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醜いアヒルの子は困惑する
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店の前に停まっていたのはシルバーのセダンだった。海外のハリウッドスターが愛用していることで有名な国内の自動車メーカーのハイブリッドカーだ。
停まっている場所からして高遠の車はこのハイブリッドカーなのだろうが、高遠のような独身男が乗っているのが美雪には不思議な気がした。高遠のイメージなら外国製のスポーツカーだ。国産のセダンではない。
間違えたかと美雪は思った。
しかし、周囲にはそれ以外にそれらしき車はない。停まっているセダンを避けるように自動車が走っている。
「早く乗って」
「高遠様」
セダンの助手席側のドアが開かれ、美雪の目測が間違っていなかったことが証明された。
だからといって、美雪はすぐに自動車には乗り込めなかった。チロルの店員に指摘されたように、着物の袂や膝から下はまだ土で汚れている。
「そのままでいいから」
躊躇う美雪に言葉は優しいが、高遠は有無を言わさない調子で言う。
「ですが、このままではシートを汚しかねません」
手で掃ってみてもそれほど落ちない。ついでにお尻のあたりも掃ったが、完全に汚してしまうような状態だ。
祖母の自動車は木下に掃除してもらわなければいけないが、それを縁も所縁もない高遠にまでさせるのは心苦しい。掃除自体は高遠の家の者がするだろうが、それでも余計な手間をかけて心苦しいことに変わりはない。
それにまだ乗る前なのだから、麗に行くのはまた次の機会にして、美雪がチロルに戻って木下が迎えにくる時間まで待っていることもできる。そうすれば、自動車のシートを汚して恥ずかしい思いをする必要もない。
土で汚してしまっていたのを気付かなくて謝る相手は木下とチロルの店員だけでいいと美雪は思った。
「かまわないよ」
「しかし・・・」
「ここに停まっていると後続の車の迷惑だ。それに歩行者がこの車の影から出て来ないとも限らない。そうなったら、運転者も歩行者も望んでいない事故が起こるだろう」
高遠が言うようにその自動車を後続の自動車が追い越して行っている。歩行者が道を渡ろうとしたら、高遠の自動車で見えない可能性も否定できない。ただでさえ、歩行者が物陰から出て来る危険性がある上に、追い越しをしようとしている自動車だ。事故が起きる要因が重なって高くなっている。
波風をたてることが嫌いな美雪は事故やクラクションを鳴らされる前に解決しないといけないと、高遠の言葉に従って彼の車に乗り込んだ。
「失礼します」
「ああ」
美雪はハンカチを取り出して助手席に敷き、その上に座るようにした。それでも汚してしまうだろうことはわかっていても、しないではいられなかった。それが汚れた服で高遠の車に乗る最低限の礼儀だった。
高遠は美雪のしたことなど気にしていないようだった。美雪が助手席側のドアを閉め、シートベルトをしたのを確認してから自動車を発進させた。
シートを極力汚さないように浅く座り、美雪は縮こまっていた。少しでも動けば、まだ着物に付いている土が落ちそうで気が気ではない。
運の良いことに高遠の運転は長年、上延家の運転手をしている木下同様に上手だった。
「楽にしたらいい」
少しでも土を落とさないように助手席で身を縮こまらせている美雪に、高遠は気軽に言った。車が汚れても本人が掃除をするわけではないから、気にならないのだろう。
「汚したくないんです」
「何故?」
汚して迷惑をかけたくないという美雪の気持ちは高遠にはわからなかったようだ。
「掃除する手間をおかけするでしょう?」
「私が誘ったんだから、そんなことは気にしなくていい」
気が進まない美雪の様子に高遠は苦笑する。
その反応が美雪には気に障った。自分の都合で誰かを振り回しておいて、それを気にしていないのが祖母と似ていたからだ。
「そんなことをおっしゃるのは、高遠様が掃除をなさらないからでしょう? 私は掃除をされる方に余分な手間をおかけするのが申し訳なくて」
「確かに私が掃除をするわけではないが、そんなことは気にしなくていい。麗を乗せられるように毎日掃除してもらっているから、余計な手間ではない」
土が落ちたから掃除をするわけではないと言われても、美雪は素直に納得できなかった。土汚れはいつもの掃除とは違うのではないかと思うものの、そこまで詳しい掃除の知識のない美雪にはわからなかったのだ。
