魔王と勇者の珍道中

藤野 朔夜

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子どもの木

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「これは……。生命の木かな」
『そう、そうなの』
『この子が生まれたの。だから、森全体で守ってるの』
 イシュさんの言葉に、精霊が答える。
 多分水の子も混ざってるっぽいけど。でも、イシュさんは水以外の精霊の声が聞こえるから、聞き逃してはいないだろう。
 というか、俺の方が疑問だらけだ。
「生命の木?」
『そうそう』
『この子が大きくなると、この地に生命が溢れるよ。だから、精霊もいっぱい』
 んん?
 俺が大きく首を傾げている隣で、イシュさんは考え込んでる。
「生命の木は、たしかに色々な場所に有るけれど。この森にも、大きくなった生命の木が無かったかな?」
『人間、欲張り』
『あの子は切り倒しても、他の地に根ははらない。でも、持ってった』
「たしかに生命の木が有れば、豊かな土地になるだろうが。この国の王か」
『そう、そう』
『だから、私たち、人間に、もう恵み、あげない』
『欲しいって言われた薬草、隠したの』
『この森を豊かにしていた生命の木を、持って行った人間へのむくいか。それは仕方なしや。イシュバールよ。どうする?』
 この森の精霊たちに次いで、俺たちと一緒にいた精霊も言葉を発する。
『イシュバール?』
『魔族の王?魔族になら、あげる』
『魔族は優しいから。嫌いじゃないよ。採り過ぎたりしないもん』
 名前だけで、イシュさんは精霊に知れ渡ってるんだ。すごいな。
 でも、そこじゃなくて。問題なのは。
「違うよ。イシュさんが欲しいんじゃなくて、俺が欲しいから。人間だから、駄目だよ」
 欲しいって言ってるのは、魔族じゃなくて、人間の俺の方。だから、貰っちゃ駄目だと思うんだ。
『人間?』
『人間?』
『魔力多いよ?』
『でも、人間だよ』
 なんだか森の精霊たちが、騒がしくなってしまった。
『この子、良い子。この子なら、大丈夫』
「駄目だと思うよ。俺はこの街から離れるから、そうしたら、きっと別の人間が、薬草が欲しいってやって来る。そしたら、この子どもの木も、見付かる可能性も有るだろ?」
 俺がここでもらって帰ったら、ここでまた薬草が採れるって来る人間は居るだろう。
 探し回って、この小さな木を見付けないって保証は、どこにも無い。
 他の土地に根をはらないのなら、前に持って行った生命の木は、きっと枯れてるだろう。そんな時に、子どもの木を見付けたら、どうなる?
「小さいからって、根っこごと持って行きそう」
『駄目、駄目』
『この子は生まれたばっかなの。根っこから持ってかれたら、すぐに枯れちゃう』
『生命の木の成長が良かったから、この木は生まれたのであろう。それを根ごと持って行かれたら、この森が枯れるやもしれん』
 ここの精霊たちより、やや落ち着いて見える俺たちに付いて来た精霊。
 この木が生まれた時に、生まれた精霊たちなのかな。ここに居る子たちは、全体的に幼い感じがする。
 どうしよう、どうしようって騒ぐ精霊。俺もまったくもって同じ気持ちだ。
「ごめんなさい。同じ人間として謝る。俺が謝っても許されることじゃないだろうけど。薬草はさ、他で探すとか。他の街から採って来てもらうとか、するしかないんじゃないかな。この森、しばらく人間立ち入り禁止とか、できないのかな?」
『ほんにワタルは良い子よな』
 いつもみたいに、精霊が頭を撫でてくれる。
『ワタル?』
『ワタルって言うの?』
『じゃあ、ワタルだけにあげる。この薬草、切り傷に良いの』
『こっちはね、火傷に効くよ』
『これはね……』
 なんだか、たくさんの精霊が、たくさんの薬草を持って来てくれた。
 いや、嬉しいんだけど。これはギルドには渡せないよな。
「煎じ方は今度俺が教えるね。そうだねぇ。森の変調は、この国の王の身勝手さ故だから、俺たちは森には入らない様に、ってギルドに言うしかないかな。民まで王の身勝手に振り回されるのは、困ったものだけれど」
