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第七章
第80話 折角の再会が・・・
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箸休め的なプチエピソードのはずが、普段の倍の長さになってしまった……
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クラウディアさんの下に転移したまでは良かったが、その肝心のクラウディアさんがとても忙しそうだ。
周りの兵士が、引っ切り無しにクラウディアさんの下にやって来ては指示を仰いでいる。確かに彼女のレベルも家柄もこの中では高いようだし、そう言った役回りになって来るのかもしれないな。
さて、声も掛け難いしどうしたものか…… なんて思っていたら、クラウディアさんの方が僕の事に気が付き、周りの兵士に一言言うと満面の笑みで僕の下にやって来くる。
『クラウド。愛されているね』
『ハハハ…… あの、逆プロポーズの件ってまだ続いているのかな?』
レヴィの一言で昔の事を思い出す。
美人だし、性格も良いし、……多少突飛な性格の部分もあるが…… 奥さんとしては申し分ないと思わないでもないんだけど、なんせ、僕はもう人間辞めちゃったしな…… この場合ってどうなるんだろう?
『半神人と人の間で子をもうける事は可能ですが、根本的に半神人と人では寿命の差が大きく、共に歩むといった観点では少々難しいのではないでしょうか』
セバスさんの言う事はもっともだね…… まあ、今後の事は邪神を倒してから考えればいいかな。邪神と戦って生きて帰って来られるかどうかも分からない訳だし。
「クラウド様。良かった……」
クラウディアさんは僕の姿を見て目を潤ませている。
「色々とご心配お掛けしました」
「いえ、ご無事で何よりです。あの…… お体は大丈夫なのですか?」
心配そうに僕の事を見てくる。恐らく、邪神との戦いで僕が死んだ事になっているのが要因だろう。
「はい、ピンピンしていますよ。ほら、ちゃんと足も付いているでしょ」
「ふふ、本当です。ちゃんと足も付いています」
クラウディアさんは目に涙を浮かべながら笑っている。とても嬉しそうに。
『死んでないけど、人間は辞めっちゃったけどね』
『そうね。もう神様ですものね』
『お兄ちゃんは既に神様なの』
『兄様は既に神様です』
クラウディアさんに聞こえていないからいいが、感動のシーンがレヴィ達の茶々で色々台無しだ。主に僕の気持ち的な部分でだけど……
「色々ありまして、しばらく動けなくなっていたのですが、もう大丈夫なので安心して下さい。これからは邪神軍討伐にガンガン働きますね」
「はい、でも、……今度は無理をなされないで下さいね。クラウド様は私、いえ、我々人類の希望なのですから」
「希望だなんて…… でも、分かりました」
とは言ったものの、邪神とまともの戦えるのって僕しかいない訳で、正直最終的には無理や無茶をしないといけないんだろうな……
「……約束ですよ」
そう言って笑うクラウディアさんの表情は何処か心配気に見える。
恐らくだが、邪神との戦いにおいて、僕が無理をしなければ人類側が勝てない事を何となくでも分かっているからじゃないだろうか。
だから、僕は特に何も言わず「はい」とだけ笑顔で答えた。
それから、クラウディアさんの部下らしき人がやって来て一言二言話すと、クラウディアさんは「少し用事が出来てしまったみたいです。すぐに戻りますので、少し待っていください」と言って部下共にどこかに行ってしまった。
さてと、どうしたものか…… やる事も無く、ぼーっと周りの様子を見ていると、5人の騎士らしき集団がこちらに近づいて来た。
『クラウド。やっぱり、来たね』
『クラウディアさんと話している間、ずっと僕の事睨んでいたしね』
『鎧の意匠から、ブリンテルト王国の正騎士のものでは無いようです。恐らくブリンテルト王国の貴族の手の者だと思われます』
貴族様か…… なんか面倒な事にならないといいんだけど…… 無理かな。
『主よ、拙者が排除いしたしましょうか?』
排除って…… イジスさんも物騒だな。
『いや、いいです。手荒な事をすると面倒事が増えそうですし』
そうこうしているうちに騎士達が僕の前までやって来た。
「貴様。何者だ?」
騎士の中でも、一番豪華な鎧を纏ったリーダーらしき男が、僕に向け誰何の声を上げる。金髪碧眼の美男子で、如何にも貴族様と言った雰囲気の男だ。
「ハンターをしています。名をクラウドと申します」
「ハンターだと? 貴様のような軟弱そうな男がか?」
「まあ、一応」
レベルによって能力が変わるのに、強さと見た目は余り関係ない気がするんだけど……
「貴様。先ほどクラウディア殿と話していたようだが、どういった関係だ?」
はぁ…… 嫉妬なのかな……
「以前に一緒に仕事をさせてもらっただけですよ」と、無難に答えておく事にした。
「……そうか。しかし、だからと言って貴様のような下賤の者が、クラウディア殿のような方に、そうそう近づいていいものでは無い。分をわきまえよ」
何が「しかし」なんだろうか?
「あの…… 先ほどから色々おっしゃっておられますが、貴方はどちら様でしょうか?」
少々失礼な物言いかとも思ったが、先方も色々失礼なのでこれくらいはいいだろう。
そしてやっぱりというか、下賤の者と僕の事を言うくらいだから、僕の言葉に明らかに機嫌を悪くしたようだ。当然というか、後ろに控えていた騎士達からも怒気がこもった罵声が浴びせられる。
「貴様。ヴァンモーデン閣下に失礼ではないか」
「そうだ、貴様のような下賤なハンター如きが本来、話を聞いていただける事すらあり得ん事なのだ」
そう思うなら、話し掛けないで欲しかったです。
「まあよい。下賤の者が私の事を知らなくても仕方の無い事だろう。一度しか言わぬから良く聞け。私はヴァンモーデン侯爵家嫡男、パウル・フォン・ヴァンモーデンだ。覚えておけ」
「はあ」
こんなのがブリンテルト王国第4の都市、ヴァルグル・シティの次期領主様なのか。ヴァルグル・シティの将来が心配になってくる。まあ、選民意識が高いだけで、統治能力はちゃんと身に付けているかもしれないけど。
「ふん、そんな事よりも、貴様。身の丈に合わぬ大そうな装備を身に付けているな」
「はあ」
この人何を言いだすんだ……
「強力な装備とは、本来相応しき者が持つべきとは思わぬか?」
「はあ」
「貴様のような下賤の如きハンターが持つには、不相応な装備品だとは思わぬかと言っているのだ」
「…………」
はぁ…… この人ダメだな……
『やはり拙者があの者を排除いたしましょう』
それでもいい気がしてくるから不思議だね。とはいっても流石に侯爵家の跡取り相手には不味いよね。
『いや、さすがに排除するのはね……』
『じゃあ、ボクが相手しようか?』
『いや、イジスさんが相手してもレヴィが相手しも不味い事になるのは一緒でしょ』
『そんな事ないよ。ボクが剣のままあの貴族のボンボンを拒絶すればいいだけだし』
あっ、なるほどね。確かにそれなら問題無いか…… 無いよね……
『了解。その手で行ってみよう。一応死なない程度でお願いね』
『もちろん。任せてよ』
自信満々なのが返って不安になるのは何故でしょう?
「小僧。ヴァンモーデン閣下がご質問されているのだ、黙ってないで答えぬか!!」
黙って何も言わない僕に対して、しびれを切らした騎士の一人が怒鳴って来た。
「はあ、まあ、お渡しするのは構いませんが、この装備品達は使用者を選ぶタイプの武具です。彼らが貴方を選ぶのであればお渡しする事は吝かではありませんが、もし、彼らが貴方を拒絶するような事が有れば、お怪我をする事になるやも知れません。それでもよろしいですか?」
一応警告はしておきます。たぶん無駄だろうけど……
「ふん、貴様のような下賤の者でも選ばれるのだ。私のような高貴な者が選ばれぬわけが無いだろう。構わぬ早くよこせ」
「はあ、それで良いと言われるのならば」
僕はレヴィを鞘から抜くと地面に突き刺す。
「一応念の為、剣から順番に参りましょう。もし同時にお渡しして、同時に拒絶されれば命を落とす事にもなりかねませんから」
「そ、そうか…… まあ、問題無かろうが、良いだろう」
僕の脅し文句に一瞬怯んだようだけど、相変わらず自信満々だ。何処からそんな自信が湧いて来るのか不明だが。
ヴァンモーデンさんは、ズカズカとレヴィの前に進むと、「我が物になれ」と一言言うとニヤリと笑いその柄に右手を伸ばした。だが、次の瞬間、『イヤッ!』と言うレヴィの声が聞こえると共に、そのレヴィが眩いばかりの光を放ち、ヴァンモーデンさんを数メートル弾き飛ばされてしまった。
「うぎゃァァ!! 手がァァぁ、私の手がァァ!!」
柄を掴もうとした右手を抱え揉むように蹲るヴァンモーデンさん。
そんなに威力があるように見えなかっただけど…… 大丈夫かな?
『最小出力だし問題無いっしょ。レベル30くらいでも死なないと思うよ』
レベル30以下なら死ぬかもしれないのかな…… やっぱりちょっと危険だったかな?
『あの者のレベルは75ですので特に問題は無いでしょう』
『にしては痛がり過ぎている気がするけど』
『恐らく単に痛みに対する耐性が無いのでしょう』
『要はヘタレって言う事だね』
『レヴィの言う通りで御座います』
そうなんだ……
さてと、この後どうしよう……
「大丈夫ですか? どうやらダメだった見たですね」
「き、貴様!! 一体何をした!?」
「はい?」
「貴様が何かしたのだろ!?」
正直否定は出来ないです。
「でなければ、この私が選ばれぬわけが無いのだ!!」
いや、それは完全に否定出来るよ。みんな嫌がっているし。
「許さぬ!! 直ぐこの場で貴様を処刑してやる!!」
そう言うと剣を抜き、僕に切っ先を突きつけてくる。周りに控える騎士達もヴァンモーデンさんに倣うように剣を抜く。
うわぁ、凄く短気だ。なんていうかプライドの塊のような人だな。そんな事を思っていると、ようやくこの場を収束出来そうな人がやって来る気配を感じた。
「そこで何をやっているのです!!」
遠くから、大声を張り上げなら掛けて来たのはクラウディアさんだ。
女性に頼ってトラブルを収めるのは不本意ではあるけど、相手が貴族様だし今回は仕方ないかな。僕は地面に刺さったままになっていたレヴィを鞘に納めると、クラウディアさん到着を待った。
「ヴァンモーデン卿、これはどういう事ですか!?」
怒気を孕んだ表情で、ヴァンモーデンさんに詰問するクラウディアさん。ちょっと怖い。いや、かなり怖い。
「その者が、剣が私を拒絶したなどと嘘を吐き、私を傷つけた為、今から処刑を行うなのだ」
当たり前の事を言わすなとばかりに不機嫌は態度を顕わにする。
「貴方はあの方をどなたか分かって言っているのですか?」
更に険しい表情となり質問を投げかける。
「ふんっ、たかが下賤のハンターなど、何者でもあっても関係ない!!」
その言葉にクラウディアさんは、怒り半分、呆れ半分の表情を見せる。
「はぁ…… 貴方は黒の勇者を知っていますか?」
「当然だ。今代において人類最強の戦士と言われた者を知らぬわけが無かろう」
「……その方が、ここにいるクラウド様です」
「……はぁ!? そんな訳が無かろう。黒の勇者は2ヶ月ほど前、邪神との戦いに敗れて死んだと聞いた。第一、この者の鎧は黒では無く白ではないか。クラウディア殿こそこの者に誑かされているのではないのか?」
まあ、僕の事を知らないとそう思う事もあるよね。
「いえ、間違いありません。私は、クラウド様が黒の勇者と呼ばれる以前より知己を得ております。それどこらか同じ目標に向け一緒に戦った戦友でもあります。彼から感じる魔力を他の者と間違える事などでありません」
『魔力が神気のなっても同じって分かるんでしょうか?』
『基本、魔力が神気に変わり性質が変わったとしても、そのものから出る気配のようなモノは変わりません。恐らくクラウディア様もその気配を感じておられるのでしょ』
へぇーって感じだ。流石一流の魔導士だけの事はあるんだね。
「バ、バカな…… ではホントにその者が黒の勇者だと?」
「はい、第一、先ほど押し寄せていた邪神軍を、誰が殲滅したと思っているのです」
「それは、神が遣わした天使が……」
正解です。
「違います。あれはクラウド様が召喚された天使なのです。彼がこの場に来なければ我々は全滅していてもおかしく無かったのですよ」
「そ、そんな……」
「クラウド様の持つ剣から、貴方が拒絶されたのも当然の事でしょう」
ヴァンモーデンさんはそのまま項垂れて動かなくなってしまった。まあ、仕方の無い事なんだけどね。
「話しは済みました。では、クラウド様、父上が待っております。軍の本陣がある天幕に移動しましょう。」
そう言うとクラウディアさん、ヴァンモーデンさんを一瞥する事もなく歩き始めた。
『クラウディアちゃんって、怒ると意外と怖いんだね』
レヴィの言葉に頷きながら、僕はクラウディアさんの後に続いて歩き出した。未だ動く様子の無いヴァンモーデンさんを横目に見ながら。
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箸休め的なプチエピソードのはずが、普段の倍の長さになってしまった……
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クラウディアさんの下に転移したまでは良かったが、その肝心のクラウディアさんがとても忙しそうだ。
周りの兵士が、引っ切り無しにクラウディアさんの下にやって来ては指示を仰いでいる。確かに彼女のレベルも家柄もこの中では高いようだし、そう言った役回りになって来るのかもしれないな。
さて、声も掛け難いしどうしたものか…… なんて思っていたら、クラウディアさんの方が僕の事に気が付き、周りの兵士に一言言うと満面の笑みで僕の下にやって来くる。
『クラウド。愛されているね』
『ハハハ…… あの、逆プロポーズの件ってまだ続いているのかな?』
レヴィの一言で昔の事を思い出す。
美人だし、性格も良いし、……多少突飛な性格の部分もあるが…… 奥さんとしては申し分ないと思わないでもないんだけど、なんせ、僕はもう人間辞めちゃったしな…… この場合ってどうなるんだろう?
『半神人と人の間で子をもうける事は可能ですが、根本的に半神人と人では寿命の差が大きく、共に歩むといった観点では少々難しいのではないでしょうか』
セバスさんの言う事はもっともだね…… まあ、今後の事は邪神を倒してから考えればいいかな。邪神と戦って生きて帰って来られるかどうかも分からない訳だし。
「クラウド様。良かった……」
クラウディアさんは僕の姿を見て目を潤ませている。
「色々とご心配お掛けしました」
「いえ、ご無事で何よりです。あの…… お体は大丈夫なのですか?」
心配そうに僕の事を見てくる。恐らく、邪神との戦いで僕が死んだ事になっているのが要因だろう。
「はい、ピンピンしていますよ。ほら、ちゃんと足も付いているでしょ」
「ふふ、本当です。ちゃんと足も付いています」
クラウディアさんは目に涙を浮かべながら笑っている。とても嬉しそうに。
『死んでないけど、人間は辞めっちゃったけどね』
『そうね。もう神様ですものね』
『お兄ちゃんは既に神様なの』
『兄様は既に神様です』
クラウディアさんに聞こえていないからいいが、感動のシーンがレヴィ達の茶々で色々台無しだ。主に僕の気持ち的な部分でだけど……
「色々ありまして、しばらく動けなくなっていたのですが、もう大丈夫なので安心して下さい。これからは邪神軍討伐にガンガン働きますね」
「はい、でも、……今度は無理をなされないで下さいね。クラウド様は私、いえ、我々人類の希望なのですから」
「希望だなんて…… でも、分かりました」
とは言ったものの、邪神とまともの戦えるのって僕しかいない訳で、正直最終的には無理や無茶をしないといけないんだろうな……
「……約束ですよ」
そう言って笑うクラウディアさんの表情は何処か心配気に見える。
恐らくだが、邪神との戦いにおいて、僕が無理をしなければ人類側が勝てない事を何となくでも分かっているからじゃないだろうか。
だから、僕は特に何も言わず「はい」とだけ笑顔で答えた。
それから、クラウディアさんの部下らしき人がやって来て一言二言話すと、クラウディアさんは「少し用事が出来てしまったみたいです。すぐに戻りますので、少し待っていください」と言って部下共にどこかに行ってしまった。
さてと、どうしたものか…… やる事も無く、ぼーっと周りの様子を見ていると、5人の騎士らしき集団がこちらに近づいて来た。
『クラウド。やっぱり、来たね』
『クラウディアさんと話している間、ずっと僕の事睨んでいたしね』
『鎧の意匠から、ブリンテルト王国の正騎士のものでは無いようです。恐らくブリンテルト王国の貴族の手の者だと思われます』
貴族様か…… なんか面倒な事にならないといいんだけど…… 無理かな。
『主よ、拙者が排除いしたしましょうか?』
排除って…… イジスさんも物騒だな。
『いや、いいです。手荒な事をすると面倒事が増えそうですし』
そうこうしているうちに騎士達が僕の前までやって来た。
「貴様。何者だ?」
騎士の中でも、一番豪華な鎧を纏ったリーダーらしき男が、僕に向け誰何の声を上げる。金髪碧眼の美男子で、如何にも貴族様と言った雰囲気の男だ。
「ハンターをしています。名をクラウドと申します」
「ハンターだと? 貴様のような軟弱そうな男がか?」
「まあ、一応」
レベルによって能力が変わるのに、強さと見た目は余り関係ない気がするんだけど……
「貴様。先ほどクラウディア殿と話していたようだが、どういった関係だ?」
はぁ…… 嫉妬なのかな……
「以前に一緒に仕事をさせてもらっただけですよ」と、無難に答えておく事にした。
「……そうか。しかし、だからと言って貴様のような下賤の者が、クラウディア殿のような方に、そうそう近づいていいものでは無い。分をわきまえよ」
何が「しかし」なんだろうか?
「あの…… 先ほどから色々おっしゃっておられますが、貴方はどちら様でしょうか?」
少々失礼な物言いかとも思ったが、先方も色々失礼なのでこれくらいはいいだろう。
そしてやっぱりというか、下賤の者と僕の事を言うくらいだから、僕の言葉に明らかに機嫌を悪くしたようだ。当然というか、後ろに控えていた騎士達からも怒気がこもった罵声が浴びせられる。
「貴様。ヴァンモーデン閣下に失礼ではないか」
「そうだ、貴様のような下賤なハンター如きが本来、話を聞いていただける事すらあり得ん事なのだ」
そう思うなら、話し掛けないで欲しかったです。
「まあよい。下賤の者が私の事を知らなくても仕方の無い事だろう。一度しか言わぬから良く聞け。私はヴァンモーデン侯爵家嫡男、パウル・フォン・ヴァンモーデンだ。覚えておけ」
「はあ」
こんなのがブリンテルト王国第4の都市、ヴァルグル・シティの次期領主様なのか。ヴァルグル・シティの将来が心配になってくる。まあ、選民意識が高いだけで、統治能力はちゃんと身に付けているかもしれないけど。
「ふん、そんな事よりも、貴様。身の丈に合わぬ大そうな装備を身に付けているな」
「はあ」
この人何を言いだすんだ……
「強力な装備とは、本来相応しき者が持つべきとは思わぬか?」
「はあ」
「貴様のような下賤の如きハンターが持つには、不相応な装備品だとは思わぬかと言っているのだ」
「…………」
はぁ…… この人ダメだな……
『やはり拙者があの者を排除いたしましょう』
それでもいい気がしてくるから不思議だね。とはいっても流石に侯爵家の跡取り相手には不味いよね。
『いや、さすがに排除するのはね……』
『じゃあ、ボクが相手しようか?』
『いや、イジスさんが相手してもレヴィが相手しも不味い事になるのは一緒でしょ』
『そんな事ないよ。ボクが剣のままあの貴族のボンボンを拒絶すればいいだけだし』
あっ、なるほどね。確かにそれなら問題無いか…… 無いよね……
『了解。その手で行ってみよう。一応死なない程度でお願いね』
『もちろん。任せてよ』
自信満々なのが返って不安になるのは何故でしょう?
「小僧。ヴァンモーデン閣下がご質問されているのだ、黙ってないで答えぬか!!」
黙って何も言わない僕に対して、しびれを切らした騎士の一人が怒鳴って来た。
「はあ、まあ、お渡しするのは構いませんが、この装備品達は使用者を選ぶタイプの武具です。彼らが貴方を選ぶのであればお渡しする事は吝かではありませんが、もし、彼らが貴方を拒絶するような事が有れば、お怪我をする事になるやも知れません。それでもよろしいですか?」
一応警告はしておきます。たぶん無駄だろうけど……
「ふん、貴様のような下賤の者でも選ばれるのだ。私のような高貴な者が選ばれぬわけが無いだろう。構わぬ早くよこせ」
「はあ、それで良いと言われるのならば」
僕はレヴィを鞘から抜くと地面に突き刺す。
「一応念の為、剣から順番に参りましょう。もし同時にお渡しして、同時に拒絶されれば命を落とす事にもなりかねませんから」
「そ、そうか…… まあ、問題無かろうが、良いだろう」
僕の脅し文句に一瞬怯んだようだけど、相変わらず自信満々だ。何処からそんな自信が湧いて来るのか不明だが。
ヴァンモーデンさんは、ズカズカとレヴィの前に進むと、「我が物になれ」と一言言うとニヤリと笑いその柄に右手を伸ばした。だが、次の瞬間、『イヤッ!』と言うレヴィの声が聞こえると共に、そのレヴィが眩いばかりの光を放ち、ヴァンモーデンさんを数メートル弾き飛ばされてしまった。
「うぎゃァァ!! 手がァァぁ、私の手がァァ!!」
柄を掴もうとした右手を抱え揉むように蹲るヴァンモーデンさん。
そんなに威力があるように見えなかっただけど…… 大丈夫かな?
『最小出力だし問題無いっしょ。レベル30くらいでも死なないと思うよ』
レベル30以下なら死ぬかもしれないのかな…… やっぱりちょっと危険だったかな?
『あの者のレベルは75ですので特に問題は無いでしょう』
『にしては痛がり過ぎている気がするけど』
『恐らく単に痛みに対する耐性が無いのでしょう』
『要はヘタレって言う事だね』
『レヴィの言う通りで御座います』
そうなんだ……
さてと、この後どうしよう……
「大丈夫ですか? どうやらダメだった見たですね」
「き、貴様!! 一体何をした!?」
「はい?」
「貴様が何かしたのだろ!?」
正直否定は出来ないです。
「でなければ、この私が選ばれぬわけが無いのだ!!」
いや、それは完全に否定出来るよ。みんな嫌がっているし。
「許さぬ!! 直ぐこの場で貴様を処刑してやる!!」
そう言うと剣を抜き、僕に切っ先を突きつけてくる。周りに控える騎士達もヴァンモーデンさんに倣うように剣を抜く。
うわぁ、凄く短気だ。なんていうかプライドの塊のような人だな。そんな事を思っていると、ようやくこの場を収束出来そうな人がやって来る気配を感じた。
「そこで何をやっているのです!!」
遠くから、大声を張り上げなら掛けて来たのはクラウディアさんだ。
女性に頼ってトラブルを収めるのは不本意ではあるけど、相手が貴族様だし今回は仕方ないかな。僕は地面に刺さったままになっていたレヴィを鞘に納めると、クラウディアさん到着を待った。
「ヴァンモーデン卿、これはどういう事ですか!?」
怒気を孕んだ表情で、ヴァンモーデンさんに詰問するクラウディアさん。ちょっと怖い。いや、かなり怖い。
「その者が、剣が私を拒絶したなどと嘘を吐き、私を傷つけた為、今から処刑を行うなのだ」
当たり前の事を言わすなとばかりに不機嫌は態度を顕わにする。
「貴方はあの方をどなたか分かって言っているのですか?」
更に険しい表情となり質問を投げかける。
「ふんっ、たかが下賤のハンターなど、何者でもあっても関係ない!!」
その言葉にクラウディアさんは、怒り半分、呆れ半分の表情を見せる。
「はぁ…… 貴方は黒の勇者を知っていますか?」
「当然だ。今代において人類最強の戦士と言われた者を知らぬわけが無かろう」
「……その方が、ここにいるクラウド様です」
「……はぁ!? そんな訳が無かろう。黒の勇者は2ヶ月ほど前、邪神との戦いに敗れて死んだと聞いた。第一、この者の鎧は黒では無く白ではないか。クラウディア殿こそこの者に誑かされているのではないのか?」
まあ、僕の事を知らないとそう思う事もあるよね。
「いえ、間違いありません。私は、クラウド様が黒の勇者と呼ばれる以前より知己を得ております。それどこらか同じ目標に向け一緒に戦った戦友でもあります。彼から感じる魔力を他の者と間違える事などでありません」
『魔力が神気のなっても同じって分かるんでしょうか?』
『基本、魔力が神気に変わり性質が変わったとしても、そのものから出る気配のようなモノは変わりません。恐らくクラウディア様もその気配を感じておられるのでしょ』
へぇーって感じだ。流石一流の魔導士だけの事はあるんだね。
「バ、バカな…… ではホントにその者が黒の勇者だと?」
「はい、第一、先ほど押し寄せていた邪神軍を、誰が殲滅したと思っているのです」
「それは、神が遣わした天使が……」
正解です。
「違います。あれはクラウド様が召喚された天使なのです。彼がこの場に来なければ我々は全滅していてもおかしく無かったのですよ」
「そ、そんな……」
「クラウド様の持つ剣から、貴方が拒絶されたのも当然の事でしょう」
ヴァンモーデンさんはそのまま項垂れて動かなくなってしまった。まあ、仕方の無い事なんだけどね。
「話しは済みました。では、クラウド様、父上が待っております。軍の本陣がある天幕に移動しましょう。」
そう言うとクラウディアさん、ヴァンモーデンさんを一瞥する事もなく歩き始めた。
『クラウディアちゃんって、怒ると意外と怖いんだね』
レヴィの言葉に頷きながら、僕はクラウディアさんの後に続いて歩き出した。未だ動く様子の無いヴァンモーデンさんを横目に見ながら。
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「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
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