僕の装備は最強だけど自由過ぎる

丸瀬 浩玄

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第五章

第56話 魔族

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 今までに感じた事の無い濃密な瘴気――今にも押しつぶされてしまいそうな強烈なプレッシャー。

 それはこの魔族がただならぬ実力者であることを示している。

「い……いったい何時から……」

「え? 何時って? 丁度今到着したとこだよ。邪神様のかつてのお住まいに、弱いながらも天神の神気を感じたからね。急いで転移して来たんだよ」

 転移だって……、そんな能力、お伽噺でしか聞いた事がない……

『クラウド様、レヴィ、いつでもメキドソードを撃てるようにしておいて下さい。彼奴は間違いなく最上位魔族です』

 なっ! ……さ、最上位魔族……

『了解』

 レヴィは最上位魔族と聞いても当然のように返事を返している。流石伝説の魔剣。魔族との戦いになれているという事か……

『セ、セバスさん、奴のレベルは?』

『――445で御座います』

 なっ! ……無理だ……文字通りレベルが違い過ぎる……

 相手のレベルを聞いてとてつもない絶望感が僕を襲ってくる。

『クラウド、しっかりして! いくら最上位魔族とはいえ、今のクラウドのレベルでメキドソードを食らわせられれば、ただでは済まないハズだよ。何とか一発当てて、逃げる事を考えるんだ』

 僕の感情を感じたのか、レヴィから叱咤激励が飛ぶ。

『分かった。出来るかどうか分からないけど、やらなきゃどうせ死ぬんだ。やるしかないよね』

 僕は未だに震える足を、無理矢理押さえつけるように戦う決心をする。


「俺をのけ者にして、秘密の相談かな?」

 魔族は、僕達が念話で会話をしている事を分かっているようだ。

「まあ、何を相談したかは知らないけど、逃がしはしないよ。――とは言っても君みたいな雑魚に俺が態々相手をするのも大人気ないな……じゃあ――召喚サモンゾフ」

 サモン? まさか召喚魔法……


「ジルベルト様、ここに――」

 突然後方からしわがれた声が聞こえる。

 振り向くとそこには――全身黒いフルプレートアーマーに覆われた男が立っていた。

 身長は2メートルを優に超えているだろう。顔まで覆う兜を装備している為、顔を知る事は出来ない。ただ、フェイスカードの眼の位置から見える赤い目だけが、その鎧の男が何者であるかを如実に表している。

 ……魔族が二体……

『セバスさん、あれのレベルは?』

『――357で御座います。どうやら上位魔族のようです』

 ……これはちょっと……どうしようもないな……

『クラウド。まだだよ、後ろの奴ならメキドソード一発で確実に殺れる!』

 再びレヴィから激が飛ぶ。

 ……後ろの鎧騎士を倒したとしてその後どうする――目の前の黒い魔族をどうすればいい?


「じゃあ、時間を掛けるのも俺の趣味じゃないし、ゾフ、とっとと始末しちゃってくれ」

「御意」

 鎧騎士――ゾフはジルベルトと呼ばれた男の命令を受けると、僕に向かいゆっくりと歩き始める。

 僕はすぐにゾフと正対すると魔剣レヴィを構える。

 ゾフから漏れ出る瘴気と圧力い僕はジリジリと後退していく――くそっ! とてもじゃないが一切勝てる気がしない。

『クラウド様。これより我ら全員、力を解放致します。短い時間ではありますが、急激な力を得る事が出来ます。その間何とか現状の打破をお願いいたします』

 セバスさん、急に何を言い出すんだ……力の解放?

 ――しかし、僕には考えている時間は無かった。突如金色に光り始めるレヴィ、セバスさん、そしてイジスさん。そしてそれに呼応するように、アキーレさんやキーレ、アーレ、クイが青白い光を放ち始める。

 ドクン……ドクン……ドクン……

 突然心臓が激しく鼓動を打ち始める。

 そして突如身体の中から力が溢れ始める。なんとも言えない万能感、今の僕ならエメラルドヒドラだってオーガロードだった瞬殺できる。そう思えるほど力が次々と湧き上ってくる。

「ほぉ、面白い……少しは楽しめそうじゃないか――なぁ、ゾフ」

「御意」

 魔族2人の会話には全く焦りの色は無い。寧ろ楽しんでいるようにさえ思える。
 

 互いに剣を構え、にらみ合う、僕とゾフ――


 何か切っ掛けがあったわけではない――だが互いに示し合わせたように同時に攻撃を仕掛けた。

 森に響く剣戟の音。打ち合う度に激しく火花が飛び散る。

 一撃一撃、腕に伝わる衝撃は今までに感じた事がないほどに凄まじい。しかしそれほどの斬撃を受けながら何故か僕は打ち合う事が出来ている。

 剣戟は激しさを増す。

 恐ろしいほどの実力者と戦っているのに怖さよりの喜びがこみ上げてくる。

 イメージ通り。いや、イメージ以上に動く身体。敵との実力差を埋まるように僕の中で経験が積み上げられていく。

 これは、力の解放の効果の一つなのだろうか?

 剣が打ち合わされる度に僕の周りから音が消え、景色が消えていく。なのに、知りたい――必要な情報だけは何故かはっきりと認識できる。

 それは、かつてないほどに僕の集中力が研ぎ澄まされている証明。

 だが――故にブーストされた僕の能力でも、まだ目の前の魔族には力が、届かないのが嫌でも分かる。だがしかし、今はこれでいい、僕はチャンスを待つだけだ。

 魔族からは未だに焦りは感じられない。少しずつ獲物を追い詰め確実に仕留めるように、一手また一手と僕を追い込んでいく。


 戦闘を開始してから時間にしてまだ3分と経っていないだろう。

 しかし既に形勢はかなり不利な状態になっていた。

 全身いたる所に傷を負い、血を流しながら戦う。そして――

 僕はゾフの連撃で、僅かに体勢を崩した。その隙を完全に捉えてゾフは渾身の一撃を僕に放つ。

 その攻撃を何とか神盾イジスで受け止めるが、衝撃は抑えきる事が出来ず10メートル近く弾き飛ばされた。

「これ以上ジルベルト様をお持たせするわけにもいかん。ここで決着をつけさせてもらうぞ。小僧」

 ゾフはそう宣言すると両手に握られた剣に黒く禍々しい魔力を注ぎ込んでいく。剣の刀身から黒いオーラを放ち始める。

『クラウド様、お気を付け下さい。とてつもない魔力で御座います』

 言われるまでもない――あんなものまともに食らったら骨も残らないだろう。

 ならば方法はひとつしかない。そして――

「死んでもらうぞ、小僧! 滅殺剣アナイアレイターソード!!」

 ソフが剣を振り下ろすと、黒い魔力の塊は一つの斬撃となった僕に襲い掛かる。

 その瞬間、僕はニヤリと笑った。
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