FULLMOON

藤野 朔夜

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第八章

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  冷たい風が、ひゅーと吹いていった。
「ザーク!!」
  見付けてくれたのはやはリグで、ザークはリグへと瞳を向けて微笑んだ。
「ザーク?」
  あれ?とリグは疑問を持つ。
  あんな状態で別れて、今までアイリスといたはずなのに。穏やかな姿はいつものザークで。
「やっぱり、リグは私を見付けてくれますね」
  なんて微笑んでいる。
「いや、当たり前に見付けるけど……何があった?」
  穏やかでいられることは良いことだろうけれど。あの状態のアイリスといたのに、何もなかったかのように平然としていられるザークへと問うリグ。
「少し前までは、混乱でひどい状態でしたよ。見ず知らずの青年に八つ当たりしてしまうほどに」
  ゆっくりと歩き出しながら、ザークは先程出会った青年、タチナの話しをリグにする。
「へーえ、そいつのおかげ、ねぇ」
  どこか釈然としない表情のリグ。
  リグとしてみたら、俺のザークに勝手に触りやがってという思いと、傷を治療して、ザークの心の安らぎさえ取り戻してくれた青年への感謝と……否、やっぱ、ザークの心の安らぎとか、俺の傍以外で作りだしやがって、傷治療したことだけには感謝するけれど。といったところだ。
「はい。冷静になれました。考えても意味はわからないんですけれど」
  微笑むザークに陰りがさす。
  冷静に考えても、何がなにやらわからないのだ。
  理解ができない。
  紐解けない謎ばかりがこんがらがって、ねじり合って意味不明だ。
「ま、今日は帰ってゆっくり休んで。それから考えたら良いだろ。アイリスはこの後どうするとか言ってたか?」
  リグは楽観的になろうと、言葉を紡いでザークを見る。
「あの家にいる、とだけは聞きました」
  そかとリグは頷き、早く帰ろうと言うようにザークの腕を取ると走りだす。
「え、リグ?」
「考えてもわかんねー時は、体動かすってな」
  そう言って。
「そんなの、リグだけですよ」
  なんて返しながらも、ザークはしっかりとリグについて行く。
  この平穏は、ほんの一時かもしれないけれど。今は、リグの温もりがあることがありがたい。
  本当は、平和にいられるのが一番だけれど。
  アイリスのことは、リグが言うようにゆっくり休んでから考えよう。
  リグに、シアンと話しをした内容を聞けば、何かわかるのかもしれない。
  そんなことを考えながら、リグに引かれるままザークは家への道を走り抜けた。


「そういえば……」
  家へと帰り着き、さぁ後は寝るだけとなって、ザークは愕然とする。
「どうした?」
  ベッドへと座り、ザークの腕に残ってしまった傷跡を確かめながらリグは問う。
「ロイ君に、何て説明しましょう……」
  茫然と呟くザークの声は震えている。
「んー、まぁ、こんくらいの傷ならすぐに治るか。……はぁ?あー……」
  優しく傷跡をなぞりながら、リグは呟き、ザークの言葉に反応する。
  ザークの傷をさらに深めてしないように優しく腕を引いて、自分の隣へと座らせながら考える。
  さすがに目の前で殺された、なんて報告はできないだろう。とするならば…… 。
「それも一緒に明日考えるか……」
  とにかく休むことが先決だと言うように。
  ザークも衝撃を受けているが、リグだって平気な顔をしているだけで、ずいぶんと衝撃を受けているのだ。シアンによって。
  今は何も考えたくないと思ってしまうほどに。
  ザークを、俺は手放してはやれない。アイリスが何をザークに言ったのかは気になるけれど、今は何も聞かず何も考えず、ザークの温もりを感じて休みたい。
  別に眠れなくても良い。ザークが考えたいと言うなら……付き合うべきだとも思っている。
  ザークが傍にいてくれるだけで、己の安らぎになるのだから。
  そう、この安らぎを、自分はアイリスから奪った張本人だ。
  それは、まぎれもない事実で、隠ぺいしようなんて思いもしない。ザークに詰られようとも。
「リグ、リグ?」
  考え込んでしまった自分の瞳に、ザークの困惑した顔が映る。
「どうしたんですか?シアンに何か言われました?」
  自分が少し考え込んだだけで、不安そうなそぶりを見せるザーク。
  そんなザークを引き寄せて、腕の中に閉じ込めながら、
「あぁ、少し、な」
  言葉を濁してしまうのは、どうしてもまだ言いだせない感情のせい。
  こんなにも愛おしい存在を失くすなんてできやしない。
  誰よりも、何よりも大切だったから、リグはザークを自分の元へと奪い去ったのだから。
  アイリスのことを、今は考えたくない。
「ん、リグ?」
  首筋に顔を埋めたまま、何も話そうとしないリグが、ザークのその首筋をなめた。
「考えても考えてもどうしようもない時は、体を動かすってね」
  先程も聞いたような言葉。
「だから……それはリグだけだと言ったじゃ……んん」
  ガブリと、薄い肌を貫いて、リグの犬歯がザークの首筋に突き刺さる。
「あ、んん……」
  まるで血を吸われることすら快楽であるかのように。
  吐息をもらずザークを可愛いと思いながら、血を吸い上げる。ペロリと、自分が残してしまった跡をなめ上げると、ザークの身体がフルリと震えて。元から自然治癒力の高い体だ。その力と、リグの唾液が混ざり込み、傷跡を綺麗に消して行く。
  甘いなと呟きながら顔を上げてのぞいたザークの瞳は、いつもは薄茶色の色の中に、金色の光が混ざりだしている。
「欲しいなら、飲め」
  そう言って、ザークの頭を自分の首筋へと誘導した。
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