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 そのうち、主様は”はな”と暮らしていた場所で交尾するようになった。
 ”はな”はここに主様と戻って来れて嬉しい。
 主様と”はな”を探しに出かけて、主様とここに戻って来て、あの人がしてくれたように抱き締められて眠る。

 主様が”はな”が”はな”だとわからないのは悲しいけど、かつて言ってくれたように”はな”を探してくれる主様が好きだ。

 今日も”はな”を探して京(みやこ)を歩いて、見つけられなくて寝床に戻る。
 帰ってきたら主様は仕事がなくて、鳥も魚も獲れなかった日のように座り込んだ。
 ”はな”は犬だった時と同じように主様の顔を下から覗き込んで言った。

「主様。”はな”はここにいるから、元気出して」

 主様は犬だった時と同じように”はな”の頭を撫でる。

「ありがとな。姫さんは優しいこと言うてくれるなあ」

 ほんとのことを言ってるのに、主様は”はな”が”はな”だと信じてくれないから、主様は”はな”を『姫さん』と呼ぶ。
 ”はな”はそれが嫌。
 けど、主様は”はな”を”はな”だとは思っていないから、ずっと『姫さん』のまま。
 ”はな”がいくら言っても、わかってくれない。

「ほんとのことだもん」

 ”はな”は信じてくれないのも、『姫さん』って呼ばれるのもおもしろくない。
 あの人が『姫さん』って教えてくれたのは、ズルズルした衣を着ていて、髪も引きずるほど長い人間のこと。
 ”はな”は犬(今は犬じゃないけど)で『姫さん』じゃない。

「なあ、姫さん。姫さんの優しさに甘えてもええか?」

 主様の甘えるは交尾すること。
 どうして、そうなるのかわからない。

「いいよ、主様。”はな”は主様が大好き。大好きな主様に甘えてもらえると嬉しい」
「ありがとな、姫さん」

 そう言って、主様の手が衣の合わせから手を入れて乳を触ってくる。
 温かくもなく、冷たくもない手で触られているのが変な感じ。

「姫さん。ここ、硬くなっとう」

 触られてた乳の先が痺れるほど気持ち良くて変な声が出た。

「んんっ・・・、っあ・・・」

 乳だけじゃなくて、主様を受け入れる場所がもっと気持ち良くなりたいと疼く。交尾する季節でもないのに主様と交尾したいと訴えてくる。

 なんで?
 主様は”はな”の交尾する季節を自由に操られるの?

 硬くなった乳の先をしゃぶられる。
 身体の中を快楽が走った。

「あんっ・・・、主様・・・」

 もう片方の乳も揉まれたり、先を指でこねられたりする。
 左右の乳から与えられる快感に”はな”は意味のない声を上げる。

「あぅ・・・、あ・・・、んんっ・・・」

 強く吸われたり、舌で舐められたリ、強弱をつけられる。
 指で弄られているほうも抓ったり、撫でられたり、強弱をつけられている。
 けど、与えられる快感が強すぎて、少しでもそれから逃れようと身体が動いた。

 主様が欲しくて、ジンジンと疼く。

 ”はな”の身体も頭も主様と交尾したい。

「姫さん、気持ちええか?」
「ん・・・。主様・・・」

 返事をするのも一苦労な”はな”のどこが気持ち良く見えないの?

「そや、こっちも可愛がってやらんとな」

 主様は指で弄っていたほうの乳に吸い付く。先っぽが避けられて、じれったい。
 主様の手は”はな”の衣を脱がせていく。
 快楽が押し寄せてくるのは片方の乳からだけだから、どうにか気を取り戻して言う。

「さきっぽ・・・。・・・さきっぽ、すって・・・」
「姫さん。すっかり、いやらしいこと好きになったんやなあ」

 チロリと乳の先が舐められる。

「ひゃっ・・・!」

 稲妻が身体の中心を駆けたような感覚に思わず声が出て、身体が跳ねた。
 乳の先が主様の口に含まれ、その内側で舌と歯で弄ばれる。
 主様の手がお尻や太腿を撫ぜる。そんなことをされると、ひたひたと快楽の波が打ち寄せて来る。

「主様・・・」

 ”はな”の身体は気持ち良すぎていっぱいいっぱい。
 主様が欲しくて欲しくてたまらない。
 たまらなくて、”はな”の身体はダラダラと涎を垂らす。

 大好きな主様。
 けど、”はな”は犬(?)で主様は人間(?)で。
 交尾したら、どうなるの?
 何が生まれるの?
 子犬が欲しくて、犬は交尾する。
 犬(?)と人間(?)の間には何が生まれるの?
 主様は何が生まれてくるのかわからないのに欲しいの?
 それとも、主様は人間(?)だから何も生まれないの?

 主様が犬だったら、主様の子犬、欲しかったなあ。

「主様をちょうだい・・・! ”はな”、主様がほしい!」
「姫さん。こないな時まで、”はな”のふりせんでええ。”はな”やのうても、挿れたるさかい」

 主様は乳から顔を上げて、苦笑して、”はな”の髪を撫でる。

「主様・・・」

 ”はな”の脚が広げられ、主様の性器が”はな”に入っていく。
 中が苦しい。
 主様でいっぱいいっぱいにしようと”はな”の中を進む。

「こうやって”はな”の中にいると安心するわ」

 主様はお腹いっぱい食べた時みたいにだらけきった顔をする。

「主様ぁ。”はな”は主様でいっぱい・・・」

 主様は疲れたような顔をする。

「ありがとな、姫さん。せやけど、今は”はな”のふりせんで欲しいわ」

 なんで?

「主様・・・?」

 ”はな”が首をかしげたら、主様が「気持ち良くさせたる」と”はな”に覆いかぶさって来る。
 脚を抱えられたリ、腰を抱えられて、揺らされた。
 ”はな”が揺らされて、中の主様が行ったり来たりする。

 気持ち良い。

「あっ・・・、ああ、あ・・・、あん・・・っ」

 行き場のなかった気持ち良いが沸騰して、弾ける。
 ”はな”の意識も弾ける。




 弾けた意識が戻って来て、ふわふわした気分に包まれていたら、主様が謝ってきた。

「姫さん。ええとこの姫さんやのに、返してやれんでごめんな。儂、返しとうないんや」

 謝ることは甘えて交尾させたことじゃなかった。
 言われたくなかったことだ。
 主様が一緒にいると言ったのに、”はな”をどこかに返すなんて言わないで欲しい。

「返さなくていいよ。”はな”は主様と一緒にいられて幸せだから」
「そないなこと言わんでええ。”はな”のふりまでせんでええよ」
「ふりじゃないよ。”はな”は”はな”だよ」
「あかん。あかんのや。姫さんは返さなあかん人や。儂と一緒にいさせたらあかん人や」

 けど、主様はまだ”はな”が”はな”だってことを信じてくれない。

「”はな”はずっと主様と一緒にいるから、返そうとしないで。帰る場所は主様のとこしかないの」
「ありがとな、姫さん」

 やっぱり、主様は”はな”が”はな”だってことを受け入れてくれない。
 抱き締められているのにそれが悲しくて、辛い。
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