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醜いアヒルの子は捨てる
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「片付けておきなさい」
いつの間にか座り込んでいた美雪の耳に祖母のそう言う声が聞こえ、土を踏む音が遠ざかっていった。
美雪の手は地面に散らばる紙片を土ごとつかんでいた。つかみきれなかった紙片が時折吹く風で微かに揺れている。
美雪を温かな気持ちにしてくれていたものは、今やただの紙ゴミだ。
いつか捨てることになるだろうと美雪も思っていたが、こんな形でなるとは思ってもいなかった。
友達はいらないと祖母に言われたから、美雪は学校では友達を作らなかった。
祖母の望む通りにならないといけないから、そうしなければいけないからと美雪は学校で壁を作った。
そうしていなくても、美雪は異質だったので孤立していた。子どもは大人よりもそういった空気に敏感だ。自然と、美雪が作ろうとしなくても壁ができていた。
自分と他人、二つの壁で隔てられていた美雪に友達と呼べるものはできなかった。
敢えて空気を読まなかった子どももいたが、子どもも参加できる集まりに参加した時に大人に混じっている美雪の姿やそれを褒める大人を見て、美雪を敬遠することにした。
家柄を振りかざす者も、「上延美雪を見習うように」と言われている時点で親自体が美雪のほうに信頼を置いているくらいはわかっていたので、美雪を腫物のように扱っていた。
孤立していても、美雪は友達が要らなかったわけではない。
楽しそうに談笑するクラスメイトがとても羨ましかった。その輪に入ってみたかった。
それを禁じられていた。
その輪に入っていく方法も知らなかった。
どうやって友達になるのかも知らなかった。
そして――祖母の言葉に縛られていた。
「電話するね」と言うクラスメイトがどうして楽しそうだったのか、秘書として働き出すまで美雪にはわからなかった。電話は親しくなりたいと思う相手、必要だと思える相手との連絡手段なのだ。
高遠の携帯電話の番号を知ったとしても、電話することはないが、電話番号を教えて貰えたというだけで美雪は特別なような気がした。
それがただの紙切れとなった。
美雪はつかんでいた手を放し、名刺の切れ端を一枚一枚、ノロノロと拾い集め、自室に戻ってゴミ箱に捨てた。
今朝、この部屋で見たばかりだったのに。
昨日の夜もこの部屋で眺めたばかりだったのに。
大切にしていたそれは今はゴミ箱の中。
こんな筈ではなかった。
こんなことになる筈ではなかったのに。
美雪の目の間と胸が苦しくなる。
自室に留まっていられなかった美雪は祖母の車の運転手を務めている木下のところに向かった。
美雪が家から出る時はいつも祖母の車の運転手に送り迎えをしてもらっていた。美術館ならそのまま現地まで。映画やショッピングなら街の中心部まで。
「木下さん、街に連れて行ってください」
休みの日に出かける時は前日に声をかけてくる美雪が急に出かけたいと言い出したことに、木下は一瞬、目を見開いたが、美雪が土で汚れた手をしていることに気付くと今度は目を白黒させた。
「美雪様、どうかしたんですか?」
「すぐに出かけたいんです。早くここを離れたいんです」
「しかし、その手は――」
「お願いです。ここにいたくないんです」
いつにない取り乱した美雪の様子に木下はぎこちなく頷いた。
いつの間にか座り込んでいた美雪の耳に祖母のそう言う声が聞こえ、土を踏む音が遠ざかっていった。
美雪の手は地面に散らばる紙片を土ごとつかんでいた。つかみきれなかった紙片が時折吹く風で微かに揺れている。
美雪を温かな気持ちにしてくれていたものは、今やただの紙ゴミだ。
いつか捨てることになるだろうと美雪も思っていたが、こんな形でなるとは思ってもいなかった。
友達はいらないと祖母に言われたから、美雪は学校では友達を作らなかった。
祖母の望む通りにならないといけないから、そうしなければいけないからと美雪は学校で壁を作った。
そうしていなくても、美雪は異質だったので孤立していた。子どもは大人よりもそういった空気に敏感だ。自然と、美雪が作ろうとしなくても壁ができていた。
自分と他人、二つの壁で隔てられていた美雪に友達と呼べるものはできなかった。
敢えて空気を読まなかった子どももいたが、子どもも参加できる集まりに参加した時に大人に混じっている美雪の姿やそれを褒める大人を見て、美雪を敬遠することにした。
家柄を振りかざす者も、「上延美雪を見習うように」と言われている時点で親自体が美雪のほうに信頼を置いているくらいはわかっていたので、美雪を腫物のように扱っていた。
孤立していても、美雪は友達が要らなかったわけではない。
楽しそうに談笑するクラスメイトがとても羨ましかった。その輪に入ってみたかった。
それを禁じられていた。
その輪に入っていく方法も知らなかった。
どうやって友達になるのかも知らなかった。
そして――祖母の言葉に縛られていた。
「電話するね」と言うクラスメイトがどうして楽しそうだったのか、秘書として働き出すまで美雪にはわからなかった。電話は親しくなりたいと思う相手、必要だと思える相手との連絡手段なのだ。
高遠の携帯電話の番号を知ったとしても、電話することはないが、電話番号を教えて貰えたというだけで美雪は特別なような気がした。
それがただの紙切れとなった。
美雪はつかんでいた手を放し、名刺の切れ端を一枚一枚、ノロノロと拾い集め、自室に戻ってゴミ箱に捨てた。
今朝、この部屋で見たばかりだったのに。
昨日の夜もこの部屋で眺めたばかりだったのに。
大切にしていたそれは今はゴミ箱の中。
こんな筈ではなかった。
こんなことになる筈ではなかったのに。
美雪の目の間と胸が苦しくなる。
自室に留まっていられなかった美雪は祖母の車の運転手を務めている木下のところに向かった。
美雪が家から出る時はいつも祖母の車の運転手に送り迎えをしてもらっていた。美術館ならそのまま現地まで。映画やショッピングなら街の中心部まで。
「木下さん、街に連れて行ってください」
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「美雪様、どうかしたんですか?」
「すぐに出かけたいんです。早くここを離れたいんです」
「しかし、その手は――」
「お願いです。ここにいたくないんです」
いつにない取り乱した美雪の様子に木下はぎこちなく頷いた。
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