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過ぎいく夏
安定のチャラい発言いただきました。
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「そんなに欲しいなら、秋山も鹿(か)のを妹にしたらいいよ」
なんでもないことのように気軽に冬野さんが言う。
そんな簡単に言っちゃ駄目だよ。鹿(か)の子ちゃんの可愛さは至宝なんだから。
「シン兄ィ! なんでそんなこと、言うの?!」
言われた鹿(か)の子ちゃんもギョッとしたらしく、私に対する態度とは違う様子で冬野さんに言う。
「そうだよ。いきなりすぎるよ。私と鹿(か)の子ちゃんは今日会ったばかりだし、仲良くなれるかどうかわからないし」
引かれているというか、警戒されている私と仲良くなれる日なんて、かなり時間がかかると思うし、やっぱり夏川先輩のことがあって、冬野さんとは距離を置いておきたい。味方には味方のままでいてもらいたいから。
「だけど、秋山は話したこともない鹿(か)のの魅力がわかるんだから、きっと大丈夫だよ」
魅力はわかっても、鹿(か)の子ちゃんに思いっきり警戒されているから無理じゃない・・・?
「でも、何年も付き合いがあるならともかく、会ったばかりで冬野さんみたいにはなれないよ」
冬野さんとは逆に警戒されまくってるから、それが解けるまで何年もかかりそう。
今は仲良くなったから、冬野さんは自分が顔が怖いと怖がられていたことすら忘れていそうだ。
あのチャラい話し方はしっかり今も実行しているのに、怖がられていた鹿(か)の子ちゃんと兄妹同然の仲になるまでの過程は忘れているなんて、なんというか、まあ・・・。
「鹿(か)のも秋山もいい奴だから、きっと気が合うと思うんだけどなあ」
「それにしても早すぎだって。ねえ?」
冬野さんが納得してくれないので、私は鹿(か)の子ちゃんに同意を求める。
「あ、・・・うん」
「ほら」
私の言葉に戸惑いがちに同意する鹿(か)の子ちゃんの様子に冬野さんは二人が気が合うから同じ意見になるんだとばかりの目を向けてきた。
それはない。鹿(か)の子ちゃんは積極的に私と仲良くなりたいとは思っていない。
冬野さんがいなかったら、話もせずに逃げ出しただろう。
それぐらい警戒されている。親しくなる前にそれをどうにかしないといけないレベルだ。
冬野さんにまた何か言われる前に話を変えることにした。
「・・・。ところで、二人はどこに行くの?」
私たちの最寄り駅は隣りだ。鹿(か)の子ちゃんを連れて梅木町に来ているから、港側にある遊園地かショッピングセンターに用があるんだろう。ショッピングセンターはよくイベントがやっているし、屋上庭園や遊べるところ、体感型の施設があるから。
「鹿(か)のの絵の具買いにショッピングセンターまで行くとこ」
最寄り駅の傍にも商店街がある。これが大きめの商店街で、表通りに面した店は年中無休ぐらいの勢いで開いている。
絵の具なんてどこで買っても同じものだけど、あの商店街を冬野さんが歩いていたら職質される可能性がある。鹿(か)の子ちゃんがいてもそれは変わらない。
学校の制服を着ていて、鹿(か)の子ちゃんと一緒ならどうにか職質されないだろう(50%)。
なら、家の近くのコンビニやバイト先のコンビニで買えばいいんだけど、店によっては売っていないこともある。
そうなると、梅木町のショッピングセンターに行くほうが早い。
梅木町のショッピングセンターはいくつもある。それぞれコンセプトが違うし、百貨店が入っているものもあって、あそこだったら絶対に絵の具だって売っている。
「絵の具かあ。何色?」
「白」
「白か~。白はよくなくなるよね~」
鹿(か)の子ちゃんは何も言わずに頷いた。
「秋山も暇なら一緒に行かないか?」
鹿(か)の子ちゃんともう少し一緒にいられる嬉しいお誘いだったけど、こんなに警戒されている状態で一緒に行っても、鹿(か)の子ちゃんを疲れさすだけのような気がする。
それに今日は夕食の手伝いをする予定もあるし。
「うーん、ごめん。今日はちょっとやめとく。また別の日に誘って」
冬野さんは鹿(か)の子ちゃんを見ながら言う。
「ああ、そうだよな。いきなりだったもんな。じゃあさ、花木小の盆踊りは?」
鹿(か)の子ちゃんと仲良くする機会をあげようっていうには、盆踊りはちょっと強引じゃない?
梅木町の港側でも盆踊り大会はやっている。でも、これは小学校や公園でおこなわれる地域密着の盆踊り大会じゃない。
いくら、このあたりのイベントに参加しているとはいっても、盆踊りだけは家の近所のものに参加している。別の日に違う場所とかでやっている盆踊りにも行くけど、大会梅木町の港側の盆踊り大会に行くことは少ない。
花木小は冬野さんたちの家の近くの盆踊りの会場なんだろう。
盆踊りは近所で開催されているものに行くという共通点があって、冬野さんに親しみが増した。同じ街に住んでいて、同じイベントを楽しみにしている仲間だったし、そこにまた一つ共通点があったんだからそうなるよね。
鹿(か)の子ちゃんのことだけじゃなくて、同じ感覚を持つ者同士、自分の気に入っているものを相手にも気に入ってもらえるから勧めたくなるのもわかる。鹿(か)の子ちゃんと仲良くなれるように強引に誘ってくれたと思ったけど、こっちも兼ねているんだったら仕方ないか。
冬野さんの意図がわかって、花木小の盆踊りのお誘いにのることにした。
問題はその花木小の盆踊りがいつやるのか、だ。
色々重なったら夏川先輩の脅しが実行されかねないし、イベントのある日だったらバイトが終わってからになる。普通、盆踊り大会は二日間おこなわれるから、そのどちらか都合の良い日に出たらいいだろう。
「シン兄ィ?」
鹿(か)の子ちゃんもまだ一ヵ月以上先の話に戸惑っているようだ。
「花木小の盆踊り? 盆踊りって、土日でしょ? イベントと重なったら、行けないんじゃない?」
「あ! バイト忘れてたよ。だけど、盆踊りっていろんなとこでやってるから、一つくらいイベントと重なっていないこともあるんじゃないかな。それに始まる時間も19時だからバイト終わった後だし」
そういえばそうだった。
花火大会とかなら、開始の何時間も前から場所取りをしないといけないけど、盆踊りは開始から終わるまでならいつ行ってもいい。目的が出店なら早めに行くほうがいいし、盆踊りや友達目当てならいつだってかまわないから。
19時ならバイト先から充分間に合うし、夏川先輩の予定とかち合うかどうかだな。
「19時なら間に合うね。行けるかどうか、確かめてみる」
「よかった。秋山と行きたかったんだよ」
安定のチャラい発言いただきました。
「・・・」
私と冬野さんは行く気満々だけど、鹿(か)の子ちゃんの様子がおかしい。下を向いている。
「鹿(か)の子ちゃんは大丈夫なの?」
「鹿(か)の? 鹿(か)のは毎年一緒に行ってるから大丈夫だよ」
毎年行っていて、鹿(か)の子ちゃんが花木小に通っているから、そこまで一人で行けるかもしれないけど、鹿(か)の子ちゃんはまだ小学生でも低学年くらいだ。高学年なら、花木小で直接待ち合わせても気にならないけど・・・。
「・・・」
鹿(か)の子ちゃんも不安そうに冬野さんを見上げている。
通っている小学校でも、いくら盆踊りがあるからって、夜に一人で行くのは怖いんだろう。
そうなると、バイト先からでも直接行けそうな私たちと違って、鹿(か)の子ちゃんはバイトが終わる頃にお母さんに駅前のコンビニまで連れて来てもらうしかない。それより前に連れて来てもらってバイトが終わるのを待ってもらったら、盆踊りの前に疲れてしまうかもしれないし、どう合流するのか問題がある。
「そうじゃなくて。バイトの帰りに待ち合わせするなら、鹿(か)の子ちゃんにコンビニまで来てもらったほうがいいけど、一人で来させるのは危なくない?」
「夏だから外はまだ明るいと思うけど、イベントの後は人混みがあるからなあ。送って来てもらったほうがいいか」
「迎えに行ってもいいんじゃない? 花木小って、冬野さんの家の近所なんでしょ?」
冬野さんの家も知らないし、同じ街でも花木小の位置までは知らないから、二つがどのくらいはなれているかわからない。でも、学区に入っているくらいは近いと思う。
「ああ。近所だよ。連れて来てもらわなくても、迎えに行けばいいか。そうすりゃ、おばさんたちに迷惑かけなくてすむし」
近所の小学校で間違いないらしい。
夏川先輩と約束しているのは金土日。土曜日は行かなくてもいいらしいけど、金曜日と日曜日は外せない。日曜日だけだったら、前みたいにひどい目に遭わされるし、全部すっぽかせば脅しが実行される。
それだけは避けたい。
花木小の盆踊り大会が金土で冬野さんが土曜日に誘ってくれたら問題ないけど、金曜日に誘われたら夏川先輩がどう出るかわからない。
土日開催でも、日曜日に誘われたりなんかしたら、これまた何が起こるかわからない。
あらかじめ、夏川先輩に相談して、言質をとっておく必要がある。
「それじゃあ、行けるかどうか確かめてみる。行けたら行くよ」
「日にちとか聞かなくていいの?」
日にちを聞かずに行けるかどうか確かめるのは変だろう。
でも、相手が夏川先輩だから仕方ない。普通の人と考え方が異なっているから、あとでそれに気付いてひどい目に遭いたくない。
「日にちよりなにより、都合を聞かないといけないから」
「都合って、彼氏?」
普通はそう思うよね。
絶対、あんなの彼氏じゃない!
「違う違う違う。腐れ縁。鬼。悪魔。鬼畜」
恨みやら恨みやら恨みやらを込めて言う。
恨みしかないのは、あいつに私をNTRたいとか言い始めて、学校や両親に付き合っていると思い込ませて、挙句に脅して彼女(セフレ)にしたからだ。
「なんだかすごいことになってるけど、大丈夫なのか? 困ったことがあったら、力になるから話してくれよ」
表情にも気持ちがかなり出てしまったらしい。冬野さんが心配そうに言う。
「もっと早くそう言って欲しかったよ。知り会う前くらい前に」
無理難題ありすぎだとは言った本人も思う。
だけど、あいつが浮気したと聞いて、傷心を慰める為にバイトを始めていたら、冬野さんにきっと救われた。今頃、付き合いたいと思っていただろう。ワイルドだけどイケメンで、チャラい発言をするけど優しい人だから。
「そんなの今からでも遅くないから――」
「大丈夫だって。いつまでも続くことじゃないし」
夏川先輩は卒業までと言っていたし、この一年は犬に噛まれた(浮気する彼氏と彼女をセフレとしか思っていない彼氏と付き合ってしまった)とでも思って、黒歴史に入れておくことにする。
10年後ぐらいに異世界トリップして、そこで誰かと恋に落ちる運命なんだと受け入れよう。その時にこの一年なんか記憶から抹消して、幸せになってやる。
「そうは言ってもなあ・・・」
「冬野さんが気にすることじゃないから」
明るくそう言ったら、冬野さんは難しそうな表情をした。
「・・・。前にバイト先に来た奴か? あれ、テニス部の夏川先輩だろ?」
この前、夏川先輩が来た日曜日のことを思い出したらしい。
学校の制服を着ていなくても、夏川先輩は同じ学校じゃ有名人だし、気付いたらしい。
もしかしたら、私が夏川先輩と付き合っている噂のことも知っているかもしれない。
だけど、それについて言いたくない。
「・・・。黙秘します」
冬野さんは諦めたように大きく息を吐いた。
「盆踊りの日にちが決まったらまた連絡するよ」
私の気持ちを慮ってくれた冬野さんはそれ以上、何も追求しなかった。
なんでもないことのように気軽に冬野さんが言う。
そんな簡単に言っちゃ駄目だよ。鹿(か)の子ちゃんの可愛さは至宝なんだから。
「シン兄ィ! なんでそんなこと、言うの?!」
言われた鹿(か)の子ちゃんもギョッとしたらしく、私に対する態度とは違う様子で冬野さんに言う。
「そうだよ。いきなりすぎるよ。私と鹿(か)の子ちゃんは今日会ったばかりだし、仲良くなれるかどうかわからないし」
引かれているというか、警戒されている私と仲良くなれる日なんて、かなり時間がかかると思うし、やっぱり夏川先輩のことがあって、冬野さんとは距離を置いておきたい。味方には味方のままでいてもらいたいから。
「だけど、秋山は話したこともない鹿(か)のの魅力がわかるんだから、きっと大丈夫だよ」
魅力はわかっても、鹿(か)の子ちゃんに思いっきり警戒されているから無理じゃない・・・?
