋山が見せたつらそうな表情を見て、それがはっきりわかった。
 秋山は何らかの理由で夏川先輩と付き合うことになったんだ。そうじゃなきゃ、「鬼。悪魔。鬼畜」なんて言葉が出てくるはずがない。

 俺は翌日、朝練が終わったばかりの夏川先輩を校舎に入る前に捕まえることにした。

「夏川先輩ですか?」

 少し湿っている柔らかそうな髪と女子どもが好きそうな顔立ちを前にして、気が引ける。王子様と形容されるだけあって、夏川先輩は俺とは正反対だ。

「そうだけど。何か用?」

 首を傾げる様すら、絵になっている。
 俺がやったら脅していると見られるのに、なんなんだ、こいつは。
 俺は自分と正反対に人好きする容姿をしている夏川先輩との違いに愕然としながら、用件を切り出した。

「秋山と別れてくれませんか。彼女が嫌がっているのわからないんですか?」

 秋山の名前を聞いた夏川先輩は目を細める。

「なんで、君にそんなこと言われないといけないんだ?」

 少し不機嫌そうに言われ、俺は諦めていた秋山の表情を思い出す。夏川先輩は秋山が自分のものだと思っているんだろう。それなら、秋山に選択権はない。
 事前に聞いていた話だと、夏川先輩は彼女と長続きしないらしい。
 だからといって、別れるまで秋山を苦しめさせておくわけにはいかない。
 俺は秋山に笑っていて欲しい。
 つらそうな表情や沈んだ表情は見たくない。

「なんでって・・・。なんでもないって言いながら、秋山がつらそうな顔しているからに決まっているじゃないですか」
「君、実花のことが好きなんだ」

 心の中を探るように見られ、俺はたじろいだ。秋山のつらそうな表情が見たくないと思う気持ちより深い部分まで見られているような気がした。

 俺だって高校生だし、女子と付き合いたいとは思う。
 だけど、この顔(ツラ)じゃ、気が合う子と付き合うのは無理だってのもわかっている。
 中学の頃から俺に言い寄って来るのは、ヤバそうに見えるところがいいという、関わりたくないタイプの女子ばかりだ。
 もっと、普通な子と付き合いたい。
 俺は不良じゃないし、巻き込まれることもあるからヤバいことは嫌いだし、鹿(か)ののことも大切にしてくれる子と付き合いたい。

 どうして、そんな子と出会えないんだろう?

 そう思っていた時に、秋山と出会った。

「それは、まあ・・・」

 付き合いたいと思っていた。
 最後までは口にしていなくても、夏川先輩にはわかったんだろう。
 人好きする顔を真面目にして俺に向けた。

「実花が俺と付き合っているのわかってて、それをやめさせたくないくらい好きなんだろう? それとも、他人の彼女を横取りするのが好きなのか?」

 横取りとかそんなんじゃない。
 そんな気持ちは多分ない。
 俺はただ――

「あんたと付き合ってることで彼女が苦しんでいるんだ。その苦しみから救ってやりたいと思って何が悪い?」

 夏川先輩は険しい表情をした。

 俺の言ったことの何が悪いんだ?
 助けたいと思うのは普通だろう?

「悪いよ。すごく悪い。身勝手な同情や正義感なんかで、余計なことをしないでくれ」

 同情?
 正義感?
 余計なことってなんだよ?
 秋山が不幸だってのに、どうして余計なことだって言うんだ?!

「そんなもんじゃない! 俺はただ――」
「不幸そうな実花を助けて、そんな自分に酔いたいだけだろう?」

 嘲笑うように言われた夏川先輩の言葉を否定する。

「違う! 俺は秋山を助けたくて――」

 夏川先輩の視線が俺を射抜く。

「実花を助けるなんて、そんなのはただの自己満足だ。俺は実花を満足させているし、君が口出しする問題じゃないよ」

 満足って、それは・・・。
 生々しい発言に顔が熱くなるのがわかる。
 付き合っているんだから、色々なことが込みなのもわかっている。
 だけどさ――

「・・・あんたは秋山の気持ちを考えたことあるのかよ!」
「それはこっちのセリフだよ。君は実花の気持ちを考えてこんなことをしているのか? 俺から奪うくらい実花のことが好きじゃないなら、黙っていてくれ」

 秋山は何も言わないけど、付き合っているからって好き勝手していいわけじゃない。
 俺の目から見て、こいつと会っていた時の秋山の様子はおかしい。
 付き合っている時の楽しそうな様子がほぼない。
 なんか、付き合いたいと思っていないのに無理やり付き合わされているように見える。

 でも、運動部でスキャンダルは禁物だ。たかが、部員の喫煙でも部活の休止や出場停止に発展する。部長の恋愛沙汰でも場合によっては影響は出るだろう。
 ただ、夏川先輩は振られることで有名な人物だ。それでいて、振られても、問題を起こしていない。問題を起こすより先に別の相手と付き合っているのか、そこまで感情的にならない性格なのか・・・。
 今までは問題がなかった夏川先輩でも、今回は何かあるかもしれない。

「あんた、部長やってるテニス部がどうなっても、かまわないのか?」
「悪いけど、そんな脅しは効かないよ。俺も部員も何もしてないし」

 はったりをかけてみても、夏川先輩はどこ吹く風という感じで動じない。

 秋山にあんな表情をさせているくせに。

「秋山にあんな顔させておいて?」

 ニッコリと微笑みかけられて、俺の憤りは軽くいなされた。

「それでも、君には関係ないだろ? 赤の他人なんだし、恋人同士のちょっとした行き違いなんかに首突っ込んで痛い目に遭うのは自分だよ」

 他人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまえというけど、秋山の場合は絶対違う。夏川先輩がこんなふうに言ってくるんだから、普通の話じゃない。
 だけど、俺は夏川先輩にこれ以上、どう言ったらいいのかわからない。俺は秋山と付き合っているわけじゃなくて、秋山からは放っておいて欲しいと言われているのに夏川先輩のところに来てしまっていて、ただの気の合うバイト仲間でしかなくて。
 そんな俺に言えることがあるんだろうか?

「秋山はあんたなんかには、もったいないくらいいい奴なんだよ!」

 俺が言えるのはこれくらいだった。
 でも、何を言っていいのかわからず、思いを全部込めた言葉に夏川先輩は今までとは違う反応した。哀しそうに夏川先輩は笑う。

「そうだね。実花はいい子だよ」

 わかっているなら、苦しめないで欲しい。
 どうして、秋山を苦しめるんだ?

「だったら、なんで――」
「いい子だから、虫(・)が付きやすいんだよ。悪いけど、忙しいから」

 夏川先輩はそう言って、立ち去った。追いかけても取り付く島もない対応をされて、話にならなかった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...