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醜いアヒルの子は好意と出会う
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高遠は顎に手を置いて、長財布を指に挟んだまま、値踏みするように美雪を見る。
「そうだな。確かに今の貴女は人形には見えないな。レジの前で言い争いをしている貴女はとても人形には見えない」
「貴方と言う方は・・・!」
不快感から美雪は目を細めた。
「澄ましかえっているよりも、こうして怒っているほうが私は好きだな」
「!!」
思いもよらなかった言葉に美雪は目を見開いた。聞き間違いかと耳を疑うが、確かに耳にした内容は自分に対して好意を示すものだった。
気分は舞い上がりそうだった。
どのような形であれ、このように好意をわかりやすく向けられたことのない美雪の心臓が跳ねる。
しかし、真に受けてはいけないと美雪は自分を戒めた。
高遠は美雪に弟夫婦の遺児の最高の母親となって、育てて欲しいだけなのだ。
「感情を押し殺している貴女は不自然だ。それに怯えた顔は好きではない。それくらいならこちらを引っ掻いてくるくらいがちょうどいい」
「高遠様、からかうのはいい加減にしてください。私をからかっても良いことなんかないんですよ?」
「からかっているわけではない。思ったことを言っているだけだ。それから、店の者が困っている」
「?!」
美雪がレジのほうを見ると、店員は頬が緩んだような表情をしていた。美雪は支払いに手間取って呆れられたと恥ずかしかった。
その隙に高遠が料金を払ってしまう。
「あっ・・・!」
「2000円お預かりします」
呆気に取られている美雪の目の前で会計作業が行われていく。
「2000円お預かりしましたので、704円のお釣りになります」
「ご馳走様。美雪さん、車をまわしてくるから待っててくれ」
そう言って、高遠は颯爽と店を出て行った。その姿に思わず見とれてしまいそうなくらい格好良かった。
店員にかける言葉に不自然なところがない。日頃から下の人間を労うことに慣れているのだろう。
しかし、そんな高遠に美雪は反抗心を抱いた。部下や自分よりも目下の存在を心にかけているところが、ではない。その点は非常に高く評価している。美雪を反発させたのは勝手に決めて、行動し、命令して、美雪にそれに従うことを強要しているからだ。
美雪にとって、祖母は絶対的な存在だった。
だが、両親はそうではない。
彼らは美雪の親かもしれないが、彼らが春菜と接する姿を見て、自分との扱い違いを実感してわかった。
自分が必要とされていない存在なのだと。
祖母はその点、何やかんやと言いながらも美雪を傍に置いている。温かいご飯を食べさせてくれたり、身体に合った服を着せてくれる。
両親は祖母の前以外では美雪の存在を無視していた。祖母の目の届かない時は話しかけもしなければ、部屋に閉じ込めて、わざと食事を忘れられていたことすらあった。
祖母が食事を共にしない時に自室で一人とる食事は、それだけで美味しくなかった。
表面上の会話であれ、嘘ばかりの言葉であれ、自分以外の者を見ている両親の偽りの表情が恋しかった。
祖母がいないだけで態度が豹変する両親に期待しなくなったのはいつかわからない。
春菜に向けられる両親の表情が羨ましくなくなったのはいつからだろう?
一人で食事をしていると部屋がどんどん小さくなっていくような気がして圧迫感に苛まされたり、逆に部屋が大きくなっていって途方に暮れたりしたものだ。
食事をわざと忘れられた時には、暗い部屋で寒さや暑さに耐えながらお手伝いさんが両親の目を盗んで差し入れてくれた冷たいお握りを食べた。
そのせいか、美雪は今でも暗い部屋に閉じ込められるのが怖くて、眠る時に電気を点けていなければ眠れない。
それを思い出すと美雪の身体が震えた。
「お客様、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です・・・」
気遣う店員に美雪は反射的に答える。弱みを見せないように祖母に言われていた習性からだ。
「でも、良かったですね。彼氏さんが来てくれて」
「え?」
二人が付き合っていると店員は勘違いしていた。美雪は二人のやり取りが色恋沙汰に見えるとは思い至っていなかったが、店員の勘違いでそれを自覚した。
否定しようとする美雪に店員の言葉は続く。
「いつも浮かない顔をされていましたから、こんな時に頼りになりそうな人がいて良かったです」
店員の目は汚れている着物の膝から下や袂に向けられていた。
そこはまだ土で汚れている。電話を貸してもらう時にお手洗いを借りて手を洗ったものの、他にも土で汚れていたのに美雪は気付いていなかったことを知らされた。
着物が汚れたまま席に着いていたかと思うと身の縮むような思いがした。
店員が口に出さなかったものの、土で汚れた服のままでいた自分が恥ずかしい。こんな格好で席に着けば店内を汚すことになる。掃除をさせることが申し訳なさすぎて、美雪は消えてしまいたかった。
「あぁ! すみません、お店を汚してしまって。掃除の手数をおかけしてしまって、本当に申し訳ありません」
恐縮しきる美雪に店員は苦笑する。
「大丈夫ですよ。他にお客様はいらっしゃりませんし、常連さんの一大事でしたからね」
「お気遣い、ありがとうございます」
笑顔の店員の優しさに触れ、自然と美雪の顔に笑みが浮かんだ。
美雪は連絡して欲しいと渡された名刺を眺めている時とは違う幸せに包まれる。
店の外へ出なければいけないのに、店員と見つめ合うように向き合っていると表で車のクラクションの音がした。
高遠が車をまわしてきたのだと察し、美雪は慌てて「また、来ます」と言って店を出た。
「元気になって良かった」
店員が安堵の呟きを漏らす。
美雪が高遠の車に乗り込むのを見送った店員は、掃除道具入れから箒と塵取りを取り出してくると、乾いて落ちた土の後片付けをし始めた。
「そうだな。確かに今の貴女は人形には見えないな。レジの前で言い争いをしている貴女はとても人形には見えない」
「貴方と言う方は・・・!」
不快感から美雪は目を細めた。
「澄ましかえっているよりも、こうして怒っているほうが私は好きだな」
「!!」
思いもよらなかった言葉に美雪は目を見開いた。聞き間違いかと耳を疑うが、確かに耳にした内容は自分に対して好意を示すものだった。
気分は舞い上がりそうだった。
どのような形であれ、このように好意をわかりやすく向けられたことのない美雪の心臓が跳ねる。
しかし、真に受けてはいけないと美雪は自分を戒めた。
高遠は美雪に弟夫婦の遺児の最高の母親となって、育てて欲しいだけなのだ。
「感情を押し殺している貴女は不自然だ。それに怯えた顔は好きではない。それくらいならこちらを引っ掻いてくるくらいがちょうどいい」
「高遠様、からかうのはいい加減にしてください。私をからかっても良いことなんかないんですよ?」
「からかっているわけではない。思ったことを言っているだけだ。それから、店の者が困っている」
「?!」
美雪がレジのほうを見ると、店員は頬が緩んだような表情をしていた。美雪は支払いに手間取って呆れられたと恥ずかしかった。
その隙に高遠が料金を払ってしまう。
「あっ・・・!」
「2000円お預かりします」
呆気に取られている美雪の目の前で会計作業が行われていく。
「2000円お預かりしましたので、704円のお釣りになります」
「ご馳走様。美雪さん、車をまわしてくるから待っててくれ」
そう言って、高遠は颯爽と店を出て行った。その姿に思わず見とれてしまいそうなくらい格好良かった。
店員にかける言葉に不自然なところがない。日頃から下の人間を労うことに慣れているのだろう。
しかし、そんな高遠に美雪は反抗心を抱いた。部下や自分よりも目下の存在を心にかけているところが、ではない。その点は非常に高く評価している。美雪を反発させたのは勝手に決めて、行動し、命令して、美雪にそれに従うことを強要しているからだ。
美雪にとって、祖母は絶対的な存在だった。
だが、両親はそうではない。
彼らは美雪の親かもしれないが、彼らが春菜と接する姿を見て、自分との扱い違いを実感してわかった。
自分が必要とされていない存在なのだと。
祖母はその点、何やかんやと言いながらも美雪を傍に置いている。温かいご飯を食べさせてくれたり、身体に合った服を着せてくれる。
両親は祖母の前以外では美雪の存在を無視していた。祖母の目の届かない時は話しかけもしなければ、部屋に閉じ込めて、わざと食事を忘れられていたことすらあった。
祖母が食事を共にしない時に自室で一人とる食事は、それだけで美味しくなかった。
表面上の会話であれ、嘘ばかりの言葉であれ、自分以外の者を見ている両親の偽りの表情が恋しかった。
祖母がいないだけで態度が豹変する両親に期待しなくなったのはいつかわからない。
春菜に向けられる両親の表情が羨ましくなくなったのはいつからだろう?
一人で食事をしていると部屋がどんどん小さくなっていくような気がして圧迫感に苛まされたり、逆に部屋が大きくなっていって途方に暮れたりしたものだ。
食事をわざと忘れられた時には、暗い部屋で寒さや暑さに耐えながらお手伝いさんが両親の目を盗んで差し入れてくれた冷たいお握りを食べた。
そのせいか、美雪は今でも暗い部屋に閉じ込められるのが怖くて、眠る時に電気を点けていなければ眠れない。
それを思い出すと美雪の身体が震えた。
「お客様、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です・・・」
気遣う店員に美雪は反射的に答える。弱みを見せないように祖母に言われていた習性からだ。
「でも、良かったですね。彼氏さんが来てくれて」
「え?」
二人が付き合っていると店員は勘違いしていた。美雪は二人のやり取りが色恋沙汰に見えるとは思い至っていなかったが、店員の勘違いでそれを自覚した。
否定しようとする美雪に店員の言葉は続く。
「いつも浮かない顔をされていましたから、こんな時に頼りになりそうな人がいて良かったです」
店員の目は汚れている着物の膝から下や袂に向けられていた。
そこはまだ土で汚れている。電話を貸してもらう時にお手洗いを借りて手を洗ったものの、他にも土で汚れていたのに美雪は気付いていなかったことを知らされた。
着物が汚れたまま席に着いていたかと思うと身の縮むような思いがした。
店員が口に出さなかったものの、土で汚れた服のままでいた自分が恥ずかしい。こんな格好で席に着けば店内を汚すことになる。掃除をさせることが申し訳なさすぎて、美雪は消えてしまいたかった。
「あぁ! すみません、お店を汚してしまって。掃除の手数をおかけしてしまって、本当に申し訳ありません」
恐縮しきる美雪に店員は苦笑する。
「大丈夫ですよ。他にお客様はいらっしゃりませんし、常連さんの一大事でしたからね」
「お気遣い、ありがとうございます」
笑顔の店員の優しさに触れ、自然と美雪の顔に笑みが浮かんだ。
美雪は連絡して欲しいと渡された名刺を眺めている時とは違う幸せに包まれる。
店の外へ出なければいけないのに、店員と見つめ合うように向き合っていると表で車のクラクションの音がした。
高遠が車をまわしてきたのだと察し、美雪は慌てて「また、来ます」と言って店を出た。
「元気になって良かった」
店員が安堵の呟きを漏らす。
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