夫が勇者に選ばれました

プラネットプラント

文字の大きさ
2 / 7

貴族編

しおりを挟む
 帰って来ると言って、帰って来なかった村人だった夫。

 貴族に生まれ変わった私は、同じ貴族と結婚しました。

 また魔王のいる時代だったらしいですが、村人の時と同様、あまり実感がありません。

 魔物は冒険者や騎士が倒すもので、私たちには関係ありませんでした。領民に被害が出た報告や街道に現れた噂を耳にするくらいでした。



 そんなある日、夫が勇者に選ばれました。村人だった夫は魔物を狩ることもありましたが、今の夫は剣すら握ったことがありません。そんな夫が、です。

 不安はありましたが、勇者は勇者です。

 村人でも勇者になれました。貴族でも勇者に・・・やはり、なれそうには思えません。

 それでも送り出すしかありません。

 ただ一つ気になったのは、夫を見る王女様の目。

 また王女様に夫を盗られるのでしょうか?

 王女だから勇者の妻に相応しい。

 そんな理屈で?

 これまで見向きもされなかった群集の一人にすぎなかった夫が、勇者に選ばれただけで恋慕う対象になる理由はそれしか思いつきませんでした。



「必ず帰って来る」



 私は夫が帰る家と領地を守っていました。



 王女様に見初められるのは、貴族にとって貴重な機会です。

 多少の情はあっても、幼馴染で家族のように育った村人だった夫とは距離があります。

 家の為だけの結婚。王族と結婚できるなら、子どもが産めないことを理由に別れることもできます。

 血が濃くなる、と婚約した何年も前からわかっていた事実を振りかざして結婚を白紙にすることだってできます。

 高位貴族は王族と高位貴族同士でしか結婚しません。何故なら、高位貴族と下位貴族では求められる能力が違いすぎるから。

 侍女が身に付けるマナーが使用人のマナーでしかないように、下位貴族のマナーは自国だけのローカルルールで上書きされた国際共通マナー。高位貴族は正式な国際共通のマナーだけでなく、場合によっては他国のマナーにも身に付ける必要があります。

 その上、持参金と実家と婚家の共同事業まで関わってきます。

 高位貴族の生活がおくれるだけの持参金を持った商家の令嬢なら、必死に高位貴族のマナーを身に付けて、実家の力も使って高位貴族の夫人になることも可能です。ですが、必ずしも高位貴族の夫人になれるとは限りません。

 高位貴族と結婚するには、実家が伯爵位以上の爵位を与えられなければなりません。

 しかし、商家はそれが非常に難しいです。

 商家だから爵位なんか与えない、のではなく、高位貴族の務めが果たす能力がない、と見なされているのです。高位貴族の務めが果たせなければ、国にいくら寄付をしようと、伯爵にはなれません。

 高位貴族は務めを果たす為に結婚します。それは権力目当てだったり、相手の家との共同事業であったり、支援金目当てだったりします。すべては貴族の務めを果たす為。

 王族との結婚などは、王家との繋がりを作る重要で貴重な機会。高位貴族にとっては喉から手が出るほど欲しい機会です。

 夫が魔王を倒した場合、この家に連なるすべての者が私との離縁を諸手を挙げて賛成するでしょう。

 留守を守った賢夫人であろうと、王家との繋がりの前には意味がありません。



 魔王が倒されたとの報せが王都を駆け巡る頃、私は秘密裏に離縁され、実家に戻されました。王女様との結婚に邪魔になる存在はあらかじめ、排除しておく為でした。

 戻って来る夫と一言も話すことなく、離縁された私は誰を恨めばいいかわかりませんでした。勇者に選ばれた夫を好きになった王女様?

 王家との縁組を喜んだ婚家?

 私よりも王女様を選んだ夫?

 夫を勇者に選んだ運命?



 答えが出る前に、私は殺されました。村人だった時と同じように。

 勇者の前妻は生きているだけでも邪魔者だったようです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

「大嫌い」と結婚直前に婚約者に言われた私。

狼狼3
恋愛
婚約してから数年。 後少しで結婚というときに、婚約者から呼び出されて言われたことは 「大嫌い」だった。

〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。

藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。 但し、条件付きで。 「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」 彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。 だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全7話で完結になります。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...