「でも、何年も付き合いがあるならともかく、会ったばかりで冬野さんみたいにはなれないよ」
冬野さんとは逆に警戒されまくってるから、それが解けるまで何年もかかりそう。
今は仲良くなったから、冬野さんは自分が顔が怖いと怖がられていたことすら忘れていそうだ。
あのチャラい話し方はしっかり今も実行しているのに、怖がられていた鹿(か)の子ちゃんと兄妹同然の仲になるまでの過程は忘れているなんて、なんというか、まあ・・・。
「鹿(か)のも秋山もいい奴だから、きっと気が合うと思うんだけどなあ」
「それにしても早すぎだって。ねえ?」
冬野さんが納得してくれないので、私は鹿(か)の子ちゃんに同意を求める。
「あ、・・・うん」
「ほら」
私の言葉に戸惑いがちに同意する鹿(か)の子ちゃんの様子に冬野さんは二人が気が合うから同じ意見になるんだとばかりの目を向けてきた。
それはない。鹿(か)の子ちゃんは積極的に私と仲良くなりたいとは思っていない。
冬野さんがいなかったら、話もせずに逃げ出しただろう。
それぐらい警戒されている。親しくなる前にそれをどうにかしないといけないレベルだ。
冬野さんにまた何か言われる前に話を変えることにした。
「・・・。ところで、二人はどこに行くの?」
私たちの最寄り駅は隣りだ。鹿(か)の子ちゃんを連れて梅木町に来ているから、港側にある遊園地かショッピングセンターに用があるんだろう。ショッピングセンターはよくイベントがやっているし、屋上庭園や遊べるところ、体感型の施設があるから。
「鹿(か)のの絵の具買いにショッピングセンターまで行くとこ」
最寄り駅の傍にも商店街がある。これが大きめの商店街で、表通りに面した店は年中無休ぐらいの勢いで開いている。
絵の具なんてどこで買っても同じものだけど、あの商店街を冬野さんが歩いていたら職質される可能性がある。鹿(か)の子ちゃんがいてもそれは変わらない。
学校の制服を着ていて、鹿(か)の子ちゃんと一緒ならどうにか職質されないだろう(50%)。
なら、家の近くのコンビニやバイト先のコンビニで買えばいいんだけど、店によっては売っていないこともある。
そうなると、梅木町のショッピングセンターに行くほうが早い。
梅木町のショッピングセンターはいくつもある。それぞれコンセプトが違うし、百貨店が入っているものもあって、あそこだったら絶対に絵の具だって売っている。
「絵の具かあ。何色?」
「白」
「白か~。白はよくなくなるよね~」
鹿(か)の子ちゃんは何も言わずに頷いた。
「秋山も暇なら一緒に行かないか?」
鹿(か)の子ちゃんともう少し一緒にいられる嬉しいお誘いだったけど、こんなに警戒されている状態で一緒に行っても、鹿(か)の子ちゃんを疲れさすだけのような気がする。
それに今日は夕食の手伝いをする予定もあるし。
「うーん、ごめん。今日はちょっとやめとく。また別の日に誘って」
冬野さんは鹿(か)の子ちゃんを見ながら言う。
「ああ、そうだよな。いきなりだったもんな。じゃあさ、花木小の盆踊りは?」
鹿(か)の子ちゃんと仲良くする機会をあげようっていうには、盆踊りはちょっと強引じゃない?
