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過ぎ去る、秋
第一章 ②
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「太一?」
純は太一の部屋に入って、その主を呼ぶ。
静かな歌声が、部屋に響いていた。
悲しいメロディーは、今の太一の心を表しているのか。
純は、呼びかけることを止めて、ただ太一の隣に座った。
「なぁ、純。俺は何ができるんだろうな」
ふいに、歌うのを止めた太一が、純の膝に頭を乗せて寝ころんだ。
純に向けて問いかけながら、その問いの答えを欲してはいない様子。
「太一は、今まで通りでいてください」
純の願いは、それだけだ。
明るい太一に、皆がホッとしている。太一もそれをわかっているのか、明るく振る舞う。
そっと、純が太一の明るめの茶髪を梳いた。
「ん。考えても、答えが出ない時は、俺は歌って忘れるんだ。でも、今回のは、忘れれない」
秋人がいないという事実が、大きくのしかかっているのだろう。
頷きながらも、太一のいつもの朗らかさは、どこにもない。
「章の声、戻ったな」
他の方へと、話しを移動させる太一。章が、久しぶりに笑って「ただいま」と帰って来た。
純も、帰った後、章と会話をしていたのを太一は見ている。
「勇君が、頑張ってくれたみたいですね」
静かに、純は答えた。
「俺は、なーんもしてやれなかった」
太一は、純の腰に手を回して、顔を腹に埋めるようにしてしまう。
膝枕をしていることも、こうして太一が抱きついてくることも、嫌ではないのだけれど。どうしても、この空気にそぐわない欲望が、純の心に巡ってしまう。
「太一」
頭を撫でながら、太一を呼ぶ。キスくらいは、許されるだろうか。
「んー?」
小さくうなって、自分を見上げる太一を覆うように、純の長い髪が流れた。
「んん?!」
塞がれた唇に驚いてか、太一が何事かを言おうとするのを、さらに深く口付けて奪ってしまう。
不謹慎だと、怒られても仕方ないのだけれど。
今は太一の温もりを離したくないから。
純はそんな風に思いながら。
もし、いなくなったのが、太一だったら、俺も章君みたいに、なってたかもしれない、と。
それこそ、不謹慎な考えだ。でも、太一がここにいることを、確認したい。
髪を引っ張られて、仕方なく、すぐに唇は、離したけれど。
「はっ、お、まえ、な……」
息を乱して、少しだけ顔の赤い太一。
「ごめん。つい」
「つい、じゃねーよ」
欲望は、燻り続けているのだけど。さすがに怒られるか。
「太一がここにいるって、確認したかった」
膝枕の体勢から、起き上がろうとする太一を押し止めて、純は言葉にする。
「……」
言葉を失くしたように、自分を見つめる太一。
「わかってるんだよ。不謹慎だって。でも、ね」
「ね、じゃない」
ふいと、そっぽを向かれてしまう。
あー、あの太一の意思の強い目が、自分を見ていない。そのことに、純は少し焦れる。
「太一」
静かに呼んでみるけれど、太一の目は純を見ない。
「太一」
「あー、もう!」
再度読んだら、どこか怒ったような太一が、押し止める手を振り払って、起き上がり、純を押し倒してきた。
床にそのまま座っていたから、純の長い髪は、床に綺麗に広がった。
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ」
そう言った太一は、そのまま純の上に、倒れるように抱きついてくる。
これは、……どうしようか。されるがままでいる純は、逡巡する。
「ね、太一。キスだけなら、許してくれる?」
この体勢じゃ、それだけで終わらせられるか自分でもわからないけれど。
純はそう言って、胸元に顔をうずめている、太一の顔を上げさせる。
「お前がそんだけで、終わる訳ねーじゃん」
そう言った太一からキスされて、バレてるか、と純は思う。
「不謹慎とか、そんなんどうでも良い。俺だって、お前がここにいるって、確認したい」
かすめて行くだけのキスの後、太一から言われた一言に、純はもう考えるのを止めた。
「お、い、このっ……」
そのまま純は太一の上着の裾から、手をしのばせる。
多分、このままか、と言いたかったんだろうけど。不自然に途切れた言葉。
「ベッドまで行ってらんない。太一を床に押し倒すと、太一痛いって文句言うでしょ」
だから、このまま、と。
「おま、え。こういう、とき、っだけ、かって、すぎ……」
普段は、太一が振り回す方だけれど。こうなってしまうと優位なのは純の方で。
吐息の合間に太一に文句を言われるが、その文句を純は無視した。
「だって、少しくらい勝手な行動しないと、太一こういうこと、させてくれないじゃない」
なんて。
腕に力が無くなったのだろう、自分の上に倒れてくる太一を、器用に片手で支えて。片手は勝手に太一の素肌の上を動き回る。
「はっ、も、勝手に、しろ」
すでに純の手は、勝手に動いているけど。
太一からそう言われたから、純は本当にもう、勝手に動くことにした。
不自然な体勢どうこうは、この際どうとでもなるもので。
自分の上で乱れて行く太一を見る、というのも新鮮だな。なんてことを考えていると知ったら、本当に太一に怒られそうだ。
「ん、はっ、純……」
名を呼ばれて、太一を見上げる。
「ん……やぱ、この、体勢ヤだ」
そう言われて、あぁ、と思い至る。
「俺はいい眺めなんだけど」
「ば、かやろ」
力の入ってない手で叩かれても痛くはないが。嫌だと言い出したなら、これ以上させてくれなくなる可能性も大きいので。
