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第一章
白い髪の男1
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「お腹、空いた・・・」
美穂は開店前のサロンで溜め息を吐く。
赤みがかった金色の髪の男はまた旅に出たらしく、ここ数日、姿を見せない。
悪いことは重なるもので、黒髪の男もこの頃、街にいないのかあまり来ない。
赤毛の男はまだ来るが、それでも週に一、二度だ。具無しスープ生活に逆戻りである。
宰相の打算だらけの醜い友情攻撃を躱し続けて疲れ果てた赤みがかった金色の髪の男が連日のように来てくれたおかげで美穂はすっかり具無しスープ生活を忘れてしまっていた。普通の食生活で甘やかされた美穂の胃が固形物の食事を求めてシクシクと痛み、とても仕事をする気になれない。
そんな時、名案が浮かんだ。「お腹が空いたら、注文すればいいじゃない」と。
部屋の作り付けのタンスの奥に隠してある贈り物の他にも、店主に預けてあるお金がある。客の許可を得ずに黙って注文した分もそこから払うので、今の美穂が注文してもそこから支払われることになる。
そうと決まれば、お腹が鳴る前に行動とばかりに美穂は長椅子から立ち上がってサロンから出て行こうとした。
目敏く見つけた同僚が声をかける。
「美穂ちゃん、部屋に忘れ物?」
「ううん。厨房に行こうかと・・・」
「厨房? 水ならそこにあるよ」
喉が渇いたのだろうと思った同僚は壁際のテーブルに置かれている白い水差しを指差す。
「飲み物じゃなくて食べ物だよ。お腹、空いて仕事なんかできない」
「食べ物? 食事以外はお金かかるんだよ?!」
「もう我慢できないんだもん」
悪魔の誘惑に負けた美穂の前に部屋から降りてきたばかりの獅子の獣人が立ち塞がる。きつい目つきの派手めの美人・クレアはこの娼館でも三本の指に入る人気の娼婦だ。
「馬鹿じゃないの。その一回が二回になり、毎回になって借金が膨れ上がって自滅するのよ」
「毎回なんて大袈裟にしすぎ。一回ぐらい、大丈夫だって」
「そう言って、お腹が空いたら毎日我慢できずに頼むことになるから、借金になるって言ってんのよ。売れなくて食事を変えられているんだから、自分から借金増やそうとしてどうすんのよ。注文することを思い付いたのが今日だったから良かったものの、もっと前に気付いていたら、あんた今頃、借金地獄でヒィヒィ泣いてるところだったわよ」
「・・・」
言い返したくても美穂は自分が歩もうとしていた悲惨な末路に言葉にならなかった。名案を思い付いたのが今日だったから、借金どころか預けていたお金にも手を付けずにすんだが、預けていたお金を使い果たし、借金を抱えて具無しスープ生活をずっと続けるかと思うとゾッとした。
なりたくて娼婦になったわけでもなければ、したくて娼婦の仕事をしているわけでもない。
それに客はほぼ常連客の三人だけ。それも二人は不定期にしか来ないので、実質、一人だけ。
自分の借金を返し終えることすらまだできていないというのに、借金を増やそうとするなんて言語道断だ。今ある借金ですら、あの地獄の日々と引き換えに減らしたものだ。それを棒に振って、果てしなく遠い未来まで娼婦などしていたくない。
美穂は真面目に働いてご飯にありつくことを決意した。
「あら? まあまあまあ。ようこそ、お越しやす~」
店主は客が新顔だと気付いて、滑るように近付いて行く。
「『カギ尻尾』の店主のカトーラと申します~。うちの店では綺麗な子から優しい子までいろんな子を取り揃えとります~。お客様はどないな子をご希望どすか~?」
積極的に売り込みをかける店主の言葉に娼婦たちは愛想良く笑顔を向けてアピールする。女性に見える顔立ちの客にすら愛想よく接客する店主の観察力に驚嘆しながら、美穂も笑顔を向ける。
