僕の装備は最強だけど自由過ぎる

丸瀬 浩玄

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第五章

第57話 魔族ジルベルト

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 今回はジルベルト視点です。
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 それは突然だった。

 かつて邪神様が封印されていた神殿から突然、僅かながらも天神の神気を感じ取った。

 あの場所は俺の管轄なのだが、余り重要な場所でも無い為、正直放置していた――が、今回はそうも行かないだろう。なんせ、我ら魔族の宿敵、天神の気配とあっては流石に捨て置けん。状況が確認出来るまで部下に任せる訳にも行かず、最高幹部である俺が直接赴くことにした。


◇ ◇ ◇


 神殿の入口まで転移すると、そこには一人の人間の子供がいた。

 少し癖のある亜麻色の髪を振り乱し慌てて何かを取り出そうとしている。

 アイテムボックスか? ――しばらく観察していると、どこからともなく馬の人形のような物を取り出した。

 ……あれはおそらく召喚笛だろ。形から察するにペガサスかスレイニプルか……どちらにしても中々優秀な移動用召喚獣だ。まあ、だからと言って逃がす気はないが――


「いったいどこに行こうというのかね」

 俺が少年に声を掛けると、全く俺に気付いていなかったのか、少年は慌ててこちらに振り向いた。

 俺の顔を見た少年は、驚愕の表情と共に何かをつぶやいている。

 
 正面から見た少年の姿には正直驚いた。全身を覆う装備はどれもが、かなりの力を秘めているのが分かる。どれかまでは特定出来ないが天神の神気を発している物さえある。――ただ、それを装備している少年の実力は正直ガッカリするものだった……


「い……いったい何時から……」

 少年は今にも消え入りそうな声で疑問を口にする。

「え? 何時って? 丁度今到着したとこだよ。邪神様のかつてのお住まいに、弱いながらも天神の神気を感じたからね。急いで転移して来たんだよ」

 どうせここで始末するのだが、思わず素直に答えてしまった。まあ、どうでもいいか……

 俺の言葉に少年は押し黙り、俺を睨みつけて何かを考えているようだ。……いや、違うな……この気配――念話をしている? なるほど知性魔道具インテリジェンスアイテムか。何を相談しているか分からんが、これは少し楽しめそうだ。


 見る限り少年の顔つきも変わってきたし、そろそろ話し掛けても良さそうかな?

「俺をのけ者にして、秘密の相談かな?」

 俺の言葉に一瞬少年の眉間にしわが寄ったが、何も答えようとしない。――さてと、どうするか? 俺が直接手を下してもいいが、それだと虫を踏み潰すようなもの、簡単過ぎて面白みに欠ける。なら――

「まあ、何を相談したかは知らないけど、逃がしはしないよ。――とは言っても君みたいな雑魚に俺が態々相手をするのも大人気ないな……じゃあ――召喚サモンゾフ」


「ジルベルト様、ここに――」

 俺の召喚魔法に呼応して少年の後ろに漆黒のフルプレートアーマーに身を包んだ騎士が現れた。

 この黒騎士――ゾフは2人いる俺の副官の内の1人だ。実力は魔族の中でも上位に位置する。いくら少年の装備が強力でも、あの程度の能力の少年に間違っても後れを取る事は無いだろう。


 さてと、どんな戦いを見せて貰えるか。俺を楽しませる為にも、すぐには終わらないでくれよ。


「じゃあ、時間を掛けるのも俺の趣味じゃないし、ゾフ、とっとと始末しちゃってくれ」

「御意」

 俺がゾフに声を掛けると、戦闘は始まった。

 剣を構えゾフと正対する少年。中々の力のある魔剣を持っているようだが、所有者があれでは宝の持ち腐れだ。今もゾフの圧力に押され少しずつ後退している。この時点ですでに勝負がついているように思える。――これは大して楽しめんかもしれないな。

 そんな事を思っていた時だ。――突然、少年を中心に金と青白いオーラが立ち昇り、そのまま少年を包んでいく。

 それと同時に一気に少年の存在値が増す。まるで急激にレベルアップしたように――だがしかし、まだゾフには届いていない。ただ――

「ほぉ、面白い……少しは楽しめそうじゃないか――なぁ、ゾフ」

 それが俺の素直な感想だ。それにゾフも――

「御意」

 と抑揚のない声で答える。だが俺には分かる。明らかにゾフは喜んでいる。久しぶりに戦う強敵に喜びがにじみ出ている。そんな感じだろう。

 
 そして突如始まる戦い。激しい剣戟。

 魔族の中でも物理戦闘を得意としているゾフと、少年は物理戦闘で渡り合っている。

 これほどの力も持った人間を見るのは久しぶりだ。もしかしたら二、三百年見てないかもしれん。とは言ってもあの装備達による能力の上乗せだろうが……

 だが……戦いはそれほど長く続きそうもないか……

 自力の差か、少年は少しずつ追い込まれていた。全身いたるところに傷を負い、息は乱れ、後退を余儀なくされている。

 やがてゾフの連撃に体勢を崩した少年は、ゾフの渾身の一撃を盾に受けながら弾き飛ばされていく。


「これ以上ジルベルト様をお持たせするわけにもいかん。ここで決着をつけさせてもらうぞ。小僧」

 ゾフのやつもそろそろ決着をつけるつもりらしい。両手に握る大剣に魔力を注ぎ込んでいる。

 ゾフのやつも大人気ない――アレを喰らえばいくら、強力な装備に守られていても、あの少年では耐えられんだろう。


「死んでもらうぞ、小僧! 滅殺剣アナイアレイターソード!!」

 ゾフが振り下ろした大剣から黒い斬撃が撃ちだされ少年を襲う。

 次の瞬間、黒い斬撃は少年に直撃する。激しく漆黒の爆炎が上がり、少年の姿を飲み込んだ。


 ……終わったな……

 そう思った時だった。

 ――突然の閃光――

 同時に襲う衝撃。今まで目の前にいたゾフが光に飲み込まれ崩れ去るように消滅していく。

 何が起こっているかも分からないまま俺の意識は薄れていく。

 ちっ! ミスったな。まさかこんな奥の手が有ったとは……まあいい、今回は・・・は大人しく殺されてやるか。――あっ! しまったな、少年の名前を聞いておくんだった。仕方が無い次回を・・・楽しみにしておくか。

 そして俺は光の中で消滅した。
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