母親として雇われました

プラネットプラント

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醜いアヒルの子は外出する

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 木下は美雪に自動車の後部座席のドアを開けながら、その異様な様子が手だけではないことに気付いた。着物の膝とその下、袂も土汚れが付いている。
 美雪に何があったのかわからないものの、木下は運転席に収まると、滑らかに自動車を走らせた。
 上延家から街の中心部に向かう道程は住宅街だ。
 外の風景は高級住宅地からマダムと呼ばれるお洒落な人々が住まう地域、昔ながらの家々が並ぶ閑静な住宅街を通って、マンションやアパートの立ち並ぶ地域へと移っていく。
 美雪と美雪の祖母を運ぶのが木下の仕事だ。今は秘書のような仕事をしている美雪がまだ学生の頃は学園まで送り迎えをするのも木下の仕事だった。
 美雪が祖母に引き取られる前から美雪の祖母に仕える木下にとって、美雪は上延のお嬢様であることに変わりはない。美雪がそう思っていなくても、木下にとってはそれは絶対だ。
 美雪は初等部から高等部までの12年間、学園の送り迎えを木下にしてもらっていたせいか、木下を自然と「木下さん」と呼ぶようになっていた。祖母の秘書をしている落合も木下と同じくらいの付き合いがあるが、何故か、「落合」だった。
 それは落合は秘書で、木下は運転手と言う職業からきている気安さのおかげかもしれない。

「美雪様。こちらでよろしいですか?」

 木下が自動車を停めたのは街の中心部の外れにある小さな個人経営の喫茶店の前だった。外観はアルプスの山岳地帯をモチーフにした茶色と白の小さな家で、通りに面した窓からは店内が暗くて中は見えない。喫茶店だとわかるものは扉の横にある『チロル~こだわりのコーヒーをあなたに~』と書かれた小さな看板がだけだ。

「・・・ええ」

 用事が終わった後に休憩しようとこの店を偶然見つけて以来、携帯電話を持たされていない美雪が中心街で木下と待ち合わせをするならこの店になっていた。
 家にいたくない美雪の気持ちを汲んだ木下は馴染みの店なら安全だろうと気を利かせてくれたのだ。

「ありがとう、木下さん」
「迎えは二時間ぐらい後でいいですか?」
「・・・。お昼もここで済ますつもりですので、三時頃に来て頂けますか?」
「三時、ですか? 今、十時過ぎですよ?」
「はい・・・」

 暗い美雪の表情に木下はそれ以上、聞くことは止めた。
 五時間。
 それで美雪様の様子がいつものものに戻るなら、それでいいじゃないか。
 あの家にいることは美雪様にとって危険でしかないのだから、弱っている時こそ、離れていたほうがいい。
 長年、美雪の祖母に仕える木下はそう自分に言い聞かせた。

「畏まりました。では、三時にお迎えに上がります」
「ありがとうございます」

 木下は自動車を降りると、後部座席のドアを開けて、美雪に手を差し出す。美雪は木下の手を借りて自動車を降りた美雪は、木下を振り返る。

「いってらっしゃいませ、美雪様」
「行ってきます、木下さん」

 後部座席のドアを閉めると木下は美雪が店内に姿を消すまで見守り続けた。
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