梅木町の港側でも盆踊り大会はやっている。でも、これは小学校や公園でおこなわれる地域密着の盆踊り大会じゃない。
いくら、このあたりのイベントに参加しているとはいっても、盆踊りだけは家の近所のものに参加している。別の日に違う場所とかでやっている盆踊りにも行くけど、大会梅木町の港側の盆踊り大会に行くことは少ない。
花木小は冬野さんたちの家の近くの盆踊りの会場なんだろう。
盆踊りは近所で開催されているものに行くという共通点があって、冬野さんに親しみが増した。同じ街に住んでいて、同じイベントを楽しみにしている仲間だったし、そこにまた一つ共通点があったんだからそうなるよね。
鹿(か)の子ちゃんのことだけじゃなくて、同じ感覚を持つ者同士、自分の気に入っているものを相手にも気に入ってもらえるから勧めたくなるのもわかる。鹿(か)の子ちゃんと仲良くなれるように強引に誘ってくれたと思ったけど、こっちも兼ねているんだったら仕方ないか。
冬野さんの意図がわかって、花木小の盆踊りのお誘いにのることにした。
問題はその花木小の盆踊りがいつやるのか、だ。
色々重なったら夏川先輩の脅しが実行されかねないし、イベントのある日だったらバイトが終わってからになる。普通、盆踊り大会は二日間おこなわれるから、そのどちらか都合の良い日に出たらいいだろう。
「シン兄ィ?」
鹿(か)の子ちゃんもまだ一ヵ月以上先の話に戸惑っているようだ。
「花木小の盆踊り? 盆踊りって、土日でしょ? イベントと重なったら、行けないんじゃない?」
「あ! バイト忘れてたよ。だけど、盆踊りっていろんなとこでやってるから、一つくらいイベントと重なっていないこともあるんじゃないかな。それに始まる時間も19時だからバイト終わった後だし」
そういえばそうだった。
花火大会とかなら、開始の何時間も前から場所取りをしないといけないけど、盆踊りは開始から終わるまでならいつ行ってもいい。目的が出店なら早めに行くほうがいいし、盆踊りや友達目当てならいつだってかまわないから。
19時ならバイト先から充分間に合うし、夏川先輩の予定とかち合うかどうかだな。
「19時なら間に合うね。行けるかどうか、確かめてみる」
「よかった。秋山と行きたかったんだよ」
安定のチャラい発言いただきました。
「・・・」
私と冬野さんは行く気満々だけど、鹿(か)の子ちゃんの様子がおかしい。下を向いている。
「鹿(か)の子ちゃんは大丈夫なの?」
「鹿(か)の? 鹿(か)のは毎年一緒に行ってるから大丈夫だよ」
毎年行っていて、鹿(か)の子ちゃんが花木小に通っているから、そこまで一人で行けるかもしれないけど、鹿(か)の子ちゃんはまだ小学生でも低学年くらいだ。高学年なら、花木小で直接待ち合わせても気にならないけど・・・。
「・・・」
鹿(か)の子ちゃんも不安そうに冬野さんを見上げている。
通っている小学校でも、いくら盆踊りがあるからって、夜に一人で行くのは怖いんだろう。
そうなると、バイト先からでも直接行けそうな私たちと違って、鹿(か)の子ちゃんはバイトが終わる頃にお母さんに駅前のコンビニまで連れて来てもらうしかない。それより前に連れて来てもらってバイトが終わるのを待ってもらったら、盆踊りの前に疲れてしまうかもしれないし、どう合流するのか問題がある。
「そうじゃなくて。バイトの帰りに待ち合わせするなら、鹿(か)の子ちゃんにコンビニまで来てもらったほうがいいけど、一人で来させるのは危なくない?」
「夏だから外はまだ明るいと思うけど、イベントの後は人混みがあるからなあ。送って来てもらったほうがいいか」
