魔王と勇者の珍道中

藤野 朔夜

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重大発表

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 俺は今薪を拾い歩いている。
 これは結構考えて拾わなきゃいけない。
 なるべく硬い木で、乾燥している物。そうそう落ちている物では無い。
 イシュさんに言われて知ったけど、軟らかい木は、火付けには向いてるけど、すぐに燃え尽きちゃうから、火をおこし続けるには向いてないんだって。
 ここには薪を売ってるホームセンターなんて無い。当たり前だけど。
 街にも売っては無かったかな。見て無いからわからないだけかもしれないけど。薪を持ち歩くのは大変だし。森の中に居るのだから、現地調達が普通だろう。
 長いこと地面に落ちてる枯れ木は、湿気ってるから駄目。この森の養分になる木だから、それを乾燥させてまでは使わない。枝が枯れてるけど、まだ木から落ちて無いのは、絶対に駄目。まだ生命が有るんだ。
 硬い木は、広葉樹。ブナとかカシの木みたいなの。と俺は解釈した。
 ブナとかカシって名前じゃ無かったけど。木の名前なんて、俺もうろ覚えだし、合ってるかどうかは知らない。ただ、こっちではまた違う名前が付いた木。ちょっと形も違うし。
「精霊と一緒に、薪になる木を集めてくれるかな?」
 野宿の手伝いをしたい!と言った俺に、イシュさんは笑顔でそう言った。
 ので、俺は精霊に教えてもらいながら、せっせと薪を集めている。
 時々この実は食べれるよー、とかの情報をもらえたりする。楽しいな、薪集め。
 家族と行ったキャンプでは、ホームセンターで買った薪で火を新聞紙で付けたりして。薪拾いなんてしなかった。学校の野外学習の時の薪も、当然用意されていた。
 簡単に手に入ってたんだな。と実感。
 こうして一つ一つ集めてこそ、冒険者!って感じだ。
 決まった場所で決まった遊びしか出来なかった元の世界。もちろんその辺にある木の実を食べるなんて、しなかった。
 食べる前の「いただきます」も、ただの習慣になってて。命をいただきますという感謝の言葉なのだと忘れ去れて行ってた。俺だって、祖母ちゃんに言われなきゃ、そんな理由が有るなんて、知らずにいただろう。
 感謝を忘れたら駄目だよと、教えてくれた祖母ちゃんには、本当に感謝しなきゃ。
 俺は帰ったら、まずは最初に祖母ちゃんの墓参りに行きたい。
『さて、そろそろイシュバールの元へと帰ろうぞ。薪も集まったしえ』
 精霊の腕にも、俺の腕にも、薪はいっぱいだ。
「うん。あ、ねぇ。今までは、こうやって精霊が薪を集めてくれてたの?」
 ずっと野宿だったけど、火に困ったことが無かったんだよね。
『違うよ。たまになら、集めてた』
『でも、でも。イシュバール、火の属性の魔法、強い』
『そうそう。だから、簡単に燃える木だけ、有ったらイシュバールは、火に困らない』
『そうよな。だが、今回はワタルがおるからの。森の中をただ歩くでない、冒険者として必要なことも、教えたかったんだろう』
 すごいなぁ、イシュさんそんなことが出来るんだ。
 俺も頑張って魔法覚えたら、出来る様になるかな。
 でも、魔法に頼らない方法も、ちゃんと教えてくれる。
「そっか。付き合ってくれてありがとう。すっごく楽しかった」
 こっちだよ。とイシュさんの居る場所に案内してくれる精霊たちに、お礼を言う。
『我らも楽しかったえ』
 そう言ってほんわり笑ってくれる精霊や、周りで頷いてくれてる精霊に、俺がホッコリしてしまう。
 精霊との交流って、楽しいなぁ。
「イシュさん、薪拾って来た」
 すぐにイシュさんの姿が見えて、俺は薪をかかえたまま、走って近付く。
「あとね、食べれる木の実も」
 精霊も俺が走ったのに合わせて、同じ速度で来てくれた。
「ありがとう。ワタルも精霊たちも。そうだね、精霊が持って来てくれた分は、今後雨が降って困った時に使おうか」
 火の属性の有るイシュさんには、薪の量は多かったのかな。
 俺は精霊に言われるまで気付きもしなかったから、たくさん拾い過ぎたのかもしれない。
「多かった?」
「いいや、今後晴ればかりとも限らないし、薪は有っても困らないからね」
 言いながら、イシュさんは手際よく精霊の持って来た薪を縛って、アイテムボックスに入れている。
「すごい!大きいのも入るんだ!」
 アイテムボックスより大きな薪も、しっかりとその中に収納されて行く。
「ふふ。そうか。ワタルにはまだこういう大きい物を入れるところは見せていなかったね。このアイテムボックスは優れ物でね、重量も感じなくなるよ。ワタルの持ってる鞄と同じくらいの重さかな?」
 持ってみる?と薪を入れたアイテムボックスを渡される。
 俺はワクワクしながら手に取ってみた。うん!すごい!
 本当に四次元ポケットじゃん!ポケットじゃなくて、肩から下げる鞄だけど。
「うわーうわー。俺のはそんなに大きくないから、こういうのはむりだろうなぁ」
「そうだね。最初に持っていた王都のアイテムボックスなら、大丈夫だったかもしれないけれどね」
 中の収納の大きさ故に出来ることなんだろうなぁ。
 そうかぁ。王宮で渡された鞄は、たしかに色んなの入ってたのに、重くて投げ出したくなることは無かったもんな。
「ふふ。すぐにご飯作るから、待っててね」
 イシュさんの料理を見て、俺は料理を覚えようと思います。
 だって、包丁すら持ったこと無いんだよ、俺。家に帰れば当たり前に母親の料理が出て来て。外で腹がへったら、そこらじゅうにファーストフード店とか、コンビニとか、ファミレスなんかも溢れてて。
 自分で料理する必要性なんて、一切無かった。
 コンビニとかスーパーの総菜品とか溢れてる日本じゃ、女の子だって料理したことないのも普通。せいぜい学校の家庭科の調理実習くらい。
 今時花嫁修業なんてする様な人、俺の周りには居なかった。
 そういや、大学で仲良くなった女の子の中に、独り暮らしの子は居たけど。私料理できないから、いっつもコンビニとかー。って言ってたもんな。
 男友達も、自炊した方が安いってのはわかるけど、こんだけ便利になってんだから、いーじゃんって思うよな。って同調してた。
 俺もそれには賛成で。まぁ、こんなことになるんなら、何かの料理一つでも、しっかり覚えときゃ良かったとか、思いはするけど。異世界来て、カレーとか作れるわけもないじゃん。ルーも無いんだよ。香辛料で、どうやったら出来るかなんて、知るわけが無い。
 ここには教えてくれる、便利な電脳サイトも無いんだよ。
 最初に来た時に、スマホの電波が圏外なのは、しっかり確認したんだよ。どんな夢?!とか思ってる時期に。
 便利に慣れ過ぎた俺には、サバイバルな知識は一切ない。
 だからいつもイシュさんにありがとうを込めて、いただきますを言うんだ。命をいただきますも、たしかに感謝として言いたいけど。作ってくれた人にも、感謝の言葉になるよね。
「ずっとね、どう言おうか、悩んでいたことが有る」
 食後のお茶まで淹れてもらって、ホッと一息、という時間。
 イシュさんが改まった口調で、話しかけて来た。楽しそうにしてた精霊までも、何故か少し硬い表情に変わってしまった。
「イシュさん?」
「言わなきゃいけないと、わかっていたんだけれどねぇ。なかなか言えずにいたんだよ。でもさっき、ワタルが薪を拾いに行ってくれている間に、決心は付いた」
 なんだろう。なんか重大な話?しかも俺に関係した?
「異世界は多岐に有る。もし仮に、俺が異世界への扉を開くことが出来たとしても、それがワタルの世界へと確実に繋がるとは、言えない」
「え」
 俺は呆けて、イシュさんの綺麗な顔を見つめるしかできなくなった。
「今のところ、異世界への扉を開いているのはこの国だけで。この国のソレも、ワタルの世界の人間ばかりを、召喚していたわけじゃない。それから、この国の扉は、一方通行で、元の世界に戻す力は、無い」
 元の世界に、戻れないってこと……?
 俺はこの、誰も肉親の居ない世界で、死んで行くの……?
 祖母ちゃんの、墓参り……行けない……?
 言いにくそうだけれど、はっきりと言い切ったイシュさんに、俺の希望は、望みは、生きる意味は……どこに有るのかわからなくなった。
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