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過ぎいく夏
まあ、二人が一癖も二癖もあるのは否定できない。
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水着を買いに行ったり、猫ノ島まで泳ぎに行ったり、夏川先輩との週末の約束さえすっぽかさないでいたら、夏休みはどんどん平穏に過ぎて行った。
冬野さんと約束した盆踊り大会も問題ない土曜日だったし、その日はバイトが終わってから鹿(か)の子ちゃんを家まで迎えに行くことにして、当日を待つばかり。
そんなある日、私はきららと何度目かのプールに出かけていた。今日は二人だけで流れるプールもある巨大なプールにした。
水着は勿論、今年解禁になったセパレート。白と水色のストライプの可愛いやつだ。
まだ開園してそれほど時間が経っていないのに、プールにはもう人がいて、入る時にはどうなっているか、ちゃんと泳げるかどうか不安になる。急いで着替えてプールに出たら、全力で泳ぐなんてとんでもない状態だったけど、まだ泳げそうなくらいは空いていた。
「行こう、実花!」
「うん」
きららに手を引っ張られて、私も流れるプールへ向かう。日差しは強くて、日向に立っていると足の裏が火傷しそうなほど地面が熱い。
プールに入ってしまったら、涼しい気がする。
足の裏の熱さがなくなってホッとした。
「早めに来てよかった~」
「本当だね~」
きららと一緒に浮き輪につかまって流されるままプカプカしていたら、何度か人とぶつかりそうになる。でも、まだマシなほう。
午後になったら波に流されているのか、人の流れに流されているのか、わからなくなる。
公営でも流れるプールのあるここはTVとかには出なくても大人気なのだ。自動車で来ようとして、駐車場が見つからないのもよくあることだし、探しているうちに水に浸かるだけしかできなくなるのもよくある。
私たちのような高校生同士はまだ車の運転免許なんか持っていないし、電車を使うしかないから、自動車で来た時のことなんか関係ないけど。
ということで、私たちは優雅に流されて、暑さをしのいでいた。
予定じゃあ、人が増えてくるお昼過ぎにはプールから出て、家で昼食を食べることになっている。きららの家は共働きだから、我が家がその場所だ。ウチのお母さんもパートで出かけているけど、出かける前に下ごしらえはして行ってくれているから、昼食は冷蔵庫から出して簡単に火を通すか茹でるくらいで食べられる。
午後になるにつれて、日差しが強くなって、プールの水が温められていく。
「もう、帰ろっか」
「そうだね」
そろそろ帰ろうかな、と思ってプールから上がった時、見知った二人を見つけた。フリルのついたピンクのワンピース型の水着の小学生の女の子と黒っぽいハーフパンツ型の水着の少年。鹿(か)の子ちゃんと冬野さんだ。
近くに保護者がいないのか、二人だけだった。幼馴染だから、冬野さんが鹿(か)の子ちゃんをプールに連れて来たのかもしれない。
仲間連れじゃなくても近付くのに勇気の必要な冬野さんだけど、鹿(か)の子ちゃんがいてくれるおかげで、声をかける気にもなれる。
冬野さんもイケメンとはいえ、ワイルドな方向なので不良グループに入っているように見えるのだ。本人は自分のイメージを気にしているフェミニスト?なのに、何故かうまくいっていない。
雰囲気がいけないんだろうか?
投げやりそうでもないし、喧嘩腰でもないのにどうして?