「・・・」
そういうものだろうかと美雪は訝しく思いながら、運転する高遠の横顔を見つめるのだった。
停まっている場所からして高遠の車はこのハイブリッドカーなのだろうが、高遠のような独身男が乗っているのが美雪には不思議な気がした。高遠のイメージなら外国製のスポーツカーだ。国産のセダンではない。
間違えたかと美雪は思った。
しかし、周囲にはそれ以外にそれらしき車はない。停まっているセダンを避けるように自動車が走っている。
「早く乗って」
「高遠様」
セダンの助手席側のドアが開かれ、美雪の目測が間違っていなかったことが証明された。
だからといって、美雪はすぐに自動車には乗り込めなかった。チロルの店員に指摘されたように、着物の袂や膝から下はまだ土で汚れている。
「そのままでいいから」
躊躇う美雪に言葉は優しいが、高遠は有無を言わさない調子で言う。
「ですが、このままではシートを汚しかねません」
手で掃ってみてもそれほど落ちない。ついでにお尻のあたりも掃ったが、完全に汚してしまうような状態だ。
祖母の自動車は木下に掃除してもらわなければいけないが、それを縁も所縁もない高遠にまでさせるのは心苦しい。掃除自体は高遠の家の者がするだろうが、それでも余計な手間をかけて心苦しいことに変わりはない。
それにまだ乗る前なのだから、麗に行くのはまた次の機会にして、美雪がチロルに戻って木下が迎えにくる時間まで待っていることもできる。そうすれば、自動車のシートを汚して恥ずかしい思いをする必要もない。
土で汚してしまっていたのを気付かなくて謝る相手は木下とチロルの店員だけでいいと美雪は思った。
「かまわないよ」
「しかし・・・」
「ここに停まっていると後続の車の迷惑だ。それに歩行者がこの車の影から出て来ないとも限らない。そうなったら、運転者も歩行者も望んでいない事故が起こるだろう」
高遠が言うようにその自動車を後続の自動車が追い越して行っている。歩行者が道を渡ろうとしたら、高遠の自動車で見えない可能性も否定できない。ただでさえ、歩行者が物陰から出て来る危険性がある上に、追い越しをしようとしている自動車だ。事故が起きる要因が重なって高くなっている。
波風をたてることが嫌いな美雪は事故やクラクションを鳴らされる前に解決しないといけないと、高遠の言葉に従って彼の車に乗り込んだ。
「失礼します」
「ああ」
美雪はハンカチを取り出して助手席に敷き、その上に座るようにした。それでも汚してしまうだろうことはわかっていても、しないではいられなかった。それが汚れた服で高遠の車に乗る最低限の礼儀だった。
高遠は美雪のしたことなど気にしていないようだった。美雪が助手席側のドアを閉め、シートベルトをしたのを確認してから自動車を発進させた。
シートを極力汚さないように浅く座り、美雪は縮こまっていた。少しでも動けば、まだ着物に付いている土が落ちそうで気が気ではない。
運の良いことに高遠の運転は長年、上延家の運転手をしている木下同様に上手だった。
「楽にしたらいい」
少しでも土を落とさないように助手席で身を縮こまらせている美雪に、高遠は気軽に言った。車が汚れても本人が掃除をするわけではないから、気にならないのだろう。
「汚したくないんです」
「何故?」
汚して迷惑をかけたくないという美雪の気持ちは高遠にはわからなかったようだ。
「掃除する手間をおかけするでしょう?」
「私が誘ったんだから、そんなことは気にしなくていい」
気が進まない美雪の様子に高遠は苦笑する。
その反応が美雪には気に障った。自分の都合で誰かを振り回しておいて、それを気にしていないのが祖母と似ていたからだ。
「そんなことをおっしゃるのは、高遠様が掃除をなさらないからでしょう? 私は掃除をされる方に余分な手間をおかけするのが申し訳なくて」
「確かに私が掃除をするわけではないが、そんなことは気にしなくていい。麗を乗せられるように毎日掃除してもらっているから、余計な手間ではない」
土が落ちたから掃除をするわけではないと言われても、美雪は素直に納得できなかった。土汚れはいつもの掃除とは違うのではないかと思うものの、そこまで詳しい掃除の知識のない美雪にはわからなかったのだ。
「・・・」
そういうものだろうかと美雪は訝しく思いながら、運転する高遠の横顔を見つめるのだった。
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