 精霊は、国から来た人間か、ギルドから来た人間かを、見分けられないからね。
 とイシュさんは言う。
 悪意が無くとも、人間だからと精霊は薬草を隠したのだろう。だから、冒険者たちには見付けられなかった。
「俺はもらっても良いの?」
 精霊たちに対して、俺は同じ人間である。
『ワタル、良い子』
『ワタル関係ない。でも謝ってくれた。だから、あげる』
 理由を知っても、精霊を見られない人じゃ、謝りようがないんだけど。
 だから、俺が謝るのは、精霊を見れる人間として当然だと思うわけで。大切にしていた物が、勝手に持って行かれたら、人間だって怒るだろう。
 この森にとって大切な生命の木を、人間の身勝手で持って行った。
 あの王様は、とことん自分が良ければそれで良いって考えなんだろうな。
『あのね、あのね』
『この森に入ってすぐ、ごめんなさいした人にだけ』
『薬草あげる。これ、伝えれる人、いる?』
『でもね、でもね』
『言わなかったら、森からサヨナラ』
『この子見付かる、駄目』
 なんて精霊は優しいんだろう。謝れば、憎んでいるはずの人間の為に、薬草をくれると言う。
 見れなくとも、謝ればそれで良いのだと、許してくれる精霊は、とても優しい。
「人間の身勝手で、大切にしてた木を持って行かれたのに。どうしてそんなに優しく出来るんだろう。俺はこの国の王様のせいで、人間全部を憎みかけたのに」
 正確には、この世界の人間を、だけど。
 イシュさんは人間ではないけれど、憎しみを持ち始めた俺の心を癒してくれた人だ。イシュさんが居なかったら、俺は人間を憎んで生きて行こうとしてた。
『精霊に、憎しみという感情は無いよ。安心し、ワタル。精霊はすべてに平等だ。だが、優しい心根のワタルがここに来て、精霊に素直に謝った。そのことで、精霊は人間に対してのむくいを、少しだけ和らげることにした。それだけや』
 いつもの精霊の優しい言葉と、イシュさんの俺の頭をポンポンする手。
 皆優しいんだよな。
「話せる相手は居るよ。この街のギルドマスターをしている男だけれど。守秘義務は守ってくれる、信頼のおける男だから。大丈夫。しっかりと君たちの言葉は守らせるよ」
 イシュさんは精霊たちに向かって言う。
『なら良いよ』
『それなら良かった』
『ワタル、今、何の薬草、欲しい?』
 良かった良かったと飛び回る精霊たちは、人間に一切薬草を渡さないことに、苦しい思いをしていたのかもしれない。優しいから、薬草が見付からなかったと、肩を落として帰って行く人間を見て、辛い思いをしていたのかもしれない。
「あ、俺は今は傷薬の薬草が欲しいんだけど……待って、俺、あの、魔力操作試してみたくて。この木の傍ではやらないから、俺が自分で探してみたいんだけど、良い?」
 欲しい薬草を聞かれて答えたら、精霊たちが一斉に動こうとしたから、待ってもらう。
 何がしたくてここに来たのかって、俺は魔力を少しでも扱える様になって、そんでもって簡単な魔法を覚えたかったんだよ。
『そうなの』
『そうなんだ』
『大丈夫だよ。探してごらん。ワタルなら、ちゃんと見付かる』
「うん。ありがとう。薬草も、たくさんありがとう。また、いつかここに来るね」
 お礼を言って、もらった薬草は大切に鞄にしまった。今度、こういう薬草をしまえる袋を買おうと思う。
 精霊に別れを告げたけれど、あちこちに精霊はいるから、別れたって気にはならない。
「ふふ。ワタルは精霊にすぐに気に入られるね。まぁ、だからこそ、加護が付いているんだろうけれど」
 ニコニコしながら、場所を移動するイシュさんに付いて歩いてたら、イシュさんもニコニコしていた。
『ほれ、ここなら問題なかろ。ワタル……』
「こーら、精霊が教えてしまったら、意味ないだろう。まったく。魔力の巡り方は、魔族も人間も変わらないよ。手を出してごらん」
 精霊に待ったをかけたイシュさんは、右手を俺に差し出した。
 言われたとおりに、俺は左手をイシュさんの右手の上に乗せる。
 いよいよ魔法だ!
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