白い髪をした客はクレアと同じ華やかな美女のような顔(かんばせ)の持ち主だった。
美穂は開店前のサロンで溜め息を吐く。
赤みがかった金色の髪の男はまた旅に出たらしく、ここ数日、姿を見せない。
悪いことは重なるもので、黒髪の男もこの頃、街にいないのかあまり来ない。
赤毛の男はまだ来るが、それでも週に一、二度だ。具無しスープ生活に逆戻りである。
宰相の打算だらけの醜い友情攻撃を躱し続けて疲れ果てた赤みがかった金色の髪の男が連日のように来てくれたおかげで美穂はすっかり具無しスープ生活を忘れてしまっていた。普通の食生活で甘やかされた美穂の胃が固形物の食事を求めてシクシクと痛み、とても仕事をする気になれない。
そんな時、名案が浮かんだ。「お腹が空いたら、注文すればいいじゃない」と。
部屋の作り付けのタンスの奥に隠してある贈り物の他にも、店主に預けてあるお金がある。客の許可を得ずに黙って注文した分もそこから払うので、今の美穂が注文してもそこから支払われることになる。
そうと決まれば、お腹が鳴る前に行動とばかりに美穂は長椅子から立ち上がってサロンから出て行こうとした。
目敏く見つけた同僚が声をかける。
「美穂ちゃん、部屋に忘れ物?」
「ううん。厨房に行こうかと・・・」
「厨房? 水ならそこにあるよ」
喉が渇いたのだろうと思った同僚は壁際のテーブルに置かれている白い水差しを指差す。
「飲み物じゃなくて食べ物だよ。お腹、空いて仕事なんかできない」
「食べ物? 食事以外はお金かかるんだよ?!」
「もう我慢できないんだもん」
悪魔の誘惑に負けた美穂の前に部屋から降りてきたばかりの獅子の獣人が立ち塞がる。きつい目つきの派手めの美人・クレアはこの娼館でも三本の指に入る人気の娼婦だ。
「馬鹿じゃないの。その一回が二回になり、毎回になって借金が膨れ上がって自滅するのよ」
「毎回なんて大袈裟にしすぎ。一回ぐらい、大丈夫だって」
「そう言って、お腹が空いたら毎日我慢できずに頼むことになるから、借金になるって言ってんのよ。売れなくて食事を変えられているんだから、自分から借金増やそうとしてどうすんのよ。注文することを思い付いたのが今日だったから良かったものの、もっと前に気付いていたら、あんた今頃、借金地獄でヒィヒィ泣いてるところだったわよ」
「・・・」
言い返したくても美穂は自分が歩もうとしていた悲惨な末路に言葉にならなかった。名案を思い付いたのが今日だったから、借金どころか預けていたお金にも手を付けずにすんだが、預けていたお金を使い果たし、借金を抱えて具無しスープ生活をずっと続けるかと思うとゾッとした。
なりたくて娼婦になったわけでもなければ、したくて娼婦の仕事をしているわけでもない。
それに客はほぼ常連客の三人だけ。それも二人は不定期にしか来ないので、実質、一人だけ。
自分の借金を返し終えることすらまだできていないというのに、借金を増やそうとするなんて言語道断だ。今ある借金ですら、あの地獄の日々と引き換えに減らしたものだ。それを棒に振って、果てしなく遠い未来まで娼婦などしていたくない。
美穂は真面目に働いてご飯にありつくことを決意した。
「あら? まあまあまあ。ようこそ、お越しやす~」
店主は客が新顔だと気付いて、滑るように近付いて行く。
「『カギ尻尾』の店主のカトーラと申します~。うちの店では綺麗な子から優しい子までいろんな子を取り揃えとります~。お客様はどないな子をご希望どすか~?」
積極的に売り込みをかける店主の言葉に娼婦たちは愛想良く笑顔を向けてアピールする。女性に見える顔立ちの客にすら愛想よく接客する店主の観察力に驚嘆しながら、美穂も笑顔を向ける。
白い髪をした客はクレアと同じ華やかな美女のような顔(かんばせ)の持ち主だった。
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