「どうかした?」
足を止めたからか、きららが何事かと首を傾げた。
「知り合いがいたから」
「知り合い?」
きららはあたりを見渡して、知り合いを探す。
「知り合いって、誰? どこにいるの?」
明らかに冬野さんと鹿(か)の子ちゃんが見えているはずなのに、二人のことはスルーされている。
やっぱり・・・。冬野さんが知り合いだなんて普通は思わないよね。それもバイト先の人だなんて、思いつくはずがない。
冬野さんのことがかわいそうになってきた。本人はまともなのに見かけで誤解されているなんて・・・。
「バイト先の人だから、きららの知らない人だよ」
「バイト先の? 誰々、教えて」
プールの合同授業で何回か一緒になったから、挨拶とかしていて、きららも見ていたはずなんだけど、何度見渡しても、やっぱり冬野さんはスルーされている。時間も機会もないからきららに紹介していないから仕方ないか。
うん。触らぬ神に祟りなし、だもんね。
小学生の小さな女の子を連れていても、スルーしたくなるよね。
乾いた笑みが浮かんでしまう。
「小さな子を連れているあの怖い人だよ」
「え?! あれ?!! あれ、この前、プールの時に挨拶してた人だよね?!」
きららは目をまん丸にして驚いている。
うん。そういうリアクションになるよね。私もあの不良系イケメンの冬野さんが同じバイトをしているなんて教えられたらそうなる。
「あんな人がバイト先にいるの?! 客じゃなくて?」
バイトしているのも不思議だけど、それがコンビニバイトだもんね・・・。普通はコンビニの駐車場でたむろしていると思うよね。
なので、冬野さんのイメージアップをしっかりしておくことにした。なんといっても、冬野さんはいい人だ。外見が不良系だろうが、女性に怖がられないように親切だったり、チャラい言葉を吐いて怖がられないようにしている努力家でもある。
「バイト先で働いているよ。重い物持ってくれるし、態度の悪い客の時は代わってくれるし、頼りになる人だよ」
そんなに親切な冬野さんはパートのおばちゃんたちにも大人気だ。
「へ~、そうなんだー。見かけと違って、いい人なんだね~」
いかにも不良です、っていう外見だもんね。特に目付きが。
喧嘩上等!って感じするし。
「バイク乗り回してそうだけど、本当に普通の人だから。それどころか、気を付けないと普通にチャラいこと言ってくるから」
「チャラい?!」
「女性にお世辞言うのが怖がられない対策らしい」
佐木さんの謎の情報源からによるフェミニスト?冬野誕生秘話を話したら、きららにウケた。
「怖がられない対策って、ウケるんですけどー!」
ウケたのはいいけど、冬野さんたちに聞こえないか心配なくらい爆笑している。
聞こえたら冬野さん、絶対落ち込むよ。努力して怖がられないようにしているんだから。
「そういう人だから、あまり笑わないであげてよ」
きららはどうにか笑うのをやめて、私の背中をバンバンと叩く。服がなくて素肌を叩くから、パンパンって軽い音になってるけど。
「そういう人って。実花のまわりって、一癖も二癖もあるイケメンばかりじゃない?」
まわりのイケメンと言われても、二人しかいない。夏川先輩と冬野さんだ。
まあ、二人が一癖も二癖もあるのは否定できない。
夏川先輩のせいで始めたバイトで冬野さんと出会ったわけだし、類が友を呼ぶと言うか何と言うか。夏川先輩はイロモノだし、冬野さんは残念系だし、系統は違うけど。
「イケメンなのは夏川先輩と冬野さんぐらいだよ。どっちも、外見と一致しないイロモノか残念系だし」
「それでもすごいよ! よし。そのイロモノをこのきららに紹介しなさい」
イロモノのほうは既にきららも知ってる。
冬野さんがイロモノなんて、冬野さん本人が聞いたらこれも落ち込む。あの人、苦労してるし、それが報われていないって落ち込むに決まってる。
「そんなひどいこと言わないでくれる。冬野さんは不良っぽいけど、いい人な残念系なんだから」
「それは不良系のギャップ萌えだから、彼はイロモノじゃないの?」
不良に見えるワイルドな外見で怖がられないようにフェミニスト?≠チャラいセリフを吐くから?
不幸だ。
見かけで判断されて、誤解されやすいだけじゃなくて、ギャップ萌えの対象にされて。
「イロモノ扱いしたらかわいそうだよ」
「そんなこと言われても、ねえ」
同意を求められても困る。同意なんかしたら、冬野さんがかわいそうすぎる。
冬野さんに聞こえたら、イロモノ扱いされているところだけでも、謝っても謝りきれないくらい失礼だ。
これ以上、そんなひどいことを言わないように声を低くしてきららに注意する。
「きらら」
そんなことをしても、きららには無駄だった。
「実花と一緒にいると退屈しないね」
キラッとばかりに、きららはウィンクしてくる。
「もう!」
全然反省してない!
