8 / 9
第八話
しおりを挟む
ハトガヤさんの軽妙な言葉に私は笑わずにはいられなかった。ミノベさんに話しかけられて、私にお礼を言うなんて器用な真似ができるのは、彼くらいだろう。
笑う私に続いて、ミノベさんも笑う。
「ハトガヤさんと話していると、いつもこうなんですよ」
「でしょうね」
笑い合う私とミノベさんにハトガヤさんが言う。
「露天風呂は6:00から開いてるんで、朝食前にも入れますよ。露天風呂と檜風呂に何度も浸かって一日過ごす人もいますし、宿の周りの散歩で一日潰す人もいます」
天柳旅館の過ごし方のレクチャーに当初の目的にピッタリな宿だと思った。
(露天風呂と檜風呂に入って、自然の中を散策して、ゆっくり考えられる。・・・なんて贅沢な時間の使い方!)
贅沢だとは思っても、そうでもしなければ、考える時間が取れなかった。
(彼と別れるなんて・・・、考えたくなかった。でも、考えるしかない)
これが前世だったのなら。
前世だけだったのなら、考える必要もなかった。
でも、二度目。
本当はこんな旅行なんかいらなかった。
でも、また同じ間違いをしたくない。
姉の陰に隠れて生きていく人生を、今度も送るなんて嫌だった。
私を見てくれない彼を愛し続ける惨めな女でいるのも嫌だった。
(もう、嘘はたくさん)
苦い思いで片方の口の端が上がる。声は自嘲気味になった。
「それは贅沢な過ごし方ですね」
「タナカさん?」
不審がるミノベさんに私は笑顔を作る。
(いけない。詮索されるわけにはいかない)
「都会で疲れた身体を癒すには、絶好の場所ですね」
「・・・」
ミノベさんの視線に耐えられず、私は真っ暗な窓の外に目を遣った。
笑う私に続いて、ミノベさんも笑う。
「ハトガヤさんと話していると、いつもこうなんですよ」
「でしょうね」
笑い合う私とミノベさんにハトガヤさんが言う。
「露天風呂は6:00から開いてるんで、朝食前にも入れますよ。露天風呂と檜風呂に何度も浸かって一日過ごす人もいますし、宿の周りの散歩で一日潰す人もいます」
天柳旅館の過ごし方のレクチャーに当初の目的にピッタリな宿だと思った。
(露天風呂と檜風呂に入って、自然の中を散策して、ゆっくり考えられる。・・・なんて贅沢な時間の使い方!)
贅沢だとは思っても、そうでもしなければ、考える時間が取れなかった。
(彼と別れるなんて・・・、考えたくなかった。でも、考えるしかない)
これが前世だったのなら。
前世だけだったのなら、考える必要もなかった。
でも、二度目。
本当はこんな旅行なんかいらなかった。
でも、また同じ間違いをしたくない。
姉の陰に隠れて生きていく人生を、今度も送るなんて嫌だった。
私を見てくれない彼を愛し続ける惨めな女でいるのも嫌だった。
(もう、嘘はたくさん)
苦い思いで片方の口の端が上がる。声は自嘲気味になった。
「それは贅沢な過ごし方ですね」
「タナカさん?」
不審がるミノベさんに私は笑顔を作る。
(いけない。詮索されるわけにはいかない)
「都会で疲れた身体を癒すには、絶好の場所ですね」
「・・・」
ミノベさんの視線に耐えられず、私は真っ暗な窓の外に目を遣った。
18
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
幼馴染の許嫁
山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
身代わりーダイヤモンドのように
Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。
恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。
お互い好きあっていたが破れた恋の話。
一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)
【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。
けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。
謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、
「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」
謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。
それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね――――
昨日、式を挙げた。
なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。
初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、
「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」
という声が聞こえた。
やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・
「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。
なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。
シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。
設定はふわっと。
別れ話をしましょうか。
ふまさ
恋愛
大好きな婚約者であるアールとのデート。けれど、デージーは楽しめない。そんな心の余裕などない。今日、アールから別れを告げられることを、知っていたから。
お芝居を見て、昼食もすませた。でも、アールはまだ別れ話を口にしない。
──あなたは優しい。だからきっと、言えないのですね。わたしを哀しませてしまうから。わたしがあなたを愛していることを、知っているから。
でも。その優しさが、いまは辛い。
だからいっそ、わたしから告げてしまおう。
「お別れしましょう、アール様」
デージーの声は、少しだけ、震えていた。
この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。
(本編完結)大好きな人たちのために私ができること
水無月あん
恋愛
6月18日、本編完結しました。番外編更新中です。ドルトン公爵家の一人娘、アンジェリン。特異な体質のため、突然たおれることがある。そのため、屋敷にひきこもる日々を過ごしていた。そんな私を支えてくれるのは大好きな婚約者のアーノルドと遠縁のメアリー姉様。でもふたりの噂を耳にして……。いつもながら、ゆるい設定のお話なので、気楽に読んでいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる