22 / 39
第一章
白い髪の男3
しおりを挟む
美穂が怯えているのを目にして店主は美穂が他の娼婦たちと違うことを思い出した。美穂の常連客やごく稀に買ってくれる店の常連客に対してこんな姿を見せることはなかった為、店主は美穂がもう最悪な体験を克服したのだと思っていた。
いつもは使わない女衒から店主が美穂を買ってしまったのは、珍しい獣無しだと聞いたからだ。攫ってきたり、街に出たばかりの田舎娘を騙して売り払うあの女衒から女の子を買うのは下級の娼館だけで、本来なら店主も買う気にはならない。
しかし、用心棒たちに連れ出される女衒が叫んだ『獣無し』の一言に店主は惹きつけられた。店主もこの商売をしていて本物の獣無しを見たことはない。見世物小屋にいる獣無しですら、服に隠された胴体か上肢や上腕に獣成分がある。
連れてこられた娘は性質(たち)の悪い女衒に連れられた他の子と同じように叩かれて言うことを聞かされたような暗い表情をしていた。
見える範囲では獣成分がないので服を脱がせてみれば確かに獣無しで、店主は異様に興奮した覚えがある。
即金で購入したあとは、他の新人娼婦と同じように扱った。新人娼婦で自分の境遇をすぐに受け入れられる者は少ない。あの性質の悪い女衒に連れてこられた女の子は特にそうだ。
だから、中級以上の娼館では娼婦になる心構えができている娘しか娼婦にしない。自ら娼婦になることを志願してやってきた娘や評判の良い女衒によって借金返済さえすれば自由になれるのだと希望を持っている娘なら、自分の目的を果たす為に扱いやすいのだ。
獣無しを扱うということで頭がいっぱいだった店主は美穂が連れてこられた境遇を忘れて、常連客たちや同業者に獣無しについて大々的に宣伝をした。常連客は友人知人に話のネタとして獣無しの噂を流してくれた。
その結果、店主は規則を破る新参者の客の対応と脱走を繰り返す新人娼婦で忙しくなった。
新人娼婦を部屋に閉じ込め、常連客以外には規則と罰則を言い聞かせ、大儲けしている間に美穂が感情を凍らせたことにすら気付かない有様だった。
獣無しの人気に陰りが出た頃には逃亡癖もなくなり、美穂は落ち着いたように店主には見えた。暗く、陰気になった美穂を彼女の常連客達がからかったり、恋人扱いしたり、親しい友人のように接したりして今のような不器用な素人になった。
なので、娼婦となったばかりで環境が受け入れられなかっただけだと思っていた店主には美穂が怯える理由がわからなかった。
店の規則を破る客にはそれ相応の対応はした。罰金も取った。
しかし、脱走を繰り返す美穂の様子を見ることを忘れていた。
店主はそれを新人娼婦が境遇を受け入れられずに怯えてやったことだとしか見ていなかった。規則や罰金で守られてても、言葉や態度で傷付けることもできる。そのツケが今になって回ってきたのだ。
にこやかな笑みを浮かべて店主は美穂を自分の身体で隠すように移動した。
「すんまへん。なんか今日は調子悪くなって休ませるよってに、別の子にしてくれはります?」
被害を最小限にするべく、白い髪の男に別の子を勧める。美穂に新規の客は付かないだろうが、それも仕方ない。自分が美穂の傷の大きさを見逃がしていたことで後遺症が出ているのだ。これ以上、美穂に負担を強いるわけにはいかない。
この商売のモットーは店主も娼婦も双方共に気持ち良く仕事をすることにある。娼婦の接客が悪くなれば、常連客の足も遠のいて店の売り上げも減ってしまう。客が付かなくなった娼婦は劣悪で借金を返済する見込みが遠くなる下級の娼館に移ることになり、店主は娼婦の代わりを探さなくてはいけない。
娼婦の質を考えなくていいのは下級の娼館だけだ。中級以上はより質の良い娼婦を探し出してくる必要がある。その手間と費用を考えれば、多少、難があっても今いる娼婦のケアをしたほうが安くつく。
次の娼婦を見付けるまで店の子の数が減るのも良くない。
それくらいなら、新顔の客に別の子をあてがって、美穂を宥めて落ち着ければ、後日に買ってもらえるかもしれないと打算も動く。
「獣無しはその女性なのでしょう?」
白い髪の男は美穂に向けた店主の視線だけで彼女が獣無しであると見なしたようだ。サロン内を見渡して娼婦一人ひとり獣成分の有無を探すよりも、店主の紹介や反応で見当を付けたのだろう。
「へえ。この子は人見知りが激しいさかい、ご新規さんはちょっと・・・」
舌打ちしたい気分で店主は言葉を濁して暗に無理だと告げた。
「話だけでもできないでしょうか?」
「話でおますか?」
店主は内心、首を傾げながら美穂の様子を見る。何の意図があって、この男がそんなことを言い出したのか皆目見当がつかないが、美穂ができるかどうか確認する必要がある。
肩越しに見た美穂の表情は怯えながらも、店主同様、白い髪の男の申し出に驚いている。
これなら話すくらいはできるだろうとあたりを付けて店主は話を進めることにした。
「話でもお代はいただきますが、よろしいので?」
いつもは使わない女衒から店主が美穂を買ってしまったのは、珍しい獣無しだと聞いたからだ。攫ってきたり、街に出たばかりの田舎娘を騙して売り払うあの女衒から女の子を買うのは下級の娼館だけで、本来なら店主も買う気にはならない。
しかし、用心棒たちに連れ出される女衒が叫んだ『獣無し』の一言に店主は惹きつけられた。店主もこの商売をしていて本物の獣無しを見たことはない。見世物小屋にいる獣無しですら、服に隠された胴体か上肢や上腕に獣成分がある。
連れてこられた娘は性質(たち)の悪い女衒に連れられた他の子と同じように叩かれて言うことを聞かされたような暗い表情をしていた。
見える範囲では獣成分がないので服を脱がせてみれば確かに獣無しで、店主は異様に興奮した覚えがある。
即金で購入したあとは、他の新人娼婦と同じように扱った。新人娼婦で自分の境遇をすぐに受け入れられる者は少ない。あの性質の悪い女衒に連れてこられた女の子は特にそうだ。
だから、中級以上の娼館では娼婦になる心構えができている娘しか娼婦にしない。自ら娼婦になることを志願してやってきた娘や評判の良い女衒によって借金返済さえすれば自由になれるのだと希望を持っている娘なら、自分の目的を果たす為に扱いやすいのだ。
獣無しを扱うということで頭がいっぱいだった店主は美穂が連れてこられた境遇を忘れて、常連客たちや同業者に獣無しについて大々的に宣伝をした。常連客は友人知人に話のネタとして獣無しの噂を流してくれた。
その結果、店主は規則を破る新参者の客の対応と脱走を繰り返す新人娼婦で忙しくなった。
新人娼婦を部屋に閉じ込め、常連客以外には規則と罰則を言い聞かせ、大儲けしている間に美穂が感情を凍らせたことにすら気付かない有様だった。
獣無しの人気に陰りが出た頃には逃亡癖もなくなり、美穂は落ち着いたように店主には見えた。暗く、陰気になった美穂を彼女の常連客達がからかったり、恋人扱いしたり、親しい友人のように接したりして今のような不器用な素人になった。
なので、娼婦となったばかりで環境が受け入れられなかっただけだと思っていた店主には美穂が怯える理由がわからなかった。
店の規則を破る客にはそれ相応の対応はした。罰金も取った。
しかし、脱走を繰り返す美穂の様子を見ることを忘れていた。
店主はそれを新人娼婦が境遇を受け入れられずに怯えてやったことだとしか見ていなかった。規則や罰金で守られてても、言葉や態度で傷付けることもできる。そのツケが今になって回ってきたのだ。
にこやかな笑みを浮かべて店主は美穂を自分の身体で隠すように移動した。
「すんまへん。なんか今日は調子悪くなって休ませるよってに、別の子にしてくれはります?」
被害を最小限にするべく、白い髪の男に別の子を勧める。美穂に新規の客は付かないだろうが、それも仕方ない。自分が美穂の傷の大きさを見逃がしていたことで後遺症が出ているのだ。これ以上、美穂に負担を強いるわけにはいかない。
この商売のモットーは店主も娼婦も双方共に気持ち良く仕事をすることにある。娼婦の接客が悪くなれば、常連客の足も遠のいて店の売り上げも減ってしまう。客が付かなくなった娼婦は劣悪で借金を返済する見込みが遠くなる下級の娼館に移ることになり、店主は娼婦の代わりを探さなくてはいけない。
娼婦の質を考えなくていいのは下級の娼館だけだ。中級以上はより質の良い娼婦を探し出してくる必要がある。その手間と費用を考えれば、多少、難があっても今いる娼婦のケアをしたほうが安くつく。
次の娼婦を見付けるまで店の子の数が減るのも良くない。
それくらいなら、新顔の客に別の子をあてがって、美穂を宥めて落ち着ければ、後日に買ってもらえるかもしれないと打算も動く。
「獣無しはその女性なのでしょう?」
白い髪の男は美穂に向けた店主の視線だけで彼女が獣無しであると見なしたようだ。サロン内を見渡して娼婦一人ひとり獣成分の有無を探すよりも、店主の紹介や反応で見当を付けたのだろう。
「へえ。この子は人見知りが激しいさかい、ご新規さんはちょっと・・・」
舌打ちしたい気分で店主は言葉を濁して暗に無理だと告げた。
「話だけでもできないでしょうか?」
「話でおますか?」
店主は内心、首を傾げながら美穂の様子を見る。何の意図があって、この男がそんなことを言い出したのか皆目見当がつかないが、美穂ができるかどうか確認する必要がある。
肩越しに見た美穂の表情は怯えながらも、店主同様、白い髪の男の申し出に驚いている。
これなら話すくらいはできるだろうとあたりを付けて店主は話を進めることにした。
「話でもお代はいただきますが、よろしいので?」
0
あなたにおすすめの小説
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
星森
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた
ピロ子
恋愛
飲み会に参加した後、酔い潰れていた私を押し倒していたのは社内の女子社員が憧れるエリート課長でした。
普段は冷静沈着な課長の脳内は、私には斜め上過ぎて理解不能です。
※課長の脳内は変態です。
なとみさん主催、「#足フェチ祭り」参加作品です。完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる