36 / 69
第五章
第55話 邪神の迷宮
しおりを挟む
ブックマーク&ポイントありがとう御座います。
********************************************
部屋は、今までの狭い通路とは打って変わって、かなりの広さを有していた。
部屋は見た感じ、20メートル四方はあるだろうか。
その部屋の中央が、膝くらいの高さまで盛り上がり、直径10メートルほどの円形の台座を造っている。その円の上には腰高の四角い台が3つ、正三角形を描くように置かれてあった。
おそらくあの3つの台に浄化の神器が置かれてあったんだろう。
確かに何かの儀式を執り行う祭壇に見えなくもない。
「セバスさん、どうですか?」
「……間違いないでしょう」
いつの間にか人化していたセバスさんは、今までにないほど深刻な表情で部屋の中央を見ている。
「セバス、邪神がどれくらい前に復活したか調べて」
こちらもいつの間にか人化したレヴィが、いつのもふざけた雰囲気を一切見せずセバスさんに話し掛ける。
「分かりました。クラウド様も少々お待ちを――」
「はい、お願いします」
セバスさんは部屋中央にある円形の台座に直接手で触れる。すると、今まで何も書かれていなかった円形の台座に青い光の線が次々に浮かび上がり魔法陣を描き始める。
僕はその光景に驚き、声を発する事も出来ず見つめていた。
しばらくすると、光は収まり、魔法陣は消え、何事も無かったように円形の台座は元の状態に戻っていた。
静まりかえる部屋の中で、全員がセバスさんの言葉を固唾を飲んで待った。
「分かりました……邪神が復活した時期ですが……おそらく……」
ゴクリと誰かが生唾を飲み込む音が聞こえた気がする。
「2年ほど前だと思われます」
……2年……
「セバスさん、一つ質問いいですか?」
「はい、何でございましょう?」
「前回邪神が復活してから、世界に現れるまでに、どれくらいの期間があったんでしょうか?」
今までの会話から、邪神は復活してもすぐに現れるわけでは無い事は分かっていた――が、実際復活しているとなると後どれくらいの猶予期間があるのか知りたい。
「前回の例しかございませんので、確実とは言えませんが――おそらく3年かと」
3年……そうすると、実際の猶予は後1年という事か。……殆ど時間がない……
「もう一つ質問なのですが、当時、邪神と戦った時のエルザ様のレベルはいくつだったのでしょうか?」
今の僕と、邪神の実力差がどれくらいあるのか分からないが、当時、邪神を倒したエルザ様のレベルを知れば、多少の実力差は分かるかもしれない。
「当時のエルザ様のレベルでございますか……」
セバスさんはしばらく考えると――
「エルザ様のレベルは――534で御座います」
……534……圧倒的な差じゃないか――今の僕のレベルはエメラルドヒドラ戦後に117まで上がった。しかし、この差はいかんともし難い……
僕の中で一気に不安が押し寄せてくる。
せめて後5年……いや、3年あればもしかしたら……
しかし現実は、後1年……
「兎に角先ずは今後の事を考えましょう」
僕の表情を見てかセバスさんが提案してくる。
「先ずは、ローレッツ様にこの事を伝え、国家間でも対策を取っていただく必要があります。続いて、クラウド様です。これからの事を考えますと、我々と契約しているクラウド様は、邪神との戦いに置いて、切り札となる存在となるでしょう。ですので、クラウド様の強化は絶対に必要となって参ります……」
僕が切り札……突然迷宮に飛ばされ、偶々レヴィ達と契約する事なった僕なんかが、そんな存在になるなんて……
「取り敢えず、細かい話は後にして、一度この迷宮から出ましょう」
セバスさんの言葉に僕達は頷き、迷宮の出口に向かって歩き出した。
◇ ◇ ◇
祭壇の部屋を出てから3時間。迷宮の出口まで、あと少しの所まで来ていた。
迷宮の通路を歩く中、誰も言葉を発しようとはしない。雰囲気は重く、僕の足取りも自然と重くなってしまう。
そんな重苦しい雰囲気の中、それは突然訪れた――
身の毛もよだつような凄まじい悪寒。
「セ、セバスさん……」
『早く外に――急ぎましょう』
僕はセバスさんの言葉で出口に向け走る。
しかし、出口に近づくにつれ更に酷くなる悪寒――全身から冷や汗が吹き出す。
その悪寒を振り払うように更に走る速度を上げ、僕は出口から転がり出るように飛び出した。
その瞬間、全身を覆いかぶさるような濃密な瘴気が押し寄せて来る。
な、何なんだ? 周りを見る何も無い……
『クラウド様! すぐにベガを出してこの場から離れ――』
セバスさんの言葉を遮るように今まで感じた事が無いほどの瘴気が周辺全体にを包み込む。
「セバスさん、これは……」
『クラウド様! 早く……』
今まで感じた事が無いほどのセバスさんの焦りの感情が、思念を通じて僕に伝わってくる。
「分かりした!」
僕が急ぎ召喚笛を取り出した時――
「いったいどこに行こうというのかね」
やや甲高い、しかしねっとりとした声が、僕の背中越しに聞こえる。
慌てて振り返る。
――と、迷宮の入口の上に、一人の男が立っていた。
男はやや痩せ気味で、全身黒い服を身に纏っている。髪は黒く身長はやや小柄、一見これといって特徴が無いように見える男だが、こちらを見つめるその双眸が血の色のように赤い。
そして、その赤い瞳こそが、その男が何者であるかを表している。
「ま……魔族――」
それこそが、まさに魔族の特徴だった――
************************************************
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ブックマークや評価ポイントを頂けると、とても励みになります。
アルファポリス様でランキング参加する事にしました。下のバナーからよろしくお願いします。
********************************************
部屋は、今までの狭い通路とは打って変わって、かなりの広さを有していた。
部屋は見た感じ、20メートル四方はあるだろうか。
その部屋の中央が、膝くらいの高さまで盛り上がり、直径10メートルほどの円形の台座を造っている。その円の上には腰高の四角い台が3つ、正三角形を描くように置かれてあった。
おそらくあの3つの台に浄化の神器が置かれてあったんだろう。
確かに何かの儀式を執り行う祭壇に見えなくもない。
「セバスさん、どうですか?」
「……間違いないでしょう」
いつの間にか人化していたセバスさんは、今までにないほど深刻な表情で部屋の中央を見ている。
「セバス、邪神がどれくらい前に復活したか調べて」
こちらもいつの間にか人化したレヴィが、いつのもふざけた雰囲気を一切見せずセバスさんに話し掛ける。
「分かりました。クラウド様も少々お待ちを――」
「はい、お願いします」
セバスさんは部屋中央にある円形の台座に直接手で触れる。すると、今まで何も書かれていなかった円形の台座に青い光の線が次々に浮かび上がり魔法陣を描き始める。
僕はその光景に驚き、声を発する事も出来ず見つめていた。
しばらくすると、光は収まり、魔法陣は消え、何事も無かったように円形の台座は元の状態に戻っていた。
静まりかえる部屋の中で、全員がセバスさんの言葉を固唾を飲んで待った。
「分かりました……邪神が復活した時期ですが……おそらく……」
ゴクリと誰かが生唾を飲み込む音が聞こえた気がする。
「2年ほど前だと思われます」
……2年……
「セバスさん、一つ質問いいですか?」
「はい、何でございましょう?」
「前回邪神が復活してから、世界に現れるまでに、どれくらいの期間があったんでしょうか?」
今までの会話から、邪神は復活してもすぐに現れるわけでは無い事は分かっていた――が、実際復活しているとなると後どれくらいの猶予期間があるのか知りたい。
「前回の例しかございませんので、確実とは言えませんが――おそらく3年かと」
3年……そうすると、実際の猶予は後1年という事か。……殆ど時間がない……
「もう一つ質問なのですが、当時、邪神と戦った時のエルザ様のレベルはいくつだったのでしょうか?」
今の僕と、邪神の実力差がどれくらいあるのか分からないが、当時、邪神を倒したエルザ様のレベルを知れば、多少の実力差は分かるかもしれない。
「当時のエルザ様のレベルでございますか……」
セバスさんはしばらく考えると――
「エルザ様のレベルは――534で御座います」
……534……圧倒的な差じゃないか――今の僕のレベルはエメラルドヒドラ戦後に117まで上がった。しかし、この差はいかんともし難い……
僕の中で一気に不安が押し寄せてくる。
せめて後5年……いや、3年あればもしかしたら……
しかし現実は、後1年……
「兎に角先ずは今後の事を考えましょう」
僕の表情を見てかセバスさんが提案してくる。
「先ずは、ローレッツ様にこの事を伝え、国家間でも対策を取っていただく必要があります。続いて、クラウド様です。これからの事を考えますと、我々と契約しているクラウド様は、邪神との戦いに置いて、切り札となる存在となるでしょう。ですので、クラウド様の強化は絶対に必要となって参ります……」
僕が切り札……突然迷宮に飛ばされ、偶々レヴィ達と契約する事なった僕なんかが、そんな存在になるなんて……
「取り敢えず、細かい話は後にして、一度この迷宮から出ましょう」
セバスさんの言葉に僕達は頷き、迷宮の出口に向かって歩き出した。
◇ ◇ ◇
祭壇の部屋を出てから3時間。迷宮の出口まで、あと少しの所まで来ていた。
迷宮の通路を歩く中、誰も言葉を発しようとはしない。雰囲気は重く、僕の足取りも自然と重くなってしまう。
そんな重苦しい雰囲気の中、それは突然訪れた――
身の毛もよだつような凄まじい悪寒。
「セ、セバスさん……」
『早く外に――急ぎましょう』
僕はセバスさんの言葉で出口に向け走る。
しかし、出口に近づくにつれ更に酷くなる悪寒――全身から冷や汗が吹き出す。
その悪寒を振り払うように更に走る速度を上げ、僕は出口から転がり出るように飛び出した。
その瞬間、全身を覆いかぶさるような濃密な瘴気が押し寄せて来る。
な、何なんだ? 周りを見る何も無い……
『クラウド様! すぐにベガを出してこの場から離れ――』
セバスさんの言葉を遮るように今まで感じた事が無いほどの瘴気が周辺全体にを包み込む。
「セバスさん、これは……」
『クラウド様! 早く……』
今まで感じた事が無いほどのセバスさんの焦りの感情が、思念を通じて僕に伝わってくる。
「分かりした!」
僕が急ぎ召喚笛を取り出した時――
「いったいどこに行こうというのかね」
やや甲高い、しかしねっとりとした声が、僕の背中越しに聞こえる。
慌てて振り返る。
――と、迷宮の入口の上に、一人の男が立っていた。
男はやや痩せ気味で、全身黒い服を身に纏っている。髪は黒く身長はやや小柄、一見これといって特徴が無いように見える男だが、こちらを見つめるその双眸が血の色のように赤い。
そして、その赤い瞳こそが、その男が何者であるかを表している。
「ま……魔族――」
それこそが、まさに魔族の特徴だった――
************************************************
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ブックマークや評価ポイントを頂けると、とても励みになります。
アルファポリス様でランキング参加する事にしました。下のバナーからよろしくお願いします。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる