魔王と勇者の珍道中

藤野 朔夜

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魔王様は思案する

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 さきほど、少しだけとはいえ、俺の残忍さを聞いただろうに。それでも傍で安心しきって寝ているワタル。
 ワタルには何も危害を加えるつもりも無いし、守る気だから、それは良いんだが。
 ワタルの言う、俺の傍に居たいという言葉に、俺は勘違いしそうになる。
 ワタルは雛鳥の様に、俺の後を付いて回っているのだ。だから、親が居なくなるのを恐れているのと同じ。
 自分の冒険者証の称号、勇者の保護者を睨みつけても、その存在は変わらないとわかっている。見えない様に消すことしか出来ない。
 ワタルはいつまで、俺の庇護下に居てくれるのだろうか。
 本当は、いつまでも傍に居たい。俺の傍で、笑っていて欲しい。
 けれどワタルは冒険することを、楽しみにしている。
 俺も冒険者を続ければ良いだけなのだけれど。国に戻っても、それを許させるだけの、下地は有るけれど。
 ワタルは知力が有る。この国の中枢が、見向きもしない国境の危うさを、しっかり認識した。この先どうなるかを、しっかりと考えられる。
 そんなワタルが、いつまで俺を必要とするだろうか。
 あがきの様に、あまり話を掘り下げないでいるけれど。ワタルはその中から、必要な情報をどんどんと吸収している。
 いつまで俺の傍に、居続けてくれるのだろう。俺の我儘で、ワタルを縛り付けてはいけない。わかっていながら、どうしても、傍に居られる様に考えてしまうのだ。
 ケイミルス神が現れて、一日だけでもワタルは世界に戻ることを選んだ。その時の俺は、本当に情けなくなっていただろう。
 ケイミルス神に呆れられるほど。
 もうワタルはこの世界の子だから、元の世界に戻っても、そこでは暮らせないから。こちらに戻って来ないと、ワタルは生きて行けないから。と聞いても、不安でしかなかった。
 ケイミルス神に言われて、野営の場に戻りはしたものの。
 落ち着けない俺だけれど、その場に座って待っているしか出来ない。
 もう戻りたく無いと、ワタルが思ったらどうしよう。元の世界の家族に会い、こちらで生きることを、辛いとまた苦しめることになるのだとしたら。
 神が勝手に考えて、ワタルの世界渡りをさせた。
 この世界で、幸せになる為にと、神がくだした決断だけれど。
 ワタルはこの世界で、辛い目に有ってしまった。その上、殺されそうにもなっている。
 戻りたくない。平和な世界に居たいと思うのは、普通ではないだろうか。
「まぁーったく、魔王ってこんなだったけー?びっくりだよねー。我に会ってもだから何だとか、返してたのはそーんなに昔でもないのにねー。ワタル君が、君を変えたのかなー?だとしたら、良い変化と我は見るけどねー。誰にも興味の無かったイシュバールが、興味を示した唯一の人間かー。まぁ、我の可愛いワタル君だから、くれぐれもちゃーんと守ってよねー」
 俺の傍で、なにやら言っていたケイミルス神の言葉に、少しだけカチンとしたのは、ケイミルス神がワタルは自分の者であると言ったからか。
 自身の独占欲に、俺自身が呆れた。
「おや、ワタル君もう良いのかな。帰りたいって。この世界を帰る場所って認識してくれてることは、嬉しいねー」
 呑気なケイミルス神につい苛立ちが募った。
 何か元の世界で、嫌なことでも有ったのではないかと、心配がよぎる。
 一日で良いと、言い切っていたけれど。たった一時間で戻りたいと言ったワタル。
 この世界に戻って来たく無いと考えてしまうのでは、という不安は、心配に変わった。元の世界で、ワタルは大切にされていなかったのか?と。
 この世界でも、大切にされるべきだった場所で、ワタルは嫌な思いをしている。
 元の世界に戻ったのに、さらに嫌な目に合う様なことになっていたら……。
「早くワタルを戻してください」
 ついつい苛立ちから、きつい口調でケイミルス神に言っていた。
「もー、せっかちさんだなー」
 そう言いながら、ケイミルス神が力を使うのを、傍で見ていた。
 戻って来たワタルの姿を見た瞬間、もう離したくは無いと、腕の中に閉じ込めていた。
 何やらケイミルス神が言っていたが、それはどうでも良い。
 ワタルは泣く時も、声を上げては泣かない。
 静かにポロポロと涙をこぼすワタルを、俺はずっと抱き締めていることしか出来なかった。
 俺はワタルが安心して笑っていられる場所を作りたい。切実に思った。
 次の日から、ワタルはいつもどおりでいようとしていた。
 だから俺もいつもどおりを、心がけた。
 本当は、気になっていたのだけれど。ワタルが話したく無いことを、無理に聞きたくは無かった。
 けれど、変わらない距離感。
 いつもどおり過ぎる、距離感。
 俺が傍に居たいという思いが強くなるほどに、その距離感が悲しくなる。
 いっそ無理矢理に距離を詰めてしまおうか。
 仄暗い欲望が、理性を焼き尽くすのでははいかと思うほどに。
 その後にワタルにどう思われるかと考えて、それすら出来ない自身の臆病さに、心底笑いが込み上げた。
『イシュバールや、そう思い悩むでないよ』
 いつから精霊は俺の観察をする様になったのだろうか。
 まぁ、いつも居るから、俺が気にしていないだけなのだろう。
「ワタルの世界では、俺の様な魔族は居なかったんだろうね」
 魔族のことを知りたいと言ったワタル。
 ワタルの世界には、存在しない者たちである、俺たちの種族。だから、ワタルは俺たちのことを知らない。
 知ってもらえたら、何か変わるだろうか。
 ワタルの心に、俺は親では無い存在で、傍に居られる様になるだろうか。
『その様だの。ケイミルス神の言い方では、我らの様な精霊も居らぬ様だえ。だからワタルは、イシュバールのことを知る為にも、魔族を知りたいと言ったんだろうよ』
 俺を知る為に、魔族について知りたいと、言ってくれていたのなら、どんなにか嬉しいことだろうか。
 魔族の国に行って、魔族を知り、ワタルは俺と共に居てくれるという、答えを出してくれるだろうか。
 人間が住んで居ないわけではない。だが、人族の国に比べると、大きな差が有る。
 それは寿命であったり、空気中の魔力量だったり。
 生命の木は、国の本当にあちこちに生きている。
 人族とは土壌が全く違う場所。
 人は自分と違う者を忌避する。ワタルは、今まで見て来たことの無い魔族を見て、怯えないだろうか。
 考えれば考えるだけ、臆病な俺が顔を出し、もはや考えるだけ無駄である。
 愛おしい存在が出来るというのは、自身をこんなに臆病にさせるのだな、と。
 だが、同時に強く有らねば、とも思う。愛おしい存在が、誰かに害されること無く過ごせるように、強くなければならない、と。
 幸いにして、俺は強いのだ。
 ワタルを害する存在など、蹴散らせる。
 それだけの強さは有ると、自負している。
 だから、後はこの距離感だ。どうしたら、ワタルにさらに近付ける?
 どうしたら、ワタルは俺を保護者だと、思わなくなる?
 考えても考えても、答えなどワタルしか持っていないのだ。
 わかっているのに、ワタルを俺の元に引き止める術を、考える。
 ワタルの思ったとおりに、生活をして欲しい。楽しいと思える生き方をして欲しい。
 だけれども。その生き方の中に、俺を入れてはくれないだろうか。
 俺が居るから楽しいのだと。幸せに生きれるのだと。そうワタルに言わせたい。
 言ってもらえる様に、俺は頑張らねばならないのだろう。
 ワタルの為に頑張ることなど、苦でもない。
 国の為に生きることは嫌だけれど。ワタルの為ならば、今までの自由気ままの俺の生き方さえ、変えてしまえる。
「ワタル、君が笑って過ごす場所に、その傍らに、俺が一緒に居られる様に」
 願うだけなら、誰でもできる。
 俺はそれを叶える為に、言葉に出した。
 精霊が笑っていようが、どうだろうが、この願いだけは叶えたいのだから。
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