「我が儘」
なんて言いながら、純は太一を抱き上げて場所を移動した。
純は太一の部屋に入って、その主を呼ぶ。
静かな歌声が、部屋に響いていた。
悲しいメロディーは、今の太一の心を表しているのか。
純は、呼びかけることを止めて、ただ太一の隣に座った。
「なぁ、純。俺は何ができるんだろうな」
ふいに、歌うのを止めた太一が、純の膝に頭を乗せて寝ころんだ。
純に向けて問いかけながら、その問いの答えを欲してはいない様子。
「太一は、今まで通りでいてください」
純の願いは、それだけだ。
明るい太一に、皆がホッとしている。太一もそれをわかっているのか、明るく振る舞う。
そっと、純が太一の明るめの茶髪を梳いた。
「ん。考えても、答えが出ない時は、俺は歌って忘れるんだ。でも、今回のは、忘れれない」
秋人がいないという事実が、大きくのしかかっているのだろう。
頷きながらも、太一のいつもの朗らかさは、どこにもない。
「章の声、戻ったな」
他の方へと、話しを移動させる太一。章が、久しぶりに笑って「ただいま」と帰って来た。
純も、帰った後、章と会話をしていたのを太一は見ている。
「勇君が、頑張ってくれたみたいですね」
静かに、純は答えた。
「俺は、なーんもしてやれなかった」
太一は、純の腰に手を回して、顔を腹に埋めるようにしてしまう。
膝枕をしていることも、こうして太一が抱きついてくることも、嫌ではないのだけれど。どうしても、この空気にそぐわない欲望が、純の心に巡ってしまう。
「太一」
頭を撫でながら、太一を呼ぶ。キスくらいは、許されるだろうか。
「んー?」
小さくうなって、自分を見上げる太一を覆うように、純の長い髪が流れた。
「んん?!」
塞がれた唇に驚いてか、太一が何事かを言おうとするのを、さらに深く口付けて奪ってしまう。
不謹慎だと、怒られても仕方ないのだけれど。
今は太一の温もりを離したくないから。
純はそんな風に思いながら。
もし、いなくなったのが、太一だったら、俺も章君みたいに、なってたかもしれない、と。
それこそ、不謹慎な考えだ。でも、太一がここにいることを、確認したい。
髪を引っ張られて、仕方なく、すぐに唇は、離したけれど。
「はっ、お、まえ、な……」
息を乱して、少しだけ顔の赤い太一。
「ごめん。つい」
「つい、じゃねーよ」
欲望は、燻り続けているのだけど。さすがに怒られるか。
「太一がここにいるって、確認したかった」
膝枕の体勢から、起き上がろうとする太一を押し止めて、純は言葉にする。
「……」
言葉を失くしたように、自分を見つめる太一。
「わかってるんだよ。不謹慎だって。でも、ね」
「ね、じゃない」
ふいと、そっぽを向かれてしまう。
あー、あの太一の意思の強い目が、自分を見ていない。そのことに、純は少し焦れる。
「太一」
静かに呼んでみるけれど、太一の目は純を見ない。
「太一」
「あー、もう!」
再度読んだら、どこか怒ったような太一が、押し止める手を振り払って、起き上がり、純を押し倒してきた。
床にそのまま座っていたから、純の長い髪は、床に綺麗に広がった。
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ」
そう言った太一は、そのまま純の上に、倒れるように抱きついてくる。
これは、……どうしようか。されるがままでいる純は、逡巡する。
「ね、太一。キスだけなら、許してくれる?」
この体勢じゃ、それだけで終わらせられるか自分でもわからないけれど。
純はそう言って、胸元に顔をうずめている、太一の顔を上げさせる。
「お前がそんだけで、終わる訳ねーじゃん」
そう言った太一からキスされて、バレてるか、と純は思う。
「不謹慎とか、そんなんどうでも良い。俺だって、お前がここにいるって、確認したい」
かすめて行くだけのキスの後、太一から言われた一言に、純はもう考えるのを止めた。
「お、い、このっ……」
そのまま純は太一の上着の裾から、手をしのばせる。
多分、このままか、と言いたかったんだろうけど。不自然に途切れた言葉。
「ベッドまで行ってらんない。太一を床に押し倒すと、太一痛いって文句言うでしょ」
だから、このまま、と。
「おま、え。こういう、とき、っだけ、かって、すぎ……」
普段は、太一が振り回す方だけれど。こうなってしまうと優位なのは純の方で。
吐息の合間に太一に文句を言われるが、その文句を純は無視した。
「だって、少しくらい勝手な行動しないと、太一こういうこと、させてくれないじゃない」
なんて。
腕に力が無くなったのだろう、自分の上に倒れてくる太一を、器用に片手で支えて。片手は勝手に太一の素肌の上を動き回る。
「はっ、も、勝手に、しろ」
すでに純の手は、勝手に動いているけど。
太一からそう言われたから、純は本当にもう、勝手に動くことにした。
不自然な体勢どうこうは、この際どうとでもなるもので。
自分の上で乱れて行く太一を見る、というのも新鮮だな。なんてことを考えていると知ったら、本当に太一に怒られそうだ。
「ん、はっ、純……」
名を呼ばれて、太一を見上げる。
「ん……やぱ、この、体勢ヤだ」
そう言われて、あぁ、と思い至る。
「俺はいい眺めなんだけど」
「ば、かやろ」
力の入ってない手で叩かれても痛くはないが。嫌だと言い出したなら、これ以上させてくれなくなる可能性も大きいので。
「我が儘」
なんて言いながら、純は太一を抱き上げて場所を移動した。
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