冬野さんと約束した盆踊り大会も問題ない土曜日だったし、その日はバイトが終わってから鹿(か)の子ちゃんを家まで迎えに行くことにして、当日を待つばかり。
そんなある日、私はきららと何度目かのプールに出かけていた。今日は二人だけで流れるプールもある巨大なプールにした。
水着は勿論、今年解禁になったセパレート。白と水色のストライプの可愛いやつだ。
まだ開園してそれほど時間が経っていないのに、プールにはもう人がいて、入る時にはどうなっているか、ちゃんと泳げるかどうか不安になる。急いで着替えてプールに出たら、全力で泳ぐなんてとんでもない状態だったけど、まだ泳げそうなくらいは空いていた。
「行こう、実花!」
「うん」
きららに手を引っ張られて、私も流れるプールへ向かう。日差しは強くて、日向に立っていると足の裏が火傷しそうなほど地面が熱い。
プールに入ってしまったら、涼しい気がする。
足の裏の熱さがなくなってホッとした。
「早めに来てよかった~」
「本当だね~」
きららと一緒に浮き輪につかまって流されるままプカプカしていたら、何度か人とぶつかりそうになる。でも、まだマシなほう。
午後になったら波に流されているのか、人の流れに流されているのか、わからなくなる。
公営でも流れるプールのあるここはTVとかには出なくても大人気なのだ。自動車で来ようとして、駐車場が見つからないのもよくあることだし、探しているうちに水に浸かるだけしかできなくなるのもよくある。
私たちのような高校生同士はまだ車の運転免許なんか持っていないし、電車を使うしかないから、自動車で来た時のことなんか関係ないけど。
ということで、私たちは優雅に流されて、暑さをしのいでいた。
予定じゃあ、人が増えてくるお昼過ぎにはプールから出て、家で昼食を食べることになっている。きららの家は共働きだから、我が家がその場所だ。ウチのお母さんもパートで出かけているけど、出かける前に下ごしらえはして行ってくれているから、昼食は冷蔵庫から出して簡単に火を通すか茹でるくらいで食べられる。
午後になるにつれて、日差しが強くなって、プールの水が温められていく。
「もう、帰ろっか」
「そうだね」
そろそろ帰ろうかな、と思ってプールから上がった時、見知った二人を見つけた。フリルのついたピンクのワンピース型の水着の小学生の女の子と黒っぽいハーフパンツ型の水着の少年。鹿(か)の子ちゃんと冬野さんだ。
近くに保護者がいないのか、二人だけだった。幼馴染だから、冬野さんが鹿(か)の子ちゃんをプールに連れて来たのかもしれない。
仲間連れじゃなくても近付くのに勇気の必要な冬野さんだけど、鹿(か)の子ちゃんがいてくれるおかげで、声をかける気にもなれる。
冬野さんもイケメンとはいえ、ワイルドな方向なので不良グループに入っているように見えるのだ。本人は自分のイメージを気にしているフェミニスト?なのに、何故かうまくいっていない。
雰囲気がいけないんだろうか?
投げやりそうでもないし、喧嘩腰でもないのにどうして?
「どうかした?」
足を止めたからか、きららが何事かと首を傾げた。
「知り合いがいたから」
「知り合い?」
きららはあたりを見渡して、知り合いを探す。
「知り合いって、誰? どこにいるの?」
明らかに冬野さんと鹿(か)の子ちゃんが見えているはずなのに、二人のことはスルーされている。
やっぱり・・・。冬野さんが知り合いだなんて普通は思わないよね。それもバイト先の人だなんて、思いつくはずがない。
冬野さんのことがかわいそうになってきた。本人はまともなのに見かけで誤解されているなんて・・・。
「バイト先の人だから、きららの知らない人だよ」
「バイト先の? 誰々、教えて」
プールの合同授業で何回か一緒になったから、挨拶とかしていて、きららも見ていたはずなんだけど、何度見渡しても、やっぱり冬野さんはスルーされている。時間も機会もないからきららに紹介していないから仕方ないか。
うん。触らぬ神に祟りなし、だもんね。
小学生の小さな女の子を連れていても、スルーしたくなるよね。
乾いた笑みが浮かんでしまう。
「小さな子を連れているあの怖い人だよ」
「え?! あれ?!! あれ、この前、プールの時に挨拶してた人だよね?!」
きららは目をまん丸にして驚いている。
うん。そういうリアクションになるよね。私もあの不良系イケメンの冬野さんが同じバイトをしているなんて教えられたらそうなる。
「あんな人がバイト先にいるの?! 客じゃなくて?」
バイトしているのも不思議だけど、それがコンビニバイトだもんね・・・。普通はコンビニの駐車場でたむろしていると思うよね。
なので、冬野さんのイメージアップをしっかりしておくことにした。なんといっても、冬野さんはいい人だ。外見が不良系だろうが、女性に怖がられないように親切だったり、チャラい言葉を吐いて怖がられないようにしている努力家でもある。
「バイト先で働いているよ。重い物持ってくれるし、態度の悪い客の時は代わってくれるし、頼りになる人だよ」
そんなに親切な冬野さんはパートのおばちゃんたちにも大人気だ。
「へ~、そうなんだー。見かけと違って、いい人なんだね~」
いかにも不良です、っていう外見だもんね。特に目付きが。
喧嘩上等!って感じするし。
「バイク乗り回してそうだけど、本当に普通の人だから。それどころか、気を付けないと普通にチャラいこと言ってくるから」
「チャラい?!」
「女性にお世辞言うのが怖がられない対策らしい」
佐木さんの謎の情報源からによるフェミニスト?冬野誕生秘話を話したら、きららにウケた。
「怖がられない対策って、ウケるんですけどー!」
ウケたのはいいけど、冬野さんたちに聞こえないか心配なくらい爆笑している。
聞こえたら冬野さん、絶対落ち込むよ。努力して怖がられないようにしているんだから。
「そういう人だから、あまり笑わないであげてよ」
きららはどうにか笑うのをやめて、私の背中をバンバンと叩く。服がなくて素肌を叩くから、パンパンって軽い音になってるけど。
「そういう人って。実花のまわりって、一癖も二癖もあるイケメンばかりじゃない?」
まわりのイケメンと言われても、二人しかいない。夏川先輩と冬野さんだ。
まあ、二人が一癖も二癖もあるのは否定できない。
夏川先輩のせいで始めたバイトで冬野さんと出会ったわけだし、類が友を呼ぶと言うか何と言うか。夏川先輩はイロモノだし、冬野さんは残念系だし、系統は違うけど。
「イケメンなのは夏川先輩と冬野さんぐらいだよ。どっちも、外見と一致しないイロモノか残念系だし」
「それでもすごいよ! よし。そのイロモノをこのきららに紹介しなさい」
イロモノのほうは既にきららも知ってる。
冬野さんがイロモノなんて、冬野さん本人が聞いたらこれも落ち込む。あの人、苦労してるし、それが報われていないって落ち込むに決まってる。
「そんなひどいこと言わないでくれる。冬野さんは不良っぽいけど、いい人な残念系なんだから」
「それは不良系のギャップ萌えだから、彼はイロモノじゃないの?」
不良に見えるワイルドな外見で怖がられないようにフェミニスト?≠チャラいセリフを吐くから?
不幸だ。
見かけで判断されて、誤解されやすいだけじゃなくて、ギャップ萌えの対象にされて。
「イロモノ扱いしたらかわいそうだよ」
「そんなこと言われても、ねえ」
同意を求められても困る。同意なんかしたら、冬野さんがかわいそうすぎる。
冬野さんに聞こえたら、イロモノ扱いされているところだけでも、謝っても謝りきれないくらい失礼だ。
これ以上、そんなひどいことを言わないように声を低くしてきららに注意する。
「きらら」
そんなことをしても、きららには無駄だった。
「実花と一緒にいると退屈しないね」
キラッとばかりに、きららはウィンクしてくる。
「もう!」
全然反省してない!
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