「迎えに行ってもいいんじゃない? 花木小って、冬野さんの家の近所なんでしょ?」
冬野さんの家も知らないし、同じ街でも花木小の位置までは知らないから、二つがどのくらいはなれているかわからない。でも、学区に入っているくらいは近いと思う。
「ああ。近所だよ。連れて来てもらわなくても、迎えに行けばいいか。そうすりゃ、おばさんたちに迷惑かけなくてすむし」
近所の小学校で間違いないらしい。
夏川先輩と約束しているのは金土日。土曜日は行かなくてもいいらしいけど、金曜日と日曜日は外せない。日曜日だけだったら、前みたいにひどい目に遭わされるし、全部すっぽかせば脅しが実行される。
それだけは避けたい。
花木小の盆踊り大会が金土で冬野さんが土曜日に誘ってくれたら問題ないけど、金曜日に誘われたら夏川先輩がどう出るかわからない。
土日開催でも、日曜日に誘われたりなんかしたら、これまた何が起こるかわからない。
あらかじめ、夏川先輩に相談して、言質をとっておく必要がある。
「それじゃあ、行けるかどうか確かめてみる。行けたら行くよ」
「日にちとか聞かなくていいの?」
日にちを聞かずに行けるかどうか確かめるのは変だろう。
でも、相手が夏川先輩だから仕方ない。普通の人と考え方が異なっているから、あとでそれに気付いてひどい目に遭いたくない。
「日にちよりなにより、都合を聞かないといけないから」
「都合って、彼氏?」
普通はそう思うよね。
絶対、あんなの彼氏じゃない!
「違う違う違う。腐れ縁。鬼。悪魔。鬼畜」
恨みやら恨みやら恨みやらを込めて言う。
恨みしかないのは、あいつに私をNTRたいとか言い始めて、学校や両親に付き合っていると思い込ませて、挙句に脅して彼女(セフレ)にしたからだ。
「なんだかすごいことになってるけど、大丈夫なのか? 困ったことがあったら、力になるから話してくれよ」
表情にも気持ちがかなり出てしまったらしい。冬野さんが心配そうに言う。
「もっと早くそう言って欲しかったよ。知り会う前くらい前に」
無理難題ありすぎだとは言った本人も思う。
だけど、あいつが浮気したと聞いて、傷心を慰める為にバイトを始めていたら、冬野さんにきっと救われた。今頃、付き合いたいと思っていただろう。ワイルドだけどイケメンで、チャラい発言をするけど優しい人だから。
「そんなの今からでも遅くないから――」
「大丈夫だって。いつまでも続くことじゃないし」
夏川先輩は卒業までと言っていたし、この一年は犬に噛まれた(浮気する彼氏と彼女をセフレとしか思っていない彼氏と付き合ってしまった)とでも思って、黒歴史に入れておくことにする。
10年後ぐらいに異世界トリップして、そこで誰かと恋に落ちる運命なんだと受け入れよう。その時にこの一年なんか記憶から抹消して、幸せになってやる。
「そうは言ってもなあ・・・」
「冬野さんが気にすることじゃないから」
明るくそう言ったら、冬野さんは難しそうな表情をした。
「・・・。前にバイト先に来た奴か? あれ、テニス部の夏川先輩だろ?」
この前、夏川先輩が来た日曜日のことを思い出したらしい。
学校の制服を着ていなくても、夏川先輩は同じ学校じゃ有名人だし、気付いたらしい。
もしかしたら、私が夏川先輩と付き合っている噂のことも知っているかもしれない。
だけど、それについて言いたくない。
「・・・。黙秘します」
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